2005年・報道記録一覧

On Mass Media

    死、命の言葉に −−『朝日新聞』1月8日(朝)【東京・大阪】
    「北へ渡ったヒーロー〜北朝鮮帰国事業とは何だったのか〜」  −−東北放送ラジオ番組ドキュメンタリー 3月6日
第42回ギャラクシー賞ラジオ部門選奨賞を受賞!
同番組を企画担当したアナウンサー、郡和子さんが衆議院に当選!
    ケータイで大教室の授業を変える  −− 『毎日新聞』インタラクティブ 3月30日
    「解説」歴史認識論争 −−『読売新聞』5月16日(朝)


「解説」歴史認識論争 知識埋め、冷静な目で未来構築 河野博子

『読売新聞』5月16日(朝)

 アヘンの黒い塊を次々に港に投げ入れる中国人。英国軍艦の大砲が火を噴き、軍隊が上陸してくる。香港の歴史博物館の常設展示コーナーでビデオが再現する1840年のアヘン戦争は、生々しい。

 英国は、茶など中国からの輸入超過解消のためにインド産のアヘンを持ち込み、中国がアヘンの没収廃棄など強硬策に出るや、武力を行使し、香港割譲など領土に手をかけ、不平等条約を押しっけた。その汚い手口は、高校の授業で習って以来、脳裏に残っている。

 8年前、ロサンゼルスで、アジア系に対する差別や偏見を監視する市民団体が記者会見を開き、「テレビのコメディー番組で、中国人への差別語がひんばんに使われている」とし、「オピウム・マン(アヘン男)」を例の一つに挙げた。

 「恥ずべきアヘン貿易、アヘン戦争を行った英国の血を引く米国人が、そんな言葉で中国人をばかにするのは、理解しがたい」と質問すると、団体の中国系女性は、こう答えた。「米国のほとんどの学校では、アジアの歴史を教えていない。普通のアメリカ人はアヘン戦争なんか知らないですよ」

 特定の歴史知識の欠如は、日本人にもある。

 明治大挙情報コミュニケーション学部の川島高峰助教授(42歳・専攻・近代日本民衆思想史)は先月から今月にかけ、政治学の授業に出席した324人を対象にアンケート調査を行った。「1945年8月15日に終わったあの戦争は、いつ始まりましたか」という問いには、真珠湾攻撃の1941年と答えた人が最も多く、「日本はどの国に負けたか」には88%が「米国」と答えた。「中国」は10%だった。

 設問は、「あの戦争」をどう認識しているのかを見るものだ。「日本の中国大陸・アジア侵略を背景にした米、英、中国などとの戦争」という構図で見ているのか、それとも「太平洋を舞台に米国と日本が戦った戦争」なのか。後者が多数派だった。浮かびあがるのは、中国との中国大陸での戦い、という側面への認識の薄さだ。

 「中国人は戦勝国意識が強いが、日本人はそう思っていないのではないか」と川島助教授は言う。「中国には負けていなかった」とわざわざ書き込む学生もいた。

 では、あの戦争の諸相について、もっと学校教育に取り入れ、歴史知識の欠落を補ったらいい、というほど、問題は簡単ではない。

 歴史知識・認識問題は、韓国や中国との間で外交や社会問題に発展している。日本、中国、台湾の学者の問では、「あの戦争」について、左は日清戦争にはじまる「対中国侵略50年戦争」と位置づける見方から、右は「中国の内戦に列強が巻き込まれた」とする見方まで幅があり、火花を散らす。

 「両民族間の不信は根深く、問題は長引く」。最近訪れた上海や香港で、中国の青年らは重いため息をついた。

 「この泥沼状態はとても悲しい」。中国系米国人のコロンビア大大学院生エリック・ハンさん(30)は言う。村上春樹、吉本ばなな氏の小説に魅了されたのがきっかけで、母親の反対を押し切り日本で日中両国の交流史を研究している。「国や民族の誇りの源泉を歴史に過度に求めるのは間違い。歴史は、絶えず変わるものだ」

 明治大学のアンケート。「戦後60年とあの戦争に関心がありますか」という設問に、「少しは」「非常に」を合わせ、67%が「ある」とした。一方、「戦争は正しかったか、間違っていたか」を聞くと、紋切り型の議論に距離を置く答えが目立った。

