プラスチックと海洋ごみ問題

1.プラスチックストローとレジ袋

かめの鼻からプラスチックストローを引き抜く衝撃的な映像を、誰でも一度は目にしているのではないでしょうか。また、プラスチックストローだけでなく、ペットボトルやレジ袋で水面が見えないほど覆われた海岸の映像を見たことがあると思います。言葉を失う光景です。

海洋ごみ問題は急に沸き起こったように思われがちですが、2015年6月のG7エルマウ・サミット首脳宣言において、その附属書に海洋ごみ問題に対処するためのG7行動計画が加えられ、“発生の抑制が、海洋ごみ問題への取り組みと対処を長期的に成功させるカギであることを認識し、産業界と消費者は廃棄物を削減するために重要な役割を果たす”と定められております。すでに、国際的に対処すべき喫緊の課題であるという共通認識がG7で持たれていたのであります。“海洋に投棄されるプラスチックごみの量は少なくとも年間800万トンあり、このまま何の対策もとらなければ2050年までに魚の量を上回る”と警鐘を鳴らす報告もあります(エレン・マッカーサー財団、2016年1月世界経済フォーラム年次大会)。

海にあるごみは、どこから来ているのでしょうか? 日本国内においても、本来はごみ箱に捨てられて適切に処理されているはずのものが、海だけでなく川や山、公園や道路にポイ捨てや不法投棄されてしまっています。ストローをプラスチックから紙に置き換えたり、レジ袋をもらわずマイバックを利用したりする動きがありますが、プラスチックを他の素材に置き換えても、ポイ捨てや不法投棄を無くさないと環境中にごみが出されてしまいます。自然を汚すごみの種類が変わるだけということです。それでは紙やマイバックの利用を推進している理由はというと、プラスチック製品の中でリサイクルし難い形状のごみの総量を減らすためなのです(図1参照)。使わなければごみにもならないだろうという狙いだけではありません。

図1:自然界の散乱ごみとごみ埋立地の寿命の関係例

2.ごみ埋立地の寿命

環境破壊や資源の有効利用等の対策が国際的に厳しくなる中、プラスチックが多く利用されている容器包装を例にとると、日本国内においては2000年に容器包装リサイクル法が完全施行されました。大量消費から3R(リデュース・リユース・リサイクル)による循環型社会への転換が行われ、今では日常生活の中に根付くまでになり、容器包装に限らずごみの削減に効果が表れてきました。

容器包装リサイクル法が出来たきっかけは、ごみの最終処分場、すなわちごみの埋立地の寿命(残余年数)からでした。環境省平成30年版環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書によると、日本国内の平均残余年数は、家庭から出る一般廃棄物においては20.5年、事業所から出る産業廃棄物は16.6年となっています。3Rの中でも、ごみを資源と位置づけたリサイクルの循環を繰り返すことにより、埋め立てにまわすごみの量をゼロに近づけ、埋立地の寿命を延ばそうとしています(図1参照)。2018年10月に開催された環境省プラスチック資源循環戦略小委員会で、プラスチックごみを資源として活用するために、数値目標を挙げて官民挙げた取り組みが提案されました。

3Rを一層推進するためには、特に複数のルートで大量に流通する使い捨て包装に対して、回収ルート等の物流も含めたライフサイクル全体で資源循環を考えなければならない時代に入っています。例えば、リサイクルし易い包装デザインに変更していく動きや、現在の商品への個別バーコード付与による品質や物流の管理を、IoT(Internet of Things)やAI(Artificial Intelligence)の導入でより効率的に高度な管理をし、ごみだけでなく「食品ロス(フードロス)」の削減につなげる活動も出てきております。

資源循環のサイクルから外れてしまったごみが海、川、山、池、公園やビジネス街や住宅地にあるわけで、ごみを環境中に出さないだけでなく、すでに出てしまっているものを掃除しなければごみは無くなりません。ワールドカップサッカーやハロウィンのポイ捨て現場では、ボランティアが掃除している映像が印象的でありましたが、大容量で広範囲の海洋ごみの清掃は個人の善意だけでは限界があります。すでに国レベルで対応しており、例えば、環境省海岸漂着物等地域対策推進事業では、平成29年度予算額4億円、平成28年度補正予算額27億円が計上されましたが、海は汚れています。今も毎日多くの新しいごみが漂着しています。海洋ごみの中には海外から辿り着くものもあり、日本だけで発生抑制の対策を取ったとしても問題解決につながらない状況にあるからです。国際協力は必要不可欠ということです。

3.マイクロプラスチック

 海洋に流出したプラスチックごみは、景観だけでなく海洋生物にも影響を与えていることが指摘されており、とりわけ微小化したプラスチック海洋ごみ(マイクロプラスチック)の誤食による海洋生物の生態系への悪影響等の新たな国際的な課題も見つかってきております。

