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traditional theaters in East Asia 東アジアの伝統演劇

Last updated 2020-11-11 Since 2019-3-20
  1. 演劇の舞台は世界観や人間観の縮図
  2. 演劇のいろいろ
  3. 演劇の推移のモデル
  4. 東アジアの伝統劇のいろいろ
  5. ユネスコの無形文化遺産
  6. 「伝統劇」は過去ではなく現代の劇である
  7. 中井美穂『12人の花形伝統芸能』
  8. 演劇の起源と「賤民」(取扱注意)
  9. 参考 朝鮮通信使が見た日本の男色文化
  10. 宮崎駿監督のアニメ映画『もののけ姫』と被差別民
  11. 俳優の祖、アメノウズメ
  12. 「優倡侏儒」を嫌った孔子
  13. 東洋と西洋 演劇のコンセプトの比較対照表
  14. ミニリンク

★演劇の舞台は世界観や人間観の縮図。
東洋「天地大舞台、舞台小天地」The world is a big stage, the stage is a small world.
西洋“All the world’s a stage, and all the men and women merely players.”(
全文)
YouTube ビデオリスト https://www.youtube.com/playlist?list=PL6QLFvIY3e-mg2tpm7C0SJkTWOqrtS8WM


https://youtu.be/TGfccUY7RYI
同じ漢字語でも、国によって意味用法が変わるので注意しよう。
日本語の「国劇」は歌舞伎と能楽(能狂言、「お能」)←→中国語の「国劇」は京劇と昆劇
日本語の「戯曲」は「劇の脚本や台本。および、脚本のスタイルで書かれた文芸作品」←→中国語の「戯曲」は京劇などの伝統的な音楽劇

★演劇のいろいろ
 狭義の演劇は「ドラマチックなストーリー」をもつ、ドラマ性に富んだ舞台作品。
 広義の演劇は、舞踊劇や、演者の動きを伴う歌舞音曲、コント(仏 conte)なども含む。

★演劇の推移のモデル
拙論「
宗教から初期演劇へ」( 青木孝夫編『演劇と映画』京都・晃洋書房,1998年1月、pp.109-130)を参照
(1)演劇の萌芽:古代的な意味での「遊び asobi」「かんなぎ kannagi」、宗教の招魂儀礼、等
   日本でいえば「来訪神:仮面・仮装の神々(Raiho-shin, ritual visits of deities in masks and costumes)」や「田楽(でんがく)」など。
  ↓
(2)初期演劇:呪術的な演出。擬似再出生体験、弦鳴楽器排除・気鳴楽器優先の傾向、演者の個性と写実性の抑制(仮面劇化の傾向)
   日本では「神楽 kagura」や「能 nô」など。
  ↓
(3)世俗的演劇:娯楽化、ストーリーのドラマチック化、弦鳴楽器の多様、演者の個性の容認
   日本では「歌舞伎 kabuki」など。

参考 「かんなぎ」という単語の意味については https://dic.pixiv.net/a/かんなぎ も参照

★東アジアの伝統劇のいろいろ
日本
 歌舞伎 kabuki 、能楽 nôgaku (能狂言 nô-kyôgen、猿楽 sarugaku)、文楽 bunraku、組踊 kumiodori、等。
 近代以前は西欧と同様の身分制社会だった。公家は雅楽、武家は能楽、百姓町人は歌舞伎や文楽など、社会の身分や階層ごとに棲み分けて存続する「ガラパゴス化」傾向が顕著。
 能楽 nôgaku は現存する世界最古の舞台演劇(狭義)の一つと言われる。もし雅楽の舞楽 bugaku を舞台演劇(広義)と見なすなら、舞楽のほうが古い。
cf.
日本の伝統芸能と寄席芸能
cf.西野春雄「世界の中の能--外国人の能楽発見」法政大学国際日本学研究所・国際日本学 (1), 93-117, 2003-10
  NII論文ID(NAID) 110001840492 "Noh" in the World : Europeans who discovered the "Noh" Theatre

