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死と再生の儀礼と演劇の起源
最初の公開2008-6-8  最新の更新 2022年5月20日

 演劇の起源は、宗教の「神人交会」の儀礼と関連をもつ。
 すなわち、冥界から「この世ならざる者」を一時的に舞台空間に勧請し、観衆がこれと時空を共有することでマジカルなパワーを得るという呪術的感覚である。

古代人の世界観
logical thinking
論理的思考
 ↑↓
analogical thinking
類比的思考

東アジアの伝統的な「陰陽五行思想」(いんようごぎょうしそう)も類比思考である。
cf.[五行配当表] https://commonsi.muc.meiji.jp/em/5ee71318be26dummy

○目に見える世界(現世)の背後には、目に見えない世界(幽冥界)が広がっている。

○現世の似ているものどうしは、霊的なパワーでつながっている。

○現世と幽冥界の境界は、呪術的演出によって一時的に開くことができる。

 →祭祀儀礼、marginal man(マージナル・マン。境界人[])

「聖・賤、相通ず」「聖俗の逆転現象」
 最も神聖なものと、最も卑賤なものは、ともに「人間界」の周辺の存在であり、両極端ゆえに意外に近い。
 例)英語のswear words、日本語の宗教的な卑語、…

境界人、被差別民、演劇、…
cf.「歌舞伎と部落差別の関係
< 「東京の被差別部落
 


循環世界観

一日) 朝 昼 黄昏 夜 →…→ 朝

一月) 新月 三日月 満月 晦日 →…→ 新月

一年) 春 夏 秋 冬 →…→ 春

一生) 出生 若年 老年 死 →…→ 再生


WOMBからTOMBへ(誕生→死)

TOMBからWOMBへ(死→再生)

 母胎回帰願望

 墓所と子宮の類似性

屈葬

亀甲墓



村山智順『朝鮮の風水』1931




招魂儀礼の呪術的演出

imitative magic 模倣呪術
sympathetic magic 類感呪術
contagious magic 感染呪術・接触呪術

死の三徴候
 呼吸
 →風 気鳴楽器(笛など)・声楽

 鼓動
 →リズム 打楽器

 瞳孔
 →光 灯火・眼の演技 歌舞伎のにらみ


ふえ(笛) < 動詞「ふゆ」(殖ゆ)の連用形転成名詞。タマフリ(魂振)の楽器。

 石笛

 石笛奏上

こと(琴) < 名詞「こと」(言・事)。信託の楽器。


ヨリマシ
 寄り坐し。神主。神霊を自分の体に憑依させる霊媒
 → 能のシテ方(主役)

サニワ
 審神者。神霊の霊界語を現世の言葉に翻訳する霊能者
 → 能のワキ方(脇役)

カンナギ
 神和ぎ。神降ろしのための儀礼的演出を担当する技師
 → 能の囃子方(楽隊)


cf.ウィジャボードのデザインと、能の舞台空間のコンセプトの類似性


能楽と擬似再出生体験


Life-death-rebirth deity
死と再生の神

日本神話「天岩戸(あまのいわと)」説話

真床追衾(マトコオウフスマ) 折口信夫「大嘗祭の本義」

ギリシア悲劇
 …仮面、舞踊合唱隊(コロス)、アウロスの笛

能楽
 …能面、囃子方、能管

cf.文化デジタルライブラリー

京劇と呪術


魔法とは、弱者の権力である。

魔法の奥義は、血とSEXである。

魔法の極意は、「宇宙の缶詰」である。

明治大学リバティアカデミー教養文化講座「文化としての生老病死」第3講
2009/10/19「死と再生の儀礼と演劇の起源」
明治大学「日本文化の深層を探る」2009年度前期火曜5限(16:20〜17:50)

