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紅雷紋紅雷紋

東アジア芸術論 2014

この頁は、2014年度・国際日本学部・前後期兼用、授業用プラットフォーム (platform) 的な頁です。
最新年度の授業用頁は[こちらの頁]を御覧ください。
This is an old webpage. Please view [the latest webpage].
この頁の短縮URLは http://p.tl/8YNe です。
This webpage is my teaching materials for the students who take my Lectue on Art in East Asia, at The School of Global Japanese Studies,Nakano Campus, Meiji University.
開講場所 明治大学 中野キャンパス 国際日本学部
金曜2限(10:40-12:10) 413教室
担当 加藤徹(法学部教授・和泉) 
加藤の授業はペーパーレスです。随時、こちらに授業関連の内容をアップしてゆきます。
 最初の公開 2014-4-5(5th April 2014) Last Updated 2015-3-24
[シラバス] [レポートについて] [用語・術語] [教材リンク] [備忘録] [ミニリンク]

和泉キャンパスの芸術作品。「START LINE」「GOAL 40,000,000M-1M」
明治大学,和泉,スタートライン
[こちらの頁も]
"The beginning and ending share the same moment. Good. Everything's going well." Keel Lorenz
「始まりと終わりは同じところにある。良い。全てはこれで良い」

「芸術」の本質を一言で言うと・・・
うつくしや障子の穴の天の川
この俳句についての[説明はこちら]

駿河台キャンパスの芸術作品。
 人間讃歌
    一九九八年 松井康成 作
アシュラよ
アシュラ。
アシュラは君の仮(かり)の像(すがた)。
天空に大きく広げた上段の手は
<知>の宏遠なるを示し
中段は<情>の豊かさと優しさを
下段の合掌は
<意>の強固なることをあらわしている。
ひそめたるその眉は
大いなる希望と理想に向かって
一途に進んでゆく真摯な君の姿
大きく、
大きく
この宇宙を生きて欲しい。
その志(こころざし) 弥(いや)高鳴れば
必ず月光菩薩の冷静にして
沈思の想(おもい)に到(いた)り
多聞の広く求めた智識は
君に勇気と決断を与えてくれることだろう。
この世は
無畏(むい)にして自由
アシュラはだから
今、現在と未来の
君の像(すがた)である。



肝心な点は感動すること、
愛すること、
望むこと、
身ぶるいすること、
生きることです。
  ロダン
明治大学,芸術
明治大学,芸術
明治大学,芸術


[http://www.youtube.com/playlist?list=PLD809ED20DCE2FCAA]


シラバス 参考 [
Oh-o! Meiji]の授業シラバス検索機能
 [東アジア芸術論A(前期=春学期)] [東アジア芸術論B(後期=秋学期)]
前期・後期とも、金曜2限(10:40-12:10)・中野キャンパスでの開講です。

2014年度 明治大学国際日本学部 東アジア芸術論A(春学期)

★授業の概要・到達目標★
≪授業の到達目標及びテーマ≫
テーマ:東アジア芸術を理解するための理論と術語
キーワード:エスニシティ,社会階層,呪術,東アジア,表象芸術
めいじろう ≪授業の概要≫
 この授業では,「下学上達」(身近なことの再考から出発して,真理の高みに到達すること)をモットーに,アニメ作品やアニソンなどから出発して, 日本と東アジアの古典芸術にも通じる普遍的な要素を抽出し,日本を含む東アジアの芸術文化を理解するために必要となる基本概念を学習する。
 具体的には,まず,20歳代の日本人にもなじみ深いと思われる映画,音楽,アニメ,漫画等の作品を取り上げ, 作品の社会的背景を分析するのに有用な概念を抽出し,解説する。
 次に,それらの概念による作品分析の実践例として,具体的な作品を取り上げ,作品の背後にある暗黙知的なソースコードを分析する。筆者の専門は京劇(中国の伝統演劇の一つ)であるので,京劇についても言及する。
 授業は日本語で行うが,日本語を母語としない日本語話者(non-native Japanese speakers)の受講生にも配慮し,重要なキーワードについては英語訳を示すほか,インターネットやDVD等の視聴覚教材も多用する。
★授業内容★
 アニメから古典芸能まで,パフォーマンス系の芸術を中心に取り上げ,日本と東アジア,そして世界の芸術の特徴を比較する。
第1回:不易fluidityと流行immutability
第2回:エスニシティethnicityと胎内記憶intrauterine memory
第3回:形式知explicit knowledgeと暗黙知tacit knowledge
第4回:大伝統great traditionと小伝統little tradition
第5回:2.5次元芸術2.5D art
第6回:グローカルglocalな芸術とは
第7回:論理思考logical thinkingと類比思考analogical thinking
第8回:模倣呪術imitative magicと感染呪術contagious magic
第9回:明在系explicate orderと暗在系implicate order
第10回:芸術におけるニーズneedsウォンツwantsシーズseeds
第11回:世代差generation gap
第12回:基層文化fundamental culture
第13回:東アジアにおける芸術の起源origin of art in East Asia
第14回:明治大学と芸術Meiji University and art
第15回:まとめ
*講義内容は必要に応じて変更することがあります。
★履修上の注意・準備学習の内容★
 楽譜を読む能力や,音楽についての専門知識がなくても受講できる。
 事前に参考書(下記)を読んでおくことが望ましい。
★教科書★
 無し(プリント等を随時配布)
★参考書★
 加藤徹『怪の漢文力』中公文庫
★成績評価の方法★
 平常点(出席回数およびリアクションペーパーの記述)50%と期末レポート50%(予定)
※受講者の人数が多数にのぼる場合は,上記の成績評価の配分を変更することもある。

