提案2 地球に優しいプラスチック~バイオプラスチックの革新的な精密構造制御とそのガスバリア理論の構築~

グループリーダー
佐藤修一客員研究員
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本提案で達成するSDGs

1.プラスチックごみの削減に向けた地球に優しいプラスチック

2016年1月1日に発効した国際連合の“持続可能な開発のための2030アジェンダ”に掲げられた“持続可能な開発目標 Sustainable Development Goals(SDGs)”に基づき、低炭素社会、自然共生社会など持続可能な社会づくりが進められています。我が国においては、2000年に“容器包装リサイクル法”が完全施行されました。そして大量消費から3R(リデュース・リユース・リサイクル)による循環型社会への転換が行われ日常生活の中に根付くまでになり、ごみの削減に効果が表れてきています。

その一方で、使い捨てのプラスチック容器包装等が原因の一つとされる海洋に流出したプラスチックごみは、景観だけでなく海洋生物にも影響を与えていることが明らかになってきました。とりわけ、「微小化したプラスチック海洋ごみ(マイクロプラスチック)」の誤食による海洋生物の生態系への悪影響等の新たな国際的な課題も見つかってきております。

環境問題や資源の有効利用等の対策が国際的に厳しくなる中、特に複数のルートで大量に流通し、かつ使い捨てが念頭に於かれている包装材料に対しては、回収ルート等の物流も含めたライフサイクル全体で資源循環を考えなければならない時代に入っています。また、現在の包装材料へのバーコード印刷による品質や物流の管理を、IoT(Internet of Things)やAI(Artificial Intelligence)の導入でより効率的にサプライチェーンマネジメントが可能になることから、「食品ロス(フードロス)」の削減につなげる動きも出ています。2020年7月からレジ袋有料化になっていくことからも、日本社会全体として現在プラスチックの課題解決に取り組まれております。

2.マイクロプラスチック問題とバイオプラスチック

天然物とは異なり、一般的に使用されるプラスチックは自然界に存在する微生物では分解されず、焼却処分しない限りは自然環境下に残存することになります。ただし、水や紫外線などで部分的に細かく微細化だけが進行します。この微細化したプラスチックの誤食による海洋生物の生態系への悪影響を及ぼし、これがマイクロプラスチック問題を引き起こしております。加えて、この微細化されたマイクロプラスチックは回収が困難なため、今後様々な環境問題(生態系、人体への影響)を引き起こすと懸念されております。

このマイクロプラスチック問題を解決するために、自然環境下で分解されるようなバイオプラスチックが注目されるようになってきました。バイオプラスチックの一つとして、再生可能なバイオマス資源の原料をベースとして作製される“バイオマスプラスチック”があります。具体的な素材に目を向けると、このバイオプラスチックの利用が消費者にアピールされるようになってきており、植物由来の原料から合成されたポリエチレン(PE)やポリエチレンテレフタラート(PET)が、Bio PE、Bio PETとして普及してきています。

もう一つのバイオプラスチックとして、“生分解性プラスチック”も注目されております。これは通常のプラスチックと同様の耐久性を持ち、使用後に高温多湿条件下、土壌環境下、水環境化で微細化ではなく、CO2や水にまで“完全に”分解されるプラスチックのことをあらわしています。中でもポリ乳酸が有名であり、この生分解性を有するポリ乳酸の利用が積極的に行われるようになってきています。以上、温室効果ガスの排出量削減やリサイクルへの影響等の地球環境についての多様な観点から、世界的にバイオプラスチックの需要が伸びていくものと見られています。

私たちの目標は、環境問題を解決できる、地球に優しいバイオプラスチックを創製することです。

3.地球に優しい生分解性プラスチックの構造制御

一般的なプラスチックは、生分解性は低い一方で性能の長期安定性に優れていますが、生分解性プラスチックは、性能の長期安定性が課題となっています。生分解性プラスチックを創製する際には、通常の生活環境下では分解されず、その性能が安定しており、海洋など外部に流出した際に、分解が促進されるプラスチックが要求されてきます。

プラスチックの分解性を考える上で、プラスチックの分子鎖の構造が重要になってきます。プラスチックは、その分子鎖が3次元的に凝集した高次構造を有しております。その分子鎖が凝集すれば結晶構造も取ることから、このプラスチックの分子鎖構造、結晶構造(高次構造)が変化することで、その性能や分解速度も変わってくるはずです。地球に優しい生分解性プラスチックを創製する際には、その構造を制御する技術が重要になってきます。今後、様々な生分解性プラスチックおよびバイオプラスチックが開発されてくると考えられます。分子鎖の高次構造を制御する手法は、次世代のバイオプラスチックの研究開発に大きな貢献ができると私たちは考えています。

