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プラスチックと循環型社会

1.大量生産・大量消費・大量廃棄から循環型社会へ

私達の暮らしでは、食糧・水・エネルギーを安定して確保する必要があります。それらの元となる資源はどこにあるのか、どこから持ってくればよいのか。国土面積が小さく、資源も乏しい日本では、常に頭を悩ましている問題であります。資源もそうですが、使った後には適切にごみを処理しなければなりません。また、資源を得るときやごみを処理するときに自然を破壊しないように、地球環境の保全に努める必要があります。

科学技術の発展で私達の暮らしは豊かになってきましたが、家電、車、電車、飛行機、家、ビル、洋服等を作るために、こちらも常にどこから元素を確保するのか考えなければなりません。地球上にある元素は、元素の周期表としてまとめられています(表1参照)。プラスチックだけでなく、私達の暮らしに欠かせない医薬品を含む有機化学製品は、炭素原子(C)を主体とした有機物です。現在は、炭素源を石油に頼っていますが、枯渇性資源であり、可採年数は50.6年しかありません(資源エネルギー庁平成29年度エネルギーに関する年次報告「エネルギー白書2018」:2016年の石油生産量で除した可採年数)。また最近では、スマホやスマート家電、電気自動車等に不可欠なレアアース(希土類元素)、例えばランタノイドのセリウムやネオジムの安定した確保にも苦慮しています。

ここで循環型社会という考え方があります。循環型社会とは、“①廃棄物等の発生抑制(リデュース)、②循環資源の循環的な利用(リユース・リサイクル)及び③適正な処分が確保されることによって、天然資源の消費を抑制し、環境への負荷ができる限り低減される社会”と定められています(循環型社会形成推進基本法の概要(2000年環境省))。この法整備が進められた背景には、例えば、“1996年度の最終処分場の残余年数、すなわちごみの埋立地の寿命が、家庭から出る一般廃棄物においては8.8年、事業所から出る産業廃棄物は3.1年”となり、“大量生産・大量消費・大量廃棄型の経済社会から脱却し、生産から流通、消費、廃棄に至るまで物質の効率的な利用やリサイクルを進めることにより、資源の消費が抑制され、環境への負荷が少ない循環型社会を形成することが急務”となっていたことが挙げられます(循環型社会形成推進基本法の趣旨(2000年環境省))。

2.リデュース・リユース・リサイクル

循環型社会を形成するためのポイントは、大きく2つに分類されています。3R(リデュース・リユース・リサイクル)の推進と廃棄物の適正処理です。前者は資源有効利用促進法として、後者は廃棄物処理法として整えられています。プラスチックを例に環境負荷の低い循環型社会を目指した3Rの概念図を図1に示します。リデュースで社会で使用する物の総量を減らし、リユースとリサイクル(マテリアルリサイクル・ケミカルリサイクル)で循環利用していく社会です。理想的には、循環サイクルが永遠に続いてくれると良いのですが、現実は、劣化品、難洗浄品、不純物混入品のリサイクルは困難です。プラスチックの中でも、包装材料としての使用が多いポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)は、A重油、LPG、都市ガス等の燃料と同じ発熱量です(一般社団法人プラスチック循環利用協会“プラスチックリサイクルの基礎知識2018”(2018年))。そこでリサイクル困難な品質の物は、石油等の枯渇性化石資源の代替利用として熱回収(エネルギー回収)することで有効利用しています。石油の消費量を削減できるということです。エネルギー回収もできない品は、最後の手段として単純焼却・単純埋立することとなります。

高校の教科書で、リサイクルにはマテリアルリサイクル・ケミカルリサイクル・サーマルリサイクルの3つがあると習います。エネルギー回収という言葉は、高校の教科書ではサーマルリサイクルと呼んでいるものです。現実には燃焼させてしまうのでくり返し再生利用できていません。図1の循環から外れてしまいます。そこで産業界ではマテリアルリサイクル・ケミカルリサイクルと区別するために、サーマルリサイクルという言葉ではなく、エネルギー回収や熱回収という言葉を用いて議論しています。

