【番外編】プラスチックと海洋ごみ問題

今回は「時事問題の解説」の番外編として、一般の方向けに行った東京都東村山市市民講座「世界で起きている今を学ぶ」での講演「プラスチックと海洋ごみ問題(2019年12月19日(木)開催)」を紹介します。過去の「時事問題の解説」を基に、プラスチックごみの中でも排出量の多いプラスチック包装が関わる問題を中心にまとめたものです。講演内容を抜粋して下記に示します。配布資料のスライド番号と照らし合わせてご覧ください。

2019年度東京都東村山市市民講座「世界で起きている今を学ぶ」配布資料

1.私達の暮らしとプラスチック

プラスチック包装の発展はライフスタイルの変化と密接に関係しており、日本では高度成長期におけるスーパーマーケットの普及により、商店街の対面販売からレジでの一括清算に移行したことが大きな変化です。この変化により、あらかじめ商品を包装して陳列しておく必要が生じました。さらにコンビニの普及が、この個包装化を後押ししました。その後、未開封包装の状態は、“安全・安心の保証”としての位置づけもでてきました。軽量かつコンパクトな包装は物流の効率も大幅に向上させました。レジ袋も、魚を好む日本人ならではの水に濡れていても大丈夫な点と、軽くて丈夫でコンパクトにできる点が、まとめ買いをせずほぼ毎日徒歩や自転車でこまめに買い物をしていたライフスタイルにうまく合致していたようです。また、これからのコンビニの無人化であったりドローンによる空の配達を進めるため、個包装化や軽量化のために包装にはプラスチックが必要不可欠です。

昨年あたりから、プラスチックに関するニュースは目にしない日がないほどホットな話題となりましたが、一般の方々には意味がよく分からないことが多いのではないでしょうか。例えば、(スライド2)のようなことが挙げられます。

一般の方々がわかったようでわかっていないようにしている原因の一つとして、事の発端がプラスチックによる海洋汚染が注目されたことであることから、プラスチックが関わる問題を全て海洋汚染問題につなげたがる傾向にあるためだと考えます。(スライド10)にプラスチックが関わる問題の対策の主な例を示します。企業の広報活動等では、海洋プラスチック汚染の対策とつながりの無い対策を、海や海洋生物を守るものとして述べているものも見受けられております。

一般の方々の中には、日本は自治体で回収したごみを海洋投棄して処分していると思われている方もいらっしゃることに驚いております。話を聞くと、海外のニュース映像に影響されているようでした。「地球にやさしい」や「環境配慮」という言葉が蔓延していますが、「なぜそうなの?」、「ではどのように?」と問いかけれらると、ほとんどの方は答えられないのが実情ではないでしょうか。現在の状況は、後述する「容器包装リサイクル法(2000年完全施行)」の制定時とは違った雰囲気が漂っているように感じています。本件に限らず、日本では独特の「空気感」が漂い、その怖さを感じると共に、だからこそ社会に対し、正しい情報を提供していく必要があると考えております。

2.プラスチック包装が関わる主な社会問題

地球規模でみてみると、(1)食糧・水の確保、(2)資源・エネルギーの確保、(3)地球環境の保全の三大課題があります。私達の暮らしでは、食糧・水・エネルギーを安定して確保する必要があります。それらの元となる資源はどこにあるのか、どこから持ってくればよいのか、国土面積が小さく、資源も乏しい日本では、常に頭を悩ましている問題です。資源もそうですが、製品を使った後には適切にごみを処理しなければなりません。また、資源を得るときやごみを処理するときに自然を破壊しないように、地球環境の保全に努める必要があります。これをプラスチック包装に当てはめてみると、(スライド9)のようにまとめられます。ここでは製品の使用前・使用中・使用後に分類してみました。

