2013年度行事報告TOPへ戻る

第1回例会 『知の広場』の著者が誘う欧州図書館紀行

2013年5月30日(木)10時45分から、明治大学和泉キャンパスの第1校舎地階007教室において、明治大学図書館情報学研究会主催(共催:日本図書館協会図書館学教育部会)による本年度第1回例会「『知の広場』の著者が誘う欧州図書館紀行」が開催された。本研究例会は、『知の広場:図書館と自由』(萱野有美訳,みすず書房,2011年)の著者であるアンニョリ・アントネッラ氏をお迎えし、イタリアをはじめヨーロッパ各国やアメリカなどの図書館状況を紹介いただくことを通じて、日本における図書館サービスのこれからを考えることを目的としたものである。参加者は138名(うち一般参加が61名)であった。(同時通訳:多木陽介 氏)

アンニョリ氏は、1977年にヴェネツィアにスピネア図書館を開館し、2000年まで館長を務めたのち、2001~08年に学術部長としてペーザロの新図書館の計画・実現に携わった。その後は図書館アドバイザーとして活躍されてきたが、こうした経験を踏まえて、本講演ではまずイタリアの図書館制度について紹介された。

イタリアには、国立の名前を冠した複数の図書館、県立・市立図書館、大学・学校図書館、宗教団体の図書館など、多様な図書館が設置されているが、欧米で一般的な「公共図書館(パブリック・ライブラリー)」の呼称は、実は一般の人びとの間になじみが薄い。また今日では、フランスやイギリスで「メディアテーク」「アイデアストア」などの呼称が使われ始めており、図書館はただ単に本を読んだり貸したりする以上の機能を持っている。そもそも「図書館」という言葉自体、再検討が必要な時期にさしかかっているという。

ヨーロッパでは近年、深刻な経済危機に陥っているが、その影響をあまり受けなかった国々を見ると、みな文化に大きな投資をしてきた国であるとも、アンニョリ氏は指摘している。商業モデルにだけ沿って国を進めていくと、最終的には経済的にも大きな被害を受けてしまう。地域に図書館を広げることで、普段から本を読まないような無知な人びとを助け、支えるネットワークを築き、困難を克服する素地が形成されるというのである。

また、最近では古い建物を新しく図書館へ生まれ変わらせるリノベーションの動きも盛んである。しかし、これらの建物は決してサステイナブルな、つまり、地球環境を保全しつつ持続可能な観点からは建てられていない。アンニョリ氏はこれまで数多くの新図書館立ち上げのプロジェクトに関わってきたが、そうした際、行政サイドや建築家、技術者たちに対して必ず、建物をつくる費用だけではなくて、今後のすべての運営面でいったいどれだけの予算が必要となるかを、正確に試算する必要性を説いてきたという。

さらに具体的な図書館サービスに話しは及んだが、そこでは例えば、主題分類の体系について、100年以上も前の思想に基づく分類法を順守するのではなく、現代の人びとの関心に沿って本を並べることが大事であると指摘されたり、これからの図書館員養成システムについて、いわゆる伝統的な図書館員像を転換し、集団内でいろいろな形で知的相互作用を促進する「ファシリテータ」の概念を念頭におくべきといった指摘もなされた。

最後に今後の図書館の課題として、設計・運営・評価の諸側面において、市民をはじめ、政治家、技術者など、さまざまな人びととの間に協力関係を築くことが重要であること。また、業務サービスの合理化を前提としながら、図書館員には人びとの間に入っていく「ウォーキング・ライブラリアン」の性格が一層求められていくことが指摘された。そして、民間セクターが図書館サービスに参入してくる現状について、民間の業態があっても構わないが、公的なサービスが完全にとって代わられてしまうことは非常に危険である。民間企業と一緒に協力する際、大切なのは、すべての市民に同じ権利とサービスを提供し続けることであるとアンニョリ氏は述べ、講演は締めくくられた。

講演後、会場から多くの質問が寄せられ、所定の時間内に収まりきらないほどであった(閉会後もアンニョリ氏のもとには参加者が長い列をなした)。閉会にあたり、共催団体である日本図書館協会図書館学教育部会部会長の小田光宏氏(青山学院大学)からあいさつがあり、日本図書館協会から最近刊行された『ぼくは、図書館がすき』(漆原宏編著,日本図書館協会,2013年)がアンニョリ氏に寄贈され、本例会は盛会のうちに幕を閉じた。

