プラスチック問題とSDGs

1.はじめに

今回は2020年5月20日(水曜日)の明治大学理工学部1年生科目「応用化学概論1」講義録を再編集したものを掲載いたします。

目次

1.はじめに
2.SDGsと高分子産業
3.暮らしの中のプラスチック
4.プラスチックが関わる環境問題
5.科学技術と施策・法規制
6.経済・社会・環境のバランス
7.おわりに

2.SDGsと高分子産業

 まずSDGsとは、2016年1月1日に発効した国際連合の「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に掲げられた「持続可能な開発目標 Sustainable Development Goals(SDGs)」のことです。SDGsは、地球上のすべての国を対象に、経済・社会・環境の3つの側面のバランスがとれた社会を目指す世界共通の目標として、17のゴールとその課題ごとに設定された169のターゲット(達成基準)から構成されます。貧困や飢餓、環境問題、経済成長、ジェンダー等の幅広い範囲の課題を網羅しており、豊かさを追求しながら地球環境を守り、そして“誰一人取り残さない”ことを強調し、人々が人間らしく暮らしていくための社会的基盤を2030年までに達成することが目標とされています。

 企業側の視点からは、消費者、従業員、株主、取引先、自治体等の関係者から「選ばれる企業」とならなければなりません。目指すべき共通の未来であるSDGsへの取り組みが判断材料のひとつとなり、具体的にはESG投資(環境 Environment・社会 Social・企業統治 Governance といった要素を考慮する投資)やエシカル消費(人や社会、環境に配慮した消費行動)が、企業活動を評価する一つの判断材料として国際的な拡がりを見せています。前者のESG投資では、これまで企業の業績や経営状況等の“財務情報”が用いられてきましたが、それに加えて二酸化炭素排出量抑制の取り組み、環境負荷の低さや、人権・労働環境などの社会問題への配慮等の“非財務情報”も加えられてきています。後者のエシカル消費は、企業がバリューチェーンにおいて環境負荷を抑制し、原材料等の生産者に不当な圧力をかけていないかをチェックし、社会や環境に対して十分配慮された商品やサービスを買い求める動きです。

 高分子産業は、天然資源(特に石油)と人的資源に支えられて成立しています。つまり、バリューチェーンの川上(原料生産者)から川下(消費者・地域社会)にかけて、皆で一緒に発展を目指す必要がでてきます。このことからもSDGsを達成させ経済・社会・環境を安定にすることの重要性がわかると思います。

3.暮らしの中のプラスチック

 経済・社会・環境の3つの側面の中の経済・社会について見てみましょう。意識して生活されている方はいらっしゃらないと思いますが、身の回りにある材料で、金属、ガラス、陶器、木、紙、布以外のものはプラスチックとゴムであります。プラスチックとゴムは、高校の教科書で高分子化合物といわれているものであり、硬いものをプラスチック、柔らかいものをゴムとよんでいます。それらを糸状にすると繊維に、薄く広げるとフィルムやシートになります。軽くて丈夫で、部品や容器の形にあわせて自由に成形加工できる特性があり、使い勝手が良いものです。

 元々、ゴムは天然のゴムの木の樹液からできていました。合成塗料に置き換わっていった漆も元々は樹液を利用していました。今は、ほとんどのプラスチックやゴムは石油から作られるようになってきました。100年程前に人工的に作り出す方法が開発され、数多くの種類のプラスチックやゴムが作られ利用されています。

 戦後、安価に大量生産できるようになり私達の暮らしの中に浸透してきました。代表的なものはプラスチック包装です。日本では高度成長期におけるスーパーマーケットの普及により、商店街の対面販売からレジでの一括清算に移行したことにより、あらかじめ商品を包装して陳列しておく必要が生じたからです。その後、未開封包装の状態は、“安全・安心の保証”としての位置づけもでてきました。今では、スマホや家電、キッチン用品、子供のおもちゃなど家の中のものだけでなく、電車や自動車や飛行機もプラスチックばかりになりました。もっと実感するできるものとして、自分のカバンの中でもプラスチック以外のものを目にする方がまれになってきているのではないでしょうか。住宅も電車も自動車も、街全体がプラモデルになっていっているということです。