使用前は、原料や生産に関わる項目です。原料面では、枯渇性資源である石油の利用が挙げられ、非枯渇性資源(再生可能資源)である植物への移行が急務です。植物原料由来のプラスチックをバイオマスプラスチックと呼びますが、バイオマスプラスチックの生産には食糧安全保障や森林保護等の問題も考慮する必要がでてきます。また生産面では、生産過程や輸送時の使用エネルギー量と二酸化炭素(CO2)の排出量の削減が求められています。火力発電所で燃焼する際にCO2を生成し排出していることから、地球温暖化問題と絡めて、資源として貴重な石油の価値を誤解している方々もいる現実があります。石油は貴重な炭素源、言い換えると金属とガラス以外の元であり、プラスチックに限らず私達の生活に欠かせない化成品の原料であるということです。石油を今のペースで掘り続けると50年後には無くなってしまうため、経済的合理性面を満たしつつ、植物等の代替炭素源と太陽光や風力等の代替エネルギーの安定した確保に努めなければなりません。

使用中は、私達の生活を支えてくれており、生活水準を向上させ、経済性も向上、安全・安心も向上、そして食品ロス(フードロス)の削減にも貢献しています。元々プラスチック包装は存在しなかったので、無くても生きてはいけると思います。大正時代や明治時代の様子は歴史の授業を通してわかりますが、今からプラスチック包装が無くなると、どのような社会になるのか私には想像がつきません。また、品物の総量は、将来のごみの総量であることから、リデュースとリユースの推進が求められています。そのため、紙等の別の素材に代替する考えがありますが、求められるのはリデュースによる品物の総量減であることから、単純な素材の置き換えで問題の解決になるのかどうかの議論が必要と考えます。また、ここでも使用エネルギー量とCO2の排出量の削減が求められています。

使用後は、まずごみの分け方・出し方の検討が必要となります。そして回収したごみの資源循環(リサイクル)システムを向上させ、ごみの最終処理方法と埋立地の寿命とのバランスを取らなければなりません。ここでも使用エネルギー量とCO2の排出量の削減が求められます。環境中に排出されたごみの回収・処分は、海洋ごみ問題の解決のためにも、継続した取り組みが必要となります。昨今のマイクロプラスチック問題から生分解性プラスチックが注目されておりますが、自然災害等を含めて非意図的に自然環境中に出てしまったときに、非生分解性プラスチックよりも自然環境への負荷が相対的に小さいという理由付けから代替素材として期待されているものです。生分解は微生物の働きによるものでありますが、動植物と同じく陸上や海洋のどこにでもいるわけではなく、個々に適した環境に存在しています。プラスチックを生分解する微生物も、ポイ捨てされた場所に、都合よくいるとは限らない、すなわち生分解性プラスチックでも生分解してもらえない場合もあるということです。生分解性プラスチックといえども、各自治体が定めたルールに従い回収するのが原則であり、ポイ捨てや不法投棄等のモラル低下につながらない啓発活動も同時に進めていく必要があると考えます。

3.ごみ問題の難しさ

(スライド28)をご覧ください。プラスチック製品は数多くありますが、プラスチック包装の特徴は、一般消費者向けで使い捨てが念頭におかれているものが多いことが挙げられます。いわゆる、使い捨てプラスチック(disposable plastics)、シングルユースプラスチック(single-use plastics)やワンウェイプラスチック(one-way plastics)と呼ばれているものであります。日本では、「容器包装リサイクル法(容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律:1995年(平成7年)制定)」に基づいて、プラスチックを含む容器包装のリサイクルに努めています。

法制化のきっかけは、ごみの最終処分場、すなわちごみの埋立地の寿命(残余年数)からです。この法整備が進められた背景には、例えば、“1996年度の最終処分場の残余年数、すなわちごみの埋立地の寿命が、家庭から出る一般廃棄物においては8.8年、事業所から出る産業廃棄物において3.1年となり(循環型社会形成推進基本法の趣旨(2000年環境省))”、大量生産・大量消費・大量廃棄型の経済社会から脱却しなければならなかったからです。