韓国
 창극(唱劇、チャンクック)、탈춤(タルチュム)、꼭두각시놀음(コクトゥカクシノルム)、等。
 朝鮮封建王朝 (조선봉건왕조)の両班(南 양반 ヤンバン / 北 량반 リャンバン)は儒教の影響もあって舞台演劇に冷淡だった。
中国 
 漢民族系だけで京劇、崑曲(昆劇)、粤劇、川劇、秦腔、越劇、儺戯(仮面劇)など数百種類あり、その他「少数民族」の伝統演劇も。
 劇種間での俳優・衣装・舞台・劇本の共用と生存競争を特色とする「コモディティ化」傾向が顕著。棲み分けがないため、伝承が絶えた劇種が多い。
 
★ユネスコの無形文化遺産
 東アジアの演劇・芸能で、ユネスコ UNESCO の無形文化遺産 Intangible Cultural Heritage に登録されたものは少なくない。
公式 UNESCO ≫ Culture ≫ Intangible Heritage ≫ Lists ≫ Browse the Lists 
https://ich.unesco.org/en/lists
日本については以下のとおり。は今後、授業で言及する予定。
 他多数 韓国からは  他多数。
朝鮮民主主義人民共和国からは  など。
中国からは 他多数が登録されている。


★「伝統劇」は過去ではなく現代の劇である。
 伝統劇が誕生した時代、traditionという概念も「伝統」という訳語も東洋にはなかった。
 伝統劇が生き残ったのは一義的にエンタメとしての実力。権威や歴史的意義はあとづけ。「
tradition 伝統」も参照。

2.5次元のキャラ、ミライトワとソメイティには能舞台がよく似合う。
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When Miraitowa and Someity meet Japanese N?gaku...?? ミライトワとソメイティが初めての#能舞台。なんだか不思議なリズム? ??

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飛行機のSAFETY INSTRUCTIONSにはKABUKIが似合う。


中国の京劇(Peking Opera)は3D映画のコンテンツとしても最適。

今日11/10の午後1:30からネットで1週間聴けます。
3D 京劇 映画 『貞観盛事』と 三国志 『曹操と楊修』日本で上映。主演の京劇名優・尚長栄先生と、滕俊傑監督へのインタビュー。NHK WORLD JAPAN Chinese 中国語ネットラジオ番組「波短情長」https://t.co/Qt7gzgBeSY pic.twitter.com/j2vL8hsdDg

— 加藤徹(KATO Toru) (@katotoru1963) November 10, 2019

★ある米国人のツイートより

Looking forward to a full day of meetings with President Xi and our delegations tomorrow. THANK YOU for the beautiful welcome China! @FLOTUS Melania and I will never forget it! pic.twitter.com/sQoUWIGAiQ

— Donald J. Trump (@realDonaldTrump) November 8, 2017

参考 twitterで[“from:realDonaldTrump since:2017-11-8 until:2017-11-10”を検索した結果]

★参考図書 中井美穂『12人の花形伝統芸能』中公新書ラクレ、2019年
 宝生和英(ほうしょう・かずふさ)氏「能は演劇ではないと思っています」「世界中の文化を集めている芸能で、日本古来のものではないんですね」。