2014年度 明治大学国際日本学部 東アジア芸術論B(秋学期)

★授業の概要・到達目標★
≪授業の到達目標及びテーマ≫
テーマ:東アジアの芸能と芸術
キーワード:エスニシティ,社会階層,呪術,東アジア,表象芸術
≪授業の概要≫
concertina  この授業では,「下学上達」(身近なことの再考から出発して,真理の高みに到達すること)をモットーに,アニメ作品やテレビドラマなどから出発して,日本と東アジアの古典芸術にも通じる普遍的な要素を抽出し,日本を含む東アジアの芸術文化を理解するために必要となる基本概念を学習する。
 具体的には,まず,20歳代の日本人にもなじみ深いと思われる映画,音楽,アニメ,テレビドラマ〈漫画等の作品を取り上げ,作品の社会的背景を分析するのに有用な概念を抽出し,解説する。
 次に,それらの概念による作品分析の実践例として,具体的な作品を取り上げ,作品の背後にある暗黙知的なソースコードを分析する。筆者の専門は京劇(中国の伝統演劇の一つ)であるので,京劇についても言及する。
 授業は日本語で行うが,日本語を母語としない日本語話者(non-native Japanese speakers)の受講生にも配慮し,重要なキーワードについては英語訳を示すほか,インターネットやDVD等の視聴覚教材も多用する。
 春学期と秋学期は独立した授業であるので,両方受講しても,片方だけ受講してもかまわない。授業にあたっては秋学期だけ受講する学生が不利にならぬよう配慮する。
★授業内容★
 現代のアニメから伝統的な古典劇まで,東アジアの作品を鑑賞しつつ,その背後にある概念や知恵を分析し,それらを現代のサブカルチャーにも生かせるかどうかを検討する。
第1回:メタ伝統 meta-tradition
第2回:playの本質 再生,演劇,演奏,遊ぶ,・・・
第3回:天地大舞台 All the world's a stage
第4回:物語の類型 motif index
第5回:中国の戦闘妊婦 expectant mothers in China
第6回:日本の稚児灌頂 hidden ritual of young boy in Japan
第7回:機械仕掛けの神 Deus ex machina
第8回:コードとタブー codes and taboos
第9回:楽器の設計思想 concepts of musical instruments
第10回:ペイガニズムの逆襲 return of paganism
第11回:一望監視塔 panopticon
第12回:サンスクリタイゼイション Sanskritization
第13回:異化効果 Verfremdungseffekt
第14回:明治大学と芸術 Meiji University and art
第15回:まとめ

*講義内容は必要に応じて変更することがあります。
★履修上の注意・準備学習の内容★
 もし可能であれば,事前に参考書(下記)を読んでおくことが望ましい。
★教科書★
 無し(プリント等を随時配布)
★参考書★
 加藤徹『京劇』中央公論新社
 加藤徹『怪の漢文力』中公文庫
★成績評価の方法★
 平常点(出席回数およびリアクションペーパーの記述)50%と期末レポート50%(予定)
※受講者の人数が多数にのぼる場合は,上記の成績評価の配分を変更することもある。

