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バイオマスプラスチック製品・生分解性プラスチック製品の公知情報のまとめ

明治大学では、新型コロナウイルス感染症対策として、2020年度春前期学期(2020年5月7日~2020年6月17日)はオンライン授業で対応しました。今回は、同期間に実施した明治大学高分子科学研究所所属大学院生のグループワーク成果の一部を公開します。

2020年7月1日からレジ袋の有料化が始まります。有料化の対象外に含まれるバイオマスプラスチック(植物由来プラスチック)と生分解性プラスチックという言葉は一般にも浸透してきていますが、プラスチック中にバイオマス成分はどの程度含まれているのか、生分解はどの程度起こるのか等の定量的なデータはあまり表に出ていない現状があります。この機会にグループワークで公知情報を調査してみました。そしてその調査結果を基に、プラスチックと社会との関りについて科学技術・環境・ライフスタイルの面から議論を深め、私達の目指すべき未来の姿を描き、それを実現するためのロードマップの作成を行いました。

公知情報とひとことで言いましても、学術論文に膨大なデータが報告されております。今回は、暮らしの中で実際に使用するという視点から、学術情報では無く製品情報を収集しました。公知情報の調査結果の一部は公開できますので、つぎの表として下記にまとめてあります。バイオマスプラスチックや生分解性プラスチックとして製品として存在するものでも、バイオベース度や生分解性のデータが公表されていないものは掲載しておりません。

表のリスト
表1-1 バイオマスプラスチックに関係する用語と定義(英語はISO規格、日本語は対応JIS規格から引用)
表1-2 生分解性プラスチックに関係する用語と定義(英語はISO規格、日本語は対応JIS規格から引用)
表2   生分解性が無いバイオマス由来成分を含むプラスチック
表3   生分解性が観察されたプラスチック
表4-1 表2の参考文献
表4-2 表3の参考文献

表2と表3をご覧になった方は、おそらく拍子抜けしたのではないでしょうか。数が少ないからです。調査開始前の肌感覚として数多くあるであろうという予想に反し、本グループワークを実施して明らかになったことでもあります。生分解性が観察されたプラスチックに関し、参考文献での生分解した割合の最大値が必ずしも100%で無いものも見受けられることも分かりました。

本グループワークの結論の一つに、“社会に対して実験データを公表していく大切さ”があります。“日本国内だけでなく国際的にも各国が協力して実験データを収集し、社会に公表していくことが求められている。”というまとめをしました。

また、バイオマス成分や石油から高分子を合成するプロセスも検証し、バイオマスプラスチックがカーボンニュートラルの利点を本当に活かせているのか、栽培から製造までの各工程で石油由来プラスチックよりも二酸化炭素を多く排出しているのではないかという点についても議論しました。バイオマス成分からの高分子の合成、バイオマス成分と石油からの高分子の合成、石油からの高分子の合成の3つに大別して整理しました。下記にまとめたつぎの合成スキーム図は、グループワークでの議論に用いたものであり、表2、表3の実際の製品製造とは異なりますので、混同しないように注意してください。

図のリスト
バイオマス成分から高分子を合成する例
図1-1 セルロースからポリブタジエンを合成する例
図1-2-1 サトウキビから2,5-フランジカルボン酸を合成する例
図1-2-2 サトウキビからエチレングリコールを合成する例
図1-2-3 2,5-フランジカルボン酸とエチレングリコールからポリエチレンフラノエート (PEF) を合成する例
図1-3-1 サトウキビからエチレングリコールを合成する例
図1-3-2 トウモロコシからテレフタル酸を合成する例
図1-3-3 エチレングリコールとテレフタル酸からポリエチレンテレフタレート (PET) を合成する例
図1-4-1 トウゴマから1,10-デカンジアミンを合成する例
図1-4-2 トウゴマからセバシン酸を合成する例
図1-4-3 1,10-デカンジアミンとセバシン酸からポリ(1,10-デカンジアミン-co-セバシン酸) (PA1010) を合成する例
図1-5 トウゴマからポリ(11-アミノウンデカン酸) (PA11) を合成する例
図1-6 サトウキビからポリエチレン (PE) を合成する例
図1-7 油糧種子からポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート) (PHBH) を合成する例

バイオマス成分と石油から高分子を合成する例
図2-1-1 サトウキビからイソソルバイドを合成する例
図2-1-2 石油から1,4-シクロヘキサンジメタノールを合成する例
図2-1-3 石炭からジフェニルカーボネートを合成する例
図2-1-4 イソソルバイド、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジフェニルカーボネートからポリカーボネート (PC) を合成する例
図2-2-1 サトウキビからエチレンを合成する例
図2-2-2 石油からプロピレンを合成する例
図2-2-3 石油から5-エチリデン-2-ノルボルネンを合成する例
図2-2-4 エチレン、プロピレン、5-エチリデン-2-ノルボルネンからエチレン・プロピレン・ジエン系ゴム (EPDM) を合成する例
図2-3-1 トウゴマからセバシン酸を合成する例
図2-3-2 石油からヘキサメチレンジアミンを合成する例
図2-3-3 セバシン酸とヘキサメチレンジアミンからポリ(ヘキサメチレンジアミン-co-セバシン酸) (PA610) を合成する例
図2-4-1 トウゴマから1,10-デカンジアミンを合成する例
図2-4-2 石油からテレフタル酸を合成する例
図2-4-3 1,10-デカンジアミンとテレフタル酸からポリ(1,10-デカンジアミン-co-テレフタル酸) (PA10T) を合成する例
図2-5-1 グルコースから1,3-プロパンジオールを合成する例
図2-5-2 石油からイソフタル酸を合成する例
図2-5-3 石油からフマル酸を合成する例
図2-5-4 1,3-プロパンジオール、イソフタル酸、フマル酸から不飽和ポリエステルを合成する例
図2-6-1 グルコースから1,3-プロパンジオールを合成する例
図2-6-2 石油からテレフタル酸を合成する例
図2-6-3 1,3-プロパンジオールとテレフタル酸からポリトリメチレンテレフタレート (PTT) を合成する例
図2-7-1 サトウキビからエチレングリコールを合成する例
図2-7-2 石油からテレフタル酸を合成する例
図2-7-3 テレフタル酸とエチレングリコールからポリエチレンテレフタレート (PET) を合成する例
図2-8-1 トウゴマからポリオールを合成する例
図2-8-2 石油からポリオールを合成する例
図2-8-3 石油からジイソシアネートを合成する例
図2-8-4 ジイソシアネートとポリオールからポリウレタン (PU) を合成する例
図2-9-1 トウモロコシからコハク酸を合成する例
図2-9-2 石油から1,4-ブタンジオールを合成する例
図2-9-3 コハク酸と1,4-ブタンジオールからポリブチレンサクシネート (PBS)を合成する例

石油から高分子を合成する例
図3-1 天然ガスからポリグリコール酸 (PGA) を合成する例
図3-2 石油からポリビニルアルコール (PVA) を合成する例

2020年度春前期学期(2020年5月7日~2020年6月17日)グループワークメンバー:
(リーダー)毛戸章博(サブリーダー)岩間健人、坪沼伸弥(メンバー)大塚雅哉、佐々木暢、菅原大雅、塚本武、水嶋大稀、山下裕太郎(オブザーバー)岩佐怜穂、荒木智晴、廣田なつみ、藤井智也(指導教授)永井一清

(2020年6月26日アップロード)