#書評 中井美穂『12人の花形伝統芸能』中公新書ラクレ 読売新聞2019/11/17 評者・加藤徹 pic.twitter.com/8WiQ4uxAHE

— 加藤徹(KATO Toru) (@katotoru1963) November 16, 2019

https://twitter.com/katotoru1963/status/1195853501911322624?s=20

★演劇の起源と「賤民」(取扱注意)
 過去の東アジア社会において芸能関係者はしばしば「賤民」視され、「良民」との通婚を制限される(良賤不婚)などさまざまな差別を受けた。
〇「優伶娼妓」ゆうれいしょうぎ
 昔の中国の文章などに出てくる用語。俳優、伶人(ミュージシャン)、娼妓(娼も妓も遊女の意)などの芸能関係者は、奴婢(ぬひ。「やっこ」と「はしため」)と同様、良民の数に入れられないことが多かった。
〇「河原乞食」かわらこじき(取扱注意)
 中世、河原に居住した人々を卑しんで「河原者」(かわらもの)と呼んだ。江戸時代には、歌舞伎役者や遊芸人を卑しんで「河原者」「河原乞食」などと呼んだ。
 中国語では「戯子」(シーズ)が「河原乞食」にあたる蔑称。
〇「湯島の陰間」ゆしまのかげま
 以下、夏目漱石の小説『
坊っちゃん』(青空文庫版)より(引用開始)
「(前略)あんな弱虫は男じゃないよ。全く御殿女中(ごてんじょちゅう)の生れ変りか何かだぜ。ことによると、あいつのおやじは湯島のかげまかもしれない」
「湯島のかげまた何だ」
「何でも男らしくないもんだろう(以下略)」
(引用終了)
 江戸時代の日本の「陰間茶屋」(かげまちゃや)の「陰間」と、歌舞伎の関係。
 清朝時代の中国の「私寓」(しぐう/スーユィ)の「相姑」(しょうこ/シャンクー)と、京劇の関係。
 昔の朝鮮半島の男性売春と、男寺党(남사당 ナムサダン)の関係。
 これらの伝統芸能は、ユネスコの無形文化財(Intangible Cultural Heritage)に指定されている。歌舞伎は2003年に「人類の口承及び無形遺産に関する傑作の宣言」に登録、2008年に無形文化財に指定。韓国の男寺党は2009年に、中国の京劇は2010年に無形文化財に指定。
 東アジアに限らず、ユネスコの無形文化財に指定された文化や芸術の多くが、きれい事だけでは語れない歴史をもつが、それは、その文化や芸術の価値をおとしめるものではない。
cf.中国・香港合作映画『さらば、わが愛/覇王別姫』(1993年)の主人公である京劇の「男旦」(ナンダン。日本の「おんながた」にあたる)の少年時代。閲覧注意 https://youtu.be/hLwqo6BSh08?t=267
cf.中国系アメリカ人の劇作家・David Henry Hwang(黄哲倫, 1957年- )による戯曲『M.バタフライ』M. Butterflyは、映画にもなり、日本でも1989年に劇団四季が上演。中華人民共和国の京劇俳優・時佩璞(じ・はいぼく。Shi Peipu, 1938年-2009年。男性)と、彼を女性と信じて性的関係を結んだフランス大使館員ベルナール・ブルシコ(Bernard Boursico, 1944年- )の「ハニー・トラップ」「スパイ事件」の実話に基づく。参考 https://youtu.be/RzoEd1WoX0U
cf.漫画/実写テレビドラマ『JIN-仁-』に出てくる歌舞伎の女形(おんながた)・三代目(さんだいめ)澤村田之助(さわむら・たのすけ、1845年-1878年)の述懐。
 TBSのテレビドラマ「JIN -仁-」(2009年)シーズン1・エピソード8「歴史の針が変わる」より
 江戸時代の浅草・猿若町(さるわかちょう。現在の東京都台東区浅草6丁目)の「江戸三座」の歌舞伎の劇場での会話の場面のセリフ。
 「TBSオンデマンド」版では15分56秒目からまで17分15秒目まで。※2019年12月17日現在、Amazon Prime Videoで視聴可能。
〇南方仁(みなかた・じん)・・・架空の人物。現代から江戸時代にタイムスリップした脳外科の医師。
〇坂本龍馬(さかもと・りょうま)・・・実在の人物。江戸時代の武士で、浪人(ろうにん)。幕末の志士。
〇三代目・澤村田之助(さわむら・たのすけ)・・・実在の人物。江戸時代の歌舞伎役者で女形(おんながた)。
〇橘恭太郎(たちばな・きょうたろう)・・・架空の人物。江戸時代の武士で旗本(はたもと)。
〇初音(はつね)・・・架空の人物。吉原(よしわら)の遊女で花魁(おいらん)。この会話の場面では登場しないが、セリフの中で言及される。
澤村:悪いけどね、この小判(こばん)はこの田之助の汗さ。血さ。肉さ。一両たりともやることなどできゃしないよ。
橘:何が「血」だ、「肉」じゃ。所詮(しょせん)は己(おのれ)を体(てい)よく見世物(みせもの)にしただけの泡銭(あぶくぜに)ではないか。
仁:恭太郎さん!
澤村:【不適な笑みを浮かべ】お侍(さむらい)さん、初音を買っただろう。
橘:【激高して刀を取る】役者の身分にも拘(かか)わらず、禁を破っての登楼(とうろう)。斬(き)られたとて文句は言えぬはずじゃ!
坂本:落ち着け、橘どの。
橘:初音は、うわごとでもおぬしの名を呼んでおる。身を売る女が、おぬしのことだけは本気で慕(した)っておるのじゃ。憐(あわ)れとは思わぬのか。
澤村:私だって身を売ってやってきたんだ。小さい頃は坊主(ぼうず)相手に、年を取りゃ暇(ひま)と金(かね)を持て余した御婦人(ごふじん)相手に。女郎(じょろう)と同じことをしながら、血を吐くような思いで芸を磨きやっと手にした。これはそういう金なんだ。どうしても初音を助けたいなら、てめえが先(ま)ず身を切るのが筋だろうさ。旗本株(はたもとかぶ)でも売ってから出直して来やがれ。
※エピソード8で澤村田之助が登場するのは14分59秒目からと、30分19秒目から。
cf.エドガー・ドガ(Edgar Degas,1834-1917)が1878年頃に描いた絵“L'étoile de la danse (L'étoile ou danseuse sur scène)”踊りの花形(エトワール、又は舞台の踊り子) [参考記事1] [参考記事2] [WikiMedia Commons]
cf.歌舞伎と部落差別の関係 弾左衛門は歌舞伎を江戸中期まで支配」 < [東京の被差別部落 部落解放同盟東京都連合会]

