中国語発音教材 目次 はじめに 1課 2課 3課 4課 テスト

第三課 子音(しいん)




3-1 子音の種類
[https://youtu.be/em9rQkiu7do]

(YouTubeでのビデオリスト)


 音節の頭に来る子音(しいん)のことを、中国語では“声母”shēngmǔ(声母。せいぼ)と呼びます。
 中国語の子音は、以下の一覧表を見てください。
子音の種類無気音有気音説明
唇音(しんおん)bpmf唇を使う発音
舌尖音(ぜっせんおん)dtnl舌先を上あごの歯のすぐ裏につける発音
舌根音(ぜっこんおん)gkh舌の根元を盛り上げてノドの奧から出す発音
舌面音(ぜつめんおん)jqx舌の側面から出す発音
捲舌音(けんぜつおん)zhchshr舌先を口のなかでそりあげる発音
舌歯音(ぜっしおん)zcs口を閉じて歯のあいだから出す発音

↓それぞれの子音(声母)に、相性の良い母音をつけて、声に出して読みやすくしたもの。


 初心者は、「唇音」「舌尖音」などの用語は暗記する必要はないので、ご安心ください。また b p m f ・・・ という順番を暗記する必要もありません。
 ただし「『舌尖音』とか『舌根音』とか、なぜそのような名称をつけたのか」とか「なぜ順番に並べてあるのか」とった、一覧表の背後にあるコンセプトを理解しておくと、発音の勉強にも役立ちます。

★子音の種類の名称が「唇音」以外は「舌」だらけである理由
 子音の種類の呼び方は、調音部位(昔は「調音点」と言いました)にもとづきます。「唇音」は、唇を使って調音する子音、という意味です。
 b p m f の調音部位は唇です。それゆえ「唇音」と呼びます。
 唇音以外の子音の名前を見てください。唇音、舌尖音、舌根音、舌面音、捲舌音、舌歯音。「舌」の字だらけですね。
 中国語の子音を精確に発音するカギは、舌を正しい動線にそってスムーズに動かすことです。そう、ポーズではなく、動きなのです。
 初心者は、自分の舌の動かしかたに神経を集中してください。
★子音の種類の順番は難易度の順
 中国語の子音の並べ方は、日本語の五十音図の子音の並べ方、「アカサタナハマヤラワ」とは全然違います。
 日本の五十音図は、古代インドのサンスクリット文字の発音を研究する学問「悉曇学(しったんがく)」の影響を受け、長い歳月をかけてできあがったものです。今の並び方以外にも、昔は、いろいろな並べかたがありました。
 中国語の子音一覧表の縦の並べ方は、おおむね難易度順です。
 ヒトにとって一番やさしいのは唇音です。それゆえ b p m f を最初に学びます。ヒトは哺乳類です。誕生直後から唇を使って母乳を吸います。乳児の喃語(なんご)も「んまんま」「ばぶぅ」など唇音を多用します。
 なお、同じ唇音でも、b p m は両唇音ですが、f は唇歯音で、少し違います。
 次にやさしいのは、舌尖音と舌根音です。
 舌面音・捲舌音・舌歯音は、舌を精確に動かさねばならぬため、乳幼児や外国人には難しい発音です。
 日本人にとって最も難しい子音は、一覧表の下から2行目の捲舌音、別名「反り舌音(そりじたおん)」です。
★横の並びかた
 子音のそれぞれの列は、左から右に、無気音、有気音、それ以外の子音、という順番に配列されています。
 唇音の各子音(b p m f)を例にとると、bは無気音、pは有気音、mとfはそれ以外、です。
 無気音と有気音という区別は、日本語にも英語にもない中国語独特のものです。後(3-3)で詳しく説明します。
 たまに「無気音は無気力に小声で発音する。有気音は気合いをこめて大きな声で発音する」と早とちりする人もいますが、気力の有無や声の大小とは関係ありません。