 意識されていないであろう身近なものを挙げるとすると、電車やバスで“つり革”とよんでいるものも今では“つりプラ”になっています。消しゴムも“プラスチック消しゴム”と商品表示されているようにプラスチックが主成分です。コンタクトレンズやメガネのレンズもプラスチックです。水族館の水槽のガラスもプラスチックに置き換えられてきています。洋服、おもにアウターやスポーツ用のラベルをみてみると必ずプラスチックが使われていることを実感すると思います。お風呂場も昔は陶器が主流でしたが、ユニットバスの普及でプラスチックが使われるようになっています。牛乳パックは紙でできているのは事実ですが、紙は水分を通してしまうので、紙の両面に薄いプラスチックフィルムが貼られています。

 ここで付け加えておきたいことがあります。原料として使われる石油には「石油=悪」というイメージがつけられていますが、火力発電所で燃焼する際に二酸化炭素を生成し排出していることから、地球温暖化問題と絡めて、資源として貴重な石油の価値を誤解している方々もいる現実があります。石油は貴重な炭素源、言い換えると金属、ガラス、陶器、木、紙、布以外の元であり、プラスチックに限らず私達の生活に欠かせない医薬品や洗剤等を含めた化成品の原料であるということです。

 プラスチック製品の利用は、SDGsの次のゴールの達成に貢献しているということです。

4.プラスチックが関わる環境問題

 経済・社会・環境の3つの側面の中の環境について見てみましょう。まず現実に影響を及ぼしている地球規模で考えるべきことを説明します。

 かめの鼻からプラスチックストローを引き抜く衝撃的な映像を、誰でも一度は目にしているのではないでしょうか。この数十秒の映像が、世界を動かしました。自然環境中に排出されたごみは美観を損なうというだけでなく、そこに住んでいる生物にも影響を及ぼしているということです。

 プラスチックは、金属、ガラス、陶器と比べて軽いため、水に浮きます。また丈夫といいましても紫外線などにより割れて小片化していきます。庭に置いておいたポリバケツが劣化により割れてしまうことを経験した方もいらっしゃることでしょう。水に浮いた小片を魚がえさと間違って誤食していることも報告されています。特にサイズが5ミリメートルよりも小さくなったものをマイクロプラスチックとよんでいます。米粒サイズになるので、陸上でも動物や鳥も誤食してしまっています。

 ここまでは、自然環境中に排出されてしまったプラスチックの話です。

 つぎに日本に限定して話を続けます。ごみ収集車でごみを回収した後の問題です。くどいようですが、強調する意味で述べますが、ごみ収集車で回収する前に自然環境中に排出されてしまったプラスチックとは別のことです。

 さて話を元に戻しますと、これはプラスチックに限らないのですが、リサイクルで永遠に使い続けることは不可能なため、ごみ収集車で回収したごみは、最後には埋め立てにまわします。今、このごみの最終処分場、すなわちごみの埋立地の寿命(残余年数)が20年を切ってしまっています。日本は国土が狭いため、また住宅地が増えているため、簡単に埋立地を作ることができません。減容化の手段として、ごみを焼却し灰にしてから埋めてもしていますが、そのためのごみの焼却施設も簡単に作ることもできません。また焼却するときに二酸化炭素を排出します。地球温暖化対策として各国で定めている排出量の上限値がありますので、無制限に焼却することもできず、本来は灰にしたかったものもそのまま埋立にまわしているものもある状況であります。

 つまり日本ではごみの最終処分の問題があるということです。

 小学生のときに習うことがあります。それがリデュース・リユース・リサイクルの英語の頭文字をとった3Rといわれているものです。リデュースにより将来ごみになる量を減らし、リユース・リサイクルで繰り返し利用することでごみの埋立地の寿命を延ばすものです。日本では法整備も進められ、プラスチックに関わる身近な例としては「容器包装リサイクル法」で対応しています。

 プラスチックが関わる環境問題では、SDGsの次のゴールへの貢献を目指しているということです。

5.科学技術と施策・法規制

 「容器包装リサイクル法」は、ごみの埋立地の寿命を解決するために制定されたものであります。回収されずに自然環境中に排出されたごみの対策のためではありません。ここで自然環境中になぜプラスチックがあるのかを考えてみていただく必要があると考えます。

 国内のニュースでは、日本と海外の国の話をひとくくりにして報道されています。ここで自分の町内や学校・会社でのことを考えてみていただきたいのですが、日本ではごみをごみ箱に捨てれば、海へ流れでることも、山や川を汚すことも、街に散乱することなく、法律に則り適切に処理されていることを認識してもらえると思います。つまり、ごみ処理の社会システムが構築されている日本では、自然環境中に排出されるごみの多くは,人為的なポイ捨てと不法投棄であるということです。町内や学校・会社のまわりでも、美化活動できれいにしても、翌朝にはごみが捨てられているのではないでしょうか。地道にごみを回収するとともに、発生の抑制、すなわちポイ捨てや不法投棄を無くす必要があります。

