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ぴよぴよ・・・

第四課 中国語発音の実際




4-1 声調の変化

[https://youtu.be/QN8zCAPNOKg]

(YouTubeでのビデオリスト)

 日本語では、単語の高低アクセントは、単語の組み合わせよって変化します。
 例えば「赤」(あ高 か低)と「とんぼ」(と低 ん高 ぼ高)を組み合わせて「あかとんぼ」という単語になると、それぞれのアクセントは変化して「あ低 か高 と高 ん低 ぼ低」となります。
 中国語では、原則としてそのようなことは起きません。漢字1字ずつに固有のアクセント(声調)が決まっていて、それが組み合わせによって変化することはないのです。
 ただし、例外のない原則はありません。
 中国語でも、「第三声の声調変化」と「一、七、八、不の声調変化」という2つの例外があります。

【例外その1】 第三声の声調変化
 四声のなかで、第三声は力をいれて低い声を出さねばならず、やや特殊です。
 第三声を連続して発音すると、低くてゴツゴツした感じになってしまいます。
 そこで、第三声の漢字が連続するときは、以下のように声調を変えます。変える理由は、そのほうが力をいれずに楽に発音できるからです。

第三声+第三声 → 第二声+第三声
 “你” nǐ (あなた/おまえ)は第三声。
 “好” hǎo (良い/元気)は第三声。
 “你好!” Nǐ hǎo! (こんにちは)では、“你”を第二声のアクセントに直して“ní”のように発音します。

nǐ+hǎo→Nǐ hǎo!(ní hǎo)
 mp4 video
 第三声+第三声 → 第二声+第三声と臨時に変化する理由は、そのように読むほうが楽だからです。つまり、手抜き。
 注意すべきは、“你好!”は“ní hǎo” のように発音するのに、ピンインの表記はあくまで本来の“Nǐ hǎo!”のままにしておく、ということです。
 テストの解答で“你好!”のピンインを“Ní hǎo!”と書くと、×になるので注意してください。

第三声+第三声+第三声 → 第二声+第二声+第三声
 “我很好!” Wǒ hěn hǎo! 私は(とても)元気です。

wǒ+hěn+hǎo→Wǒ hěn hǎo!(wǒ, hén hǎo / wó hén hǎo)
 mp4 video

 実際は“Wó hén hǎo”のように発音しますが、ピンインの表記はあくまで“Wǒ hěn hǎo!”のままにしておきます。
 ただし、“我 (ちょっと間をあける) 很好!”(私は・・・元気です)のように発音するときは、“Wǒ (ちょっと間をあける) hén hǎo!”のように発音します。

第三声が4つ以上連続するときは、最後だけ第三声のままにして、その前を第二声で読む。
 例えば、電話番号とか暗証番号で
5995 wǔ jiǔ jiǔ wǔ
という番号は、
  早口で一息で読むと「第二声+第二声+第二声+第三声」
  ゆっくり区切って「59、95」と読むと「第二声+第三声」「第二声+第三声」
 となります。

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【例外その2】 一・七・八・不の声調変化
 上記の「第三声の声調変化」は、第三声の漢字すべてに起こりうる例外です。
 その他、特定の漢字にのみ起こる例外もあります。
 一、七、八、不の4つの漢字については、  という共通点があります。
 「入声」が何か、は、初心者は知らなくても大丈夫です。

 日本語では、漢字「不」の慣用音は「フ」です。日常生活では「不可」とか「不思議」とか「フ」と読みます。しかし、漢和辞典などに載っている学問的に精確な漢字音は、漢音は「フツ」、呉音は「ホチ」です。

 英語の「不規則動詞」でも、beとかgoのように、使用頻度が高い単語ほど例外が多いですよね。
 それと同じ理屈で、中国語でも、使用頻度が高い“一、七、八、不”は声調が以下のように不規則に変化するのだ、とお考えください。