レポートについて
  1. レポートの提出について 必ず「Oh-o! Meiji」(https://oh-o2.meiji.ac.jp/)を使って提出してください。詳細は追って掲載
      春学期(前期)は提出期間 2014/07/04 09:00 ~ 2014/07/28 23:30
      秋学期(後期)は提出期間 2015/01/16 09:00 ~ 2015/01/29 23:30
     念のため、手元にパックアップ(電子テキスト、紙にプリントアウトした控え、等)を保存してください。
  2. 内容・テーマについて
     授業で取り上げた事項の中からテーマを一つ選び、それについて自分で他の文献等の資料も調べたうえで、自分の考えを論理的に述べてください。
     原則として日本語で論述してください。外国語の資料を引用する場合は日本語訳を付けてください。
  3. 書式について
     総字数は「1600字以上、6000字以下」を目安としますが、必要に応じて多少増減しても構いません(内容本意で採点します)。
     誤字・脱字・読みづらい字などは減点の対象とします。
     文章のレイアウトは自由とします。ただし、採点の便宜上、必ず以下の項目を明示してお書き下さい。
    【氏名等】学生番号、学部・学年・組、氏名、提出日
    【標 題】わかりやすいタイトルをつけてください。もし必要があれば副題もつけてもかまいません。
    【要 旨】40字以上120字以内で、簡潔に記述してください。
    【本 文】自由にお書き下さい。
    【参考文献等】少なくとも3点以上挙げてください。ウェブサイトを参照した場合はURL等を明記してください。


術語・用語
 この授業では、受講生が以下の概念や発想法を理解し、自分の専攻分野に応用できるようになることを目的とする。
赤字は加藤徹独特の用語や概念。 めいじろう,ゼーレ,モノリス,seele,monolith



「芸術的射程距離」「離俗」の感覚と、「アナ雪」Let It Goの「some distance」
【Idina Menzel】
It's how funny some distance
Makes everything seem small
And the fears that once controlled me
Can't get to me at all
【訳詞】
遠くから眺めるとすべてが砂粒のよう
恐れは遠く去り
もう私を苦しめない
【松たか子】
悩んでたことが嘘みたいね
だってもう自由よ
なんでもできる
cf.



経営資源
ヒト。人材、人脈。
モノ。商品、設備。
カネ。資金、資本。
情報知識、技術、ノウハウ。
時間プライオリティー(priority)。Time is money.



基層文化 fundamental culture, deep culture, basic culture
←→表層文化 surface culture ←→
 cf.
アジア基層文化研究会
都会、支配層
征服者、普遍的、
大伝統

deep culture,基層文化

田舎、被支配層
被征服者、土俗的、
小伝統
東アジアの芸術における、表層文化的なものと、基層文化的なもの
→欧米の文化を研究した日本人が、日本やアジアに回帰して新しい美意識を提唱する、という例が多い。
→本来は純粋に芸術文化の範疇であるはずだが、日本社会においては、近代天皇制や脱亜入欧政策への批判、アジア主義など、芸術以外の主張(いわゆる左翼的、右翼的な主張)とも結びつきやすい。
→現代のサブカルチャーの趣向の一つに、「基層文化インスパイア系」とも呼ぶべきジャンルがある。
【知識人】
【実作者】
【関連する概念】ペイガニズム、エスニシティ、小伝統、マイノリティー、周圏論、民俗学、「みやび(雅び)」と「ひなび(鄙び)」、・・・・・・
【参考】河上肇舌禍事件(かわかみ はじめ ぜっか じけん)
以下、琉球新報のHPの中の頁より引用
 1911(明治44)年4月3日、来沖した京都帝国大学助教授の河上が「新時代来る」と講演。その中で、日本の歴史に対する沖縄の歴史・文化の独自性を強調。沖縄の非国家主義的性格を賞賛し、思想的事件に発展した。
 「中央」の文化人が「辺境」の独自性を褒めたつもりが、かえって現地人の反感を招いてしまった、という事例。「基層文化」という概念は、実は「中央」の知識人による上から目線の概念であり、 基層文化の担い手にとってはしばしば「ありがた迷惑」になりかねない。
 河上肇は「余が沖縄を観察するに沖縄は言語・風俗・習慣・信仰・思想その他あらゆる点において内地とその歴史を異にするがごとし。 而してあるいは本県人を以って忠君愛国の思想に乏しという。然れどもこれは決して嘆ずべきにあらず。余はこれなる為に、却って沖縄人に期待するところ多大なると同時にまた最も興味多く感ずるものなり」 云々と述べ、現地のマスコミから猛反発を受けた。
 河上は沖縄の「基層文化」を述べた訳ではないが、日本本土の知識人が生半可な知識で沖縄の基層文化を褒めると、しばしば現地の人々の反発を買うという状況は、21世紀の今日も存在する。
以下、上里隆史『目からウロコの琉球・沖縄史』「東郷平八郎と為朝伝説(3)」より引用
 野蛮で遅れた地域とされた沖縄は、戦前、様々な差別的待遇を受けました。沖縄にとっての近代化とは、=日本化でもありました。沖縄の人々は旧来の価値を否定し「日本人」となることで、差別的な待遇を解消しようとしたのです。 例えば経済学者で後に日本共産党にも入党した河上肇が講演で、「沖縄には独自性があり、本土と違って忠君愛国の思想が薄い。歴史を見るとこのような場所から偉人が誕生する」と指摘したのに対し、 県内マスコミは河上に非難の集中砲火を浴びせます。いわゆる“河上肇舌禍事件”です。河上肇は沖縄の持つ可能性を評価したつもりだったのですが、皇国日本への同化に力をそそいでいた沖縄社会のリーダーたちにとっては、 県民の「忠君愛国」思想を否定する彼の発言は許しがたいものだったのです。
cf.映画「ウンタマギルー」(1898)、「ナビィの恋」(1999)に対する沖縄県人の賛否両論。日本映画「ビルマの竪琴」を見たミャンマー人の感想。