回収されたごみ処理の優先順位も法律で決められており、①リデュース、②リユース、③マテリアルリサイクル・ケミカルリサイクル、④エネルギー回収、⑤単純焼却・単純埋立と明確化しています(循環型社会形成推進基本法の概要(2000年環境省))。二酸化炭素の排出量が少ないエネルギー利用と水の有効利用も含め、ライフサイクルアセスメント(LCA)で総合的に評価し、適切に管理することが必要となります。このLCAとは、どの様な材料を選択すれば資源の消費につながらず、環境負荷を低減できるかを検証する方法であり、製品のライフサイクルの各生産段階等での環境負荷を定量的に評価しようという考え方です。資源循環の観点からはリサイクルが求められていますが、ときにはエネルギー回収で対応した方が二酸化炭素の排出量を抑制できる場合もあることから、どちらを選択したら地球に優しいのか、環境問題に関わる要因を局所的なものではなく総合的に見て判断しようとするものです。

図1の青字と緑字の記載をご覧ください。プラスチックの原料を、枯渇性資源である石油から再生可能資源である植物への移行が必要ですが、その際、食糧安全保障や森林保護等の問題も考慮する必要があります。エネルギー回収では、石油の代替利用ができますが、再生可能エネルギーへ移行する動きの中で、安定した施設の稼働ができるかどうかを議論する必要があります。さらに、施設を安定して運営するためには回収ごみを安定して供給し続ける必要があるため、エネルギー回収の比率を下げていく方針の中で経済性とのバランスを考えなければなりません。単純焼却・単純埋立は、最終処分場の残余年数の短さから循環型社会へ移行するきっかけにもなったものであり、国土面積の小ささから新しい施設の設置場所等の問題があります。

また、ポイ捨てや不法投棄は論外であり、環境中への排出量をゼロにしていくための地道な啓発活動が重要です。やはり罰則等も必要ということで、循環型社会形成推進基本法の下に、容器包装リサイクル法(2000年)、家電リサイクル法(2001年)、食品リサイクル法(2001年)、建設リサイクル法(2002年)、自動車リサイクル法(2003年)、小型家電リサイクル法(2013年)が整えられています。ここで括弧内は完全施行された年を示しています。しかし、このように法整備されているのにも関わらず、ポイ捨てや不法投棄が無くならない現実があります。自然界の散乱ごみの問題は昔から議論され対策も施されていますが、決定的な解決策が無いのも事実です。特に最近問題視されている海洋ごみに関しては科学的情報が不十分であり、海洋ごみを削減するためにはまず実態把握のための統計データの収集が求められています。

3.管理できているごみ・管理できていないごみ

循環型社会を形成するためには品物の物流を管理する必要があり、統計データに基づき物質フロー(マテリアルフロー)を作成し達成度や改善点を明らかにしていきます。統計データからプラスチックごみの状況を見てみたいと思います。一般社団法人プラスチック循環利用協会のホームページ(https://www.pwmi.or.jp/)に詳細にまとめられていますので閲覧してみることをお奨めします。公表資料“プラスチックリサイクルの基礎知識2018”からポイントを抜き出してみると、ごみの排出量は、産業廃棄物で約4億トン/年、一般廃棄物で約4千万トン/年で推移しているとのことです。つまり、産業廃棄物は一般廃棄物の約10倍出されているということです。種類別で見てみると、産業廃棄物では、汚泥(43.3%)、動物のふん尿(20.6%)、がれき類(16.4%)と続き、プラスチックは1.7%とのことです(図2参照)。一般廃棄物では、紙類(33.8%)、厨芥(生ごみ)(30.1%)、プラスチック(11.1%)となっています。産業廃棄物中のプラスチックの割合は1.7%と少なく見えますが、総量は一般廃棄物の約10倍なので、一般廃棄物11.1%分よりも多くなっています。

プラスチックだけ抜き出したマテリアルフローを図3に示します。2016年度は、国内樹脂投入量945万トンと生産加工時に出たロス72万トンを合わせ製造・加工量は1,017万トンだそうです。回収されたごみの量は899万トンで、その内訳は、産業廃棄物492万トン(55%)、一般廃棄物407万トン(45%)となり図2と整合性があります。生産加工ロス72万トンはそのまま導入されています。製造・加工量とごみ排出量との差が118万トンありますが、年度をまたいだ在庫品量や数年以上の耐久性がある製品量等で差が発生していると考えられます。そしてごみ排出量とごみ処理量は一致しています。

