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プラスチックと容器包装リサイクル法

1.リユースとリサイクル

ごみとして廃棄される運命であった品物に、価値を見出し、お金を出してくれる人がいます。フリーマーケットやリサイクルショップ等も、ネットでの取引が普及したことから、身近な存在となっています。いわゆるリユースと呼ばれるもので、物が大切に再活用されています。日本ではリサイクルショップという呼び名が一般に浸透していますが、行っていることはリサイクルではなくリユースになります。

高校の教科書で、リサイクルにはマテリアルリサイクル・ケミカルリサイクル・サーマルリサイクルの3つがあると習います。マテリアルリサイクルは、廃プラスチックをプラスチックのまま原料にして新しい製品を作るものです。鉄やガラスの製品を溶かして再加工する考え方と同じです。ケミカルリサイクルは、プラスチックを化学的に分解させることにより、プラスチックのモノマー原料や工業的に活用できる化学原料(ガスや油)を製造するものです。廃プラスチックは製鉄所の高炉の還元剤としても利用されておりますが、これはケミカルリサイクルに分類されています。

サーマルリサイクルでは、廃プラスチックを燃焼させてしまうのでくり返し再生利用できていません。産業界ではマテリアルリサイクル・ケミカルリサイクルと区別するためにリサイクルという言葉を避け、エネルギー回収または熱回収と呼んでいます。エネルギー回収には、ごみ焼却発電、セメント原・燃料化、固形燃料化などがあります。固形燃料化においては、廃プラスチック単独ではなく、古紙と混ぜ合わせたRPF(Refuse Paper and Plastic Fuel)や、生ごみや可燃ごみと組み合わせたRDF(Refuse Derived Fuel)などにして利用しています。また、ごみ焼却時の熱を利用し、焼却施設の近隣に暖房や温水を供給している自治体もありますが、これもエネルギー回収に分類されています。

リユースとリサイクルの各手法も規格になっています(表1参照)。ISO規格において、マテリアルリサイクルとケミカルリサイクルの英文用語が微妙に違うのは、対象物や用途により規格で規定する範囲が異なるため、用語を使い分ける必要があるからです。各用語の定義は、各規格に明記されていますので、興味のある方は原本をお読みください。なお表1のISO規格とJIS規格は、日本規格協会“JSA Group Webdesk(https://www.jsa.or.jp/)”で購入できます。

2.容器包装リサイクル法と識別マーク

私達の生活に欠かせない容器包装について見てみます。容器包装に用いたプラスチックのリサイクルは、日本国内では「容器包装リサイクル法(容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律:1995年(平成7年)制定)」に基づいて行われています。私達が収めた税金で全額まかなわれていると思われがちですが、主にプラスチック製容器や食料品の製造メーカーや小売業等の製造・利用事業者(特定事業者)がリサイクル費用(再商品化委託料)を負担した上で、市町村が分別回収し、リサイクル事業者(再商品化事業者)に渡されてリサイクルされています。製造・利用事業者は、市町村へ支払う合理化拠出金の原資となる拠出委託料も支払っています。このように製造・利用事業者が費用負担することを、拡大生産者責任(Extended Producer Responsibility: EPR)といいます。

分別収集は、各自治体で計画を定めて実行しているため、国として統一されているものではありません。しかしながら効率的に分別収集するためには材質が何であるのか、誰もがすぐに判別できる必要があり、識別マークが作られました。識別マークは「資源有効利用促進法(資源の有効な利用の促進に関する法律:1991年(平成3年)制定)」に基づいて義務化され、時代と共に改正を重ねています。現在容器包装で「指定表示製品」として法定表示しているものは、食料品・清涼飲料・酒類のペットボトル、プラスチック製容器包装、清涼飲料・酒類のアルミ缶、清涼飲料・酒類のスチール缶、紙製容器包装の5種類です(表2参照)。飲料用紙パックと段ボールは自主表示であります。また、ガラスは分かり易いため識別マークは不要とされています。

皆さんは、ポテトチップスやレトルトカレーの袋を捨てる時に、識別マークを見て“本当にこれでいいの?”と思ったことがあるのではないでしょうか。どうみてもアルミが使われているのに識別マーク上はプラスチック製容器包装になっています。今の容器包装は一つの素材だけで作られることはまれで、複合化されています。素材のコラボのようなものです。そこでプラスチックと金属や紙と組み合わせた場合は、重量比が大きい方の識別マークをつけることと決められています。ポテトチップスやレトルトカレーの袋ではアルミよりもプラスチックの方の重量比が大きいのでプラスチック製容器包装の方を付けているということです。つまり、複合材の場合は、重量比が大きい方の業者が引き取り、その後のリサイクル処理にまわすことにしているということです。