 未来の構築は、歴史論争を冷静に見る目を持つ若い世代にかかっている。

ケータイで大教室の授業を変える

『毎日新聞』インタラクティブ 3月30日

 大学の大教室での授業は、教員からの一方的な情報提供で、学生の参加意識や学習意欲に配慮されることは少ない。大教室で教員と学生のコミュニケーションをつくり、より内容のある授業を実現するため、携帯電話を活用した授業研究が行なわれている。3月30日、東京・駿河台の明治大学で開かれた「情報コミュニケーション学会」で、「携帯電話を活用した大教室の授業改善」の研究発表が行なわれ、授業の実際が紹介された。【平野秋一郎】

 明治大学の川島高峰・助教授は、携帯電話を活用した授業の研究は、2001年ころに始まり、実践事例の報告が出され、03年には携帯電話を活用した授業の総合システムも提案されていることを指摘、「研究はすでに5年くらい行なわれ、活用できる機能はほとんど提案された。これからは運用や授業の方法、コンテンツが重要になるだろう」と述べた。

 川島助教授は、自身の授業で、「アンケート」「出欠確認」「小テスト」「意見・質問」の機能を活用している。アンケートは携帯電話のサイトに質問を上げ、授業中の必要なタイミングで学生に答えさせる。学生は画面で答え、送信する。結果はすぐに表示される。川島助教授は「憲法の学習では、改憲と護憲のどちらを支持するかという問いと、憲法の条文を読んだことがあるかという問いのように2つのアンケートを行なう。すると条文を読んでいないのに、憲法について論じている、という自分について学生が気付く。2つのアンケート結果を対比して、無意識の部分を抽出して、問題点を深めることが出来る」と、方法のひとつを紹介した。

 またアンケートで学生の理解度を計って講義内容を修正したり、コミュニケーションを豊かにする工夫をしたりする。「普通の授業では理解度や意欲は挙手させたり、顔色を読んだりした。これは大教室では無理だった。しかし、携帯電話を使えば大教室でもできる。また、学生は自分の考えや理解度を他の学生に知られたくない。携帯では匿名性を保ちながら聞くことができる」と利点を強調した。携帯電話で答えさせる小テストでは、成績上位者を掲示すると競争心から学習意欲が上がったことも報告、「大教室でも客観テストもできることが分かった」と述べた。

 学生は授業中でも携帯電話で質問でき、川島助教授は自分の携帯電話に表示された質問にすぐに答える。質問や意見を書き込むフリーメッセージの欄では、1週間後に返事をすることで、コミュニケーションが生まれ、出席率が上がり、クラスとしてのアイデンティティが生まれたという。「大教室では学生の履修動機はあいまいなことが多い。携帯電話は参加意識、クラスのアイデンティティをつくり出し、学習動機を高めることが出来る。コミュニケーションをつくることが、携帯電話を授業に取り入れる最大の理由だ」と述べた。

 独協大学の和田智・助教授は「大教室での講義は、学生を引きつけるのが難しく、講義形式の授業は一方的になりがちだ。授業への参加意識を高め、学生1人1人が自分はケアされているという意識を持たせるために、携帯電話の活用に取り組んだ」と研究の動機を述べた。ITスキルの低い教員でも使えて、コストが低く、携帯電話をスイッチとして最大限に利用できるシステムを目指し、フリーソフトを活用してつくった。

 講義内容の画面の横に、学生が送信した質問がすぐに掲示される質問箱を設けた。携帯電話を使うことで、質問は普通の授業より少し増えたという。質問箱についての学生の反応は「他の学生の考えを知ることが出来た」「授業理解の助けになった」など肯定的な答えが多かった。一方で、「不便」「通信料金がかかる」といった否定的な答えもあった。教員のITスキルが低いと、授業でシステムを十分活用できないことや、情報モラルについて学生が理解していないと、言い合いが起きたり、無関係な記述が入ったりすることがあることを報告した。

 和田教授は「携帯電話の利用は、学生の興味、関心を引くための補助手段と考えている。携帯電話でなくてもいいが、現時点ではコストなどの面から現実的だ」と述べ、「授業の方法や運用のタイミングが重要だ。教員の操作スキルの学習も必要。同時に簡単な操作で使えるようシステム改善が必要だ」と述べた。

 明治大学の和田悟・助教授は、「学生は通信費用や操作の煩雑さから、携帯電話の使用を避けるようになる。操作を簡単にすること、通信費用について納得させることが必要だ。私の計算では、半期で通信費用は190円ほどだった」と述べた。さらにアンケートを実施する上での課題として「匿名だと、成績評価に関係ないからと参加しない学生がいる。参加して面白いと思うような問いを考えなければいけない」と指摘した。

花を

『朝日新聞』1月8日


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