それでは自然界の散乱ごみは、どの段階で出されているのでしょうか。世界的に注目されている海洋ごみを例に取ると、世界の海に流出するプラスチックごみの量として、“海に隣接する192か国について、海岸から50km以内に住んでいる人が排出する量は480~1,270万トン/年(2010年推計値)”という報告があります(J. R. Jambeck, R. Geyer, C. Wilcox, T. R. Siegler, M. Perryman, A. Andrady, R. Narayan, K. L. Law, Plastic waste inputs from land into the ocean, Science, 347, 768-771, DOI: 10.1126/science.1260352 (2015).)。国別では、1位が中国で132~353万トン/年、2位がインドネシアで48~129万トン/年、3位がフィリピンで28~75万トン/年と続き、日本は30位で2~6万トン/年と見積もられています。仮に日本の製造・加工量を1,000万トン/年ちょうどとおいてみると、0.2~0.6%が海に流出していることとなります。割合で考えると小さな数字に見えますが、単位が“万トン”ですので大量です。

図3のマテリアルフローに戻りますと、統計データ上では回収された後のごみの管理は出来ていると見てとれます。従って、製造・加工量とごみ排出量との差118万トンの内、数万トンが海に流出していると推察されます。もちろん海だけでなく川、山、池、公園やビジネス街や住宅地にも排出されていることでしょう。

海にあるごみの位置で、漂着ごみ、漂流ごみ、海底ごみと大きく3つに分類されています。私達が目にするところは浜辺に打ち上げられた漂着ごみだと思います。日々の清掃の行き届いた海水浴場でも、朝になると流木や海藻をよく目にします。表2に国内10地点の海岸線への漂着プラスチックごみの内訳を示します(環境省平成28年度海洋ごみ調査の結果)。この調査結果には海外から流れ着いたごみも含まれていますが、ご家庭の日常生活で出るプラスチックごみと漁業で使用するものばかりです。日本ではストローやマドラーもカフェやファミレスの店内でも使用されておりますが事業系ごみとして各社で管理がされているため、不法投棄が無い限り海に行くことは無いはずです。つまり、表2に挙げられたプラスチックごみは、テイクアウト商品のものであると推察されます。また、漂着ごみは水よりも軽いものが主ですので当然プラスチックが多くなります。図2の産業廃棄物と一般廃棄物の種類からみて、プラスチックだけが自然界に排出されているとは考え難く、私達の目の届かないところに様々な種類のごみが隠れている可能性も否定できません。

漁業用を省いて一番量の多かった飲料用ボトル、いわゆるペットボトル(PETボトル)のマテリアルフローを見てみます(図4参照)。PETボトルリサイクル推進協議会のホームページ(http://www.petbottle-rec.gr.jp/)に詳細にまとめられていますので閲覧してみることをお奨めします。公表資料“PETボトルリサイクル年次報告書2018”のデータを用いて考えてみます。2017年度は、PETボトル販売量は58.7万トンでした。ここにキャップ・ラベルは含まれておりません。回収する時にはキャップ・ラベルや残り物等の異物も含みますので、62.4万トンと多くなっています。ここには年度をまたいだ在庫品量は含まれておりません。回収物を洗浄しPETだけを取り出すと49.8万トンとなり、その全てがマテリアルリサイクル・サーマルリサイクルに利用されます。2017年度国内リサイクル品の内訳は、同じPETボトルに25.2%が利用され、シート47.2%、繊維25.4%、その他の成形品2.2%というように他の製品に生まれ変わりました。販売量に対して算出したリサイクル率は84.8%と、欧州の約40%、米国の約20%と比較して高い水準で循環利用されています。

図4のマテリアルフローに戻りますと、回収された後のごみの管理は出来ていると見てとれます。従って、明確な数値は不明ですが、PET販売量とマテリアルリサイクル量との差8.9万トンの一部が海に流出していると推察されます。もちろん海だけでなく川、山、池、公園やビジネス街や住宅地にも排出されています。

