CO2削減とエネルギー供給
その3:CO2削減シナリオの実現に向けた取組み

1.はじめに

前回は、2030年度と2050年度のCO2削減目標である26%削減と80%削減を達成するための一次エネルギー供給のシナリオを述べました。今回は、そのシナリオの実現可能性について解説します。

2.CO2排出量とライフサイクルアセスメント(LCA)

再生可能エネルギー(再エネ)と原子力はCO2を排出しないエネルギーと見なされますが、厳密にCO2削減量を議論する場合には、ライフサイクルアセスメント(LCA)が必要となります。発電におけるLCAでは、発電燃料の燃焼の他にも、発電所の建設や資材の調達等によるCO2の発生も考慮します。

表3-1に、各種発電技術におけるLCAに基づくCO2排出係数を示します。電力におけるCO2排出係数は、1kWhの電力を供給するために発生するCO2の量です。表に示した通り、CO2排出係数は発電燃料の燃焼分と、建設等に伴うその他に分類されます。表から、化石燃料では発電燃料とその他に起因するCO2の排出が、非化石燃料でもその他からのCO2排出があることが分かります。CO2排出量を厳密に議論する場合には、原料調達、生産、使用、廃棄までのサプライチェーンを通して、LCAを実施することで可能となります。

LCAでは原子力もCO2を発生しない訳では有りません。確かに、原子力では燃料からのCO2発生はゼロですが、化石燃料が主要エネルギー源である現状では、発電所の建設や資材の調達の過程でCO2が発生します。LCAで求めた原子力発電のCO2排出係数は、19g-CO2/kWhです。2017年度には原子力で329億kWhの電力を生産しているので、原子力で63万トンのCO2を排出したことになります。これは再エネである太陽光発電や風力発電でも同じです。因みに、太陽光発電のCO2排出係数は59g-CO2/kWhで、陸上に設置した風力発電は26g-CO2/kWhで、原子力よりも大きな値です。

このように、たとえ燃料からのCO2排出がゼロであってもLCAでは発電時にCO2が排出されると見なされます。将来的に再エネが主力となれば、建設や資材調達におけるCO2排出が抑制されます。その結果、再エネのCO2排出係数も小さくなり、最終的には再エネのCO2排出量は実質的にゼロと見なせるでしょう。これらも踏まえて、大きな方向性を確認することを目的とする今回の解説では、再エネと原子力からのCO2排出をゼロと見なします。

3.電気自動車の走行時のCO2排出量

余談ですが、電気自動車でも同様の考え方が成立します。確かに走行時の燃料からのCO2排出はゼロですが、化石燃料から電気を作る過程ではCO2が発生しています。現状、日本の電力のCO2排出係数は平均で約500g-CO2/kWhです。代表的な電気自動車の場合に、電力1kWhで6kmの走行が可能です。従って、日本国内で考えた場合に、1kWhの電力を作るためにはCO2が約500g発生するので、電気自動車が1km走行すると約83gのCO2が排出されることになります。将来的には非化石燃料の比率が高まるので電力のCO2排出係数は小さくなる方向です。2050年頃には電力製造時のCO2排出がほぼゼロとなり、その結果、LCAでの電気自動車の走行時のCO2排出もゼロに近付くと期待します。

ところで、現時点で電気自動車とガソリン自動車のCO2排出量を比較するとどうなるでしょうか。ガソリンのCO2排出係数は、2.32kg-CO2/Lです。即ち、ガソリン1リットルの消費で、CO2が2,320g発生します。この2,320g-CO2/Lを電気自動車のCO2排出量83g/kmで割ると28km/Lと言う値が求まります。この数字が意味することは、LCAで考えた場合に、ガソリン車の燃費が28km/Lであれば走行時のCO2排出量は電気自動車と同じと言うことです。

4.2050年にCO2削減80%を実現する見通し

2050年度にCO2排出を80%削減するためには、図3-1に示す通りに、再エネで約6,000PJ、原子力で900PJ、CCS付き化石燃料で約2,100PJを一次エネルギーとして供給することが必要です。(注: 「CO2削減とエネルギー(その2)」を参照して下さい。PJ:ペタジュールはエネルギーの単位。)

原子力の供給量に関しては、2000年代に2,870PJを供給した実績があるので、900PJは社会環境が整えば技術的には実現可能な数字です。一方で、東日本大震災以降に原子力エネルギーの供給が滞っている現状を鑑みると、丁寧な説明で国民の受諾を得ることが必要と思います。

再エネの約6,000PJの見通しはどうでしょうか。2013年度の再エネは約1,600PJですが、これを17年間掛けて1,000PJ増やして2030年度には約2,600PJにする計画です。更にその後の20年間で3,400PJを増やして2050年度までに約6,000PJにする必要があります。不可能な数字とは思いませんが、土地利用や系統接続(送電網)の制約があり、かなり高いハードルと考えます。加えて、太陽光や風力は、変動性再生可能エネルギーと呼ばれており、太陽光の照射量や風力の違いで発電量が大きく変動します。この変動を抑制するためには再エネ電力を蓄える技術の開発が必要です。再エネの拡大には、国を挙げて送電網の拡充や蓄電技術の開発に取り組むことが重要と考えます。

CCS付きの化石燃料では約2,100PJを供給します。CCSとはCO2回収・貯留(CO2 Capture & Storage)の略称です。化石燃料の燃焼で発生したCO2を分離・回収して、そのCO2を深度が1000mより深い地下に圧入して、安定に貯留する技術です。化石燃料を使用しながらCO2の大気排出を抑制することが可能となります。世界ではノルウェーなどの国でCCSが実用化されています。国内でも苫小牧でCCSの実証試験を行い約30万トンのCO2を海底下の地層に貯留しました。(詳細は日本CCS調査会社のHPを参照して下さい。URL: https://www.japanccs.com/)