芸術・文化における長期的な変化のサイクル  時代と世代の差
漢字「世」の字源は「三十年」
 人類の1世代は約30年サイクル→ 東洋の「六十干支」  半還暦(30周年)、還暦(60周年)、大還暦(120周年)、・・・
【参考】『論語』為政第二:子張問「十世可知也?」。子曰「殷因於夏礼、所損益、可知也。周因於殷礼、所損益、可知也。其或継周者、雖百世可知也。」
【参考】中国語のことわざ「三十年河東、三十年河西。」

「千年紀」単位の変化。文明の変遷と対応。
原始古代中世近世
・近代
現代・
近未来
写実的
様式的


六十干支(1周期は60年)単位の変化。国家・政権の盛衰と対応。
江戸時代の文化唐の文化クラシック音楽
前史桃山文化六朝文化中世・ルネサンス音楽
建国期寛永文化初唐バロック音楽
成長期元禄文化盛唐古典派音楽
完成期宝暦・天明文化
化政文化
中唐ロマン派音楽
国民楽派
爛熟期 (幕末)晩唐近・現代音楽

十年単位の変化=個人の年齢と対応。流行。
 昔 子供→大人    今 子供→ヤングアダルト(Young Adulthood)→大人
【参考】発達心理学 エリク・H・エリクソンによる発達段階
  乳児期0-2、幼児前期2-4、幼児後期4-5、児童期5-12、青年期13-19、 初期成年期20-39、成年期40-64、成熟期65-
  →乳幼児、児童、青年、成年、老年
【参考】シェークスピア「お気に召すまま」“And one man in his time plays many parts,/ His acts being seven ages. ”→
こちらを参照
【参考】厚生労働省による区分
 幼年期0~5歳、少年期6~14歳、青年期15~30歳、壮年期31~44歳、中年期45~64歳、前期高年期65~74歳、中後期高年期75歳~
【参考】映画のレイティングシステム
 G(General Audience)、PG12(12歳未満はParental Guidanceが必要)、R15+(15歳未満はrestricted)、R18+(いわゆる18禁)
 ※国ごとに基準が違う。
【参考】[日本のアニメソング参照]


うつくしや障子の穴の天の川
utukusi ya shouji no ana no ama no gawa
芸術の本質とは、mortality(モータリティ)の中にimmortality(インモータリティ)を垣間見る、一瞬の美意識である。
この俳句出典 小林一茶(1763年 - 1827年)『七番日記』文化十年(1813)七月の条。
【いつ】1813年の七夕のころの夜 【どこで】病床で 【誰が】癰(よう)を病んだ作者が 【何を】夜空の天の川を 【どのように】障子の破れ穴から見て感動した。
 cf.癰(よう)は、昔は死亡率が高い難病だった。
 『七番日記』文化十年七月
  二 晴 仙六来 ソバ一袋
  七 晴 癰大膿出
  八 晴 夜桂国ヨリ金二両宏海持参

「うつくし」や単純に「美しい」ではない。古語「愛(うつく)し」「厳(いつく)し」「現(うつ)し・顕(うつ)し」等のイメージも重なっている。
「障子の穴」の障子に穴があいているような、わびしい住居。定命(じょうみょう)の人間や生き物など「mortal」たちが住む「此岸」の象徴。 死ぬかもしれない病気にかかるのは、平凡な日常生活に突如「穴」があくようなものである。
「天の川」「穴」の向こうには、星や神仏などの「immortal」たちが住む永劫の「彼岸」が広がっている。
 病気で死を覚悟した作者(この時は生還できた)は、障子(此岸)と天の川(彼岸)が接していることに気づき、「うつくしや」と感じた。
 天の川は、美しい。障子の穴も、愛(うつく)しい。もうすぐ死んで見られなくなる、と思えば、何もかも「うつくしい」。