 
3-2 子音の発音練習のときは後に母音をつける

 発音の練習のとき、子音だけでは声を出すことができず不便です。そこで便宜的に、子音の発音を練習するときは母音をつけて発音をする習慣になっています。
 例えば、b p m fは、発音練習などでは bo po mo fo と発音します。なぜ、ba pa ma fa ではなく bo po mo fo なのか? その理由は、b p m fは唇を使う発音なので、唇を丸める母音oをつけた方が発音が楽だからです。つまり、aよりもoのほうがb p m fと相性(あいしょう)が良いからです。
 他の子音についても、同様に、発音練習のときはそれぞれ相性の良い母音をつけます。


bopomofo mp4 video
 
detenele mp4 video
gekehe mp4 video
jiqixi mp4 video
zhichishiri mp4 video
zicisi mp4 video


[豆知識] ji を第一声で ji1 発音すると「鶏(ニワトリ)」の意

全部第一声で qi1 zhi1 ji1 と発音すると「七只鶏(七羽のニワトリ)」の意



3-3 無気音と有気音 boとpoの発音のしかた
[https://youtu.be/nxOxEfX5PGs]

(YouTubeでのビデオリスト)


 日本語の子音の発音には、清音・濁音・半濁音の三つがあります。
 例えばハヒフヘホは清音、バビブベボは濁音、パピプペポは半濁音です。
 中国語には濁音がありません。そのかわり「無気音と有気音」という区別があります。これは日本語や英語にはない発音なので、注意してください。

[豆知識] 韓国語の子音の発音は、日本語よりも中国語に似ている。

 まず、無気音boと有気音poの発音を、正確にできるようにしましょう。

はじめての無気音:boの発音練習 日本語の「ボ」と「ポ」の中間の発音です。まず、上の唇と下の唇を軽くあわせます。自分に自分でキスする感じで、やさしく唇をとじあわせ、自分の唇のやわらかさの感触を感じてください。次にボとポの中間くらいの感じで、ボーと声を出してください。

はじめての有気音:poの発音練習 日本語にも英語にもない中国語独特の発音です。pというアルファベットを当てていますが、英語のpのように発音してはなりません。
 日本人にとって、boよりもこのpoのほうが発音は難しいです。
 poの発音練習の手順は、以下のとおりです。
  1. まず、ノドの声帯をふるわすことなく、唇と吐息だけで軽く「ポ」と発音します(非常に小さい声でヒソヒソ話をする感じで、ポと発音する)
  2. 次に、ノドの奧を息がこする感じでホーと発音します(日本人の耳にはホーとコーの中間に聞こえます)。
  3. この二つの発音を、初めはゆっくり、次第に速くつなげて、繰り返し発音して練習しましょう。
     「ポ、(間)、ホー、(間)、オー」→「ポ、ホー、オー」→「ポホー」
  4. 最後に、一息で「ポホー」と言います。
mp4 video
「ぽ、ホー」「ぽホー」「po」 →

 poと発音するとき、ピンインでは書き表せませんが、pとoのあいだにホーという、ノドをこする息の音が一瞬聞こえます。
 「有気音」の「気」とは、このホーというノドをこする息のことを指します。

[豆知識] アニメ「北斗の拳」のケンシロウや、映画「少林寺」で「ハーッ」と「気」を吐く時は、息が
ノドをこする中国式の「h」で発音するので、強そうに聞こえる。下の写真は少林寺(
秘密写真館)

少林寺

 boとpoの発音練習のとき注意すべき点を以下に示します。

★注意点その1
 日本人の中国語初心者はboを小さな声で、poを大きな声で発音しがちですが、中国人は全く同じ音量で発音します。boを無気音、poを有気音と呼びますが、これは決して「無気力な発音」「気合のこもった発音」という意味ではありません。

