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中国戯曲の歴史と京劇

最初の公開2018/02/12 最新の更新2018/02/12

中国戯曲シリーズ講座:第一回 中国戯曲の歴史と京劇【イベント 講演会】
期日:2018/02/13(火)15:00−16:30
会場:中国文化センター 参加費:無料
講師:加藤 徹 (講演言語:日本語)
 遥か古代中国から始まる伝統演劇の歴史。そして、激動の時代に深く関わりながら発展を遂げてきた京劇のバックグラウンドを日中における京劇研究の第一人者がわかりやすく、ユーモアを交えながら解説します。
(以上[中国文化センターのサイト]より引用)  

そもそも演劇とは何か?
 演劇の三要素は「俳優、観客、ドラマ(ドラマチックな物語)」である。
「劇場とは、施設や建物のことではなく、劇的出会いが生成されるための「場」のイデオロギ―のことである。どんな場所でも劇場にすることができるし、どんな劇場でも劇が生成されない限りは、日常的な風景の一部にすぎなくなる。」『寺山修司著作集 第5巻 文学・芸術・映画・演劇評論』p.370(クインテッセンス出版、2009年)

PLAYの意味
 英語で芝居はplay 中国語では“戏”(戯=ギ・たわむれ)
 プレイするもの。芝居の役柄、ゲーム、スポーツの試合、ビデオなどの再生ボタン、等々。「遊び」と「再生」が、芝居のもともとの出発点である。
 日本語の「戯曲」は演劇の台本の意味だが、中国語の“戏曲”(戯曲)は「京劇や崑劇などを含む、中国の伝統的な音楽劇」の意味なので、注意すること。
cf.「漢文唐詩宋詞元曲」
 漢の時代は司馬遷の『史記』などの漢文の文学作品が、唐の時代は李白や杜甫などの漢詩がすばらしかった。宋の時代には「詞」が、元の時代には「曲」(「散曲」や、「雑劇」の歌辞)が新しいスタイルの文芸として隆盛を極めた。
 中国語の「戯曲」の「曲」は、「元曲」の「曲」と同じで、委曲を尽くした楽曲系文芸の意。

京劇の成立
 古代〜南宋…中国演劇の萌芽の時代。
 元の時代…「元の雑劇」別名「北曲」が誕生。
 明の時代…「南曲」「南戯」の復興、崑劇の誕生。
 清の時代…地方劇が発達。地方劇の中から18世紀末に京劇が誕生。
 中華民国…崑劇や京劇の「国劇」化。梅蘭芳など名優の「流派」が誕生。
 中華人民共和国…京劇改革。現代京劇の作品も誕生。

中国の俳優の分類
歌舞演員・・・歌手、ダンサー。
戯曲演員・・・伝統劇の舞台俳優。京劇俳優もこの一種。
話劇演員・・・新劇の舞台俳優。
影視演員・・・テレビドラマの俳優・映画俳優。
※右の他、日本の落語ないし漫才に相当する「相声演員」などもある。「声優」は日本と違ってまだ発展途上である。

中国における俳優の歴史
 司馬遷『史記』には俳優が出てくる。
 『史記』「孔子世家」の夾谷の会のくだりでは、孔子が「優倡侏儒」の手足をバラバラに切断させた話を載せる(…優倡侏儒爲戲而前。孔子趨而進、曆階而登、不盡一等、曰「匹夫而營惑諸侯者罪當誅。請命有司」有司加法焉、手足異處…)
 『史記』「滑稽列伝」には、斉の威王の時代の淳于髠(じゅんうこん)、楚の荘王の時代の優孟(ゆうもう)、秦の始皇帝の時代の優旃(ゆうせん)が登場する。

江西省文化年 「江西儺面儺舞展」【イベント 中国各省の文化年】
期日:2018/02/06(火) −2018/03/02(金)
時間:10:30〜17:30 会場:中国文化センター 参加費:無料

