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バイオマスプラスチック製品・生分解性プラスチック製品の公知情報のまとめ(2021年版)

2021年7月に生分解性プラ識別表示制度が始まりました。昨年に引き続き、2021年度秋前期学期(2021年9月20日~2021年11月13日)に明治大学高分子科学研究所のゼミナールでグループワークを行い、バイオマスプラスチック製品・生分解性プラスチック製品のバイオベース度や生分解性の公知情報を調査し、アップデートしました。そして、その調査結果を基に、プラスチックと社会との関わりについて議論を深めました。今回は、同期間に実施した成果の一部を公開します。

【関連資料】「2021年度明治大学環境展~ECO ACT MEIJI ~」ポスター発表資料

バイオマスプラスチック・生分解性プラスチック・生分解バイオマスプラスチックとは何かご存じですか?バイオマスプラスチックとは「原料として植物や木材などの再生可能な有機資源を用いたプラスチック」で、生分解性プラスチックとは「微生物の働きにより分解し、最終的には二酸化炭素と水にまで変化するプラスチック」のことです。さらには両方の特性を持つ生分解性バイオマスプラスチックというものもあります。上記のプラスチックを用いた製品は環境問題の抑制に繋がるとして注目を集めており、生分解性プラ識別表示制度が導入されました。この制度は、一般消費者に対して上記3つのプラスチックの正しい理解を広め、正しい使用法と製品の普及促進を目的としています。一方、これらの詳しい製品特性データ(バイオマス度や生分解する割合の最大値など)を見たことがある方は少ないのではないでしょうか?そこで、昨年のグループワークで公知情報を調査したところ、生分解性プラスチック、バイオマスプラスチック、生分解性バイオマスプラスチックへの注目と期待が集まっているにもかかわらず、数が少ないことが明らかになりました。

公知情報とひとことで言いましても、学術論文に膨大なデータが報告されております。今回は、暮らしの中で実際に使用するという視点から、学術情報では無く製品情報を収集しました。公知情報の調査結果の一部は公開できますので、つぎの表として下記にまとめてあります。バイオマスプラスチックや生分解性プラスチックとして製品として存在するものでも、バイオベース度や生分解性のデータが公表されていないものは掲載しておりません。

今回アップデートした下記の表2~4をご覧になった方は、おそらく拍子抜けしたのではないでしょうか。昨年と同様に数が少ないからです。プラスチック材料は、企業間の取引(B to B)が主なため、取引企業には製品特性データが提供されていると思われます。また、プラマーク認定申請のためにも、製品特性データが認証機関に提供されていることでしょう。一方、実際に商品として手に取る一般消費者は、これらの製品特性データを公知情報として入手することがほとんどできないのが現状です。

使用後の廃棄物処理を適切かつ効率的に行うためには、一般消費者も製品特性データを知っておいた方が良いと考えられます。また、生分解性が観察されたプラスチックに関し、公知情報での生分解した割合の最大値が必ずしも100%で無いものが見受けられることも明らかになりました。

本グループワークを受けて、“社会に対して製品特性データを公表していく大切さ”を実感しました。また、データが分散していては必要な時にすぐに確認できません。そこで、“日本国内だけでなく国際的にも各国が協力して製品特性データを収集して整理し、社会に公表していくこと”を提案します。

また、バイオマス成分や石油から高分子を合成するプロセスも検証し、バイオマスプラスチックがカーボンニュートラルの利点を本当に活かせているのか、栽培から製造までの各工程で石油由来プラスチックよりも二酸化炭素を多く排出しているのではないかという点についても議論しました。バイオマス成分からの高分子の合成、バイオマス成分と石油からの高分子の合成、石油からの高分子の合成の3つに大別して整理しました。下記にまとめた合成スキーム図は、グループワークでの議論に用いたものであり、下記の表2~4の実際の製品製造とは異なりますので、混同しないように注意してください。

表のリスト
表1-1 バイオマスプラスチックに関係する用語と定義(英語はISO規格、日本語は対応JIS規格から引用)
表1-2 生分解性プラスチックに関係する用語と定義(英語はISO規格、日本語は対応JIS規格から引用)
表2   生分解性が無いバイオマス由来成分を含むプラスチック
表3   生分解性が観察されバイオマス由来成分を含まないプラスチック
表4   生分解性が観察されたバイオマス由来成分を含むプラスチック
表5-1 表2の参考文献
表5-2 表3の参考文献
表5-3 表4の参考文献