★注意点その2
 boとpoの違いは、「息の強さ」の違いではありません。「息を出すタイミング」の違いです
 boと発音するときは、軽くくっつけた唇を開く瞬間に息はぬけてしまうので、ノドの奧をこするホーという吐息の音は聞こえません。それゆえ無気音と言います。
 いっぽうpoと発音するときは、軽くくっつけた唇を開いてから約0.5秒ほど、ホー、と、吐息がノドをこする音が聞こえます。つまりpoとは「(母音なしの)ポ+(ノドをこする吐息)ホ+(母音)オー」を短時間に組み合わせた発音なのです。子音と母音のあいだに、ノドをこする吐息(これが「気」)が約0.5秒ほど漏れるので、有気音と呼びます。

 boとpoの区別ができない初心者は、とりあえず、日本語や英語ふうにそれぞれボー(濁音)、ポー(半濁音)と発音してゴマカしても、中国人は理解してくれます。ただし、中国人が耳できくとすぐに外国人の訛りであることがわかってしまいます。
 ちなみに逆もまた真なりで、日本語を勉強する中国人にとって、日本語の清音・濁音・半濁音の区別は、とても難しいものなのです。

[参考] 無気音と有気音の発音の違いを練習するときは、小さく短冊状に切った紙を指でつまんで唇のまえに垂らして、bo、poと発音してみるとよいでしょう。正確な発音であれば、どんなに大きな声でboと怒鳴っても、紙は微動だにしないはずです。逆に、どんなに小さなヒソヒソ声でpoと発音しても、紙片はホーというノドをこする吐息の風圧で大きく動くはずです。

3-4 中国語の子音を発音するコツ
[https://youtu.be/3nWNlI8pz7M]

(YouTubeでのビデオリスト)


 一言で極論すると、日本語は「母音優先」ですが、中国語は「子音優先」の言語です。  中国語を発音するときは子音の部分をゆっくりめに発音するよう心がけましょう。
 日本語では、ほとんどの子音は「一瞬の小爆発」です。ところが中国語では、子音は時間をかけてゆっくりと発音します。日本語の子音のように、一瞬のうちに短く発音してはなりません。
 日本語では、子音よりも母音のほうがはるかに強いのです。そのため、例えば
  カキ (柿でも夏期でも牡蠣でも)
という日本語では、カのkとキのkは、実は微妙に違う発音になっているのです。
 仮に、カのkを k1 、キのkを k2、と表記すると、日本語のカキは、
  k1+a k2+i (カ キ)
であって、決して
  k+a k+i (クア クイ)
ではないのです。それほど、k1 と k2 の両者の子音は、口のかたちが違っています)。
 カキに限らず、日本語では、後にどんな母音が続くかによって、子音の色あいが変わってしまうのです。その反面、日本語の母音は、前にどんな子音が来ようと、決して変化しません
 中国語や英語の母音はゴムのように「やわらかい」ですが、日本語の母音はダイヤモンドのように「かたい」、と言えるでしょう。
 くどいようですが、中国語や英語では、母音よりも子音のほうが強いのです。外国人が日本語「カキ」を発音すると、往々にしてカとキのkを全く同じに発音しようとするので、日本人の耳には「クァクィ」のように聞こえてしまいがちなのは、そのためです。
 逆もまた真なりです。日本人が中国語や英語を発音するときは、つい日本語の発音のクセで、後続の母音にあわせた口のかたちで子音を発音してしまいがちです。すると外国人の耳には、一発で日本人ふうの訛りだということがわかってしまいます。
 中国語や英語を発音するときは、まず子音本来の口のかたちを作って子音を発音し、そのあと続けて(その子音にあうように歪めた口のかたちで)母音を発音します。そして中国語の子音を発音するときは、日本語の子音の一・五倍から二倍の時間をかけるつもりで、ゆっくりめに発音してください。
 「子音の発音に時間をかける」。このコツを守るだけでも、ずいぶん発音のレベルが違ってきます。

3-5 子音の発音練習



bo オー po ポ(ホ)ー mo オー fo フォー
mp4 video
 

[https://youtu.be/3nWNlI8pz7M?t=106]

