卒研を始める前に(ver.2.2 2010.4.2)

雪氷研を希望する学生へを初めに読んでください。

答えのないことに挑むということ

卒業研究、つまり、「研究」は「物理実験」や「授業」とは異なり、答えは分かっていません。また、答えに到達するまでの手順(やり方)も分かっていません。みんなはこれまで答えのある問題に立ち向かってきました。答えの分からない未知の現象、手順が示されていない場合にどうしたらよいのでしょうか。
まず、研究においては、答えにたどり着くことを急ぎすぎてはいけません。手順が確立されていないところから始めるので、実験上のさまざまな問題・トラブルが付きまといます。これを放置したまま先を急いでも、後になってつじつまの合わない部分、研究データとしてあやしい部分が出てきてしまいます。つまり、問題が発生したスタート地点に戻ってやり直しになります。

新発見という目標に向けてがんばっている君たちにとっては、うまくいかない問題点というのはがっかりする要因と思います。しかし、問題が発生し、それを受け止めることができれば一歩前進です。問題が生じることは、克服すべき第一の目標を設定できたということです。卒業研究は、どれだけ多くの困難にぶつかり、それを真正面から考え続け、解決したかが重要です。このような、一歩一歩の前進が一番高い評価が得られる研究です。困難な実験は、まだ誰もその先を見たことがない未開の地へと踏み込むことなので、何かおもしろい発見があるのではという期待感がとても高いものです。悩んだ期間が長ければ長いほど喜びも大きいものです。

このためには、自分が抱えている問題を考え続けることが必要です。ところが、24時間365日解けない問題を考え続けるなんてできません。気力が持ちません。
大切なことは、頭の中に考えなければいけないことの引き出しを作ることです。机に向かって考える必要はありません。通学中の電車の中、ご飯を食べているとき、お風呂に入っているとき、布団に入って寝るまでの時間、思いついたらいつでも引き出しを開け考えることです。いつでも疲れたら諦めてしまっていいです。でも、いつでも、思い出したらまた考え始めてください。その繰り返しにより、自分にとって一番「ひらめき」を得やすい時間や方法を徐々に見つけ出してください。私はなぜか夜中の3時頃に良くひらめきます。朝起きて忘れてしまうといけないので、思いついたことはすぐにメモを取るようにしています。

研究を始めて間もない頃のひらめきは、勘違いであることも多々あります。夜中の3時にひらめいたことは翌日考えるといまいちだったこともあります。よくよく調べてみると世界の誰かが既に明らかにしてしまっていることかもしれません。「ひらめき」から「新発見」にたどり着くには、根気が必要ですので、とにかくあきらめずに頑張るしかありません。

卒業後にどのような進路に進もうとも、問題を克服するための鍛錬はとても役に立つと思います。社会に出て行なう仕事は、答えのない中で、自分のやり方で立ち向かっていくしかないのですから。

メモを取る

教員や院生や友達のアドバイスや議論から分かったこと感じたこと注意すべきことなどなど、大事なことは必ずメモを取りましょう。さらに、頭の引き出しに入れておいて、いつでも思い出すたびにその意味を考えて、実験をして検証し、次回のミーティングや報告書では、どんなことでも良いので、自分の考えやその結果をアピールしてください。

大切なことのメモを取らず頭で記憶しておこうとすると必ず忘れますし、思考が深まりません。問題を解決しながら進んでいかないと、必ず後になってそれが大問題になってしまいます。聞き流して同じことを指摘されるようではだめですよ。


他のゼミ生の研究にもヒントが

ゼミや報告会、あるいは日常の研究室で、他の人の研究にも大いに関心を示して議論してください。人がやっている全く別テーマの研究からヒントを得て、自分の実験でも真似してみる。これは大いに結構なことです。また、他の人が行き詰っている部分や、どうやってそれを克服したか、これも自分の研究に当てはめると、同様に問題が解決されることもあります。目的、方法が違っても、みんな結晶の成長実験を行なっているという共通性がありますから、ひらめきへのヒントはどこにでも転がっているものです。


研究の一連の流れ

研究テーマ探し(文献調査)、研究の立案、装置の開発、実験手法の確立(不具合の克服・再現性の確認など)、変数ごとに実験、結果の解析、考察、結論、学会発表、論文発表

この一連のプロセスをスタートから始めても良いし、前任者の研究を引き継いで実験からスタートしても良いです。

研究テーマ探しから自力で始めたい人へ:

完全に白紙の状態からスタートする場合には、指導教官に研究計画案を示し、納得させる(言い方を変えれば、面白がらせる)、必要があります。

結晶成長学の基礎を学びつつ、学術論文を探してヒントをつかみ、また必死に試行錯誤して、研究計画をどんどん提案してください。

ここで、どんな研究を面白いと思うか。
それは、誰もやっていないこと。
みんながやっているけど、全く違う方針でやってみる。
みんなが常識と思うことを疑って、新たな仮説を提案する。
など、オリジナリティの高い、世界で初めてを目指す研究は大歓迎です。

こちらが提案する研究から始めたい人へ

研究を行なうための大きな方針は提案します。しかし、類似の研究がないか文献調査を行い、装置の開発もしくは既存の装置の改良を行なう必要があります。また、意味のある実験データを得られるまで何度も実験に失敗するかもしれません。得られた結果がどのように重要なのかその解釈も考える必要があります。

前任者の研究を引き継ぐ人へ

この場合も、前任者の指示やマニュアルどおりやればどんどんデータが取れる、などということは決してありません。結晶作りの熟練の技を身に付けるまでは失敗の連続です。また、その失敗からヒントを得て、どう次の実験に生かすかは、やはり考え続ける必要があります。つまり、素過程をイメージです。また、新たなヒントを得るための文献調査も必要です。場合によっては装置の改良や新規開発もします。


このように、研究をどのレベルからスタートしようとも、多分みんな同様に悩み続けることになると思います。正直なところ、私にも結末は分かりません。だからこそ、どんな新発見が飛び出してくるかワクワクするのです。


研究室内での共同生活

研究室に所属するということは、グループの一員になるということです。また、研究室はみんなで共有するスペースです。このために必要な集団行動のマナーは守ってもらいます。

共同で使用する機器類(電子天秤、超純水装置、PCなど)もありますので、使用後は整理整頓や清掃を心がけてください。当然のことながら、自分の装置のまわりもきれいな状態にしておかないと、思わぬところで実験に悪影響を及ぼしかねません。また、実験装置はどれも高価なものですので大切に扱ってください。

テレビ・ゲームを禁止します。また、実験中は音楽を聞いてはいけません。五感を総動員して、頭をフル回転するのに好ましくない上に、装置の不具合など音により気づける情報を遮断してしまいます。

教員や院生から、もしくは4年生同士で研究室に関することの連絡を取り合うことがあります。メールには必ずすみやかに返信してください。研究活動や研究室運営のみならず、事務的な書類の締め切り等の重要な連絡もありますので注意してください。
一方的な連絡の場合と、返信を要するメールの違いは、それぞれの場合に指示します。例:メールのタイトル「連絡」、「要返信」「至急返信」などの区別をします。

「結晶作りの職人技」「素過程のイメージ力」を身に着けることが第一の目標ですが、上記のことはその前提条件として要求されます。