“不”bù の声調変化
 “不”bù +第四声→“不”bú+第四声
 例えば “不谢!”Búxiè! (どういたしまして。「ありがとう」と言われたときに、相手に答える決まり文句)
 mp4 video
 第三声の声調変化と違い、“不”の声調変化の表記法は2種類あります。
 日本で市販されている中国語教科書では、“不谢”のピンインは búxiè と書くのが主流です。
 しかし、まれに、bùxiè と書いてある教科書もあります。bùxiè と書いても、実際の発音は「第二声+第四声」で発音は búxiè になります。
 これは、両方とも正しいのです。

 以下は、中国語初心者は知らなくてもよい知識ですが、念のために書いておきます。
 中華人民共和国の政府が公式に定めたピンインの規則「漢語拼音正詞法基本規則」(“汉语拼音正词法基本规则”)では、“不”の声調記号の表記について、以下のような原則を定めています。
5.2 “一”、“不”一般标原调,不标变调。例如:
yī jià(一架) yī tiān(一天)
yī tóu(一头) yī wǎn(一碗)
bù qù(不去) bù duì(不对)
bùzhìyú(不至于)
在语言教学等方面,可根据需要按变调标写。例如:
yī tiān(一天)可标为yì tiān,bù duì(不对)可标为bú duì。
 つまり、
1.原則として、“不”のうしろに第4声が来て“不”の発音が第2声に変調しても、ピンインは変えずに本来の第4声のままにしておく。
 例えば“不谢”は、実際には búxiè と発音するが、ピンインの表記はあくまで本来のまま bùxièとするのが正しい。
2.ただし例外も認める。中国語教育などでは、わかりやすいように、変調の実態にあわせて“不”の声調記号を書き換えてもよい。例えば“不谢”は búxiè と書いてもよい。

 中国語のテストで「“不谢!”のピンインを書け」という問題が出たら、búxiè でも bùxiè でも正解です。
 ただし中国語の教員によっては、生徒が bùxiè と書くと × をつけるかもしれません。使っている教科書や教員の考え方を、テストの前に確認しておくことが大切です。

“一”yī の声調変化
 “一”yī +第一声or第二声or第三声→“一”yì +第一声or第二声or第三声
 “一”yī +第四声→“一”yí +第四声

 ただし、数字の羅列や序数のときは、一は声調変化しません。その理由は、声調変化しないほうが、耳で聞いて精確に数字を聞き取りやすいからです。
 例えば“1963”は yī jiǔ liù sān と読み、一は声調変化しません。
 また例えば“第一课” (第一課)も“dì yī kè” と、声調を変化させずに読むのが、正しい読み方です。中国のテレビやラジオのアナウンサーは、そのように正確に発音します。ただし中国人でも、庶民の中には、あまり深く考えず“dì yí kè”と読む人もいます。

 この他、昔は“七”や“八”も、第四声の前では、第二声に変化しました。
yīwàn(一万)→ yíwàn
qīwàn(七万)→ qíwàn
bāwàn(八万)→ báwàn


 一万は今も“yíwàn”です。しかし、七万と八万については、近年はそれぞれ“qīwàn”“bāwàn”と声調変化させないほうが普通になっています。

 mp4 video

 「例外は、なるべく少ないほうがよい」という考えから、中国人も、七と八については声調変化をさせない人が増えているのです。ただし、これには個人差があります。
 “八路军” (八路軍。はちろぐん)という単語も、現代中国では“八”を声調変化させず“bālùjūn” と発音する人が多いですが、第二次世界大戦を描いた中国の映画やテレビドラマのなかでは俳優が昔風に“bálùjūn”と発音したりします。

4-2 “儿化”érhuà(アルか)
[https://youtu.be/pwZK2hZKiOE]

(YouTubeでのビデオリスト)

 児化(アルか)は、単語の末尾に接尾語“儿”(日本の漢字では「児」)が付く現象を指します。
 “儿”とという漢字は、単独では“ér”と発音しますが、接尾語のときは“-r”と発音します。
 児化すると、rの前の母音の発音も若干、変化します。また単語の意味やニュアンスも変わります。

 日本人にとって、er は難しい発音です。
 er の前半部は、単母音のときの e とは口の開きかたも舌の位置も全然違うので、注意してください。
 まず e と er を精確に発音できるようにするため、発音を練習しましょう。


