2025年度行事報告
シンポジウム オープンアクセスと大学図書館
2025年6月14日(土)、明治大学駿河台キャンパスリバティータワー1103教室にて「2025年度明治大学図書館情報学研究会シンポジウム オープンアクセスと大学図書館」が開催されました。今回のシンポジウムでは、明治大学図書館の矢野恵子氏、帝京大学教授の上岡真紀子氏、明治大学大学院博士後期課程の松野南紗恵氏にご報告いただきました。参加者は本学司書課程・司書教諭課程受講生41名、外部聴講者29名の計70名に上り、本学文学部の齋藤泰則専任教授の開会挨拶の後、報告に移りました。
矢野氏は「オープンアクセスと大学図書館 ―明治大学の取り組み―」と題し、現在担当されている「オープンアクセス」事業について、基本的な情報と大学図書館が果たすべき役割についてお話いただきました。自身の経験をもとに、本学においてオープンアクセスに関連する機関とのやり取りや、システム整備をどのように進めてきたのかなどを説明いただきました。また、オープンアクセスの活用により、本学教員や大学院生等の多数の特色ある研究成果を機関リポジトリに掲載できたことも紹介されました。
上岡氏は「米国の大学図書館とオープンアクセス」と題し、米国の大学図書館が抱えるオープンアクセスに関する諸問題について、実例をあげながら、従来までの制度がどのように変化したのかをお話いただきました。米国では論文だけでなく論文執筆で使用したデータも含めて包括的な公開を行っていることや、多くの大学図書館でデータマネジメントサービスを提供していることを説明されました。また、大学図書館が総合的かつ包括的なオープンプラクティス全体を支援するため、多様なサービスの提供を企図していることも紹介されました。
松野氏は「米国調査報告 ―オープンアクセスに関する3大学の取り組み―」と題し、米国の大学におけるオープンアクセスやオープンサイエンスにおいて大学が果たしている役割を、視察結果をもとに事例を含めてお話いただきました。機関リポジトリの登録方法や研究データ管理の支援体制、大学の出版業務に関して、大学図書館が研究サイクル全体に対して支援する視点を持つことの重要性を強調されました。また、図書館員が著作権に関わる業務を補助していることや、図書館では論文や研究成果に加え様々な資料のデジタルアーカイブ化がなされていることも紹介されました。
報告後、大学図書館とオープンアクセスについて報告者間で意見が交わされ、国内外の事例と照らし合わせ、今後のオープンアクセスの進展に関して様々な点が確認されました。質疑応答では、学問分野別のオープンデータ化の進展状況、リポジトリシステムの開発などについて、多様な質問が寄せられ、報告内容の理解が進みました。報告者ならびに参加者の皆様、ご協力ありがとうございました。
文責:佐藤伊織(明治大学大学院)
第1回例会オーテピア高知図書館―私たちの現在地とアメリカで考えた未来―
2025年7月12日(土)、明治大学駿河台キャンパスリバティタワー1103教室にて「明治大学図書館情報学研究会2025年度第1回例会」が開催されました。今回の例会では、「オーテピア高知図書館―私たちの現在地とアメリカで考えた未来―」と題し、オーテピア高知図書館の八田裕子氏にご講演いただきました。参加者は本学司書課程・司書教諭課程の受講生36名、外部聴講者16名の計52名に上り、本学文学部の齋藤泰則専任教授の開会挨拶の後、八田氏の講演に移りました。
講演は、次の2つのテーマを中心に行われました。一つは、八田氏の勤務先であるオーテピア高知図書館の設立経緯と特色ある取り組みについてです。県立・市立という役割の異なる2つの図書館を合築し、共同運営することの困難さや、複合施設として他機関と協力することで多様な利用者にサービスの提供が可能となったことをお話いただきました。