第2回例会 第1部『教育の場』としての大学図書館:リテラシー教育活動とその評価
第2部 本学司書課程履修生による司書職内定報告会

2013年12月7日(土)13時30分から、明治大学和泉キャンパスの第1校舎403教室において、明治大学図書館情報学研究会主催による第2回例会が開催された。参加者は、159名(本学学生158名、一般参加1名)であった。

開会の挨拶では、本研究会会長の阪田蓉子氏から、東日本大震災で被災した陸前高田市の仮設図書館について紹介があった。陸前高田市立図書館では、仮設住宅の住民の方々のコミュニケーションのスペース-茶飲み場としても機能しているという。市立図書館を中心に、現在の被災地の状況について考える機会を得ることができた。

第1部では、本学和泉図書館図書館員の矢野恵子氏による、「『教育の場』としての大学図書館:リテラシー教育活動とその評価」と題した講演が行われた。自己紹介の後、大学図書館の役割を3つの観点(教育支援、研究支援、社会への支援)から説明した。このうち、近年の大学図書館に求められる役割として「教育支援」を取り上げ、文部科学省の政策文書をもとに、「ラーニングコモンズ」や「情報リテラシー」といった学習支援が求められている状況を示した。学習支援の具体的な取り組みとして、国内外の大学図書館における取り組みを、当該大学図書館のホームページなどを参照しながら紹介した。さらに、本学図書館でのリテラシー教育と学習支援活動を取り上げ、学部間共通総合講座「図書館活用法」、各種のツアー・ガイダンス、ナビ・ステーションなどを紹介した。最後に、こうしたリテラシー教育を評価することの必要性を3つの観点(アカウンタビリティ、取捨選択と方針決定、改善)から説いた。本学図書館では、「図書館活用法」を対象に3つのフェーズ(学習達成目標の設定とカリキュラム改革、授業改善、授業効果測定)から評価を行っており、その一端も紹介された。これからの大学図書館は、学術情報の集積地としての機能を果たすだけでなく、教育に積極的に関わっていくこと、すなわち「教育の場」としての機能を果たしていく必要があるとして講演を締めた。

第2部では、来年度採用の公立図書館司書職の内定を得た本学学生(2名)が、司書職採用試験に関心のある学生を対象に内定報告を行った。具体的には、就職活動の開始から内定までの流れ、採用試験の併願状況、筆記試験(教養・専門)の勉強方法、面接試験の対策などを報告した。詳細は、2014年3月刊行の『明治大学司書課程・司書教諭課程年報』に掲載される予定である。

第1部、2部ともに、講師と聴衆との間で、活発な質疑が交わされ、図書館への採用の様子と職場のひとつである大学図書館の状況を理解するよい機会となった。最後に、本学司書課程・司書教諭課程主任の齋藤泰則氏のあいさつを以て、本例会は盛会のうちに幕を閉じた。

シンポジウム 日本とドイツの公共図書館

2013年5月18日(土)14時から、明治大学駿河台キャンパスのリバティタワー1093教室において、明治大学図書館情報学研究会主催(共催:東京ドイツ文化センター、後援:日本図書館協会国際交流事業委員会)によるシンポジウム「日本とドイツの公共図書館」が開催された。本シンポジウムは、日独の公共図書館制度の比較を通じて、日本の公共図書館サービスの今後を検討する視座を得ることを目的としたもので、基調講演者としてドイツからケルン市立図書館長のハンネローレ・フォークト氏をお迎えし、日本からは両国の法制度に詳しい国立国会図書館関西館の渡邉斉志氏、および、日本の公共図書館における意思決定過程の研究を進めている大妻女子大学准教授の松本直樹先生に、それぞれ登壇いただいた。参加者は88名(うち一般参加が20名)であった。

開会にあたり、フォークト氏招聘に尽力いただいた東京ドイツ文化センター図書館長のバーバラ・リヒター氏からあいさつがあり、本シンポジウムを通じて日独図書館の相互理解がさらに深まることへの期待が示された。