YouTube  
https://youtu.be/bIS2DwwGND4

 以下の説明は、初心者は読み飛ばしてくださってOKです。
 “儿”(児)は中国語で「こども」とか「息子」の意です。
 日本の東北地方の一部の方言では、トジョウを「どじょっこ」、フナを「ふなっこ」と言うように、単語の後ろに「こ」をつけます。
 中国の北京は、今でこそ中国の首都ですが、千年前までは万里の長城(昔の国境線)のすぐ近くにある田舎の町でした。
 歴史的に見ると、北京は、日本史で言うと奥州藤原氏の平泉(岩手県)のような、国の北辺に栄えた町だったのです。
 日本史では、平泉が日本国全体の首都になったことはありません。しかし中国史では、歴史的な経緯により、13世紀の「元」王朝以降、万里の長城のすぐ近くの北京が、しばしば全国的な首都となりました。
 日本の東北方言と同様、北京の方言である北京語でも“儿”すなわち「こ」で終わる単語が多いのです。その影響で現代中国の共通語(標準語)でも、接尾語として「こ」にあたる-rを添える“儿化”が見られるのです。

“儿化”の発音の例
 mp4 video

“花" huā と“花儿”huār
 例えば、花は、中国語では“花" huā と言います。“花儿”huār と言っても、意味は同じです。
 口でしゃべるときは“花儿”huār のほうが普通です。その理由は2つあります。
 1つは、“花" huā だと、あっさりしすぎて、早口でしゃべると一瞬で終わってしまい、聞き取りにくくなります。そこで、一見むだなようなrをつけて“花儿”huārと発音し、耳で聞き取りやすくします。
 もう1つの理由は、“花" huā よりも、“花儿”huārのほうが、ちょっと可愛らしく聞こえるからです。日本語でも「ドジョウ」より「どじょっこ」のほうが、ちょっと可愛く聞こえますよね。
 特に北京語(北京方言)を母語とする中国人は“花儿”huārのように -r を接尾語として多用する傾向があります。
 これと対照的に、同じ中国人でも、南のほうの方言をしゃべる人々は「漢民族の古い伝統文化は北方では衰退し、南方にこそ残っている」という自負心もあって、“花儿”huārより“花" huāを好む人もいます。

 -iの消失
 -iで終わる複合母音が“儿化”すると、-iの発音が消失するので要注意です。
 “小孩儿”xiǎoháir (こども、の意)は「シャオハイル」ではなく「シャオハル」のように聞こえます。
 ただし、耳で聞いた発音どおりに“xiǎohár ”と書くと間違いで、テストの時には×になるので要注意。ピンイン表記は必ず“xiǎoháir”と書きます。

 なお、短母音 i の後ろに r がきて -ir という発音になると、i と r の間に隠し味的に一瞬 e という発音が聞こえますが、これもピンイン表記では表記しません。

 nとngの消失
 -nや-ngで終わる鼻母音が“儿化”すると、nやngが消失するので要注意です。
 “玩儿”wánr (遊ぶ。遊び)はnの発音が消失して“wár”ワル、のように聞こえますが、ピンイン表記は“wánr”のままにしておきます。
 “一点儿”yìdiǎnr (ちょっと。少し)はngの発音が消失して“yìdiǎr”イーデャル、のように聞こえますが、ピンイン表記は“yìdiǎnr”のままにしておきます。
 “wánr”や“yìdiǎnr”などの「ア」は、nやngがわずかに残って、鼻音化した「ア」になります。初心者は無理して「ア」を鼻音化しなくても、意味はじゅうぶん通じるので、安心してください。

 この他にも、r が付加することによる発音の変化はいろいろありますが、初心者はまず上記だけ覚えてください。
 児化によって、r の前の母音の発音が変化する理由は、そのように変化させたほうが中国人にとって自然で楽に発音できるからです。

4-3 簡単なあいさつを発音してみよう
[https://youtu.be/Rw3xSoc0u18]

