生分解性プラスチックと海洋プラスチックごみ問題

1.海洋プラスチックごみ問題

海洋プラスチックごみ問題は地球規模の課題としてとらえられ、マスコミでも連日のように取り上げられています。これに連動する形で、プラスチックストロー、プラスチック包装材、レジ袋やカトラリーを、生分解性プラスチックや植物原料由来のプラスチックに置き換える動きも報道されています。2019年6月に日本で初開催されたG20大阪サミットでも、首脳宣言に“2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにまで削減することを目指す”ことが盛り込まれました。議長国としてこの問題を取りまとめるにあたり、国内で議論した場が平成30年度環境省プラスチック資源循環戦略小委員会でした。その答申書“プラスチック資源循環戦略の在り方について~プラスチック資源循環戦略~(2019年3月26日)”を受け、“プラスチック資源循環戦略(2019年5月31日)(http://www.env.go.jp/press/106866.html)”が策定されました。

この小委員会は、海洋プラスチックごみ問題を専門に議論するための委員会では無く、委員会名が表すようにプラスチックを資源としてとらえた循環利用、言い換えるとリユースとリサイクルによる再生利用について議論する委員会でした。しかしG20大阪サミットに向けて国内外の世論の声から循環利用から外れてしまったごみ、特に海洋プラスチックごみについても集中して議論する必要があると、検討項目に含まれたようです。この戦略には、海洋プラスチックごみの原因となるポイ捨てと不法投棄の撲滅を徹底すると明記されています。

また、より持続可能性を高めるために、再生材(リサイクル品)や再生可能資源(紙やバイオマスプラスチック)の利用促進が謳われています。これは、化石燃料由来のプラスチックとの代替を促進し、再生不可能な資源への依存度を減らすために再生可能資源に置き換えることを目的としています。そのため、海洋プラスチックごみ対策とのつながりはありません。またバイオマスプラスチックは、“原料として植物などの再生可能な有機資源を使用するプラスチック”であり、世間では植物原料由来のプラスチックと呼ばれているものです。

似たような言葉にバイオプラスチックという言葉があります。バイオプラスチックとは、“バイオマスプラスチックと生分解性プラスチックの総称”であり、後者の生分解性プラスチックは、“ある一定の条件の下で自然界に豊富に存在する微生物などの働きによって分解し、最終的には二酸化炭素(CO2)と水(H2O)にまで変化する性質を持つプラスチック”と定められています(図1参照)。また生分解性プラスチックには、原料として石油などの枯渇性資源を使用するプラスチックも含まれています。

2.バイオマスプラスチックの位置づけ

環境省プラスチック資源循環戦略小委員会の答申書には、“2030年までに、バイオマスプラスチックを最大限(約200万トン)導入するよう目指します。”と数値目標が明記されています。バイオプラスチックでありませんので、注意が必要です。約200万トンという数値の基となるのは、環境省第四次循環型社会形成推進基本計画(2018年6月19日)での目標“2030年度にバイオマスプラスチック国内出荷量197万トン”から来ています。さらにこの基となるのが環境省地球温暖化対策計画(2016年5月13日)での目標“2030年度にバイオマスプラスチック国内出荷量197万トン”です。CO2排出量削減目標がベースになっているということです。

環境省地球温暖化対策計画は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による第五次評価報告書(AR5)とパリ協定を背景に、日本の約束草案「2030年度の削減目標を、2013年度比で26.0%減(2005年度比で25.4%減)」を基に検討されたものです。バイオマスプラスチックは、マテリアルリサイクルが困難で焼却せざるを得ない石油を原料とするプラスチック製品の代替使用が念頭におかれています。バイオマスプラスチックの普及は、非エネルギー起源CO2に関する対策・施策に位置づけられ、石油を原料とするプラスチックを代替することにより、廃プラスチックの焼却処理に伴うCO2排出量(廃プラスチック中の石油起源の炭素に由来するCO2)の排出を抑制する狙いがあります。いわゆるカーボンニュートラルと呼ばれる考え方に基づくものです。