 少し前まで、東京オリンピックの話題が多くなり、前回大会のときの状況も解説されています。昭和39年(1964年)の開催に向けて、東京では道路や上下水道の整備だけでなく、家庭ごみの収集にも力を入れました。家の前に無造作に捨てられていたものを、一つの試みとして各家庭に大型ポリバケツを配布し、ごみを入れて家の前に出してもらい、それをごみ収集車が回収していくようになりました。川や海、山がごみ捨て場だった時代から、法整備がなされ、自然を守り、責任を持ってごみを処理する時代に移り変わっていったということです。

 世界の海に流出するプラスチックごみの量が多い、中国、インドネシア、フィリピンなどの国は、昭和30年代の東京の状況であります。他国のことに口をはさめませんが、まずごみ処理の社会システムを構築することが、地球規模でみた時に、今、一番実効性のある解決法であると考えます。ある水準まで、一気に自然環境中に排出されるごみの量が減ります。

 そこからがモラルの問題なのです。プラスチックをほかの素材に置き換えても、人為的に行われるポイ捨てや不法投棄をなくさない限り自然環境中からごみがなくなることはありえません。自然を汚すごみの種類が変わるだけということです。モラルが高い国民性であるといわれている日本でもいまだにできていないことです。

 よく質問を受けることですが、プラスチック製品を紙やバイオマスプラスチックに転換することは意味があるのですが、意図が伝わっていないと思います。原料の石油があと50年で掘りつくされると推定されていますので、石油への依存度を減らすために代替していかなければなりません。紙やバイオマスプラスチック、すなわち木材から紙を、植物の糖を発酵させてできたエタノールを原料としてプラスチックを合成していかなければなりません。バイオマスプラスチックは一般には植物由来のプラスチックとよばれているものであり、化粧品のように植物から抽出された油などが練り込まれていると思われている方もいらっしゃるのですが、石油由来のプラスチックと同じ化学構造です。

 枯渇していく石油と違い、木や植物はまた育ってくれます。森林保護や食糧安全保障とのバランスを考えながら、計画的に植林などにより安定して確保する必要がでてきます。また紙やバイオマスプラスチックの一部には、微生物の作用による生分解性があります。生分解性により最終的に炭酸ガスと水に分解されるため固体分が無くなり、ごみの埋立地の寿命を延ばすために有効であります。

 「脱石油」というと石油が悪者だから使わないようにしようというイメージで解釈されているようですが、石油は大切な資源でありながら枯渇していくので依存度を減らすように早め早めに代替品を探していかなければならないという意味で用いられてもらいたいものです。金属、ガラス、陶器の成分も採掘により地球上から無くなっていっています。これらを産み出すことは不可能なので、地球外で資源を探していかなければならなくなっています。なぜ各国で巨額な予算を投じてまで宇宙に行こうとしているのかという一つの理由でもあります。

 ここで一旦整理しますと、「紙やバイオマスプラスチックの利用は、石油にかわる新しい炭素源の確保」と「紙やバイオマスプラスチックの一部の生分解性は、ごみの埋立地の寿命を延ばすために有効」ということです。海などの自然環境中に排出されても安全で問題が無いということはありませんので、誤解しないように注意が必要です。日本だけでなく海外でも回収して適切に処理することが原則であります。

 またこれも良く質問を受けることですが、G7のプラスチック憲章を始めとする欧州プラスチック戦略などの先進国の取り組みと、ごみ処理の社会システムの構築されていない国とでは事情が異なります。使用後に「回収できたごみ」と「回収できずに自然環境中に排出されてしまったごみ」の対策が同じ書面に載せているのが、分かり難くしている要因の一つでないかと考えております。また書面では、主語が政府・自治体や企業となっているため、“撤回的に回収する。”、“リサイクル率を上げる。”、“廃棄物の管理を徹底する。”や“ごみの管理を徹底する。”という言葉が使われることから、一般の方々の当事者意識が薄れているのかもしれません。一般の方々に訴えるには、直接的に“ポイ捨てや不法投棄をやめてください。”と表現した方が、分かり易いのではないでしょうか。またごみの出し方のルールが守れないのならば、「使用禁止」という、ごみ処理の社会システムの構築されていない国での事情も理解できます。