一方で、2,100PJの化石燃料から排出されるCO2は年間に約1.4億トンです。今後は苫小牧での実証試験の成果を踏まえて、この約1.4億トンのCO2を安全・安定に貯留するサイトを選定することになると思います。日本近郊には、約300億トンのCO2を貯留可能なカテゴリーAに分類される傾斜構造の地層が存在すると報告されています。長期に亘り年間に約1.4億トンのCO2を貯留するのにも十分な量です。実用化には、CO2回収と圧入技術の高度化に加えて、圧入したCO2のモニタリングを行い安全性と安定性を確認して、国民の受諾を得ることが重要と考えます。また、新しい技術なので法整備も必要です。

CCSでは、半永久的にCO2を安定に貯留する必要があります。この超長期に亘る貯留は、国が主体で実施する必要があります。

5.限界削減費用と限界削減コストカーブ

再生可能エネルギーとCCS付き化石燃料に共通する課題して、既存の化石燃料に比較してコストが高いことがあります。詳細は他に譲りますが、コスト削減はこれらの技術を社会実装する上で極めて重要な課題です。追加的に1トンのCO2を削減するための費用は、限界削減費用と呼ばれます。CCSの限界削減費用は、CO2発生源の違い、輸送距離の差、圧入条件の違い等で幅が有りますが、10,000円/t-CO2程度と言われています。即ち、CCS付きの化石燃料はCO2を排出されませんが、CO2を1トン削減すると約1万円の追加費用が発生することになります。石炭火力発電のCO2排出係数は、943g/kWhです。従い、CCSの限界削減費用が10,000円/t-CO2の場合に、CCS付きの石炭火力発電では9.4円/kWhの追加費用が発生することになります。

限界削減費用を縦軸に、CO2削減ポテンシャルの積算量を横軸に示した図は、限界削減コストカーブ(MACカーブ)と呼ばれます。図3-2は、限界削減コストカーブの概念で、限界削減費用が小さい技術から順番に各種のCO2削減技術が並んでいます。この図からは、目標量のCO2を削減する場合(横軸)に、どの技術を用いることが良いかと、CO2削減の総費用を読み取ることが可能です。限界削減費用は技術の進歩で変わります。また、CO2削減ポテンシャルもその技術を適用することが可能な余地によって変動します。

図3-2で、限界削減費用が負の値の場合には、その技術を導入することでコスト削減とCO2削減が同時に達成されることを意味します。LED電球が代表例です。白熱電球に比較してLED電球は割高ですが、LED電球は消費電力が小さいので、例えば、60W形のLED電球を4万時間使用すると白熱電球に比較して4万円以上も電気代が安くなります。同時に、消費電力が小さいので約0.9トンのCO2の排出が抑制されます。この場合には、60W形のLED電球の限界削減コストはマイナス4万5千円/t-CO2程度です。

LED電球以外にも省エネ電化製品の限界削減費用は負の値です。これらの限界削減費用が負の技術は経済原理に従って普及します。一方で、限界削減費用が正の技術は経済原理だけでは普及が困難です。社会実装のためには、技術開発で限界削減費用を下げることが必要です。その上で、温暖化対策技術が社会に受容される仕組みを作ることも必要です。

限界削減コストカーブは、異なるCO2削減技術を評価・検討する上でとても有用なツールです。一次エネルギーに関しても、限界削減コストカーブで他の技術と比較することは普及を促進するうえで重要です。その際に、限界削減費用の内訳を把握して、総費用に占める割合が大きい項目についてコスト削減のための研究開発を行うことが重要です。

6.国際共同研究の重要性

2050年度にCO2削減80%を担うべき「再生可能エネルギー」、「原子力」、「CCS付き化石燃料」のいずれもが、この80%削減の目標を達成するためには、いくつもの大きな課題を抱えています。これらの課題は、技術的な課題であったり、法制度の問題であったり、そして国民の受諾であったりと多岐に亘ります。国が持続的に成長しつつ、国民の生活レベルを向上しつつ、その上で2050年度にCO2排出量を80%削減すると言う目標は非常に高いハードルと考えます。

この難課題の解決に向けた取り組みが世界の主要国で行われています。国ごとの事情は異なりますが、地球温暖化問題の解決に向けて各国が歩調を合わせて協力して取り組むことで、解決の糸口が見つかるものと期待します。2020年1月21日に発表された“革新的環境イノベーション戦略”の中で「ゼロエミッション国際共同研究センター」の創設が表明されました。国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)に設置されるゼロエミッション国際共同研究センターでは、研究センター長に2019年のノーベル化学賞を受賞された吉野彰博士を迎えて、再エネ、蓄電池、水素、CO2分離・利用、人工光合成等の革新的な環境・エネルギー技術に関する研究を実施します。このゼロエミッション国際共同研究センターでは、図3-3に示すように、産総研を核としてG20を中心とした世界有数の国立研究機関等と共同研究を実施する計画です。

温暖化問題の解決をビジネスチャンスと捉えて、国際共同研究などを通じてブレークスルー技術を開発することは、技術立国である日本の発展に大きく貢献すると考えます。

(客員研究員 風間伸吾)

(2020年4月24日アップロード)


CO2削減とエネルギー供給 

その1:地球温暖化とCO2の排出削減

その2:CO2排出削減のための国内一次エネルギー供給

その3:CO2削減シナリオの実現に向けた取組み

その4:再生可能エネルギーの開発とエネルギー自給率の向上