【番外編】PPWRとINCに対応したコンポスト可能なバイオプラスチック包装
今回は「時事問題の解説」の番外編として、「JAPAN PACK 2025」(開催日:2025年10月7日-10日、会場:東京ビックサイト)の出展ポスターの概要説明を示します。四角で囲んだポスター発表資料と照らし合わせてご覧ください。
現在、私たちが生活している陸上だけでなく海洋でもプラスチック汚染が深刻化してきており、国際社会でプラスチックの使用方法を明確化し、汚染対策のために規制対象を定める方向で議論が進んでおります。2025年8月の「The second part of the fifth session of the Intergovernmental Negotiating Committee to develop an international legally binding instrument on plastic pollution, including in the marine environment(INC 5.2:プラスチック汚染に関する法的拘束力のある国際文書(条約)の策定に向けた第5回政府間交渉委員会再開セッション)」には180か国ほどの国連加盟国などが参加し、“プラスチックは安全にリユース、リサイクルまたはコンポスト化により活用する方針”で国際社会が動いています。プラスチックが人間により自然環境中にまき散らされてしまっている現状を人間自身で止めようとしているのです。
国連環境計画が2018年から進めてきた「The New Plastics Economy Global Commitment」や欧州連合の「Packaging and Packaging Waste Regulation(PPWR:包装及び包装廃棄物規則)」の活動が反映されたものでもあります。ここでは、人や動植物に安全な物質を用い、環境負荷が低い製造法や労働者の健康に害を与えない労働環境なども求めてきています。つまり今、“プラスチック製品の大切さを共有し、プラスチック製品の長所を伸ばして短所を克服するバージョンアップ方針”が国際的に決められようとしているのであります。
またプラスチックの原料となる石油は、「エネルギー白書2024」で可採年数53.5年と見積もられている上に、国際的な温暖化対策から座礁資産化してきています。石油には大きく分けて「エネルギー源としての石油」と「材料の原料としての石油」の二つの姿があります。地球温暖化の急激な進行から、燃料として燃やすときに二酸化炭素を生成する「エネルギー源としての石油」が非難の的となっている現状があります。一方、「材料の原料としての石油」は問題視されていません。しかし地球にある石油の量には限りがありますので、人類の持続性を考えた長期的な活動として「材料の原料としての石油」を植物や木など再び育てることができる再生可能な資源へ置き換える活動を進めているところです。石油を原料として作られるプラスチック材料は、燃やさなければ二酸化炭素は発生しません。なおさら資源ごみとしてリサイクルして再利用を進めればよいわけです。すでに日本では2021年に「バイオプラスチック導入ロードマップ」を策定し、2030年までにバイオマス由来のバイオマスプラスチック200万トン(国内プラスチック生産量の約2割)の導入を目指しています。
以上の国内外の動向を踏まえ、私たちは、次の材料設計方針を提案し研究を進めています。
(A)サーキュラーエコノミーを効率的に進めるため、最初からリユース、リサイクルまたはコンポスト化することを前提とした材料設計をする。
(B)原料として天然高分子資源を用い、モノマテリアル(単一素材)で利用する。
(C)地球環境に悪影響を与えず人や動植物に安全な物質や製造法を選択する。
特に私たちは、プラスチック包装のサーキュラーエコノミーを効率的に進めるため、「次世代型プラスチック包装」の一つの姿として「生分解性バイオマスプラスチックのモノマテリアル利用」を提案し、陸上バイオマス(グリーンカーボン)、海洋バイオマス(ブルーカーボン)、非可食資源を用いた研究活動を進めております。生分解性プラスチックはコンポスト化も可能です。日本だけでなく、コンポスト処理がすでに普及しているヨーロッパ、新興国や途上国への展開を念頭に活動を行っております。プラスチック包装はシングルユース、いわゆる「衛生面から使いまわしを避ける使い捨て」が念頭におかれており、使用後は燃料として「ごみ発電」などに再利用されてきています。サーマルリサイクル(エネルギー回収)での活用によるものですが、燃焼による二酸化炭素の生成が問題視されていることから、カーボンニュートラルを実現するために、プラスチック包装をすべて生分解性バイオマスプラスチックに置き換えて効率的にサーキュラーエコノミーを推進するという考えです。
プラスチック包装を使用した後は、自治体の専用施設でコンポスト処理し、植物や森林を育てるのに再利用します。この植物や森林を石油代替のバイオマス原料として活用し、生分解性プラスチックを再び作ります。この製品を私達が使い終わった後は資源ごみとして回収してコンポスト処理へ、土に戻し新しい植物や森林を育てる、この一連の流れを繰り返すというカーボンニュートラルな仕組みです。いくつかの商業、農業、工業のエリアをつないだ経済圏ごとに生分解性プラスチックによる資源循環システムが本当にできたら素晴らしいと思います。これこそ究極の「地産地消型サーキュラーエコノミー」ではないでしょうか。
