研究内容 自家骨に匹敵する骨形成能を備えた生命機能マテリアルの創製とその評価

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異方性制御セラミックスと分化誘導

 自然界、特に「生物」の世界は「異方性」にあふれている。例えば、ヒトの骨や歯などの硬組織に着目すると、それらの無機成分は「アパタイト」であり、それは体の部位により異なる配向性(異方性)をもっている。本研究では、異なる「異方性アパタイト」を用いて、細胞の運命(極性・分化・組織化)を決定づける「ニッチ」を再現する「異方性生命機能マテリアル」の創製プロセスを開発するとともに、「間葉系幹細胞(MSC)」の分化スイッチのON/OFF状態を解析することにより、構築したニッチ空間の機能を検証している。なお、異方性アパタイトとは、我々が世界に先駆けて合成に成功している「アパタイト単結晶ファイバー」や「板状アパタイト単結晶粒子」のことを示している。

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生体骨を模倣したバイオセラミックスと骨形成能

 前記の課題が生体硬組織である骨や歯のエナメル質が異なる異方性を持つことに着目しているのに対し、この課題では生体硬組織の「化学組成の観点から研究に取り組んでいる。より具体的には、自家骨に匹敵する骨形成能を備えた次世代人工骨の開発を指向し、生体骨に類似した化学組成をもつ「骨ミネラル含有アパタイト(Bone HAp)を合成し、それを出発物質としてセラミックスを作製して、骨芽細胞や実験動物を用いて生物学的評価を行なっている。これまでにウサギ脛骨埋入による動物実験の結果から、純粋なHApに比べてBone HApセラミックスは約1.5倍もの高い骨形成率を示すことを明らかにしている。

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完全吸収置換型ペースト状人工骨の開発

 生体の骨組織は破骨細胞により溶解され、ついで骨芽細胞により骨を再構築されている。これを「リモデリング」と呼ぶが、このリモデリングサイクルに合致して、完全に吸収置換される機能も人工骨に要求されている。ここでは、生体骨のリモデリングサイクルに適応する「完全吸収置換型ペースト状人工骨の開発」も推進している。具体的には、我々はこれまでに従来の酸-塩基反応を利用した骨修復セメントとは全く異なる硬化メカニズムをもつ「キレート硬化型骨修復セメント」の開発に成功している。キレート硬化型骨修復セメントとは、キレート能を有するイノシトールリン酸(IP6)を出発原料である、生体活性をもつ水酸アパタイト(HAp)や生体吸収性をもつリン酸三カルシウム(TCP)に表面修飾した粉体と混練液とを混ぜて得られるペースト状人工骨であり、IP6 のキレート結合を介して硬化する。これまでにβ-TCPやα-TCPを主成分とする生体吸収置換型のセメントの試作に成功している。

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理論計算を活用したテーラード人工骨の開発と機能設計

 この新課題は材料の機能設計に「データサイエンス」を組み込む革新的な取り組みと考えている。超高齢社会の到来とともに「健康寿命の延伸」が大きな課題となっており、高度な医療を実現する「生体材料(バイオマテリアル)」の開発は重要である。本課題では、バイオマテリアルのなかで「人工骨」などとして臨床応用されている「バイオセラミックス」を対象とする。一方、生体材料の開発や再生医療の実現は、多くの動物の命の犠牲の上に成り立っており、「動物福祉」の視点から動物実験の削減がグローバルな視点で求められている。
 本課題の目的は「材料科学と計算科学との融合による人も動物も幸福な社会の実現」を目指し、性差や年齢に関係なくあらゆる世代の方々に有効な自家骨を超える機能を有する「テーラード人工骨」を開発するとともに、物性推定モデルによる「代替動物実験法」を構築することである。より具体的には、材料創製チームの相澤らが実践してきた「理想的な材料創製プロセス」に「計算科学」を導入することで、新たに創製する生体材料の安全性と機能(有効性)を極めて限定された動物実験(in vivo評価)で検証できるシステムを構築する。
 本課題全体の概略を「挿図」で示す。挿図の外回り(phase 1)は「材料系:テーラード人工骨モデル材料の創製と機能評価(特徴量の提供)」から「計算系:物性予測モデルの構築」へ至るサイクルであり、内回り(phase 2)は「計算系:物性予測モデルによる最適値の提案」からの「材料系:予測モデルにもとづくテーラード人工骨の創製とその機能検証」へ至る逆解析サイクルとなっている。

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組織再生を促進する生命機能マテリアルの開発と医学応用自家骨に匹敵する骨形成能を備えた生命機能マテリアルの創製とその評価生体防御機能を備えた生命機能マテリアルの創製とその評価
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