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第1回例会 ドキュメント理論とデジタル保存

2023年6月24日(土)、明治大学和泉キャンパス第一校舎にて「明治大学図書館情報学研究会2023年度第1回例会」が開催されました。今回の例会では、「ドキュメント理論とデジタル保存」と題し、聖学院大学教授の塩崎亮氏にご講演いただきました。参加者は本学司書課程・司書教諭課程の受講生を中心に27名に上り、本学同課程の三浦太郎専任教授の開会挨拶の後、塩崎氏の講演に移りました。

講演では、塩崎氏が現在研究している「デジタル保存」というテーマ、とくにブログ記事やSNSの記事・動画像など、個人的なデジタル形式のドキュメント(以下、PDD)に焦点を当てて、その扱いの現状と課題についてお話いただきました。前半では、「デジタル保存のWhat」として、保存することとはどういうことなのか、そして図書館などの文化遺産機関はそもそも何を保存しようとしているのかについて理論的にお話いただきました。後半では、「デジタル保存のWho」として、PDDを誰が保存しようとしているのか、またはそれらパーソナルな文書の保存について個人はどのような反応を示すのかについてデータ等をもとにお話いただきました。PDD保存の取り組みについて、欧米では、図書館などの文化遺産機関が積極的に進められている一方で、日本ではいまだに遅れをとっている現状が明らかにされました。こうした遅れについて、「第三者」が個人的な文書を保存することに対する人々の拒否意識があることを塩崎氏は分析します。PDDはAIの学習データとなりうるので、その保存の重要性は今後増す一方で、その保管の責任の所在などの問題が現れる可能性も指摘されました。

質疑応答では、塩崎氏が想定する「第三者」の範囲、さらに氏がPDDを重視しはじめた経緯などの質問が出ました。これら質問への回答のなかで塩崎氏は、人々がインターネットに依存する現在において、PDDが将来の歴史研究に資する可能性と展望についても補足されました。本講演では、今後重要性がより注目されるPDDのデジタル保存に関する現状と課題を知るよい機会となりました。塩崎氏はじめ、参加者の皆様、ご協力ありがとうございました。

文責:成地 草太(明治大学大学院)

講演会 ある図書館人生の今

2023年10月28日(土)、明治大学和泉図書館ホールにて「明治大学図書館情報学研究会2023年度講演会」が開催されました。今回は、「ある図書館人生の今」と題し、元国立国会図書館長の大滝則忠氏にご講演いただきました。参加者は本学司書課程・司書教諭課程の受講生を中心に35名に上り、本学同課程の三浦太郎専任教授の開会挨拶の後、大滝氏の講演に移りました。

大滝氏は、1968年から国立国会図書館職員として勤務し、第15代国立国会図書館長(2012–16年)も務め、現在は近代日本筆禍(発禁)図書総目録の編纂をライフワークとされています。本講演では大滝氏の約半世紀にわたる図書館人生を振り返り、お話いただきました。

国立国会図書館就職の後、当時20代の大滝氏は同館の閲覧禁止本の存在に気づき、またアメリカの大学図書館に2年間出向した経験で、図書館を一生の仕事場にすると決めます。以後、国立国会図書館員として様々な業務に携わり、2000年代初頭には関西館、国際こども図書館、電子図書館の同時進行3大プロジェクトに同館をあげて取り組んだ熱気に満ちた時代も経験されます。

国立国会図書館には文化財保護のために国内出版物を網羅的に収集し続ける使命があるために、その歴史は書庫増設の歴史でもあったと大滝氏は説明します。この社会の記憶装置である図書館で働く職員は、その資料を後世の利用者につなぐ使命があるとも言います。そのためデジタル情報化に伴う利用者ニーズの急速な変化を受け、図書館のデジタル化に関する図書館員たちの努力についても語ってくださいました。

最後に大滝氏は、図書館員は利用者と本を繋ぐために好奇心と想像力を持ち合わせる必要があると強調します。また各自の専門分野を深める重要性にも言及されました。

質疑応答では、伝統的な図書館の仕組みと新しいデジタル情報社会の仕組みとの間の接続について、現在も国立国立国会図書館で閲覧禁止本はあるのか否か、さらに館長時代に果たすことができなかった仕事などの質問が出ました。

本講演は、大滝氏の個人史にとどまらず、国立国会図書館史に関わる口述史料としての側面も持ち合わせる貴重なお話だったと感じられました。大滝氏はじめ、参加者の皆様、ご協力ありがとうございました。

文責:成地 草太(明治大学大学院)

講演会

第2回例会 『日本の図書館の歩み:1993-2017』資料・統計篇の編纂とその周辺:ある事務局職員の随想より

2023年12月16日(土)、明治大学駿河台キャンパス12号館にて「明治大学図書館情報学研究会2023年度第2回例会」が開催されました。今回の例会では、「『日本の図書館の歩み:1993-2017』資料・統計篇の編纂とその周辺:ある事務局職員の随想より」とのテーマで、大正大学非常勤講師・聖徳大学兼任講師の佐藤裕亮氏にご講演いただきました。参加者は本学の司書課程受講生を中心に33名に上り、本学司書課程・司書教諭課程の三浦太郎専任教授の開会挨拶の後、佐藤氏の講演に移りました。

佐藤氏は、明治大学大学院で中国史を専攻されたのち司書資格を取得、2015年から2023年まで日本図書館協会に勤務され、現在は複数の大学で非常勤講師を務められています。講演ではまず、『日本の図書館の歩み:1993-2017』編集委員会事務局を担当する以前に取り組んでいた、全国図書館大会事務局での仕事や、明治期の漢詩人について調査した際の経験などに言及されました。

続いて、日本図書館協会が周年記念などの節目に編集・刊行した協会史や年表が紹介され、このうち『近代日本図書館の歩み』と『日本の図書館の歩み:1993-2017』について、構成・分量等の考察を通じて、『近代日本図書館の歩み』では地方篇の分量が多いこと、『日本の図書館の歩み:1993-2017』は『近代日本図書館の歩み』の後続編という位置付けではあるものの、第1部に課題篇を新設したり、第2部に協会史と年表を集約したりするなど、見直しが行われていることなどを指摘されました。

『日本の図書館の歩み:1993-2017』第2部資料・統計篇の編纂については、協会内に『近代日本図書館の歩み』編纂時の資料があまり残されていなかったことから『近代日本図書館の歩み』第3部資料篇の分析から始めたこと、資料の収集は『図書館雑誌』などの公刊資料に拠ったこと、レファレンスツールとして役立つものになるよう意識したことなどを指摘されたうえで、資料・統計篇の特色として、『近代日本図書館の歩み』の第3部資料にあった「組織」を削ったこと、「事業」に関する記載を厚くしたこと、「典拠」を明記するよう努めたこと、を挙げられました。

講演後の質疑応答では複数の質問が寄せられ、『日本の図書館の歩み:1993-2017』刊行に際して用意した草稿のすべてを掲載できなかった点については、予算などの制約から紙幅に制限があり難しかったこと、全国図書館大会での経験については、関わる人の数が多いので連絡・調整に気をつかったことなどを補足されました。ご講演者はじめ、参加者の皆様、ありがとうございました。

文責:西垣 翔(明治大学大学院)

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