(YouTubeでのビデオリスト)
 中国語でよくつかう簡単なあいさつを以下にかかげます。正確に発音してみましょう。
  1. Nǐmen hǎo!你们好!
    ニーメン ハオ みなさんこんにちは
  2. Xièxie!谢谢!
    シエシエ ありがとうございます
  3. Búxiè!不谢!
    ブー シエ どういたしまして
  4. Qǐng!请!
    チン どうぞ
  5. Zàijiàn!再见!
    ヅァイジェン さようなら
mp4 video
 

https://youtu.be/nwqaV3G08_U?t=15




以下、それぞれの発音のしかたを解説します。
  1. Nǐmen hǎo!你们好!
    ニーメン ハオ みなさんこんにちは
    ★“nǐ”は「ニー」よりも「ニー」という感じで。日本語の「ニー」よりも口を横に引っ張ってください。
    ★“men”は、子音mの発音に時間をかけて、上下の唇を確実にペタリとくっつける予備運動もいれて、「mメン」という感じで。
     ここは「en ei ye yue の四つの例外」の1つなので、men の e は日本語の「エ」に近いです。
    ★“hǎo”の h は、呼気がのどをこする音なので、日本人の耳には「カオ」と「ハオ」の中間に聞こえます。「好」の日本漢字音が「こう(旧仮名遣いでは「かう」)である理由は、日本人の先祖の耳には「かう」という発音に聞こえたから。
     ここの主母音は a なので、「ハオ」よりも「ハァオ」という感じで。
  2. Xièxie!谢谢!
    シエシエ ありがとうございます。
    ★“xi”は日本語の「シ」と同じ。中国語の発音としては珍しく、日本語の発音がそのまま自然に聞こえる希有な例です。
    ★ここも「en ei ie(ye) yue の四つの例外」の1つなので、xie の e は日本語の「エ」に近い。
    ★“xièxie”の前半は第4声で長く強めに、後半は軽声なので短く弱めに添えます。
     「シエ(5割)・シエ(5割)」ではなく「シエ(7割)シエ(3割)」という感じ。
    ★感謝の言葉は、気持ちをこめて、ゆっくりめに発音するのがマナーです。
  3. Búxiè!不谢!
    ブー シエ どういたしまして
    ★“bú”は「ブー」よりも、子音に時間をかけて「ウウ」という感じで。
    ★発音の時間配分の比率は、búが6割、xièが4割くらいの感じで。
    ★búは第2声でおまけに重々しい唇音から始まるので時間がかかり遅めになります。
     一般に、発音するとき力が要る子音で始まる音節は、無意識のうちに、声は低めで、時間もゆっくりめになります。
    ★xièは楽に発音できる舌面音から始まりしかも4声のなかで最もスピードが速い第4声なので、速めです。これも、無意識的な自然の心理作用です。
    ★“xièxie”とは逆に、やや早口でさりげなく言う(2回くりかえしてもよい)のがマナーです。
     ゆっくり丁寧に発音すると、言葉の文字通りの意味とは裏腹に、かえって恩着せがましい口調になってしまいます(笑)。
  4. Qǐng!请!
    チン どうぞ
    ★“qi”は有気音なので「チ(ヒ)イ」と、息の音「ヒ」が一瞬、相手に聞こえるように発音してください。
    ★“qǐn”(漢字は“寝”など)とは違う発音です。初心者は“ng”の発音を、正しい舌の位置で、自分の鼻の先がピリビリ震えるのを自分で感じられるくらい意図的に発音してください。
  5. Zàijiàn!再见!
    ヅァイジェン さようなら
    ★“zài”は「ザイ」よりも、「」という感じです。
    ★“jiàn”は「ジャン」ではなくて「ジェン」です。鼻母音の「yanとyangの発音の違い」を思い出してください。
    ★お別れの言葉なので、また会いたい人には、ゆっくりめに丁寧に、思いをこめて発音しましょう。
     逆に、二度と会いたくないやつには、ぞんざいに早口で言い捨てましょう。

[豆知識] 「ヅァイジェン」(さようなら)を直訳すると「いつか再び会いましょう」の意。
だから「二度と再会してはならぬ別れ」の場合には使わない。
例えば、刑務所に服役していた囚人が出所するとき、とか・・・
写真は、別れの挨拶に手をふるモンゴルの少女(秘密写真館)

