提案1 革新的分離膜を用いる海洋バイオエネルギーの創成

グループリーダー
風間伸吾客員研究
  • 7:エネルギーをみんなにそしてクリーンに
  • 13:気候変動に具体的な対策を

本提案で達成するSDGs

1.海洋を用いる再生可能エネルギー創成の可能性

我が国の排他的経済水域(EEZ:447万km²)に照射される太陽光のエネルギー総量は、年間に約1.9x1022ジュール(J)であり、2016年の国内最終エネルギー消費量1.3 x1019Jの約1,500倍の計算になる。EEZを活用した海洋バイオエネルギーを実現することで、脱炭素化、低炭素社会の実現に大きく貢献する共に、エネルギー自給率の向上によるエネルギー安全保障にも貢献することが可能となる。更に、食糧生産も同時に実現することで、食糧自給率の向上にも貢献することが期待できる。

図1は、我が国のEEZの約4%を活用した海洋牧場で、大型藻類を育成して再生可能エネルギーを生産する概念である。2050年において、現在の国内最終エネルギー消費量の約20%を担う2,800ペタジュール(PJ)の太陽光由来の再生可能エネルギーを創出することを目指す。

パリ協定の世界的な平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分に低く保つ目標を達成するためには、2100年までには大気中CO2を削減するネガティブエミッションが必要と言われる。海洋を用いる再生可能エネルギー創成とCO2回収貯留(CCS)を組み合わせることで、大規模なバイオエネルギーCCS(BECCS)も可能となる。

図1 革新分離膜を用いる2,800PJの海洋バイオエネルギー創生の概念

2.革新的分離膜を用いる新規エネルギー変換プロセスの必要性

バイオマスのエネルギー化の研究開発は、国内においてこれまでにも多くの事例がある。共通する課題は、代替すべき化石燃料に比較して、製造コストが高い点である。このコスト高の主な原因は、
1.原料となるバイオマスの価格が高いこと
2.原料バイオマスからの燃料製造コストが高いこと、である。
加えて、海洋バイオマスの場合は、
3.乾燥に要するエネルギーが大きいことが指摘されている。

1.の「原料バイオマスの価格が高いこと」の対策は、大規模で効率良くバイオマスを生産することである。2017年9月に、米国エネルギー省がARPA-e Marinerプロジェクトを立ち上げた。米国のEEZの1.4%を利用して、2,800PJの液体燃料の生産を目指している。世界第8位の447万km²のEEZを有する我が国においても、海洋の活用が安価で大量のバイオマス生産の鍵を握ると考える。

2.の「原料バイオマスからの燃料製造コストが高いこと」に関しては、反応生成物である燃料を効率良く分離して生産性を向上することで、コスト削減が可能である。この分離に、明治大学高分子科学研究所が開発中の革新的な分離膜である「分子認識分離膜」を適用する。

3.「海藻類の乾燥にエネルギーを必要とすること」に関しては、乾燥を必要としない湿式プロセスを利用することが対策として考えられる。この湿式プロセスの実現にも、明治大学高分子科学研究所が開発中の「分子認識分離膜」が有効である。

3.原料バイオマスからの燃料製造コストを大幅に削減する分子認識分離膜

化学反応を伴うバイオマスの燃料化では、分離・精製コストの削減が経済合理性を確立する上でのボトルネックの一つである。このボトルネックを解決する手段が「分子認識分離膜」である。図2に示すように、分子認識分離膜は分子を認識して扉が開閉することで、従来に無い高選択性と高透過性を両立する。その結果、反応生成物を効率良く、分離・抽出することが可能となる。

図2 分子認識分離膜の概念

バイオエタノールの製造において、原料バイオマスの発酵プロセスである「酵素生産」と「エタノール発酵」が全コストの約25%を占める。この発酵プロセスにエタノール選択透過膜を用いることで、これらのコストを大幅に削減することが可能となる。図3に、アルコール発酵における発酵時間とアルコール濃度の関係を示す。また、図4に、アルコール分子認識分離膜を用いるアルコール連続式発酵の概念を示す。

図3 アルコール発酵における発酵時間とアルコール濃度の関係
図4 アルコール分子認識分離膜を用いるアルコール連続式発酵の概念

図3の発酵時間とアルコール濃度の関係において、時間が経過するとアルコール濃度の増加が緩やかになる。これはアルコール濃度が高いと酵母の活性が低下することが原因である。従来のバッチ式発酵ではアルコール濃度が10%程度に達するまで発酵させてから製品のアルコールを得る。この場合、発酵速度(生成速度)はバッチ式と記した赤線の傾きとなる。

一方で、図4に示す連続式発酵では、アルコール濃度が低い条件でアルコールを選択的に回収することから、発酵速度(生成速度)を示す傾き(連続式の赤線の傾き)は、バッチ式に比べて大きい。

このように、アルコール選択透過膜を用いて、アルコール濃度が低く発酵速度が大きい状態の発酵液からアルコールを選択的に透過回収することで、アルコールの生産性を大幅に向上させることが可能である。しかし、現状の分離膜ではアルコール選択性が不十分であり、連続式発酵プロセスは実現していない。

アルコール選択性に優れた分子認識分離膜を開発することで、バッチ式発酵に比較して発酵速度が3〜10倍も大きい状態のアルコール濃度が低い発酵液からアルコールを連続的に回収することが可能となり、アルコール生産性が3〜10倍も向上する。換言すると、発酵槽の単位容積当たりのアルコール生産量が3〜10倍となることから、同一量を製造するためのアルコール発酵槽が小型化すると共に、高価な酵母の使用量が大幅に削減される。加えて、広大な海洋を活用して、米国なみのコストで原料バイオマスを製造すれば、国内においてガソリン代替のコスト目標である40円/Lの製造コストでバイオアルコールの製造が可能となる。

高分子科学研究所では、アルコール分子認識分離膜の予備検討に着手しました。研究成果は、ホームページ上でも公開予定です。