図のリスト
バイオマス成分から高分子を合成する例
図1-1 セルロースからポリブタジエンを合成する例
図1-2-1 サトウキビから2,5-フランジカルボン酸を合成する例
図1-2-2 サトウキビからエチレングリコールを合成する例
図1-2-3 2,5-フランジカルボン酸とエチレングリコールからポリエチレンフラノエート (PEF) を合成する例
図1-3-1 サトウキビからエチレングリコールを合成する例
図1-3-2 トウモロコシからテレフタル酸を合成する例
図1-3-3 エチレングリコールとテレフタル酸からポリエチレンテレフタレート (PET) を合成する例
図1-4-1 トウゴマから1,10-デカンジアミンを合成する例
図1-4-2 トウゴマからセバシン酸を合成する例
図1-4-3 1,10-デカンジアミンとセバシン酸からポリ(1,10-デカンジアミン-co-セバシン酸) (PA1010) を合成する例
図1-5 トウゴマからポリ(11-アミノウンデカン酸) (PA11) を合成する例
図1-6 サトウキビからポリエチレン (PE) を合成する例
図1-7 油糧種子からポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート) (PHBH) を合成する例
図1-8 コットンから酢酸セルロース(CA)を合成する例
図1-9 トウモロコシからポリ乳酸(PLA)を合成する例

バイオマス成分と石油から高分子を合成する例
図2-1-1 サトウキビからイソソルバイドを合成する例
図2-1-2 石油から1,4-シクロヘキサンジメタノールを合成する例
図2-1-3 石炭からジフェニルカーボネートを合成する例
図2-1-4 イソソルバイド、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジフェニルカーボネートからポリカーボネート (PC) を合成する例
図2-2-1 サトウキビからエチレンを合成する例
図2-2-2 石油からプロピレンを合成する例
図2-2-3 石油から5-エチリデン-2-ノルボルネンを合成する例
図2-2-4 エチレン、プロピレン、5-エチリデン-2-ノルボルネンからエチレン・プロピレン・ジエン系ゴム (EPDM) を合成する例
図2-3-1 トウゴマからセバシン酸を合成する例
図2-3-2 石油からヘキサメチレンジアミンを合成する例
図2-3-3 セバシン酸とヘキサメチレンジアミンからポリ(ヘキサメチレンジアミン-co-セバシン酸) (PA610) を合成する例
図2-4-1 トウゴマから1,10-デカンジアミンを合成する例
図2-4-2 石油からテレフタル酸を合成する例
図2-4-3 1,10-デカンジアミンとテレフタル酸からポリ(1,10-デカンジアミン-co-テレフタル酸) (PA10T) を合成する例
図2-5-1 グルコースから1,3-プロパンジオールを合成する例
図2-5-2 石油からイソフタル酸を合成する例
図2-5-3 石油からフマル酸を合成する例
図2-5-4 1,3-プロパンジオール、イソフタル酸、フマル酸から不飽和ポリエステルを合成する例
図2-6-1 グルコースから1,3-プロパンジオールを合成する例
図2-6-2 石油からテレフタル酸を合成する例
図2-6-3 1,3-プロパンジオールとテレフタル酸からポリトリメチレンテレフタレート (PTT) を合成する例
図2-7-1 サトウキビからエチレングリコールを合成する例
図2-7-2 石油からテレフタル酸を合成する例
図2-7-3 テレフタル酸とエチレングリコールからポリエチレンテレフタレート (PET) を合成する例
図2-8-1 トウゴマからポリオールを合成する例
図2-8-2 石油からポリオールを合成する例
図2-8-3 石油からジイソシアネートを合成する例
図2-8-4 ジイソシアネートとポリオールからポリウレタン (PU) を合成する例
図2-9-1 トウゴマからセバシン酸を合成する例
図2-9-2 石油から1,4-ジアミノブタンを合成する例
図2-9-3 セバシン酸と1,4-ジアミノブタンからポリアミド410(PA410)を合成する例
図2-10-1 トウモロコシからコハク酸を合成する例
図2-10-2 石油から1,4-ブタンジオールを合成する例
図2-10-3 コハク酸と1,4-ブタンジオールからポリブチレンサクシネート (PBS)を合成する例

石油から高分子を合成する例
図3-1 天然ガスからポリグリコール酸 (PGA) を合成する例
図3-2 石油からポリビニルアルコール (PVA) を合成する例
図3-3-1 石油からアジピン酸を合成する例
図3-3-2 石油からジメチルテレフタレートを合成する例
図3-3-3 アジピン酸とジメチルテレフタレートからポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)を合成する例

2021年度秋前期学期( 2021年9月20日〜2021年11月13日)グループワークメンバー:
(オーガナイザー)石野和弥
生分解性プラスチックグループ(リーダー)内室佳恵(サブリーダー)南部亮太(メンバー)上原順平、西田梨紗子、山根啓汰
バイオマスプラスチックグループ(リーダー)高地広樹(サブリーダー)阿部俊介(メンバー)小山創、草島捷、堀貴裕、牧恭平
(オブザーバー)杉山仁志(指導教授)永井一清

(2021年12月1日アップロード)