野菜ジュースや牛乳には紙容器が使用されているものもありますが、2種類の識別マークがあることをご存じだったでしょうか。紙製容器包装と飲料用紙パックです。前者は200 mLサイズの野菜ジュース等でストローが付いていて、ストローの差し込み口が銀色のアルミになっているものです。後者は、500 mLや1 Lサイズの牛乳等です。紙で液体を止めることは無理なため、両者とも紙の外装と内壁にプラスチックが貼り合わせてあります。それに加えて前者には、賞味期限を延ばすために、プラスチックと紙の間にアルミを挟んでおります。アルミが使われている野菜ジュースの方は紙製容器包装として「容器包装リサイクル法」の再商品化義務の対象物として回収されるのに対して、牛乳の方は同法律の対象外として古紙(例えば、新聞・雑誌・段ボール等)に含めて回収されています。各回収ルートで回収された後に、プラスチックやアルミが取り外されて、紙がリサイクルされています。

牛乳パックは「容器包装リサイクル法」が制定される前から市民団体や自治体により回収されてリサイクルされておりましたので、わざわざ新しい法律にあわせるのではなく、既存のルートをそのまま活用しているということです。同じ理由から、アルミ缶とスチール缶も、「指定表示製品」の指定外です。それではなぜリサイクルが普及していたのかというと、アルミ缶、スチール缶、紙パック、段ボールには資産価値があったため、リサイクルの引き取り手もあったからです。一方のペットボトル、プラスチック製容器包装、紙製容器包装、ガラスびんは資産価値が低く、市町村が分別収集しても、お金を支払わないとリサイクルできない状態でした。リサイクルすると赤字になってしまうということです。今は、製造・利用事業者がリサイクル費用を負担することで、リサイクルが実現できました。

つまりリサイクル方法には、上述した牛乳パックのように昔から市民団体や自治体により回収されてリサイクルされていたものと、「容器包装リサイクル法」に沿ってリサイクルされるものの2つのルートがあるということです。

3.リサイクルし易いペットボトル

今の容器包装は素材を複合化させていると説明しましたが、複合材のリサイクルは大変です。資源としての再利用の面からはリサイクルは大切ですが、リサイクルするためには汚れを取り除くために洗浄し、主となる素材を分離しなければなりません。例えば、ひどい汚れの水洗では大量の水とエネルギーを、素材の分離でもエネルギーを大量に使い、汚染水の処理と分離後の不要物の廃棄も必要になります。各過程で二酸化炭素も排出します。そのためライフサイクルアセスメント(Life Cycle Assessment:LCA)で総合的に評価し、自然環境に負荷がかかる場合は、無理をしてまでマテリアルリサイクルやケミカルリサイクルをするのではなく、エネルギー回収を選択しています。環境問題と一言でいっても、資源の確保、二酸化炭素の排出、水・大気汚染、エネルギー使用等の要因が組み合わさっており、多元連立方程式を解くような難しさがあるということです。

リサイクルし易い容器包装を目指す活動も行われており、その代表格はペットボトルです。あまり意識されていないと思いますが、日本の清涼飲料用のペットボトル商品には、ある共通点があります。ボトル本体とそれを蓋するキャップ、商品名などが描かれたラベルで構成され、3つともプラスチックでできています。ボトル本体はポリエチレンテレフタラート(poly(ethylene terephthalate):PET)単体で添加物の使用は不可、キャップの素材はポリエチレンかポリプロピレンで、ラベルは全部貼り付けずに剥がせるようになっています。昔は、ボトル自体に着色していたものやボトル本体に直接印刷されていたものもありました。キャップもアルミが用いられていたものもありました。ペットボトルのリサイクルを進めるためには、仕様を統一した方が望ましく、1992年から業界で「自主設計ガイドライン」を制定し、時代と共に改定を重ね、リサイクル効率を高めてきています(自主設計ガイドラインの変遷(PETボトルリサイクル推進協議会)http://www.petbottle-rec.gr.jp/guideline/hensen.html)。

