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第1回例会 業務委託制度による図書館運営のあり方

2010年6月21日(月)、明治大学リバティータワーにおいて、「2010年度明治大学図書館情報学研究会第1回例会」が開かれました。テーマは、「業務委託制度による図書館運営のあり方」とし、卒業生の中川健太郎氏に、業務委託の職員として勤務する神奈川県内の公立図書館における業務委託の状況を報告していただきました。参加者は、本学の司書課程・司書教諭課程履修者や本研究会会員を中心に63名に上りました。

講演では、まず、自身の勤務する図書館の蔵書規模と排架状況、提供されているサービスの状況などが紹介され、図書館の概要を把握することができました。次に、講演の中心テーマである業務委託については、導入の経緯、導入にあたってのプラス面とマイナス面、さらに、問題点や今後の課題など、多岐にわたる内容となりました。講演では、限られた資源(ヒト、モノ、カネ)をうまく活用して図書館サービスを展開する状況を、「ありものでご飯を作るお母さん」にたとえ、「餃子の余りでニラ玉を作る」(食材は同じだが料理を変えてひと工夫すること)工夫が必要であることを参加者にわかりやすく説いていました。

最後の質疑応答では、「業務委託の図書館員に求められる資質には何があるか」「業務委託の図書館員を取り巻く厳しい状況の中で、どのようにモチベーションを維持しているのか」など、講演者と参加者たちとの間で講演内容を踏まえた活発なやり取りが交わされました。

講演は、業務委託の職員として、自身の経験に基づく構成となっており、特に司書課程・司書教諭課程で学ぶ現役の学生たちにとっては、業務委託による図書館運営の一側面を知ることのできた貴重な機会となりました。

第2回例会 第1部 福島県の公共図書館における学校支援の現状について
第2部 本学司書課程・司書教諭課程履修生による司書職内定報告会

2010年11月20日(土)、明治大学リバティータワーにおいて、「2010年度明治大学図書館情報学研究会第2回例会」が開かれました。今回の例会は2部構成とし、第1部では、卒業生の佐野有季子氏(福島県立磐城農業高等学校 学校司書)に「福島県の公共図書館における学校支援の現状について」と題して、ご報告いただきました。参加者は、本学の司書課程・司書教諭課程履修者や本研究会会員を中心に65名に上りました。

講演では、まず、福島県立図書館の蔵書規模とレファレンスサービスの状況が紹介され、図書館の概要を把握することができました。次に、貸出を中心とする学校図書館支援のうち、授業や調べ学習で利用可能な114テーマを設定のうえ、各テーマ40~50冊の関連図書を1セットとし、小・中・高等学校の図書館に貸出す「学校図書館へのテーマ別セット貸出」、1年間で図書1,000冊までの貸出を行う「学校図書館活動支援貸出」の状況が紹介されました。最後に、県内の高等学校図書館の現状として、学校司書の配置状況、近年の図書購入費の推移、ならびに、蔵書管理システムの導入状況について、データをもとに説明されました。

質疑応答では、「学校司書として司書教諭に望むことはあるか」といった司書教諭の役割に関する質問や「生徒たちに学校図書館をどのようにPRしているのか」など、講演者と参加者たちとの間で講演内容を踏まえた活発なやり取りが交わされました。

佐野氏は、県立図書館での勤務経験も有しているため、講演はすべての県民へ図書館サービスを行うといった観点も含めた構成となっていました。そのため、参加者にとっては、県立図書館による相互貸借や貸出サービスの状況についても知ることができ、貴重な機会となりました。

第2部では、来年度の公立図書館司書職採用の内定を得た本学学生(2名)に、司書職採用試験の併願状況、試験(教養、専門、面接、集団討論など)の対策、受験した試験の状況などを報告していただきました。参加者は、本学の司書課程・司書教諭課程履修者や本研究会会員を中心に29名でした。報告は、自身の経験にもとづく具体的な内容となっていたため、これから司書職採用試験の受験を検討している参加者に大いに参考になりました。詳細は、2011年3月刊行予定の『明治大学司書課程・司書教諭課程年報』をご参照ください。

シンポジウム 「MLA連携の意義と課題」

2010年10月23日(土)、明治大学リバティータワーにおいて、「MLA連携の意義と課題」と題するシンポジウムが開かれました。参加者は、本学学生、本研究会会員ならびに、本テーマに関心のある方々を中心に106名に上りました。

シンポジストには、古賀 崇氏(京都大学附属図書館研究開発室准教授:配布資料)、松下 鈞氏(帝京大学総合教育センター教授)、栗原 智久氏(江戸東京博物館司書、明治大学兼任講師)をお招きしました。阪田蓉子会長による開会挨拶の後、デジタル時代の図書館、博物館、文書館のサービスにおける連携の在り方とその意義、課題について、各シンポジストから、ご講演いただきました。

古賀氏は、「『MLA連携』の枠組みを探る:日本と海外の動向と文献を手がかりに」と題して、MLA連携の枠組みを、外国の文献をもとに説明した上で、自身の考える枠組みを提示しました。最後に、MLA連携の課題と方向性を、間接サービス、直接サービス、マネジメントの三レベルから検討し、MLA連携には、人のつながりと交流が必要になるとして講演を結びました。