★江戸時代に来日した朝鮮通信使が見た日本の男色文化
 朝鮮王朝の国学であった儒教、特に朱子学は、同性愛に対して不寛容である。
申維翰 『海游録』(신유한『해유록』しんいかん『かいゆうろく』)
 朝鮮通信使の製述官として享保4年(1719)に来日した申維翰(1681年−?)は、江戸時代の日本の男色文化や男娼について批判的な見解を述べつつも、美少年の美しさを賛美する、という不思議な態度を見せた。
 以下『日本庶民生活史料集成 第27巻』(三国交流誌)三一書房、1981年、に載せる書き下し文(誤植や誤読も散見される)を参考に、加藤徹が書き下し文を作成。
 上掲書p.220を参考
 日本の俗、淫を好む。余、既に娼台男女の辞を撰す。
 又、男娼有り。 妖媚なること、女子を視るよりも艶を加へ、 其の俗の耽荒、蠱惑、又倍す。 美男子、年十三、四より二八以上に至りて、 蘭膏もて髪を膩し、玄沢、漆の如く、 眉を画き粉を傅け、衣は綵画紋を雑へ、扇を抱きて立てば、 真に是れ一種の名花なり。
 王君・貴人・富商・大豪より、財を傾けて焉を蓄へざるは莫し。 昼夜、偕ひて出入し相随ひ、妬狠して人を殺す者有り。民風の怪駭、此の如し。 此れ自ら情欲中の異境にして、而も未だ鄭衛の世にも聞かざる所たり。 即ち漢哀の董賢に於ける、史にも譏る所、殆ど是を謂ふか。
【原漢文】日本俗好淫。余旣撰娼臺男女之辭。又有男娼、妖媚視女子加艶、其俗之耽荒蠱惑、又倍焉。美男子年十三四、至二八以上、蘭膏膩髮、玄澤如漆、畫眉傅粉、衣雜綵畫紋、抱扇而立者、眞是一種名花。自王君貴人富商大豪、莫不傾財而蓄焉、晝夜偕出入相隨、有妬狠殺人者。民風之怪駭如此。此自情欲中異境、而所未聞於鄭衛之世矣。卽漢哀之於董賢、史乎所譏、殆謂是乎?
原漢文はhttps://db.itkc.or.kr/の[こちら]を参照。
上掲書p.275(『海游録』下、附・日本聞見雑録)を参考
○日本の男娼の艶、女色に倍す。其の嬖(三一書房1981版では「孌」に作る)にして惑はす者も又、女色に倍す。 国中の児男、十四、五以上にして容姿絶美なる者、髪を膩して丱に為し、面には脂粉を傅け、 被るに彩錦衣を以てし、香麝・珍佩・修飾の具、値千金なるべし。 国君より以下の富豪・庶人も皆、貨して之を畜へ、坐臥も出入も必ず与に相随はしめ、 耽狎して饜くる無し。或は外心有れば則ち妬狠して人を殺す。 其の俗、人の妻妾を窃むを以て易きと為す。而して男娼には主有り、則ち敢へて之と言笑せず。
 雨森東の作る所の文藁中、貴人の繁華の物を叙ぶる有り。曰ふ「左蒨裙而右孌丱」と。 余、之を指して曰く「此に『孌丱』と云ふは、乃ち所謂男娼なるか」と。 曰く「然り」と。 余、曰く「貴国の俗、怪と謂ふべきかな。 男女の欲は、本より天地生生の理より出でて、 四海の同じくする所なり。 而も猶、淫惑を以て戒と為す。 世間、豈に、独り陽ありて陰無きも以て相感じて相悦ぶべき者有らんや」と。 東、笑ひて曰く 「学士も亦た、未だ其の楽しみを知らざるのみ」と。 東の如き輩の言ふ所すら尚ほ然り。国俗の迷惑、知るべき也。
【原漢文】日本男娼之艶、倍於女色。其嬖而惑者、又倍於女色。國中兒男年十四五以上、容姿絶美者、膩髮爲丱、面傅脂粉、被以彩錦衣、香麝珍佩修飾之具、可値千金。自國君以下富豪庶人、皆貨而蓄之、坐臥出入、必與相隨、耽狎無饜。或有外心、則妬狠殺人。其俗以竊人之妻妾爲易事。而男娼有主者、則不敢與之言笑。雨森東所作文藁中、有敍貴人繁華之物。曰「左蒨裙而右孌丱」。余指之曰「此云孌丱。乃所謂男娼乎?」。曰「然」。余曰「貴國之俗、可謂怪矣。男女之欲、本出於天地生生之理、四海所同、而猶以淫惑爲戒。世間豈有獨陽無陰、而可以相感相悅者乎!」。東笑曰「學士亦未知其樂耳」。如東之輩所言尙然。國俗之迷惑、可知也。
原漢文はhttps://db.itkc.or.kr/の[こちら]を参照
 申維翰が書いた上記の文章を超・意訳すると・・・