(YouTubeでのビデオリスト)
 唇音は、調音部位として唇を使う発音です。b p m は上下の唇を使う両唇音で、f は上の歯と下の唇を使って発音する唇歯音です。
 コツは、母音を発音する前に、上下のくちびるをぴったりあわせる「ため」の時間を意識的に作ることです。
 bo と po の発音のしかた
 上記の[
3-3 無気音と有気音 boとpoの発音のしかた]をご覧ください。
 moの発音のしかた  bo と同様です。
  1. 上下のくちびるをしっかり閉じあわせる。自分で自分にキスするような感じで、自分のくちびるのプリプリした感じを味わいながら、m の唇の形にする。
  2. m の形から、日本語のモーよりもゆっくりめに唇をあけて「オー」と発音する。「ムオー」あるいは「mモー」という感じで発音する。
 fo の発音のしかた。英語のfと同じく、上の歯を軽く下の唇にくっつけたあと「fオー」という感じで発音してください。

参考ビデオ bo と po の波形の違いに注目してください。po は有気音なので、子音の部分が「ダイコンの葉っぱ」の形になります!
 YouTube https://youtu.be/nwqaV3G08_U?t=3



de ダー te タ(ハ)ー ne ナー le (ル)ラー
mp4 video
 

[https://youtu.be/3nWNlI8pz7M?t=246]

(YouTubeでのビデオリスト)
 舌尖音は、舌の先を上顎の歯茎の裏にペチョッとくっつたあと、離して発音します。
 d と t は破裂音、n は鼻音ないし破裂鼻音で、d t n は1つの仲間です(
ちょっとだけ「仲間はずれ」の子音たち参照)。l だけ側面近接音なので、ちょっと毛色が違います。

 de の発音のしかた。無気音です。日本語の濁音「ダヂヅデド」と清音「タチツテト」の中間のような感じで発音してください。手順は以下のとおりです。
  1. 上顎の歯茎の裏に、舌の先端をネチョッとつける。
  2. 舌を離しながら e と発音する(e の解説はこちら)。
  3. e の発音しながら、舌は口の奥にほうに思いっきり引き込む。
     口の中の空間の大きさを広げながら e と発音する。
 de は「ドゥァア」にならないように気をつけながら de (舌は口の奥にむけてダイナミックに引き込む)と発音してください。
 te の発音のしかた。上記の de を有気音化して発音してください。
 「トゥァア」とか「トゥファア」という発音にならぬよう注意しつつ、舌を口の奥にほうに思いっきり引き込みながら te と発音してください。
 ne の発音のしかた。
 舌の先を歯茎の裏にペタリとくっつけて n (んー)と発音してください。
 「ヌァア」のような発音にならぬように注意しつつ、舌を口の奥にほうに思いっきり引き込みながら ne と発音してください。
 le の発音のしかた。
 舌の先を、d t n と同じ場所にくっつけて l (ル)と発音します。
 「ラー」のような発音にならないように気をつけつつ、舌を口の奥にほうに思いっきり引き込みながら le と発音してください。


  ge ガー ke カ(ハ)ー he ハー

mp4 video
 

[https://youtu.be/BbXoeVgJG34]

(YouTubeでのビデオリスト)

 舌根音は、音韻学の用語では軟口蓋音と言います。舌の奥の半分の後舌面(中国語教員は「舌根」と呼びます)と、口のなかの奥の軟口蓋のあいだで調音します。
 g と k は破裂音なので一瞬で終わる子音ですが、h は摩擦音なので音が持続する子音です。
 ピンインの h の発音は、ドイツ語や韓国語にもありますが、日本語や英語にはない発音です。有気音の po の発音の説明のところで、一足先に h の発音のしかたを学びましたので、そちらの説明もご覧ください。

 ge の発音のしかた。  ke の発音のしかた。
 舌の動かしかたや、口の形は、geと同じです。
 有気音なので、のどをこする吐息 h を入れてください。
 「クァア」にならないように気をつけながら、ke と発音してください。
 h の発音のしかた。
 h は、息でのどをこする感じの摩擦音です。日本語のカーとハーの中間に聞こえます。
 「ファア」にならないように気をつけながら、 he と発音してください。


ji ジー qi チ(ヒ)ー xi シー
mp4 video
 

[https://youtu.be/BbXoeVgJG34?t=221]

(YouTubeでのビデオリスト)