PETボトルをはじめ表2で示したご家庭から出るプラスチックごみは、いわゆる、使い捨てプラスチック(disposable plastics)、シングルユースプラスチック(single-use plastics)やワンウエイプラスチック(one-way plastics)と呼ばれているものです。ごみはごみ箱に捨てるように意識を高めていく必要があります。日本では、ごみをごみ箱に捨てれば、PETボトルが海に排出されることも、山に排出されることも無いことが、マテリアルフローから読み取れます。

一方、自然界に排出されたプラスチックごみは蓄積されていくことから、特にヨーロッパでは、各個人でごみ捨ての管理ができなければ、日常で使う使い捨てプラスチックは全面禁止するしか解決策は無いのではないかと問題提議されているのもおかしなことではありません。

4.廃プラスチックの禁輸措置

中国で2018年1月から廃プラスチック等の禁輸措置が実施され、世界中で廃プラスチックは行き場を失っている状況です。どこかの国の一部の事業者により粗悪品が輸入され改善がなされなかったこと等が背景にあります。図4のPETボトルのマテリアルフローによると、リサイクル用49.8万トンの内訳は、海外輸出先でのリサイクル向け20.1万トン(約40%)、国内リサイクル向け29.8万トン(約60%)となっています。前年の2016年度は輸出先の86.4%が中国だったそうです。海外には9割がフレーク状(財務省貿易統計品目番号391590110)で輸出されています。PETボトルを約8 mm角に粉砕し洗浄したもので、そのままPET製品に成形加工できるグレードのものです。イメージとしては、スーパーで5kgや10kgの袋詰めで売られている無洗米のような状態で輸出しています。グローバル化が進み、製品の製造は日本国内だけで行われているわけではなく、世界の工場である中国等で製品化され日本に輸入されてくるものもあり、原料が日本にあったとしても必ずしも日本で製品化するわけではありません。PET以外でも、図3のプラスチック全体のマテリアルフローから、日本から海外に輸出しているものはマテリアルリサイクル用のグレード品であり、ケミカルリサイクル、エネルギー回収や最終処分用のグレード品では無いことが示されています。

5.おわりに

今回の解説は、日本国内の状況を説明しました。海外は日本とは国内事情が異なります。社会システムやライフスタイルも異なります。国民性も異なります。他国のことは置いておいても、循環型社会の形成を目指しマテリアルフローで管理されている日本国内からも、ごみが循環から外れ環境中に排出されていることは事実ですので、どうにかしなければなりません。

循環型社会形成推進基本法に基づき5年毎に定められている基本計画も第四期に入りました。平成30年6月に閣議決定された第四次循環型社会形成推進基本計画では、“持続可能な開発目標 Sustainable Development Goals(SDGs)”の基本概念も反映させ、環境的側面、経済的側面、社会的側面を統合的に向上させる持続可能な社会づくりとの統合的取組が謳われています。そして具体的な数値目標を挙げてその実現に向けて2025年までに国が講ずべき施策を示しています。昨今の頻発する大規模災害で発生する災害廃棄物処理体制の構築についても述べられています。基本法が整備されてから20年近く経ちました。法整備だけでなく業界独自の取り組みや啓発活動により、統計データに活動効果が目に見える形で表れてきております。

一方、社会は移り変わっていきます。目指すべき社会像は理解できますが、人々は豊かな暮らしを求め、物が溢れ、個人の嗜好を満たすために品数も増え、飽きられないように新商品も増えていきます。また、コンビニの無人化であったりドローンによる空の配達を進めるためには、個別包装化であったり軽量化のためにプラスチックに置き換えていく必要がでてきます。ドローン自体もプラスチックです。これはプラスチックごみが増えていくということを意味し、ポイ捨てや不法投棄の割合も変わらないとしたら自然界に出されるごみの量も増えてしまうのではないでしょうか。社会システムやライフスタイルの議論も深めていく必要がでてきます。

明治大学高分子科学研究所では、私達の生活を豊かにしてくれる一方、自然界に排出されたごみが環境破壊につながっている現実を踏まえ、プラスチックごみ問題の勉強会を行っています。機会をみて勉強会の成果を公表したいと考えています。

(永井一清)

(2019年6月3日アップロード)