 日本人はエロが大好きだ。フーゾクのオトコとオンナについての文章は前に書いたとおり。なんと日本には、オトコの売春夫もいるのだ。
 男の子なのに、ゾクゾクするほど色っぽくて、女の子よりもエロチックに見える。日本でのオトコとオトコの荒淫ぷり、耽溺ぶり、蠱惑的な沼っぷりは、オトコとオンナ の関係の倍はあるだろう。
 こうした美少年は、数え十三歳、十四歳から、十六歳以上まで年齢はよりどりみどり。 蘭の香をこめた油をぬった黒髪は、ウルシのようにつややか。眉を画き、おしろいをぬり、服は色鮮やかな糸や見事な絵模様をあしらう。 想像してごらん。そんな美少年が、扇を抱いてすらりと立つ姿といったら。これはもう、一輪の名花なんだな、これが。
 日本では、王侯貴族もセレブも金持ちも、みんなお金を注ぎ込んで、自分の美少年を囲っているんだ。 昼も夜も、家の外でも中でも、美少年をピッタリと侍らせている。 美少年をめぐってドロドロとした嫉妬の感情のもつれがうまれ、殺人事件が発生することさえある。 ウソでも誇張でもないんだ。日本の民間の風俗の奇々怪々ぶりは、オドロくほかないね。
 まさに異次元の情欲。漢文古典でエログロ愛好国の代名詞となっている春秋時代の鄭と衛にさえ、日本みたいなフーゾクや男色文化の記録は残っていない。
 前漢の哀帝と董賢の同性愛は、史家から糾弾されているけれど、あれも日本のこんな乱れた状況を指していたのだろうか。