和語「ウツシ」 移し・遷し、写し・映し → ウツシヨ(現世)
cf.『岩波 古語辞典 補訂版』(1992年補訂版第3刷)より
うつ-し【写し・移し】(一)[四段]<ウツリの他動詞形。物の形や内容そのままを、他のところにあらわれさせる意。ウツはアクセントも考慮すると、ウツシ(顕)・ウツツ(現) のウツと同根。この世にはっきり形を見せ、存在する意。(以下略)>
和語「うつくし」 ← ウツ(内、空・虚、現・映)+クシ(奇し)
和語「トキ」 溶き・解き → 時  和語「ツキ」 → 月・尽き
 日常と非日常、褻(け)と晴(はれ)
cf.この世←→あの世、此岸←→彼岸、顕界←→幽界(幽冥界)、モータル(「定命」mortal)←→インモータル(不死 immortal)、諸行無常←→常住不滅、・・・


離俗の芸術論
 離俗と、その類義語との微妙なニュアンスの違いに注意。
(世界大百科事典 第2版の解説) りぞく【離俗】
俳諧用語。蕪村は門弟召波の《春泥句集》(1777)に寄せた序文の中で, 〈俳諧は俗語を用ひて俗を離るるを尚ぶ。俗を離れて俗を用ゆ。離俗の法最もかたし〉としるしている。 俳諧に用いられる言葉は,ことさらにあらたまった雅語のようなものではなく,だれもが日常に使う平易な俗語でなければならず, しかも俗から離れなければならないという。これは蕪村の俳諧の基本的な態度,方法をあらわすものである。 俗と離俗と同時におこなおうとすることは,芭蕉の〈高く悟りて俗に帰るべし〉につながるものであろうが,蕪村の場合,俗に〈帰る〉よりも,俗から〈離れる〉ことが強調されている。
『春泥発句選』安永丁酉[安永六年]冬十二月七日(1778年1月5日)、蕪村序。[ ]内は加藤徹の注
←原文の画像は、愛知県立大学図書館のHPの中の[こちらの頁]で閲覧可能。
柳維駒[召波の子]、父の遺稿を編集して余に序を乞(こふ)。序して曰。
「余曾テ春泥舎召波に洛西の別業(べつげふ)に会す。
波すなはち余に俳諧を問。
答曰。俳諧は俗語を用て俗を離るゝを尚(たつと)ぶ。俗を離れて俗を用ゆ、離俗ノ法最かたし。かの何がしの禅師が、隻手の声を聞ケといふもの[白隠の「隻手音声(せきしゅおんじょう)」の公案]、則俳諧禅にして離俗ノ則也。
波頓悟(とんご)す。却(かへつて)問。叟が示すところの離俗の説、其旨(そのむね)(げん)なりといへども、なを(ほ)是工案をこらして我よりしてもとむるものにあらずや。し(若)かじ彼もしらず、我もしらず、自然に化して俗を離るゝの捷径(せふけい)ありや。
答曰。あり。詩[漢詩]を語るべし。子もとより詩を能(よく)す。他にもとむべからず。
波疑(うたがつて)(あへて)問。夫(それ)詩と俳諧といささか其致を異にす。さるを俳諧をすてて詩を語れと云。迂遠(うゑん)なるにあらずや。
答曰。画家ニ去俗論あり[芥子園画伝・初集]。曰。画、俗ヲ去ルコト無他ノ法。多読書則書巻之気上升、市俗之気下降矣。学者其(それ)慎旃哉(これをつゝしまんや)。それ画の俗を去だも筆を投じて書を読(よま)しむ。況(いはんや)詩と俳諧と何の遠しとする事あらんや。
(以下、略)
cf.夏目漱石の小説『草枕』冒頭部の芸術論 小説ではあるが、蕪村の「離俗」のセオリーを述べたものとしても読める。
 [青空文庫版・夏目漱石『草枕』]より引用
 山路やまみちを登りながら、こう考えた。
 に働けばかどが立つ。じょうさおさせば流される。意地をとおせば窮屈きゅうくつだ。とかくに人の世は住みにくい。
 住みにくさがこうじると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいとさとった時、詩が生れて、が出来る。
 人の世を作ったものは神でもなければ鬼でもない。やはり向う三軒両隣りょうどなりにちらちらするただの人である。ただの人が作った人の世が住みにくいからとて、越す国はあるまい。あれば人でなしの国へ行くばかりだ。人でなしの国は人の世よりもなお住みにくかろう。
 越す事のならぬ世が住みにくければ、住みにくい所をどれほどか、寛容くつろげて、つかの命を、束の間でも住みよくせねばならぬ。ここに詩人という天職が出来て、ここに画家という使命がくだる。あらゆる芸術の士は人の世を長閑のどかにし、人の心を豊かにするがゆえたっとい。
 住みにくき世から、住みにくきわずらいを引き抜いて、ありがたい世界をまのあたりに写すのが詩である、である。あるは音楽と彫刻である。こまかにえば写さないでもよい。ただまのあたりに見れば、そこに詩も生き、歌もく。着想を紙に落さぬとも璆鏘きゅうそうおん胸裏きょうりおこる。丹青たんせい画架がかに向って塗抹とまつせんでも五彩ごさい絢爛けんらんおのずから心眼しんがんに映る。ただおのが住む世を、かくかんじ得て、霊台方寸れいだいほうすんのカメラに澆季溷濁ぎょうきこんだくの俗界を清くうららかに収めればる。この故に無声むせいの詩人には一句なく、無色むしょくの画家には尺縑せっけんなきも、かく人世じんせいを観じ得るの点において、かく煩悩ぼんのう解脱げだつするの点において、かく清浄界しょうじょうかい出入しゅつにゅうし得るの点において、またこの不同不二ふどうふじ乾坤けんこん建立こんりゅうし得るの点において、我利私慾がりしよく覊絆きはん掃蕩そうとうするの点において、――千金せんきんの子よりも、万乗ばんじょうの君よりも、あらゆる俗界の寵児ちょうじよりも幸福である。
参考
坂口安吾の「日本文化私観」 →原文は[
青空文庫のこちらの頁]
相田みつを
宮沢賢治「雨ニモ負ケズ」 →[青空文庫]