海中を漂うプラスチックに有害物質が吸着し、それを魚が食べて有害物質を体内に吸収し、その魚を人間が食べるというものです(図2参照)。近い将来、健康被害が起こる可能性もあります。PM2.5や黄砂に有害物質が吸着し、それが日本に飛来してくるメカニズムに似ています。ここで、スクラブ製品に含まれるマイクロビーズは元々が微粒子状であるのに対し、マイクロプラスチックはプラスチック容器等が紫外線などで分解して細かくなり、最終的に微粒子状になったものであり、両者は区別して議論されています。日本国内においては、例えば業界団体最大手の日本化粧品工業連合会が2016年3月にマイクロビーズの使用中止の自主規制を始めております。

陸上では、タイヤ、くつ、繊維、塗料や人工芝等の日々の利用により磨り減るものから非意図的に発生したマイクロプラスチックの影響についても議論が始まっております。2017年にISO TC61/SC14(Environmental Aspects)内に、マイクロプラスチックに関する規格開発の作業部会が設立されたことより、国際標準の面からも議論が深められていくものと思われます。

図2:マイクロプラスチックを介した健康被害の想定イメージ

4.枯渇性資源と地球温暖化

プラスチックの原料は石油です。プラスチックだけでなく、私達の暮らしに欠かせない医薬品を含む有機化学製品の原料でもあります。金属以外は炭素原子(C)を主体とした有機物なのです。

高校で元素が規則的に並んだ周期表を習います。また同時に、元素を組み合わせて化合物が作られていることも習います。元素をどこから持ってくるかが重要であり、その元が資源と言われているものでもあります。

石油は燃やすと温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)が発生することが問題視されているだけでなく、原料そのものが枯渇性資源であり、このまま使い続けると21世紀中に無くなってしまうことが危惧されています。資源エネルギー庁平成29年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2018)によると、2016年の石油生産量で除した可採年数は50.6年となりました。

CO2を大気中に放出しなければ温室効果は避けられます。同時に、CO2を化石燃料にかわる炭素源として将来の資源として地中に埋蔵しようとするしくみがCO2回収貯留(CCS)であり、火力発電所や製鉄所等、CO2を生成する施設への併設が各国で検討されています(図3参照)。また、CO2を原料としたプラスチックや有機化合製品の合成も研究されています。

一方、エネルギー面では、石油に限らず石炭や天然ガス等の化石燃料を大切に使用しながら、代替えとして再生可能エネルギー(太陽光・風・地熱・バイオ燃料)へシフトさせていっています。

第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)において2015年12月に採択された“パリ協定”では、“世界的な平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分に低く保つ目標”が掲げられました。この2℃という目標値の達成は、これからのCO2の排出量を吸収量と差し引きゼロにするゼロエミッションだけでは実現は難しく、大気中に排出され蓄積されているCO2も積極的に回収してCO2の存在量を減らしていくネガティブエミッションが必要とされており、CO2を吸収するために今まで以上に緑を増やしていく必要がでてきました。

図3:CO2回収貯留(CCS)の概念図

5.バイオプラスチック

プラスチックも枯渇性資源である石油を出発原料とするのではなく、再生可能資源(非枯渇性資源)である植物からできたエタノールを出発原料とするバイオプラスチックへシフトさせていく動きが加速しています(図4参照)。植物は生長する際の光合成でCO2を吸収してもくれます。すでにバイオポリエチレン(Bio-PE)やバイオポリエチレンテレフタラート(Bio-PET)と銘打って商品化されているものもあります。

植物由来のプラスチックの一つにポリ乳酸があり、生分解性を持ち合わせています。生分解性により最終的に炭酸ガスと水に分解されるため固体分が無くなり、ごみの最終処分場(埋立地)の寿命を延ばすために有効であります。しかし、生分解するためには特定の条件があるため、どこの土に埋めても生分解するわけではありません。ヨーロッパでは循環型社会を目指し、2018年1月に策定された欧州プラスチック戦略(A European Strategy for Plastics in a Circular Economy)において、生分解性プラスチックの定義とラベル表示を明確化し分別回収する提案がなされています。なお、生分解性は、原料に由来するのではなく高分子化合物の化学構造に依るので、植物由来だからといってPEやPETが生分解するわけではありません。

図4:石油由来と植物由来のプラスチックの合成ルートの例

6.おわりに

上述しました様に、プラスチックと環境問題はいくつもの要因が組み合わさっており、多元連立方程式を解くような難しさがあります。一般的にはプラスチックと一括りに議論されがちですが、産業ごとに利用方法やライフサイクルも異なりますし、リサイクル方法も同じではありません。日本と海外の国々とでは、社会システムやライフスタイルも異なります。でも協力は不可欠です。

私達は、地球上の次の世代の人達に向けて、究極の“人が人工的に作り出したものを自然界に出さない社会”を目指したいと考えています。プラスチックごみだけでなく、CO2も排気ガスも工業排水も生活排水も自然界に出さないということです。人が人工的に作り出したものは全て回収し、再生して有効活用し何度も循環利用する社会です。同時に、すでに自然界に出てしまっているごみを地道に回収して資源循環のサイクルに戻す活動を進めます。

皆さん、ぜひ私達の取り組みに協力してください。

(永井一清)

(2019年2月26日アップロード)