【注】マージナル・マン marginal man
「境界人」「周辺人」などとも訳す。 人間生態学(human ecology)のロバート・エズラ・パーク(Robert Ezra Park 1864―1944)の造語だったが、 後に学問分野ごとにそれぞれ違う意味で使われるようになった。 文化人類学や社会学では複数の社会集団や民族集団の境界領域に生きる人々を、 発達心理学では子供と大人の境界線上の青年期を、 経済学では経済現象の変化の可能性の境界人を指すなど、 意味用法が広いので要注意。
 以下「安田登の能を旅する」第2回「境界に生きる無名の人 名所旧跡とワキ、そして・・・」
https://www.the-noh.com/jp/people/essay/travel/201112.html (2021年5月22日閲覧)
より引用。引用開始。
 さて、ではなぜ私たちには見えない幽霊が、ワキだけに見えるのか。
 ワキとは本来は着物のワキの部分を指します。着物はこのワキを境にして前身頃と後身頃とに分かれます。前と後ろを分ける部分としてのワキです。
 かりに私たち生者の住む世界が前身頃だとすれば、幽霊たちの住む世界は後身頃。あ、ちなみに日本古来の考えではカミ(神)と幽霊は同じ世界=常世(とこよ)に住んでいます。これについてはいつかお話しましょう。
 娑婆世界の住人である私たちと、常世の国の住人である神霊たちは、紙の表面と裏面にいるようなもので、ふつうならば会うことはありません。が、ワキはこの世でもあの世でもない、その境界の世界、すなわち「ワキ世界」の住人であるから、ふとあちらの世界の住人である幽霊や神霊と出会ってしまうのです。
 境界に生きるマージナル・マン、それがワキなのです。
真っ暗闇の「人生の深淵」を覗いてしまう
 となると次に気になるのは、なぜワキは人間なのに「ワキ世界」の住人になったのか、ということです。
 最初に結論。彼は「欠落した人」だからです。ぶっちゃけていうと人生を落伍したか、あるいはイヤになってしまった人です。
 能のワキは無名の人が多いのですが、それもその一証。「諸国一見(諸国の旧跡や寺社を一見する)の僧」や「一所不住(住処を定めない)僧」が定番。彼らには名もないし、住所もない。住所不定、氏名未詳なんていうと、いまだとちょっとアブナイ人になってしまいますが、そう、そんな人がワキなのです。
引用終了。
「読売新聞」2018/03/26の書評欄の記事より自己引用。
『怖い女 怪談、ホラー、都市伝説の女の神話学』 沖田瑞穂著
評・加藤徹(中国文化学者・明治大教授)
恐怖と憧れが同居
 神話の時代いまだ終わらざるなり。太古の昔も、21世紀の現代も、人は母胎の暗闇から生まれ落ち、性や病気、老化など自然の摂理に翻弄(ほんろう)され、最期はふたたび底なしの暗闇にのみ込まれる。ドロドロとした母胎の暗闇は怖いが、いつか帰るべき故郷でもある。恐怖と憧れの同居。本書は、この内臓感覚的なゾクゾク感に満ちた「怖い女」たちの系譜を明らかにする。
 都市伝説の「口裂け女」も、太古の女神イザナミも、もとは美女だったが、後に恐ろしい容貌(ようぼう)となり、人を追いかけて命をのみ込む怖い女になった。神話学では、ユニコーンの角や天狗(てんぐ)の鼻を力強い男性器のシンボルと見なす。口裂け女の口は……この先は本書にゆずる。著者は、世界各地の民話の女妖怪や、現代日本の創作作品も援用し、のみ込む女の本質を分析する。
 生命を回収する箱の話は、女性の子宮と関係がある。ギリシャ神話のパンドラの箱、民話の玉手箱、ネット怪談のコトリバコ、美内すずえ作の漫画『妖鬼妃伝』、京極夏彦作の小説『魍魎(もうりょう)の匣(はこ)』、等々。現代日本のホラー作品『呪怨(じゅおん)』『リング』『着信アリ』の怖い女たちも、神話や民話の類話、実際に起きた猟奇事件の女性犯人などと比較され、分析される。
 著者はインド神話、比較神話を専攻する研究者である。世界各地の神話から現代のサブカルチャーまで縦横無尽に語る視野の広さには驚かされるが、語り口はエッセー風で、一般の読者にもわかりやすい。圧巻は「あとがき」だ。著者は、自分の母親との個人的な事情を簡潔に述べる。あえて内容の紹介はひかえるが、神話の時代も現代も変わらぬ人間の宿命が、著者に本書を書かせたことがわかる。
 本書を読み終え、ふと思った。『怖い男』という本は、ありうるだろうか。怖い男は、避ければいい。しかし怖い女からは、だれも逃げられない。人はみな、残酷で優しい母なる存在から生まれ、その女神の闇に還(かえ)るのだから。
 ◇おきた・みずほ=1977年生まれ。専門はインド神話、比較神話。著書に『マハーバーラタの神話学』。
 原書房 2300円
https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/review/20180319-OYT8T50065/

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