各産業のCO2の排出削減見込量を積み上げていく中で、バイオマスプラスチック負担分として、2030年度に植物などに209万トンのCO2を吸収してもらうとした上でバイオマスプラスチックの国内出荷量が197万トンと概算されたようです。国が1年間に排出・吸収する温室効果ガスの量をとりまとめたデータ(温室効果ガスインベントリ Greenhouse Gas Inventory)から、環境省温室効果ガス排出・吸収量算定方法(https://www.env.go.jp/earth/ondanka/ghg-mrv/methodology/)に従って導き出されました。

2017年の日本国内のバイオプラスチックの出荷量は、39,500トン(推計値)でした(第2回環境省プラスチック資源循環戦略小委員会:資料5 日本バイオプラスチック協会資料(2018年9月19日))。単位は万トンの間違いではなく、単なるトンです。同じ資料では、2017年の世界のバイオプラスチックの生産能力は、205万トンと示されていました。バイオプラスチックにおいてバイオマスプラスチックが占める割合も示されていましたが、出荷量と生産能力という違いもありますが、両者を比較するのは困難です。これは、同統計データではバイオマスプラスチックと生分解性プラスチックの量を明確に分けていますが、統計データにより生分解性のあるバイオプラスチックの位置づけが異なるからです(図1で円が重なり合う部分)。日本の出荷量では用途を基に分類しているため、生分解性のあるバイオプラスチックでもバイオマスプラスチックの量に含めているものもあります。一方、世界の生産能力の統計データでは、生分解性のあるものは、生分解性プラスチックの量に含めています。単純比較は無理としても、日本国内でいえば、日本のプラスチック年間生産量は約1,000万トンで推移していますので、日本のバイオプラスチック量は、プラスチック全体の0.4%程しかないことになります(一般社団法人プラスチック循環利用協会“プラスチックリサイクルの基礎知識2018(2018年))。バイオマスプラスチック量はバイオプラスチック量より少ないことから、上述した目標値約200万トンにするには今の50倍以上に増やさなければならないということがわかります。世界のバイオプラスチックの生産能力自体が200万トン程ですので大変な取り組みであることがわかると思います。

また、バイオマスプラスチックは、原料となる植物などを育てる必要があり、農地の確保とともに水やエネルギーも使うため、ライフサイクルアセスメント(LCA)で総合的に評価し、適切に管理することが必要となります。ときにはカーボンニュートラルの利点を生かせず、石油由来のプラスチックよりもCO2を多く排出してしまう場合もあるため、安易にバイオマスプラスチックを導入できないのが現実です。

3.生分解性プラスチックの位置づけ

生分解性プラスチックは、生分解性により最終的にCO2とH2Oに分解されるため固体分が無くなり、ごみの最終処分場(埋立地)の寿命を延ばすために有効です。生分解性は微生物の働きによるものであり、一瞬でCO2とH2Oになるわけではありません。生分解性の無いプラスチックと同じく、元の製品がバラバラになり、さらに小片から微粒子化してから、最終的にCO2とH2Oになります(図2参照)。つまり、生分解の過程でも、マイクロプラスチックの形を経ていくのですが、生分解は継続して進行するため、マイクロプラスチックとして長期にわたって残留することはないとして、マイクロプラスチック問題の対応策の一つとなることが期待されています。