「プロ」とは何か?
ラテン語のpro 前で、前へ、人前=公の、・・・ 作家の一次創作と評論家の二次創作の例


――当時、「ジョーは死んだのか」という論争まで起こりました。ちばさんの中でも定まっていなかったのでしょうか。
ちば そういうことは全然考えていなかったですね。ただ自分の力を出し切って、持てるエネルギーのすべてを使い尽くして、真っ白に、抜け殻のようになっているという、そう考えながら描いたシーンですね。ある時たまたまテレビで見たのですが、上野正彦さんという監察医があの絵を見て、「生きているか死んでいるか」と訊かれて、「こういう微笑みや、肘で身体を支える姿勢は、死んでいたらできないから、この人は生きている」と断言してくれて、「ああ、そうだったのか。やっぱり生きているのか」とホッとした記憶があります。

月刊『新潮45』2013年10月号、ちばてつや「あしたのジョーは生きている」(インタビュー)、聞き手・里中高志、p.149-p.150より引用


〇ちばてつや(1939-)漫画家。「あしたのジョー」の作画担当。梶原一騎の原作のラストにあきたらず、原作者や担当編集者と話した末、主人公が真っ白になってリングサイドに座っている絵、という後に伝説化したラストを創作した。
〇上野正彦(1929-)法医学者、医事評論家。著書多数。『死体の嘘 世田谷一家殺人事件から『あしたのジョー』まで』(アスキー, 2001.10)など


経済と芸術
用語 needs seeds wants
ニーズ(顕在的需用)、シーズ(技術革新による供給能力創造)、ウォンツ(定義は未定。潜在的需用)
通貨←→疑似通貨
 近代経済における銀行の「信用創造」と、歴史における美術・芸術による「価値創造」の類似性
cf.集中・蓄積・展開
「芸術バブル」と、疑似通貨としての芸術作品・美術工芸作品
★ミケランジェロの大作「最後の審判」とバチカンの富
★松永久秀の「平蜘蛛茶釜」「九十九髪茄子」、織田信長の「曜変天目茶碗」、茶道の「天目茶碗」「高麗茶碗」「楽茶碗」。
★村上隆氏のアートと「Qatar Japan 2012」cf.TOKYO MXのニュース番組で「カタール・ドーハで村上隆展」 http://youtu.be/dglsn09kRdU
★美術商・画商と政財界の裏側 (参考)七尾和晃『銀座の怪人』(講談社BIZ、2006年)ISBN-13: 978-4062820141


五感
『般若心経』「眼耳鼻舌身意、色声香味触法」
 アリストテレス的な「五感」 視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚

ヒトの感覚分類
 体性感覚:表在感覚(皮膚感覚)、深部感覚
 内臓感覚:臓器感覚、内臓痛
 特殊感覚:視覚、聴覚、味覚、嗅覚、前庭感覚(平衡感覚)

アルチュール・ランボーの詩「母音」(中原中也訳)
Aは黒、Eは白、Iは赤、Uは緑、Oは青、母音たち、
おまへたちの穏密な誕生をいつの日か私は語らう。
A、眩(まば)ゆいやうな蠅たちの毛むくぢやらの黒い胸衣(むなぎ)は
むごたらしい悪臭の周囲を飛びまはる、暗い入江。(以下略)
共感覚(シナスタジア、synesthesia)
 cf.暖色、寒色、堅い音、甘い香り、・・・
 cf.東洋の「
五行配当
 cf.聴覚の特異性   「低い声」「うるおいのある声」「ガサガサした音」「硬い音」・・・
   絶対音感(absolute pitch)、相対音感(relative pitch) [絶対音感の無料テストのサイト]