松下氏は、「音楽におけるMLA連繋・融合」と題して、音楽分野のMLA連繋について、作曲のプロセスを解説する中で、筆写譜や印刷楽譜といった音楽情報が生成されることを解説しました。最後に、音楽分野におけるMLA連繋の動向を踏まえた上で、将来に向けてMLA連携を推進するためのアクションプランを提示しました。

栗原氏は、「一博物館図書室からみたMLA連携の意義・課題・在り方」と題して、自身が勤務する江戸東京博物館図書室における事例を通して、DBの作成による博物館資料と図書資料の一元化、関連機関とのOPACによる横断検索の実現など、自館の内外における連携の状況を解説しました。最後に、連携の目的、目標、範囲、方法などの観点から、MLA連携の課題を提示しました。

次に、本学文学部の齋藤泰則教授のコーディネートによる、パネルディスカッションが行われました。パネルディスカッションは、聴衆から寄せられた質問に発表者が答えるかたちで進められました。たとえば、古賀氏には「MLA連携の要因として資料の多様化を挙げていたが、図書館がどこまで資料として収集すべきと考えているのかを聞きたい。」といった講演内容をより深化させた質問が寄せられました。

今回のシンポジウムでは、参加者にとって、具体的な事例を通してMLA連携の実情と課題を知ることのできた貴重な機会となりました。

訪問調査 MLA連携に関する訪問調査を行いました

2010年10月28日(木)および29日(金)、MLA連携に関する研究調査を目的とし、京都国際マンガミュージアム、広島市まんが図書館、岡山県立図書館へ訪問調査を行いました。

10月28日(木)、京都国際マンガミュージアムを訪問しました。京都国際マンガミュージアムは、京都市と京都精華大学の共同事業であり、博物館的機能と図書館的機能を併せ持った施設です。まず研究員の表智之氏に館内を案内していただいた後、研究統括室長の吉村和真氏、表氏、運営統括室長の安部一郎氏にインタビューを行いました。インタビューは、設立の経緯から資料の収集方針、レファレンス、利用者層など多岐に渡りました。その中で見えてきた特徴と言えるものが、研究のための利用を第一に考えマンガ資料を取り扱っているということです。開架の資料はすべて複本であり、閉架の資料は保存を考えて、研究者しか閲覧することができません。収集方針について、マンガ資料の中でも特に現物が残りにくいマンガ雑誌を重点的に収集しているというお話もあり、マンガ研究のために必要となる資料を保存し残していくことを、重要な目的としていることがわかりました。

10月29日(金)、広島市まんが図書館を訪問しました。広島市まんが図書館は、全国で唯一の、公立のマンガ専門図書館です。まず主任の小西清美氏に開館前の館内を案内していただいた後、館長の小林郁治氏と小西氏にインタビューを行いました。半月型の館内には書架が並び、棚には奥と手前に2列になりながらもマンガだけがぎっしりと排架されています。元は中央図書館の閲覧所として造られ、床面積が小さく増築も不可能なため、苦肉の策として2列での排架となったそうです。資料は利用者への提供を第一に考えられており、ホチキス止めなどの装備がしっかりと施されていました。インタビューはこちらも多岐に渡りましたが、その中でMLA連携の事例をお聞きすることができました。レファレンス質問を受けたとしても、対象資料が貸し出し中のことが多いため、現物確認が必要な場合は博物館を紹介する、というような連携協力が行われているそうです。

京都国際マンガミュージアムと広島市まんが図書館、どちらもマンガ資料の閲覧・保存を行う施設として知られていますが、その目的や資料の扱い方は大きく異なるものでした。

同じく10月29日(金)、岡山県立図書館を訪問しました。岡山県立図書館は、「デジタル岡山大百科」という電子図書館システムを推進しており、図書館という枠を超えた地域情報ネットワークを構築しています。まず資料情報課長の森山光良氏とメディア・協力課長の清友久美子氏にインタビューを行い、その後お二人に館内を案内していただきました。デジタル岡山大百科の構想は1996年に始まり、当時はまだ珍しかった県内図書館の横断検索システムや郷土情報のデータベースの構築などが進められました。 現在は利用者参加型であり、図書館側から提供するだけでなく、コンテンツや映像を利用者からも募集しています。館内にはメディア工房と呼ばれる、データの編集・加工だけでなく映像の撮影までできる施設があり、デジタル岡山大百科の利用の幅を広げています。目録情報だけでなく、資料の本文やコンテンツの内容も閲覧できる郷土情報データベースは、博物館のデジタルアーカイブでよく目にする手法です。まだMLA連携という概念のなかったころから、図書館だけにとどまらない情報ネットワークを構想・構築したということは、先見の明と言えるものではないでしょうか。

今回の研究調査では、MLA連携を主題として、直接もしくは間接的に図書館の枠を超えた取り組みを行っている図書館・博物館を訪問しました。今回の訪問調査を通して、これからのMLA連携の課題と可能性を把握することができました。

文責:山口 美咲
      (明治大学 文学研究科臨床人間学専攻 臨床社会学専修臨床教育学コース(当時))

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