生分解の場所は土壌、水中(海洋、湖沼、河川)やコンポストがあります。最後のコンポストとは、微生物の働きが活発化しやすい人工的に作られた設備・装置で、有機物を微生物により分解させて堆肥にする処理方法をいいます。原料が植物由来か石油由来に限らず、生分解性プラスチックは、自然環境中で好気的条件下(空気中等で酸素がある状態)では微生物によりCO2とH2Oになりますが、嫌気的条件下(酸素が無い状態)ではCO2とH2Oの他にメタンにもなります。いわゆるバイオ発酵でバイオガス(メタンとCO2の混合ガス)を生成しています。このように、生分解するためには特定の条件があるため、ISO規格やJIS規格も念頭におかれる環境や条件ごとに制定されています。表1は、日本バイオプラスチック協会ホームページ資料“グリーンプラ識別表示制度とは”(http://www.jbpaweb.net/gp/gp_sikibetsu.htm)と経済産業省海洋生分解性プラスチック開発・導入普及ロードマップ(2019年5月7日)から抜粋して作成しました。海と一言でいっても、なぎさ(ISO/CD 22404)、浅海底(ISO 18830、ISO 19679)、海水中(ISO/NP 23971)や実海域(ISO/CD 22766)というように、区分けされて議論されていることがわかります。そこに存在する微生物の種類だけでなく、波力、紫外線量、酸素濃度等が異なるためです。

日本国内ではG20大阪サミットを経て、海洋生分解性プラスチックの標準化に係る検討委員会が設立されたことより、土壌で生分解するプラスチックも含め、生分解性プラスチックの普及とごみ処理のための議論が深められると思われます(2019年7月22日経済産業省プレスリリース https://www.meti.go.jp/press/2019/07/20190722003/20190722003.html)。欧州プラスチック戦略(A European Strategy for Plastics in a Circular Economy 2018年1月策定)では、生分解性プラスチックの定義付けとラベル表示を明確化し分別回収してコンポスト処理する提案がなされています。日本でも海外でも生分解性プラスチックだからといってポイ捨てや不法投棄をして良いとは言っていません。自然災害等を含めて非意図的に自然環境に出てしまったときに、非生分解性プラスチックよりも自然環境への負荷が相対的に小さいという理由付けから代替素材として期待されているのです。

また、バイオマスプラスチックとともに利用促進が謳われている紙の主原料はセルロースであり、高校の教科書では天然高分子化合物と説明されているものです。プラスチックと同じ高分子化合物です。セルロースは生分解性を示しますが、他の生分解性プラスチックと同じく生分解するためには特定の条件があるため、ポイ捨てや不法投棄をしてはいけません。各自治体が定めたルールに従って、ごみ出ししましょう。

4.おわりに

“プラスチック資源循環戦略”では、地方自治体とともに事業者と消費者への啓発についても触れられています。例えば、基盤整備の一つとして“国際的に広がりを見せるESG投資(環境 Environment・社会 Social・企業統治 Governance といった要素を考慮する投資)やエシカル消費(人や社会、環境に配慮した消費行動)において、企業活動を評価する一つの判断材料として捉えられうることを踏まえた適切な情報基盤の整備等の検討・実施を図ります。”と述べられています。また、再生材・バイオプラスチックの利用促進の一つとして、“再生材・バイオプラスチック市場の実態を把握しつつ、グリーン購入法(国等の公的機関が率先して環境負荷低減に資する製品・サービスの環境物品等の調達を推進する法律)等に基づく国・地方自治体による率先的な公共調達、リサイクル制度に基づく利用インセンティブ措置、マッチング支援、低炭素製品としての認証・見える化、消費者への普及促進などの総合的な需要喚起策を講じます。”と記されています。“持続可能な開発目標 Sustainable Development Goals(SDGs)”の“12.つくる責任 つかう責任”に通じるものです。

本解説を始めとする資源問題・環境問題は昔から議論され様々な方面から対策も施されていますが、決定的な解決策が無いのも事実です。社会は移り変わっていき、ライフスタイルや価値観も変わっていきます。今後も時代と共に資源問題・環境問題も形を変えて永遠に続いていくことでしょう。継続した取り組みが必要な社会問題だからこそ、何が一番必要かというと、“問題解決への協力者を増やしていくこと”だと考えます。

(永井一清)

(2019年8月19日アップロード)