 日本の売春の妖艶さは、女性の二倍はある。
 ソソられるエロさも、美女の二倍。
 日本では、数え十四歳、十五歳以上のイケメン男子は、 油をぬったテカテカの髪の毛を「丱」(カン。あげまき)のスタイルにして、顔は美白のメイクをして、 キンキラキンの服を着せられる。超高級な香り、アクセサリー、飾りには、莫大な金がかかっているのだろう。
 日本の国主をはじめ、富豪も庶民も、みなお金を注ぎ込んで自分だけの美少年を囲い、 日常座臥、外出のときも家にいるときも、いつもピッタリと付き添い、果てしなくイチャつきまくる。 もし浮気なんてしようものなら、たちまちジェラシーの炎が燃え上がって、殺人沙汰。
 日本は、オトコとオンナは浮気天国、不倫大国なのに、オトコとオトコは真逆。 売春夫には「ご主人さま」がいて、他人の美少年とおしゃべりするのはもちろん、ウインクすらも御法度とされる。
 ボクは、雨森芳洲(あめのもり・ほうしゅう 1668−1755)のトンデモ発言を、書き残さずにはいられない。
 芳洲が書いた漢詩漢文のなかに、王侯貴族のぜいたくぶりをのべた句があった。「左蒨裙而右孌丱」蒨裙を左として、孌丱を右とす。 意味は、左側にあかね色のスカートの美女を侍らせ、右には『孌丱』(らんけん)の美少年。
 ボクはちょっとビックリしたね。
「この『孌丱』って、ひょっとして、売春夫の少年のこと?」  ときくと、日本では有名な儒者である雨森芳洲は、
「そうですよ」
 と、しれっと答えた。ボクは言ってやったよ。
「貴国の風俗は、こう言っちゃなんですけど、奇っ怪ですな。オトコとオンナの性欲もお下品ですが、これはまあ大自然の摂理、宇宙的な万物創生の原理の一部と言える。 ヒトは先祖のセックスのたまもの。男女のセックスはグローバルです。健全なセックスですら、やりすぎや下品なエロは、嫌われます。
 まして、日本の男色文化ときたら・・・・・・。儒教の陰陽思想から言えば、男女のセックスは陰陽の和合で自然、男色は陽と陽のガチンコバトルで不自然。 オトコどうしで感じあってイイ気持ちになるなんて、あなたは気持ち悪くないですか?」
 ボクの日本批判を聞いた芳洲は、ニヤリと笑って、こう言ったんだ。
「あなたはまだ、オトコどうしの味を知らんのですな。フッフッフ」
 気絶しそうになった。仮にもだよ、雨森芳洲は、朝鮮通信使の案内役として選ばれた、日本のエリート知識人だよ。そのええオッサンが、日本では全国的に有名な儒者が、そう言ったんだよ。
 日本人の風俗の底知れぬ泥沼の闇をのぞいた瞬間だったよ。
(超・意訳、終わり)

★宮崎駿監督のアニメ映画『もののけ姫』と被差別民
 1997年公開の『もののけ姫』は、日本史学者・網野善彦(あみの・よしひこ 1928年-2004年)の研究や著作を、無断で下敷きにして創作した作品。
 映画公開後、網野は十数年ぶりに映画館に足を運び、『もののけ姫』を鑑賞した。その感想が、網野善彦『『忘れられた日本人』を読む』(岩波書店、2003年)に書いてある。
「人間の設定したアジールである「踏鞴場」に対し、日本列島の社会では「山林」がアジールですが、そうした自然のアジールである森とを対立させていると受け取れます。自然のアジールである森には「データラボッチ」というまさしく民話の世界に出てくるような存在や、もののけ、こだまが現れるのに対し、人為的なアジールである踏鞴場には非人と牛飼、女性、そして遊女を宮崎さんは配されたのです。 あの映画の踏鞴場の場面に出てくる、身体をホウタイでぐるぐる巻きにした非人の長吏とみられるハンセン病の人が出てきますが、覆面をして柿色の衣を着て、絵巻から取り出されたような犬神人が石火屋衆という役割で鉄砲をつくっているのです。
 ただ、牛飼の髪の結び方を、もう少し考証なさったら面白かったかと思います。中世の牛飼は烏帽子を被れないので、ポニーテールのような髪型をした童姿をしていますが、姿は少しちがっているとしても、宮崎さんはこうした牛飼たちを配して、さらにその女房たちや女性たちに踏鞴を踏ませています。これは中世についてずいぶん勉強された上でつくられているという印象をもち、感歎していたのです。」
参考 [
2008-07-15 網野善彦と『もののけ姫』の話]