松本直樹氏は「日本の公共図書館の概況」と題する発表を行い、まず、日本の公共図書館の根拠法としての図書館法の意義、統計からみる日本の図書館の近年の推移、サービスが多様化している現状について紹介した。貸出点数が図書館設置数を上回って増加してきた近年の状況を説明し、人口減少社会を迎え、今後は設置数、貸出数とも右肩上がりの状況に変化が生じる可能性を指摘している。さらに、各種サービスの実施状況、空間としての図書館の魅力について言及した。

渡邉斉志氏は「図書館と法律:ドイツの動向から見えてくるもの」と題する発表を行い、外国の事柄を学ぶ意義から説き起こし、それは、自分の「ものの見方」を相対化し、改めて考え直すことができる点であると指摘した。続いて、ドイツにおける図書館と法律の関係について述べ、歴史的に図書館は州の管轄事項であり、「法律で縛る」必要があるという認識は薄かったが、近年ではそうした認識が広まりつつあると説明した。その理由として、渡邉氏は、地方自治体が支出の配分を見直す状況下で図書館予算が縮小しており、法律による縛りがないことで社会的優先順位が低かった点が再検討され始めたためであると述べている。そして最後に、司書資格を得るために学ぶことの意義は、図書館だけを見るのではなく、社会全体を視野に入れて物事を考え、必要があればそのあり方を変えてゆくことにあると、学生たちにメッセージを送った。

その後、フォークト氏により「つねに一歩前へ!」と題する基調講演が行われた。フォークト氏は5年前からケルン市立図書館長を務めており、現在、中央館のほか、11の分館、1台の自動車文庫(BM)、「公園ミニ図書館」1館のサービスを監督している。とくに力を入れているのは、「公園ミニ図書館」のような、従来のサービス提供の枠を超えたアウトリーチ活動であり、本シンポジウムの2週間後には、ケルン市の地下鉄駅校内に自動貸出機を設置するサービスを始めることも予定されているという。

フォークト氏は図書館長として重視している活動のひとつとして、マーケティング効果を高め、スポンサーシップを募ることを説明した。ケルン市の図書館財政は95%を市から拠出されているが、残り5%はスポンサーシップにより賄われている。「公園ミニ図書館」の蔵書は市民からの寄贈によって支えられており、駅の自動貸出機は出版社からの提供を受けている。ワイン会社や塗装会社ともスポンサー契約を結んでいるほか、映画館とのスポンサー契約では、単行書や文庫を図書館に寄贈した市民に対し、夏期に映画館の入館料を半額にするサービスも行っているという。そうした取り組みの際に、フォークト氏は、図書館が内外の関係者を「ポジティブにびっくりさせる!」ことが大切だと指摘した。

また、図書館はサービスを提供する機関であり、スタッフ1人1人が図書館全体のイメージを形作るものである。それぞれが顧客/利用者と関係をつくるような「リレーションシップ・マーケティング」が重要だとも述べている。不満を表明する利用者は5%程度にすぎないが、コミュニケーションの調査によれば、人は楽しかった体験を他人に伝えることの4倍の広さで不快であった体験を他人に語ると言われる。図書館でも、いわば「苦情マネジメント」への対応を避けては通れず、苦情が寄せられた場合、できるだけ早く反応することが求められると指摘した。

今後は学習環境の変化とともに、顧客サービスの評価も変わってくるであろうともフォークト氏は述べている。公共図書館における本を貸し出す役割はむしろ減っていくのではないかとの見通しとともに、公共図書館が「市民のもの」として、その仕事場にも居間にもなっていく必要があると主張した。利用者アンケートにおいて「どういった図書館にしたいか」と尋ねたところ、最多は「新しいメディアを使って勉強したい」という回答であったが、「休憩したい」という回答も少なからず寄せられた。今後は、利用者がお互いに助け合い、“Learning by Doing”によって学びを広げる手助けが図書館にとって必要となる。

フォークト氏は、また、図書館はさまざまなメディアを所蔵する「文化のショーウィンドウ」であると同時に、子どもや若者、大人、お年寄りといった多様な世代が知識を伝え合う「出会いの場」でもあると述べている。年長者が自分の経験を語るだけでなく、子どもたちがiPadを使って作成した楽曲を、逆に年配者が学ぶことができることなどは、その一例である。「シルバーゲーマー」たちに図書館で楽しんでもらうこと、ツイッターを活用した詩のコンテストの実施、オンライン上での電子書籍の貸出サービス…、デジタル資料を活用しながら、世代間の出会いの場として機能していくことが、今後の図書館像にとって鍵を握ると、フォークト氏は結語に述べている。

