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雪氷研を希望する学生へ(ver.2.2 2010.4.2)

研究テーマについて

雪氷物理学研究室にふさわしい研究テーマは、雪や氷、クラスレートハイドレートのような水分子を含む結晶の研究です。このような結晶は、空の上や海の表面、海底下、生体内などさまざまなところに存在するので、目指す方向性も地球科学、環境科学、資源工学、低温生物学など多岐に渡ります。
我々は、環境や資源や生体の専門家ではありません。しかし、結晶成長学的に見て未解明な問題はまだまだたくさん残されており、結晶成長の専門家としてこれらの分野に貢献できると考えています。
また、水の結晶でなくとも、ストームグラスの研究のように「形態形成」というキーワードにより実施しているテーマもあります。結晶が作り出す精緻な対称的なパターンは、自己組織化現象の典型として、数理科学をはじめとするさまざまな分野で注目されています。

具体的な研究テーマは以下の通りですが、新たに研究テーマを立案することも大歓迎です。基本的に面白そうなことがあれば、なんでもやってみようというのが本心です。
1.THFハイドレートの成長過程の基礎的研究
2.堆積物中でのハイドレート霜柱の成長実験
3.ストームグラスの研究
4.一方向凝固法による氷の成長における形態形成

基礎知識

結晶成長学という学問を勉強する必要があります。このためには、熱力学や統計力学の知識を必要とします。大学院科目「結晶成長学特論(長島)」の聴講を大いに勧めます(先取り履修するしないにかかわらず)。

身の回りのものを見渡しても、様々な結晶が存在しています。金属や調味料(塩や砂糖など)、さらには電子デバイスの核となる半導体、時計の中の水晶振動子、医薬品、また、高分子の結晶も近年大きな注目を集めています。このように、結晶成長学は、現代科学技術の根底を支える重要な学問です。このために、雪や氷の研究を通じて結晶成長学を学ぶことは、就職して雪や氷以外の仕事に係わる場合にもその知識や考え方は大いに役に立つと考えます。

雪や氷などの水分子からなる結晶は身近な結晶であるがゆえにありきたりな結晶と思われるかもしれませんが、水分子や水素結合がもたらす特異性のために、難解な多くの問題(未来の大発見)を含んでいます。このために、雪や氷の問題をすべて解くことができれば、結晶成長学という分野の進展や結晶材料の科学にも大きく貢献できると考えます。

雪氷研向きの性格

氷の結晶は誰にでも簡単に作れます。冷凍庫に水を入れればいいだけです。言い換えると、研究で独自性を出すための第一歩は、どれだけこだわって結晶を作ったか、つまり、結晶作りの職人の技を身に付けることです。これにより、冷凍庫の中の氷とは全く異なる真の結晶の姿(サイエンスとしての価値が高い)を浮き彫りにすることができます。このために、クオリティの高い独自の装置を開発したり、既存の装置を改良する必要もあります。

また、我々はこだわりの結晶作りを追求しているがために、みんなが指示どおりに実験を行なっても、そう簡単には思い通りの結晶は作れません。言葉では説明しつくせない部分に熟練の技があります。不慣れな扱いや、ほんの少しの気の緩みなど、様々な要因により理想とする美しい結晶の生成は阻害されてしまいます。このような熟練というファクターは自分で感じ取ってもらうしかありません。このために、何日も何週間も何ヶ月も失敗を繰り返しながら技を極める向上心・忍耐力が要求されます。最後には、あなたの思い通りに結晶の成長を操ることができるようになると、実験はどんどん楽しくなっていきますよ。

結晶成長の素過程をもとに考える

思い通りに結晶を作れないときや、実験には成功したがその結果の解釈に悩むときにどうしたらよいのか。それには結晶成長の素過程を思い浮かべることで、問題が整理され、方向性が見えてきます。つまり、職人の技を目指すことが「努力」であるならば、素過程を思い浮かべることは「工夫」ということができます。努力と工夫のバランスが成功にとってとても重要です。

結晶の成長実験を行なうときに我々が目にするものは、基本的に結晶の形や大きさの時間変化です。ところが、その根底ではさまざまな物理プロセスが起こっています。結晶の成長には、熱や物質の拡散現象が伴います。また、分子は結晶の格子位置へと次々に配列しますが、結晶の表面界面構造の違いによりその速度は大きく異なります(界面付着カイネティクス)。結晶の周りの液体は流動しているかもしれません。このように、様々な物理現象が交錯しています。
 結晶成長の専門家は、このような目には見えない複雑に相互作用する素過程を頭に思い描きながら結晶の成長を理解・制御しようとしています。

結晶の根底にある見えない世界をイメージできるようになりましょう。
結晶成長の素過程:
1.結晶化の潜熱の拡散
2.結晶化物質の拡散
3.不純物の拡散
4.界面付着カイネティクス(付着成長、スパイラル成長、2次元核成長)
5.液相や気相中の対流
などなど様々です。
実験手法やサンプルの違いにより、どの素過程が支配的か異なりますので、イメージを膨らませて考えてみてください。また、結晶のでき始めである、核形成(均一核形成、不均一核形成)の制御もとても重要です。
以上のプロセスを思い描きながら実験をすると、おのずと実験の準備(溶液作り)や装置の改良(温度の制御特性、結露対策、観察方法など)にもこだわりが必要なことを感じ取ってもらえると思います。

また、さらに重要なことは、希望通りの結晶ができない場合にすぐに失敗と決め付けないこと。失敗実験であっても、結晶成長という物理現象が起きたことには変わりはありません。つまり、そこから学ぶべきことはたくさんあります。また、失敗が実は失敗ではなく、新発見の芽が出掛かっている場合もあります。つまり、目標を設定してそれを目指しつつも、新たな発見の芽を摘んでしまわないように、柔軟な対応が必要になります。

まとめ:「様々な分野への波及効果」、「こだわりの装置開発・熟練の技」、「素過程をイメージする想像力」

研究の詳細については、「研究内容」へ移動し、ご覧ください。