6.経済・社会・環境のバランス

 論点は、先に述べました使用後に「回収できたごみ」と「回収できずに自然環境中に排出されてしまったごみ」の位置づけだと思います。

 意識されていないと思いますが、日本はごみの分別が非常に優れております。これは世界に誇るべきことであります。ペットボトル、プラ容器、空き缶、空きびん、紙類、乾電池、小物金属、粗大ごみ、普通ごみ等があらかじめ分別してありますと、回収後のリサイクルを含めたごみ処理の効率化に大変有効であります。

 一方、ごみの総量はといいますと、ごみの分別とは別次元の話であります。ご自身の部屋の中を見回してみてください。生活が豊かになればなるほど、品数が増えていきます。洋服や趣味の物、また朝昼晩の食事の品数など、人々の欲求を満たすために、新しいもの、より刺激的なものも増えていきます。プラスチックに限らず社会に物が溢れており、これは将来のごみ処理量が多くなることを意味しています。先進国での年間1人当たりのごみの排出量が多い理由でもあります。

 つまり満足さを維持しつつ、社会全体に出回る品物の総量を減らすこともできるようなリデュース方法が求められているのです。本年7月からレジ袋が有料化されます。レジ袋はプラスチック生産量の中では少量ですが、日常生活の中で誰もが利用するものであることから、プラスチック製品の「象徴」と成り得るものです。はっきり言いまして、レジ袋については、リデュース効果により将来のごみを減らす量は微々たるものです。有料化により、清算の際にレジ袋をもらう人が減れば、ごみ削減への意識をもってもらえる人が増えるという啓発の位置づけの方が大きいと思います。ですからマイバック持参が原則であり、紙袋への代替えという考え方は本来の趣旨とは異なるのではないでしょうか。その際に持ち帰りに便利なレジ袋に代表されるプラスチック製の袋の利用制限は消費に影響を与えますので、社会システムだけでなくライフスタイルに踏み込んで議論するときにきていると考えます。

 「回収できたごみ」の内訳をみると、日本では家庭から出されるごみの中で一番多いのは紙で、総量の3割を占めています。次が同じく3割の生ごみであり、プラスチックは1割であり3番目、紙と生ごみの三分の一の量であります。実はプラスチックから紙への代替が謳われているのですが、木や植物の生長は遅いものですし、植林できる面積も限られているため、あまり意識されていないかと思いますが、前々から森林保護と安定した木材資源の確保の観点から、昭和の終わりころからペーパーレス化が推進されており、総量の3割にまで減らすことができました。つまり単純に何かに置き換えればよいという時代は終わり、地球上で確保できる資源の種類と量を考えていかなければならない時代に入っているということです。

 ここから「回収できずに自然環境中に排出されてしまったごみ」の話です。原因は、人為的なポイ捨てや不法投棄ですので、ごみはごみ箱に捨てるように地道に啓発活動を続けていくしかないと思います。

 また、すでに海など自然環境中に排出されてしまったごみの回収にも力を入れていく必要があります。日本でも昭和の時代にごみで汚れていた川や湖、山でも、十年単位で努力してきれいにしていった歴史があります。2030年や2040年、2050年という時間スケールでとらえ、国際社会と連携して、あきらめずに頑張ってごみを回収していく必要があると思います。

 ただし、啓発活動やボランティア活動に頼るのには限界があると考えます。ごみ処理の社会システムが構築され、かつモラルが高い国民性があるといわれている日本からも、自然環境中にごみが排出されている現実があるからです。昔に比べて、街、駅や観光地にごみ箱が少なくなっているように感じています。また、町内のごみの回収日も減ってきているのではないでしょうか。都内の駅やコンビニのごみ箱には、“家庭ごみは捨てないでください。”という貼り紙があるものもあります。テロ防止や費用負担があるのはわかりますが、ごみ箱の設置や日々の清掃・ごみ回収について、議論を深めていくよいタイミングだと思います。

7.おわりに

 暮らしの中のプラスチックで、経済・社会・環境の3つの側面のバランスがとれた社会が達成できているかというとそうでは無く、それ故、特に民間企業は、SDGsに賛同し世界共通の目標である17のゴールの達成を目指して努力しています。これからもライフスタイルや価値観は変わっていくはずです。今後も時代とともに今回ご説明した様々な問題も形を変えて永遠に続いていくことでしょう。継続した取り組みが必要な社会問題だからこそ、何が一番必要かというと問題の解決への協力者を増やしていくことではないでしょうか。

 暮らしの中のプラスチックでは、SDGsの次のゴールへの貢献が大切であるということです。

(永井一清)

(2020年9月27日アップロード)