一色型色覚monochromacy全色盲。「白黒」
二色型色覚dichromacy部分色盲。赤緑色盲、青黄色盲、・・・。霊長類を除く哺乳類
三色型色覚trichromacyヒトの大部分。「カラー」「三原色」
四色型色覚tetrachromacy鳥類、有袋類。ごく一部のヒトの女性

科学的な「五基本味」 甘味、酸味、塩味、苦味、旨味
伝統的な「五味」(五行思想) 酸 苦 甘 辛 鹹
  「辛味」は、文化的には味覚だが、科学的には痛覚的刺激であり味覚ではない。
   cf.「麻婆豆腐」「麻辣豆腐」「麻辣味(マーラーあじ)」
 


モチーフ・インデックス(motif index)
 物語の類型 cf.神山重彦
『物語要素事典』(外部リンク)
  例えば「犠牲」「自己犠牲」のモチーフ 「みんな」のために「一人」は死ぬべきか?
   日本の能(謡曲)『谷行(たにこう)』 松若(まつわか)という少年が、山伏(やまぶし)たちの修行の旅で犠牲になる。
    →これを原作とする、ドイツ人の劇作家ブレヒトの作品 [Der Jasager, Der Neinsager]
参考 [英訳「谷行」と原文、学校オペラの比較]
 日本人の作るドラマは、六百年前の能楽も、千年前の源氏物語も、現代のアニメ作品に通ずる趣向を共有している。
スサノオ(素戔嗚尊。「妣(はは)の国に行きたい、と泣く)、光源氏(母の死。亡母の面影の女性を父帝と「共有」)、松若(母子家庭。母=伎楽鬼神)、碇シンジ(母不在。父との葛藤。ユイとレイ)…
能楽「谷行(たにこう)」(15世紀)エヴァンゲリオン(20世紀)
作者金春禅竹(?)
こんぱる・ぜんちく
1405~?
庵野秀明(監督)
あんの・ひであき
1960~
通過儀礼
Initiation
稚児→山伏人類補完計画、
(中二病,14歳)
「おめでとう」
母胎回帰入山、谷(女性器の象徴)への投げ込み、
「衆生一子」
L.C.L、エヴァの秘密
♫私に還りなさい…(「魂のルフラン」)
BLテイスト松若(稚児)と師(山伏)シンジと渚カヲル
示現役行者、伎楽鬼神使徒、エヴァ
少年松若
母子家庭
シンジ
父子家庭
母親前シテ(母)→後シテ(伎楽鬼神)※ユイ→エヴァ初号機
機械仕掛けの神
Deus ex machina
伎楽鬼神
「アヤナミリリス」(旧劇版)
※流派や舞台によって、
  松若の母(前シテ)→伎楽鬼神(後シテ)、役の行者(ツレ)
  松若の母(ツレ)→伎楽鬼神(シテ)、役の行者(ツレ)
  松若の母(前シテ)→伎楽鬼神(ツレ)、役の行者(後シテ)
その他の、さまざまな演出がある。
[異色のコラボレーション! 「能舞エヴァンゲリオン」上演 演劇ニュース・2006/11/21]

[GAINAX NETの「 EVA AT WORK」]に載っている山井綱雄氏(能楽師)のコメント
「能は「人間の喜怒哀楽を表現し尽した芸術」といわれ、私の金春流(こんぱるりゅう)には一七〇ものレパートリーが伝承されています。私は今回あえて新曲を作詞作曲せず、一七〇曲中からふさわしい場面を選び構成しました。/表現方法も、初号機(の能面)が新作である以外は、全て古巣から能の表現方法を用いました。/「エヴァ初号機」の"母性愛"を斬新な手法を用いず、能の古来から伝承されている手で私なりに表現しました。」

【参考】

playの本質、「演」の字源
playの本質
cf.[
ビンクスの酒](One Piece) 重層的なplay
=遊び/楽器を演奏/死んだ仲間たちの記憶と音声を再生/アニメの芝居を演ずる
 ブルックのセリフ「どうせ死ぬなら、楽しいほうがいい」
 エン yǎn(yan3) 연 (yeon) diễn
【コアイメージ】長く延びる。
 『釈名』釈言語に「演、延也。言蔓延而広也。(演は延なり。蔓延して広がるを言うなり)」とある。
 『史記』日者列伝に「自伏羲作八卦、周文王演三百八十四爻而天下治。(フッキ八卦を作り、周文王、三百八十四爻を演じしより、天下治まる)」とある。
 「寅(イン)」の字源は、家の中で両手で矢を左右から引っ張る様子。「寅」という字は早い段階で十二支の三番目を示す字に転用されたが、「水」を示すサンズイをつけ増画化した「演」が「寅」の原義を保存している。
 延(エン)・引(イン)・衍(エン。延びて広がる)は同源。
 「演」は、水が長々と延びて流れる様子を暗示する。
 長く引き延ばす意味から、話やしぐさを展開させる意味を派生する。
演義 エンギ=意味を引き延ばして説明する。
演繹 エンエキ=一つのことから次々に押し広める。
演説 エンゼツ=意見を展開させて述べる。
演技 エンギ=技を繰り出して見せる。
参考 加納喜光『常用漢字 コアイメージ辞典』中央公論新社 他