・注意 jiは日本語のジーとチーの中間のような感じで発音します。qiは「ちヒー」という感じで、q(ち)とi(イー)のあいだに一瞬「ヒ(母音なし、子音のみ)」とノドをこする吐息をもらします。xiは日本語シーとほぼ同じです。

[豆知識] 中国語で「唇音」は現実を否定する気持ちを、「舌尖音」は現実を強調する気持ちを表す。
例えば、「0パーセントの肯定」=否定を表す言葉は、不 bu4 没 mei2 別 bie2 否 fou3 莫 mo4 ・・・等々。
また「50パーセントの肯定」=疑問・推量・婉曲を表す言葉は、句末の ba や ma など。
逆に、「120パーセントの肯定」を表すときは、句末に de とか ne とか le など「舌尖音の軽声」をつける。



3-6 日本人にとっての最難関の発音 捲舌音(けんぜつおん)について


zhi ジー chi チ(ヒ)ー shi シー ri リ゛ー
mp4 video
 

[https://youtu.be/9v08J6DXvJw]

(YouTubeでのビデオリスト)

 捲舌音は「そり舌音」とも言います。zhi を例にとって発音の手順を説明します。
・まず、ゆっくり ji と発音します。ji の j を発音する瞬間、自分の舌の先が、上あごの前のほう(歯に近い部分)に一瞬だけ軽くくっつくことを確認し、そのくっつくポイントを記憶してください。
・次に、ji、ジー・・・zhi と、舌先が上あごにくっつくポイントをだんだん口の奧にずらして発音を繰り返すと、自然に捲舌音になります。
・zhiの舌先が上あごに軽くふれるポイントは、ji より少しだけ口の奧です。舌先を口の奧のほうに捲きあげすぎると変な zhi になってしまうので、加減に気を付けてください。

   同様の手順で、qiからchiへ、xiからshiへと舌先のポイントをずらしながら発音練習してみてください。
 riは、zhi chi shi と似た舌の位置で発音します。日本語のラリルレロに濁音(゛)はありませんが、しいて漫画風に「ら゛り゛る゛れ゛ろ゛」と発音してみてください。中国語riは、しいてカナ表記すれば「リ゛ー」という感じに近いかもしれません。


  zi ズー ci ツ(フ)ー si スー
mp4 video
 

 ziを例にとって発音の手順を説明します。口を横にひっぱり、yiの口のかたちで、前歯の隙間からzi(ズー)と発音します。ローマ字表記にひきずられて「ズィー」と発音してはいけません。ciとsiも同様の口のかたちで発音します。ciは有気音なので、「つ」と母音のあいだに一瞬、ノドをこする息をもらすよう注意してください。

3-7 三つのi

[https://youtu.be/9v08J6DXvJw?t=324]

(YouTubeでのビデオリスト)

 中国語の母音がきわめてやわらかいこと、つまり、前後にどんな発音がくるかによって中国語の母音はグニャグニャに変化することは、すでに説明しました。
 母音のなかでも、口のあけかたが小さい「ひかえめな母音」eとiは、特に変化の度合いが大きいのです。
 ピンインでiと表記される母音は、大別して以下の三つに変化します。

 ・ (原則) 通常の「i」
 口を横にひっぱる「イー」です。ほとんどの子音の後につくiがこれです。

 ・ (例外その一) zhi chi shi ri の「i」
 下あごがさがる関係上、口を強く横にひっぱれず、結果としてiの口のあけかたがあいまいな「イー」になる。日本語の「イ」に近い発音です。

 ・ (例外その二) zi ci si の「i」
 yiの口のかたちですが、日本人の耳にはウーと聞こえます。

練習 三つの「i」の違いに注意して「xi shi si (シー しー すー)」を発音せよ。
模範発音 jī zhī zī qī chī cī xī shī sī
 mp4 video

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 なぜ上記のようにiの発音が変化するかというと、そう変化させて発音したほうが自然で楽だからです。