 エン yǎn(yan3) 연 (yeon) diễn
【コアイメージ】長く延びる。
 『釈名』釈言語に「演、延也。言蔓延而広也。(演は延なり。蔓延して広がるを言うなり)」とある。
 『史記』日者列伝に「自伏羲作八卦、周文王演三百八十四爻而天下治。(フッキ八卦を作り、周文王、三百八十四爻を演じしより、天下治まる)」とある。
 「寅(イン)」の字源は、家の中で両手で矢を左右から引っ張る様子。「寅」という字は早い段階で十二支の三番目を示す字に転用されたが、「水」を示すサンズイをつけ増画化した「演」が「寅」の原義を保存している。
 延(エン)・引(イン)・衍(エン。延びて広がる)は同源。
 「演」は、水が長々と延びて流れる様子を暗示する。
 長く引き延ばす意味から、話やしぐさを展開させる意味を派生する。
演義 エンギ=意味を引き延ばして説明する。
演繹 エンエキ=一つのことから次々に押し広める。
演説 エンゼツ=意見を展開させて述べる。
演技 エンギ=技を繰り出して見せる。
参考 加納喜光『常用漢字 コアイメージ辞典』中央公論新社 他

★俳優の祖、アメノウズメ
「天岩戸(あまのいわと)」神話 日本における「俳優」(わざをき/わざおき/わざをぎ/わざおぎ)の起源。
 日本神話では、芸能の開祖は「アメノウズメのミコト」(天鈿女命、天宇受売命)という太古の女神。
『日本書紀』~代上
故、思兼~、深謀遠慮、遂聚常世之長鳴鳥使互長鳴。亦、以手力雄~、立磐戸之側、而中臣連遠祖天兒屋命・忌部遠祖太玉命、掘天香山之五百箇眞坂樹、而上枝懸八坂瓊之五百箇御統、中枝懸八咫鏡(一云、眞經津鏡)、下枝懸和幣(和幣、此云尼枳底)・白和幣、相與致其??焉。又、猨女君遠祖天鈿女命、則手持茅纒之矟、立於天石窟戸之前、巧作俳優(タクミにワザヲキをナす)。
『古事記』上巻
天宇受賣命、手次繋天香山之天之日影而、爲鬘天之眞拆而、手草結天香山之小竹葉而(訓小竹云佐佐)、於天之石屋戸伏汚氣(此二字以音)蹈登杼呂許志(此五字以音)、爲~懸而、掛出胸乳、裳飼E垂於番登也(カムガカかりしてムナヂかきいで、モヒモをホトにオシタれき)。爾高天原動而、八百萬~共咲。
cf.ボードビリアン(vaudevillian)
「魏志倭人伝」(『三国志』「魏書」第三十巻「烏丸鮮卑東夷伝」倭人条):始死停喪十余日。当時不食肉、喪主哭泣、他人就歌舞飲酒
 倭では、人が死ぬと、喪(も)は十日余りでやめる。喪のあいだは肉は食べず、喪主は声をあげて泣くが、他の人は歌ったり踊ったりして酒を飲む。