これまで私たちは、生分解性プラスチックの中でも、ポリ乳酸の分子構造を制御する研究を行ってきました。熱・冷却処理、有機溶媒処理、紫外線処理、不純物添加処理を行うことによって結晶構造を自由に操作したPLA膜の膜構造とこれらの包装材料とし重要なガスバリア性に与える影響について研究をしてきました。一般的にプラスチックの結晶構造が増えていくにつれて、ガスバリア性も増加すると考えられますが、ポリ乳酸においてはその傾向は当てはまらないことを明らかにしてきました。これは結晶構造部と非結晶部の構造に存在する界面領域が影響を及ぼしているからです。

熱により構造を制御した生分解性プラスチック(Trans. Mater. Res. Soc. Jpn., 35, 241, 2010)

熱により構造を制御した生分解性プラスチック(Trans. Mater. Res. Soc. Jpn., 35, 241, 2010)

紫外線により構造を制御した生分解性プラスチック(Desalination, 287, 290, 2012)

不純物添加と熱により構造を制御した生分解性プラスチック(Ind. Eng. Chem. Res, in press, 2020)

今後のポリ乳酸を含む地球に優しいバイオプラスチックの開発には、その優れた特徴でもある透明性と剛性の優れた性状を維持しながら、その分子鎖構造を精密に制御することで耐久性やガスバリア性などの性能を向上させて、バイオプラスチックの高付加価値化に取り組んでいくことが必要不可欠です。これにより容器包装の高機能化として、エレクトロニクス分野の透明バイオプラスチックへも応用展開していくと考えられます。このようなバイオプラスチックの研究では、すでに従来の理論では説明できないガスバリア性の挙動も観察されており、新しいガスバリア性の理論構築も必要です。

私たちの目標は、新素材から新理論まで一貫した研究を行っていくことです。

4.地球に優しいプラスチックが生み出す新しいイノベーション

これまでのバイオプラスチックの話からも明らかなように、現在、私たちが直面しているのは、海洋プラスチックを含めたプラスチックだけの問題ではなく、海洋プラスチックと化してしまった廃棄物管理の問題でもあります。この問題は、一つのグループだけで行うものではなく、私たちとしては様々な情報公開を試みながら、多くのグループと共同にこれらの大きな問題に取り組んでいきたいと考えております。

新しい地球に優しいプラスチックの開発、プラスチックの廃棄物管理に取り組むために多くの費用が費やされます。しかしながら、今後の低炭素社会、自然共生社会など持続可能な社会づくりに取り込む姿勢、つまりSDGsの実践により、その組織の価値は大きく向上すると考えられています。

これまで、社会や環境に配慮した投資は倫理的投資として財務リターンが低いと見られがちでした。しかしながら、近年の投資スタイルとして、企業に投資する際に過去の財務情報だけで判断せず、地球環境鏡への取り組みなどの非財務情報も含めた企業活動全体から判断して優れた企業を選んでいくESG投資が注目されています。

社会的に注目されているESG投資

この環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)に配慮している企業を重視・選別して行なう投資をESG投資といいます。すでにESG課題を反映すべきとして世界の2000近い機関投資家が署名しており、その資産額は2500兆円規模になっています。プラスチックの廃棄問題に取り組むことは、地球温暖化への対応、環境破壊・汚染の回避、環境ビジネスの展開に該当するため、ESG投資対象になります。これは将来への成長を促すため、企業経営者、組織運営者にとって、社会的に重要になってきます。

以上のことから、プラスチックの廃棄問題に取り組むことにより、様々なイノベーションが起こります。新しいバイオプラスチックの創製としたプロダクトイノベーション以外にも、新しいバイオプラスチックを製造するプロセスのイノベーション、新しいバイオプラスチックを用いた販売・管理網といった流通チャネルのイノベーション、新しい生分解性プラスチックの原料自体に起こるイノベーションです。そして最後に環境問題に取り組む組織を実現する組織のイノベーションも起こり、それに伴い社会に大きな変革が起こってきます。

私たちの目標は、多くのグループと共同にこれらのプラスチックの廃棄問題に取り組んでいき社会に貢献していくことだと考えております。