 以上で、中国語の母音と子音についての基礎的な説明は、すべて終わりました。

 以下は、中国語の中級者・上級者向けの参考資料です。初心者のかたは無視してくださってOKです。



[参考] ちょっとだけ「仲間はずれ」の子音たち。
唇音 b p m f → /f/だけ唇歯音(軽唇音)。
舌尖音 d t n l → /l/だけ側面近接音。
舌根音 g k h → /h/だけ摩擦音。
舌面音 j q x → /x/だけ摩擦音。
捲舌音 zh ch sh r → /r/だけ有声音。
舌歯音 z c s → /s/だけ摩擦音。
↓この表を暗記する必要は全くありません。ご安心ください!! ご参考までに掲げます。
両唇唇歯歯茎捲舌歯茎
硬口蓋
軟口蓋
破裂音b pd tg k
鼻音mn
摩擦音fssh rxh
破擦音z czh chj q
側面近接音l
↑上の表の意味。理解できなくても大丈夫です・・・(^^;;
横軸は調音点・・・両唇・唇歯、歯茎、捲舌(そり舌、とも)、歯茎、硬口蓋、軟口蓋
縦軸は調音法・・・破裂音(小爆発のような瞬発音)、鼻音、摩擦音(狭いすきまから息を摩擦する持続音)、破擦音(破裂音と摩擦音のハーフ)、側面近接音(舌の両脇から空気を通す音)。

[中国語音韻学のメモ]


[参考] 五音
 近代西洋の音韻学が伝わる以前、東アジアの漢字文化圏では、子音の発音を五種に大別していました。
 この「五音(ごいん)」という素朴な伝統的分類法は、東洋哲学の「五行思想」の美学とも結びついたものです。
 近代以前は、中国語だけでなく日本語や朝鮮語の子音も「五音」で分類していました。
 日本の歌舞伎「外郎売(ういろううり)」のセリフにもこの「五音」分類が出てくるほどです(※)。
 今はもう誰も使わなくなった分類法ですが、参考までに以下に書いておきます。
七音
五音
五音の名称唇音舌音歯音牙音喉音半舌音半歯音
現代中国語の声母 唇音(bpmf) 舌尖音(dtnl)
捲舌音(zh,ch,sh,r)
舌面音(jqx)
舌歯音(zcs)
舌根音(gk) 舌根音(h) (l) (r)
江戸時代の日本語 ハマタラナアワヤ
※【参考】歌舞伎『外郎売』(ういろううり)の口上より。
「そりゃそりゃそらそりゃ、廻って来たわ、廻って来るわ。
アワヤ喉、サタラナ舌にカ牙サ歯音、ハマの二つは唇の軽重。
開合爽やかに、アカサタナハマヤラワ、オコソトノホモヨロヲ。」
[中国語音韻学のメモ]



[参考] 間隙度別音素一覧
以下は、調音の際の口のせばめの間隙を0度(完全な閉鎖音)から7度(完全な開口音)まで、象徴的に分けた表。
 藤堂明保『中国語音韻論』(光生館、1980、改訂版)p.27の図表を参考に、加藤徹がアレンジしたもの。
間隙音素
子音0度 (破裂音) b p d t g k (破擦音) z c zh ch j q (声門閉鎖音)[ʔ](※1)
1度(摩擦音) s sh x, h, f
2度(鼻音) n -ng m
3度(側面近接音) l
半母音4度(半母音) r y w (※2)
母音5度(狭母音) i u ü
6度(中母音) o e
7度(広母音) a
(※1)声門閉鎖(glottal stop)は、ピンインでは表記しないが、国際音声記号(IPA)では「ʔ」と書く。クエスチョンマーク「?」と混同しないように。
(※2)藤堂学説では、北京語の巻舌音/r/は半母音として扱うべきとする。
 例えば同じ唇音/b p m f/でも、bとpは破裂音で間隙0度、mは鼻音で間隙2度、fは摩擦音で間隙1度、と、口をせばめる度合いがそれぞれ違うことに注意。
 中国語の音節の構造は「声母+介母+韻腹+韻尾」であるが、声母は必ず0度〜3度の子音、介母は必ず4度の半母音、 韻腹(核母音)は必ず5度〜7度の母音であり、全体として菱形のようになる。
[中国語音韻学のメモ]