中国には、約三千年前から「儺」(ナ・ダ・おにやらい)など演劇の萌芽的な要素を含む儀礼が存在した。しかし古代中国の俳優は、8世紀の唐の玄宗皇帝の「梨園」の俳優たちも含めて、歌舞音曲や語り物を演ずるボードビリアン的な芸人であった。中国の俳優が、ドラマチックな物語性に富む本格的な演劇を演ずるようになるのは、13世紀の「元の雑劇」からであった。

中国の演劇は以下の特徴をもつ。
〇演劇のステイタスが低かったこと。古代のギリシャ・ローマでは、演劇は芸術の花形であった。英国では、シェイクスピアの作品は文学としても高い評価を受けている。一方、昔の中国の知識人は演劇を軽く見る傾向があった。
〇古い演劇が意外と残っていないこと。日本の伝統演劇は、能楽も歌舞伎も、成立以来一度も滅びずに今日まで続いている。日本ではそれが当たり前である。一方、中国は昔から易姓革命の国であり、古い演劇は新しい演劇との競争に負けて消滅するのが常だった。13世紀の元の雑劇の上演の伝統は明の時代には絶えてしまった。中国の現存最古のメジャーな伝統演劇は崑劇だが、崑劇を大成した魏良輔(ぎりょうほ1489-1566)は、日本の能楽を大成した観阿弥(1338-1384)よりずっと新しい時代の人物である。
〇自前の「話劇」(セリフ中心の芝居)が生まれなかったこと。一般に、世界各地の古い演劇は仮面を着用した俳優の歌舞や合唱隊(地謡)を含む音楽劇であるが、近世以降はセリフ中心の「話劇」も誕生した。日本も、能楽の俳優は歌うが、歌舞伎の俳優は自分では歌わずセリフのみをしやべる。西洋でも、シェイクスピアの役者は歌わず、セリフだけである。一方、中国演劇は、13世紀の元の雑劇も、19世紀に形成された京劇も、みな音楽劇であった。中国で話劇が普及するのは、日本や西洋の影響を受けた近代からである。

中国演劇のコンセプト
 日本と違う点
〇コモディティ性 日本の伝統演劇はガラパゴス化が進んでおり、能楽と歌舞伎はそれぞれ衣装も劇場建築も違うし、能役者が歌舞伎を演じたり、歌舞伎役者が能を演ずることも自粛される。中国は逆で、伝統演劇のコモディティ化が進んでおり、衣装や化粧、劇場建築、俳優のしぐさ、立ち回りの型などの面では、崑劇も京劇もそんなに差がないし、京劇俳優が崑劇を演ずることも珍しくない。
〇スペシャリスト性 中国の伝統演劇は、役柄が高度に細分化している。中国の伝統演劇の俳優は、自分の役柄以外はあまり上演しない。一方、日本の伝統演劇の役者はジェネラリスト性が強い。歌舞伎の「兼ねる役者」は男役も女役も演ずるし、また、歌舞伎や能狂言の俳優で、映画やテレビドラマ、アニメの声優として活躍する人も少なくない。
〇道と伝統に対する考えかた 日本の伝統演劇は、世阿弥の『風姿花伝』以来、芸能以上の「芸道」であり、「伝統」という言葉が普及する何百年も前から伝統を守るという発想が強かった。例えば日本では、能楽が三味線を採用したり、能役者が洋服を着て舞台に立つことは、今も考えられない。一方、中国の伝統演劇は娯楽性を重視する芸能であり、日本人から見ると無節操と思えるほど大胆に雑多な要素を吸収し続けてきた(推陳出新)。崑劇の伴奏楽器も、昔は使わなかった民族楽器を混ぜたりしている。

日本と同じ点
〇「古人」へのあこがれ 京劇はなぜ「韻白」を使うのか?
〇「示現」の存在感 京劇の関羽など
〇「写実よりも写意」の様式美 京劇の型など

日本での京劇公演・関連イベントの今後の予定
[京劇カレンダー http://www.geocities.jp/cato1963/KGevent.html]も御覧ください。


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