循環型社会を形成するためのポイントは、大きく2つに分類されています。3R(リデュース・リユース・リサイクル)の推進と廃棄物の適正処理であり、前者は資源有効利用促進法として、後者は廃棄物処理法として法整備されています。品物の物流を管理するために、生産から流通、消費、廃棄に至るまで統計データに基づき物質フロー(マテリアルフロー)を作成し達成度や改善点を明らかにしています。この際、品物が一般消費者の手に渡った後の追跡が困難となる点が、検討課題として挙がっています。これは、プラスチック包装だけでなく、日用品、文具、洋服、鞄、おもちゃ、家電、家具等に使われているプラスチックにも当てはまります。

日本と他の国とではごみ問題の事情が異なるため、日本と他の国を一括りにして議論することは難しいです。ごみ処理の社会システムが構築されている日本では、自然環境中に排出されるごみの多くは、人為的なポイ捨てと不法投棄です。プラスチックを他の素材に置き換えても、人為的に行われるポイ捨てや不法投棄を無くさないと自然環境中にごみが出されてしまいます。自然を汚すごみの種類が変わるだけということです。自然界の散乱ごみの問題は昔から議論され対策も施されていますが、決定的な解決策が無いのも事実です。特に最近問題視されている海洋ごみに関しては科学的情報が不十分であり、海洋ごみを削減するためにはまず実態把握のための統計データの収集が求められています。

くり返しになりますが、プラスチックに限らず社会に物が溢れすぎており、これは将来の廃棄量が増えることを意味しているので、根本的に物の総量を減らす工夫が必要になってきていると考えます。すなわちリデュースの推進です。中国で2018年1月から廃プラスチック等の禁輸措置が実施され、世界中で廃プラスチックは行き場を失っている状況です。これにより、日本においてもごみの回収量とごみ処理施設の処理能力のバランスが崩れてしまっています。例として、夏場に電力の需給バランスがくずれそうになったりダムの貯水量が少なくなったりすると、電力や給水の制限がかかります。しかしごみの需給バランスはうまく管理できていません。ごみの回収を制限すれば、ポイ捨てや不法投棄が増えてしまう恐れもあります。さらに、昔に比べて、街、駅や観光地にごみ箱が少なくなっているように感じています。また、町内のごみの回収日も減ってきているのではないでしょうか。テロ防止や費用負担があるのはわかりますが、ごみ箱の設置や日々の清掃・ごみ回収について、議論を深めていくよいタイミングだと思います。

また、プラスチック問題が分かり難くなっている原因の一つに“ごみ”という言葉があると考えます。使い終わった後に回収されてリサイクル等で再利用されるものは“資源ごみ”とよばれ、使い終わった後にポイ捨てや不法投棄で自然環境中に排出されてしまったものは“散乱ごみ”とよばれていますが、日常生活では区別せずに“ごみ”とよんでいます。もっとよい呼び名があれば分かり易くなるのかもしれません。“資源ごみ”になるのか、“散乱ごみ”になるのかは、人のモラルによるところが大きいため、地道に啓発活動を行う必要があると考えます。

4.おわりに

今回ご紹介したごみ問題は昔から議論され、さまざまな方面から対策も施されていますが、決定的な解決策が無いのも事実です。社会は移り変わっていき、人びとは豊かな暮らしを求め、物があふれ、個人の嗜好を満たすために品数も増え、飽きられないように新商品も増えていくと思います。これからもライフスタイルや価値観は変わっていくはずです。今後も時代とともにごみ問題も形を変えて永遠に続いていくことでしょう。継続した取り組みが必要な社会問題だからこそ、何が一番必要かと考えると、「ごみ問題の解決への協力者を増やしていくこと」と私は考えます。

同様の講演をご希望の自治体や学校等がありましたら、(スライド44)の連絡先まで、お気軽にご連絡ください。

(永井一清)

(2019年12月23日アップロード)