ペットボトルの中でも汚れや匂いが落ち難い物には、プラスチック製容器包装向けの識別マークをつけて分別回収しています(表3参照)。LCAの観点から、ペットボトルからペット製品へリサイクルしようとすると、むしろ自然環境に負荷がかかってしまうからです。使い終わった後にご家庭で洗浄してみると、なるほどと思われるかもしれません。

4.プラスチックストローとレジ袋

牛乳パックは「容器包装リサイクル法」の再商品化義務の対象外と説明しました。法律で対象とされていないものにはどのようなものがあるのでしょうか。公益財団法人日本容器包装リサイクル協会の“イラストで見る容器包装(https://www.jcpra.or.jp/container/quick/usage/tabid/882/index.php)”にまとめられておりますので、閲覧されることをお奨めします。この対象は容器(物を入れるうつわ)と包装(物を包むもの)に限定しているため、これらと一緒に使われる機会の多いものでも、対象外となります。例えば、飲料用ストローやコンビニ弁当用のカトラリー(スプーン・フォーク・ナイフ)は商品そのものであり、各自治体のごみ処理施設の仕様により燃えるごみか、燃えないごみかを定めて回収しています。このように対象外とされているものには、法律の制定前から市民団体や自治体により回収されてリサイクルが社会生活の中に根付いていたものと、元々リサイクルが念頭におかれていないものがあるということです。またストローとカトラリーは、欧州理事会が2019年5月21日に採択した使い捨てプラスチック製品の流通を2021年までに禁止する法案「特定プラスチック製品の環境負荷低減に関わる指令」の対象物でもあります。この中に最近話題のレジ袋は含まれておりません。

日本では、レジ袋は対象物としてプラスチック製容器包装の識別マークが付けられています。商品の容器や包装自体が有償である場合は、最初から対象となっていたわけではなく、2006年(平成18年)12月に施行された法改正で、“有料のレジ袋”が加えられたのが始まりです。この時から大手スーパーを中心に有料化が動き始め、マイバックの持参が広く呼びかけられました。「容器包装リサイクル法」が出来たきっかけは、ごみの埋立地の寿命(最終処分場の残余年数)が10年を切っていたからでした。同法の改正は、3R(リデュース・リユース・リサイクル)の積み重ねの内、家庭から出るごみの総量を減らすため、すなわちリデュースの推進を図りたかったためであります。有料化により受け取りを辞退する人が増えれば、市場に出回るレジ袋の総量も減り、結果的にレジ袋の総廃棄量も減るという考えからです。目的はリデュースであり、プラスチックという材質が問題では無いため、紙袋等の他の素材の袋に代替するという考え方はありませんでした。つまり、今話題の海洋プラスチック汚染とは関係無く改正が行われました。また、日本政府は2020年度からレジ袋の有料化を義務化、すなわち購入した時には“責任を持ってプラスチック製容器包装としてリサイクルにまわすという意識づけをする”というねらいで進めています。“風が吹けば桶屋が儲かる”というつながりをつければ、ポイ捨てや不法投棄も減るはずなので、レジ袋は海に流れでることも、山や川を汚すことも、街に散乱することもなくなるということに繋がるのかもしれません。

5.おわりに

プラスチックに関するニュースを目にしない日はないくらいホットな話題でありますが、意味がよく分からないことが多いのではないでしょうか。事の発端はプラスチックによる海洋汚染が注目されたことであることでありますが、幅広い課題に対応しなければならないこともあり、他のプラスチック政策をそちらに関連付けようとしていることが、分かり難くしている原因かもしれません。海洋プラスチック汚染の対策以外には、限りある資源を有効活用するための対策、ごみの最終処分場の延命対策、枯渇性資源である石油の代替対策、製造・販売・輸送時等に発生する二酸化炭素排出量削減対策(地球温暖化対策)等が挙げられます。今回の解説は、日本国内のリサイクル、すなわち限りある資源を有効活用するための対策の解説が主であり、海洋汚染対策の説明はしておりません。

また分かり難くなっている原因の一つに“ごみ”という言葉があると思います。使い終わった後に回収されてリサイクル等で再利用されるものは“資源ごみ”とよばれ、使い終わった後にポイ捨てや不法投棄で自然環境中に出されてしまったものは“散乱ごみ”とよばれていますが、日常生活では区別せずに“ごみ”とよんでいると思います。もっとよい呼び名があれば分かり易くなるのかもしれません。“資源ごみ”になるのか、“散乱ごみ”になるのかは、人のモラルによるところが大きいところですので、地道に啓発活動を行う必要があると考えます。

(永井一清)

(2019年10月28日アップロード)