★「優倡侏儒」(ゆうしょうしゅじゅ)を嫌った孔子
 紀元前500年(参考 https://ja.wikipedia.org/wiki/紀元前500年)、古代ギリシャでアイスキュロス(Aischylos 紀元前525年-前456年)が「ギリシャ悲劇」の作品を書いていたころ、 中国の「演劇」の状況はどうだったか?
儒教は演劇が嫌い? 「優倡侏儒」を嫌った孔子
司馬遷『史記』孔子世家の記事より(要約)
 魯の定公十年(前500年)の夏、孔子が五十三歳(五十二歳説もある)のとき、魯は斉の両国は和睦した。両国の君主は、斉の夾谷の地で会見することになった。孔子は、会見の礼を輔佐する役になった。魯の定公は、平和友好の会見なので平時の馬車で行こうとした。孔子は武官を連れてゆくよう進言して、聞き入れられた。
 会見の席上、斉の側は歓迎のため「四方の楽」を演奏した。すると孔子は、階段を小走りに駆け上がり「両国の君主が親睦の会をなさるのに、夷狄の音楽はふさわしくありません」と言い、斉の景公と大臣の晏子を見つめた。景公は恥じて楽人を退去させた。
 続けて斉は、斉の宮中の音楽で歓待した。俳優やこびとの芸人たちが、パフォーマンスをしながら進み出た(原文「優倡侏儒(ゆうしょうしゅじゅ)、戯を為して前(すす)む」)。孔子はまた階段を小走りに駆け上がり「匹夫にして諸侯を惑わす者は、罪はまさに誅殺にあたります。どうか有司に処罰をお命じください」と言った。芸人たちはその場で役人により刑を執行され、手足をバラバラにされた
 斉の景公は、孔子の毅然とした態度に恐懼した。景公は、「義」において自国が魯に及ばないことを知り、占領していた魯の領土を魯に返還し、謝罪した。
『史記』巻47「孔子世家」の原漢文の一部。
…有頃、齊有司趨而進曰「請奏宮中之樂」。景公曰「諾」。優倡侏儒為戲而前。孔子趨而進、?階而登、不盡一等、曰「匹夫而營惑諸侯者罪當誅、請命有司」。 有司加法焉、手足異處。景公懼而動、知義不若、歸而大恐、告其群臣曰…

 その後の中国の演劇の状況については「
中国の伝統演劇」を参照。
 中国で「ギリシャ悲劇」に匹敵する本格的な演劇作品の名作が誕生するのは、 13世紀の「元の雑劇」からで、ギリシャより千数百年も遅かった。

参考 tweet
これが「聴戯」か
聴戯

昔の #中国語 で「看戯」(芝居を見る)ではなくて「聴戯」(芝居を聴く)と言った理由がよくわかります。青空 麻雀 と野外の伝統演劇上演のコラボの動画。 https://t.co/oRZSvsP9Xy

— 加藤徹(KATO Toru) (@katotoru1963) October 22, 2021


★東洋と西洋 演劇のコンセプトの比較対照表
iceberg,氷山,形式知,暗黙知
近代西洋演劇東洋の伝統演劇東洋的な考えかた
理論・哲学形式知暗黙知文字や楽譜などの形式知より、言葉や理屈では説明できない暗黙知的な経験の積み重ねや「勘」を重視。
師匠「俺の芸は教えられない。俺から盗め」。
個性個性は美個性は醜美は古今東西を通じて普遍的なもの、という発想。
面、くまどり、類型的な衣装、など。
著作権個人創作世代累積型集団創作「述べて作らず」(述而不作)
演技の風格自由伝統の型「型破り」と「型知らず」は違う。
型を極めた名優だけが型破りになれる。
写実性写実写意「実写ノイズ」は汚いので排除すべき。
舞台装置は簡素であるべき。
感応の導線一望監視塔的
cf.Panopticon
スクランブル交差点的
cf.pedestrian scramble
観客席は明るいままにしておく。
世界観open endclosed endThere is nothing new under the sun.
新鮮感新奇でもよい。熟成するとよい。「新(シン)」は「辛(シン)」なり。
「新(あら)」は「荒(あら)」なり。
物語の結末未知既知観劇前の予習必要。
ネタバレ大歓迎。
俳優汎用的俳優専門的俳優歌舞伎役者は映画もできる。
ふつうの映画俳優は歌舞伎はできない。
監督監督は必要監督はいなくてもよい「監督」の分際で名優に指図するのは失礼。


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  3. 京劇の美意識とことわざ
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