もう一つは、日本図書館協会がアメリカのアリゾナ州図書館協会と行う交換研修プログラムに参加し、現地での図書館視察で得た経験についてです。具体的には、以下のような、幅広い利用者に向けた、さまざまなサービスを提供している状況をお話いただきました。アリゾナ州の図書館では、玩具やパソコン、学習支援のための機材など図書以外の資源を貸し出したり、生活に必要な物品や食事を無償で提供したりしていました。また、生活に関する各種相談窓口を設置したり、移民に向けたリテラシー教育を行ったりしていました。
八田氏は、アメリカでの図書館視察を通して、図書館の理念や地域の課題をもとに、従来の枠にとらわれないサービスを提供していく必要性を学ぶことができたと講演を結ばれました。
質疑応答では、オーテピア高知図書館の共同運営下での選書や資料管理の連携状況、近年のアメリカでの禁書や資料提供の自由に関する問題、レファレンスサービスを充実させる取組事例など、講演内容から派生した質問が寄せられ、報告内容の理解が進みました。
本講演では、オーテピア高知図書館の取り組みや、アメリカの図書館が提供しているさまざまなサービスの現状や課題を知るよい機会となりました。八田氏をはじめ、参加者の皆様、ご協力ありがとうございました。
文責:佐藤 伊織(明治大学大学院)
第2回例会図書館の安全を考える―自然災害の被害を教訓にして―
2025年10月18日(土)、明治大学駿河台キャンパス リバティータワー1154教室にて「明治大学図書館情報学研究会2025年度第2回例会」が開催されました。今回は「図書館の安全を考える―自然災害の被害を教訓にして―」と題し、株式会社栗原研究室代表取締役であり、日本図書館協会図書館施設委員会および災害対策委員会の委員、また本学の文学部兼任講師でもある川島宏先生にご講演いただきました。参加者は本学司書課程・司書教諭課程の受講生48名、外部聴講者5名の計53名に上りました。本学文学部の齋藤泰則専任教授の開会挨拶の後、川島氏の講演が行われました。
講演では、まずユニバーサルデザイン(UD)の観点から、図書館には法的にバリアフリー化が義務づけられており、誰もが利用しやすい施設づくりが求められていることが紹介されました。ピクトグラムやスロープ、多機能トイレなどの設備事例に加え、古い建物に残る「バリアフル」な構造の課題についても具体例を交えて説明されました。
続いて、火災・地震・水害など、自然災害における図書館の被害事例が紹介されました。諫早市森山図書館の火災や、阪神淡路大震災・東日本大震災・能登半島地震・熊本地震での被害の様子が語られ、特に東日本大震災の津波によって甚大な被害を受けた大槌町、陸前高田市、南三陸町などの事例では、人・資料・施設の安全を総合的に守る重要性が強調されました。
災害への備えとして、①立地の安全性、②建物の安全性、③建物周辺の安全性、④家具類の固定、⑤落下物の危険性、⑥非常時の備え、という6つの確認事項が提示されました。また、車椅子利用者の避難経路確保など、利用者の多様な状況を考慮した安全設計の必要性についても言及されました。 さらに、近年増加している水害については、地震よりも資料を失うリスクが高いと指摘されました。常総市図書館や西日本豪雨の事例をもとに、排水経路の点検、ハザードマップの活用、地下設備の浸水対策などの実践的な備えが紹介されました。特に、建設地の地歴を知ることが防災の基本であると述べられました。 質疑応答では、複合施設内に設けられる図書館の避難所機能について質問があり、災害時の図書館の危険性とその在り方について考える機会となりました。
本講演では、数多くの災害事例を通して、図書館が直面するリスクを具体的に学ぶことができました。川島先生は、「災害を知ることが備えの第一歩です」と結ばれ、参加者に防災・減災の意識を日常から高めることの重要性を呼びかけられました。今回の講演は、図書館施設の安全性を考えるうえで大変貴重な機会となりました。川島氏をはじめ、参加者の皆様、ご協力ありがとうございました。
文責:伊藤 千夏(明治大学大学院)