基調講演後、質疑応答では、「道路のことしか考えない市長に、どうやって図書館の必要性を語りかければよいか」といった質問が会場から寄せられ、フォークト氏は、相手(政治家)を知り、来館者(有権者)の声を伝えることが大切さだと述べた。最後に、明治大学司書課程・司書教諭課程主任の齋藤泰則氏のあいさつを以て、本シンポジウムは盛会のうちに幕を閉じた。

見学会 国立国会図書館および図書館流通センター見学会の報告

2013 年 8 月 7~8 日、国立国会図書館(NDL)および図書館流通センター(TRC)の見学会を実施した。これは、山口大学人文学部・人文科学研究科の松田泰代先生のお誘いを受け、山口大学と合同で実施したものである。参加者は7日(NDL)が10名(うち本学学生 6 名)、8日(TRC)が 9名(同4名)であった。

7 日(NDL)は、まず案内ビデオ視聴ののち、館内(本館・新館)の要所を見学し、利用方法や所蔵資料について説明を受けた。その後、一般では立入ることのできない地下8階の新館書庫へ入った。NDLでは所蔵資料の多くは書庫で管理されており、利用者は館内設置の端末などから閲覧申込を行い、カウンターで資料を受け取るようになっている。東京本館には約2,500万点の資料が所蔵されており、一日8,000点近くもの閲覧申込があるが、申込から資料提供までの所要時間は平均20分ほどとのことであった。

書庫では、この膨大な量の資料から迅速かつ正確に利用提供するための工夫が随所に見られた。例えば、デジタル化済みで原本を提供する必要のない資料の棚には、一見して分かるようビニール紐が等間隔で垂らしてあることや、大量のマイクロフィルムの中から閲覧資料を取り出す際は、取り出した場所に大きなアクリル板を挿しておき、誤配架を防ぐことなどである。書架の種類も、資料の形態や閲覧頻度によって使い分けられているという。明治時代の新聞など古く貴重な資料にも案内されたが、閲覧頻度が高いものほど補修が施してあり、資料保存への取り組みを見てとれた。その後、会議室で素朴な疑問から、始まったばかりの e デポについてなど質疑応答を行い、解散となった。職員の方々には、お忙しいなか、ユーモアを交えながら丁寧にご案内いただき、感謝申し上げたい。

8 日(TRC)は、まず午前中に「TRC 新座ブックナリー」を見学した。ここでは 200万冊を超える在庫をもち、発注から返品までの在庫管理が行われている。1 日 5.7万冊の装備処理が可能であり、2012 年度には公共図書館全体の1,000万冊の装備を行ったという。見学では、図書搬入から、ピッキング(装備前に書棚から図書を抜き取る作業)、装備、フィルムコーティング、梱包まで、作業の実際を見ることができた。本を無駄にしてしまう返品を減らすために、在庫期間3か月の中で返品率10%を切る方針を掲げ、実際に10%台前半を実現していることや、装備の際に、各図書館でラベル、バーコードの位置が異なっているため、それぞれの仕様に合わせた対応をしていること、また、24時間体制を敷き、装備の際は 16ライン、150人のスタッフで臨んでいることなど、丁寧な説明を受けながらの見学であった。

午後は「TRC 本社・データ部」を見学した。まず ICタグの使い方の実際を目にし、自動貸出機で複数冊を同時に処理できることや、蔵書点検の際にリーダをかざすだけで作業を進めることができることなど、省力化の取り組みについて理解を深めた。その後、TRC-MARC作成の流れについて説明を受け、新刊図書の書誌事項の目録化作業や、主題分類や件名付与が行われている現場を見ることができた。TRCでは新刊図書発行前に取次から借り受け、発売の翌週には『週刊新刊全点案内』で紹介できる体制を整えているほか、公共図書館などの古い蔵書のMARC化や、典拠ファイルの維持・更新も行っているという。お忙しいなか、ご案内いただいたスタッフの方々には、この場を借りて感謝申し上げたい。

参加した学生たちにとっては、図書館にかかわる多様な仕事について、実地見学を通じて理解を新たにした 2 日間であった。企画についてお声かけくださった松田先生に再度御礼申し上げる。

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