超電導コイル-高温超電導電磁力平衡コイルの実験研究

希土類系高温超電導線材(REBCO線材)は,10 Tを超える強力な電磁石の実現を可能にする超電導線材として期待されています。しかし,超電導コイルを製作する際に,線材の形がテープ形状をしていることに加え,機械的ひずみにより臨界電流(超電導状態を維持する最大の電流)を劣化させてしまう問題があります。

右図のヘリカルコイルは,1 T級の電磁力平衡コイルの概略図であり,その複雑な形状からREBCO線材には巻線張力,厚み方向曲げ(フラットワイズ曲げ)だけでなく,幅方向曲げ(エッジワイズ曲げ),捩れなど複雑な機械的ひずみが同時に印加されます。当研究室では,このように3次元の複雑な巻線形状を有するヘリカルコイルをREBCO線材の臨界電流を劣化させずに製作することに挑戦しています。

REBCO線材を用いた電磁力平衡コイルの製作技術を確立するために,右の写真のような巻線機を自作しながら研究を進めています。この巻線機は,ヘリカル巻線の軌道にあわせて,REBCO線材ボビンのトロイダル方向(ドーナツ型巻枠の大円周方向)への旋回角,ボビンのポロイダル方向(ドーナツ型巻枠の小円周方向)へのロール角,ボビンのヨー角(首振り),ピッチ角(傾き)の4軸同時制御を行い,REBCO線材に余分な機械的ひずみが印加されない工夫がされています。フレームや歯車などの部品は3Dプリンタによって製作しています。当研究室では,大学で製作できない場合は部品の加工依頼をしますが,設計・製図は学生自身が行い,装置の組立・調整は学生自身がすべて行います。

左の写真はGFRP製の巻枠(緑の部分)にREBCO線材をヘリカル状に巻いていく様子を示しています。巻線機を用いてREBCO線材一層分の試験巻線作業を行い,右の写真のように液体窒素冷却によるコイルの通電試験を実施しました。その結果,巻線張力を許容値以下に抑えてREBCO線材ボビンをヘリカル巻線軌道に応じて制御することで,臨界電流の劣化を伴わずにコイル製作が可能であることが確認されました。今後は,1 T級の電磁力平衡コイルの製作と通電試験に向けて研究を進めていく予定です。