東アジアの伝統演劇
同じ漢字語でも、国によって意味用法が変わるので注意しよう。
日本語の「国劇」は歌舞伎と能楽(能狂言、「お能」)←→中国語の「国劇」は京劇と昆劇
日本語の「戯曲」は「劇の脚本や台本。および、脚本のスタイルで書かれた文芸作品」←→中国語の「戯曲」は京劇などの伝統的な音楽劇

近代西洋演劇東洋の伝統演劇東洋的な考えかた
理論・哲学形式知暗黙知文字や楽譜などの形式知より、言葉や理屈では説明できない暗黙知的な経験の積み重ねや「勘」を重視。
師匠「俺の芸は教えられない。俺から盗め」。
個性個性は美個性は醜美は古今東西を通じて普遍的なもの、という発想。
面、くまどり、類型的な衣装、など。
著作権個人創作世代累積型集団創作「述べて作らず」(述而不作)
演技の風格自由伝統の型「型破り」と「型知らず」は違う。
型を極めた名優だけが型破りになれる。
写実性写実写意「実写ノイズ」は汚いので排除すべき。
舞台装置は簡素であるべき。
感応の導線一望監視塔的
cf.Panopticon
スクランブル交差点的
cf.pedestrian scramble
観客席は明るいままにしておく。
世界観open endclosed endThere is nothing new under the sun.
新鮮感新奇でもよい。熟成するとよい。「新(シン)」は「辛(シン)」なり。
「新(あら)」は「荒(あら)」なり。
物語の結末未知既知観劇前の予習必要。
ネタバレ大歓迎。
俳優汎用的俳優専門的俳優歌舞伎役者は映画もできる。
ふつうの映画俳優は歌舞伎はできない。
監督監督は必要監督はいなくてもよい「監督」の分際で名優に指図するのは失礼。

演者と観客の「感応の動線(かんのうのどうせん)」の変遷
時代が降るほど観衆の「個人化」が進む。

【1】スクランブル交差点型=騒がしい「観衆」
京劇や、能楽・歌舞伎の本来の(昔の)形。
客席は上演中も明るいまま。客席も長椅子やベンチ、畳、ござなど、客どうしの距離を作らない。
昔の日本語では、観衆を「見物(けんぶつ)」と呼んだ。
演者からも観衆の顔や反応がよく見える。
観衆(audience)どうしは、上演中も互いの顔を見たりお喋りできる。
古代ギリシャの露天の円形劇場、前近代の東洋の劇場の座席配置、
現在のライブ会場、野球場、サッカー場の座席配置、など。

【2】パノプティコン型=静かな「観客」
近代西洋の中・上流階層の上演芸術の形。
クラシック音楽の上演会場など。
客席は上演中暗くし、座席も独立した椅子を並べ、「観衆」を個々の「観客」に分断する。
観客は上演中、騒いだり、演者に声をかけることはできない。
演者も上演中は、観客の個々の顔(特に後部座席の観客の顔の表情)をはっきり見ることはできない。

【3】放送形式=顔の見えない「視聴者」
近現代の映画、テレビ、ネット配信の形。
演者は、ダイレクトに視聴者の顔を見ることはできない。
視聴者(viewer)どうしも、互いの顔や反応はダイレクトに見えない。
映画館よりもテレビ、テレビよりもレンタルビデオ(DVD)、さらにネットと、視聴者の「個人化」は今も進んでいる。

現在は【3】が主流だが、【2】と【1】を好む人もいる。
「観衆の一部になる楽しみ」を知らない人は、京劇や能楽・歌舞伎も楽しめないかもしれない。
参考外部ミニリンク
中国語による「俳優」の5大分類。
日本の「歌舞伎」「能狂言」や、中国の「京劇」などを専門に演ずる「戯曲演員」は世界的に見ると特殊。
中国と日本以外のアジアの国ではどうか、考えて見よう!



歌舞演員オペラ歌手やバレリーナも含む。
話劇演員セリフ中心の舞台劇。「相声演員」(落語家、漫才師)とも近縁。
戯曲演員伝統劇。日本の歌舞伎や中国の京劇など。
影視演員映画(電影)とテレビ(電視)の俳優。
配音演員いわゆる「声優」。