一方で、地球上の陸地面積を考えますと、陸地で確保できるバイオマス原料に限界があることが分かります。そこで私たちは海洋資源に注目しています。このときに、海藻などの人工的な海洋農業やカニやエビの甲殻類の養殖産業の普及を考えています。いずれもコンポスト処理が可能な多糖が得られる上に、食べてはいけない宗教はほとんど無いと思いますので、日本よりもむしろ海外において生産量を増やすことにより、世界人口の増加に向けて食料の安定した供給にも貢献できると考えています。
私たちと一緒に活動してみてもよいかなと思われましたら、代表者の永井一清(ながい かずきよ)の電子メール「nagai@meiji.ac.jp」にご連絡ください。
国連環境計画の新しい活動に合わせていち早く2018年から着手した研究の成果も次の通り公開してきていますのでご覧ください。オープンアクセス論文(OA)は、無料でダウンロードできます。
1. (OA)Y. Uchimuro, T. Hori, R. Miyamoto, and K. Nagai, Permeability of oxygen and carbon dioxide in dried and water-swollen compostable chitin and chitosan self-standing membranes, Journal of Packaging Science & Technology, 34, 249 (2025).
https://doi.org/10.69282/spstj.34.4_249
2. (OA)H. Takachi, T. Hori, S. Amakawa, and K. Nagai, Permeability, diffusivity, and solubility of dried gases in alginic acid, sodium alginate, and ammonium alginate self-standing membranes, Journal of Packaging Science & Technology, 33, 311 (2024).
https://doi.org/10.69282/spstj.33.5_311l
3. (OA)R. Nishida, N. Hirota, and K. Nagai, Anti-cluster behavior and its mechanism during water vapor sorption in chitin and chitosan membranes, Carbohydrate Polymer Technologies and Applications, 5, 100312 (2023).
https://doi.org/10.1016/j.carpta.2023.100312
4. (OA)N. Hirota and K. Nagai, Helical structures and water vapor sorption properties of carrageenan membranes derived from red algae, Carbohydrate Polymer Technologies and Applications, 3, 100200 (2022).
https://doi.org/10.1016/j.carpta.2022.100200
5. H. Nguyen, M. Hsiao, K. Nagai, and H. Lin, Suppressed crystallization and enhanced gas permeability in thin films of cellulose acetate blends, Polymer, 205, 122790 (2020).
https://doi.org/10.1016/j.polymer.2020.122790
6. (OA)N. Shimanuki, M. Imai, and K. Nagai, Effects of counter cations on the water vapor sorption properties of alginic acid and alginates, Journal of Applied Polymer Science, 137, 49326 (2020).
https://doi.org/10.1002/app.49326
7. H. Nguyen, M. Wang, M.-Y. Hsiao, K. Nagai, Y. Ding, and H. Lin, Suppression of crystallization in thin films of cellulose diacetate and its effect on CO2/CH4 separation properties, Journal of Membrane Science, 586, 7 (2019).
https://doi.org/10.1016/j.memsci.2019.05.039
8. N. Shimanuki and K. Nagai, Effects of substituents on water vapor sorption in liquid–water soluble polysaccharides, Journal of Applied Polymer Science, 136, 48223 (2019).
https://doi.org/10.1002/app.48223
(JAPAN PACK 2025の説明メンバー:五十音順)
大学院生:大熊楓、大西黎、小野寺壯真、小林愛莉、齋藤虎之亮、長嶋隆平、西田麻人、古川光彩、矢島克樹、山川志朗、山口遼、米田昌弘
4年生:相生朋輝、阿佐美諒汰、阿部結妃、市原琴梨、井山未来、上原菜々果、鈴木麗乃、田村亮太、村上綾
(2025年10月3日アップロード)