[数字の発音] 一から十まで
yī 一  èr 二 sān 三  sì 四

wǔ 五 liù 六 qī 七 bā 八

jiǔ 九 shí 十


mp4 video
 

YouTube https://youtu.be/nwqaV3G08_U?t=35



[豆知識] 中国語の一から九十九までの数え方は日本語と同じ。百以上は日本語と大違い。

4-4 日本人にとってやさしい発音、難しい発音
[https://youtu.be/8aHT7gdbhms]

(YouTubeでのビデオリスト)

 中国人にとっては全く違う発音なのに、日本人には区別が難しい発音があります。例えば、


 まず、この発音の区別を練習しましょう。そのあと、なぜ中国語の発音は、日本人にとってやさしいものと、難しいものに別れるのかを、説明します。

YouTube 新版 https://youtu.be/6ZFMaYx6T8c?t=5


旧版 https://youtu.be/nwqaV3G08_U?t=65


“shān 山”と“shāng 商”と“xiāng 香”と“xiān 先”の区別

 “shān 山”と“shāng 商”と“xiāng 香”は「シャン」のように聞こえてしまいます。
 “xiān 先”は「シェン」のように聞こえるので、日本人も区別できます。
 しかし中国語の「山」「商」「香」の発音は、中国人の耳には全然違う発音に聞こえます。日本人も、以下の波形を見れば、それぞれの発音が違うことがわかります。

 shang は、穂先のあとは逆三角形です。sh のあと a を発音する瞬間にパッと、逆三角形の底辺のように音が広がります。
 xiang は、穂先のあとはジャガイモ形です。穂先である x は 大きさも形も sh とは大違いで、しかも後ろの -iang は「 i(狭小) a(爆発的拡大) ng(収束)」というジャガイモ形で、shang の -ang が逆三角形であるのとは大違いです。
 中国人は耳で聞くだけで、目で見分けるのと同じくらい明確に、それぞれの発音を区別できます。
 日本人の初心者は、shan と shang は「穂先+逆三角形」、xiang は「小さめの穂先+ジャガイモ形」と、それぞれの波形をイメージしながら発音練習するとよいでしょう。


“quān 圈”と“chuān 川”の区別

 この2つは全然違う発音です。日本語の発音「チュアン」にならないように気をつけてください。
 波形を見れば、違う発音であることは一目瞭然です。

 穂先を見ると、q(舌面音)は団子状ですが、ch(捲舌音)はイチョウの葉の形になっています。
quan も chuan も、子音(音節の冒頭部なので「声母」と呼んでもよい)は有気音なので、穂先と本体のつなぎめには明確な「くびれ」があります。 日本人初心者は、有気音の「気」すなわち吐息を明確に発音することで、「くびれ」を作ることをこころがけてください。
 そのうえで、くびれの形が quan と chuan では全く違うことにも留意してください。
 母音の本体部分も違います。 quan の母音(音節の母音部分なので「韻母」とも言います)である yuan と、chuan の母音である wan では、口を爆発的に開くスピード、いわば爆速に明確な違いがあります。yuan は yu の部分からいきなり大音量なので母音部分は逆三角形ですが、wan は口をすぼめる w(u) から始まるため音量は小から大へと変化し、結果としてジャガイモ形になっています。
 quan と chuan のそれぞれの波形を精確に再現しながら発音ができるように、初心者は、以下に説明する手順にしたがって、練習してください。

mp4 video
 

quānの発音の手順 まず qu と発音してみましょう。次に続けて yuan と発音します。qu の発音が日本語の「チュ」にならぬよう注意しましょう。
 yuan の項でも説明したとおり、中国語の母語話者のなかには、yuan を「ユエン」のようにくずして発音する人もいますが、純正の北京語の規範的な発音では「ユアン」に近い発音です。
 quan も「チュアン」が規範的な発音ですが、手抜きをして「チュエン」と発音するネイティブもいます。特に、北京以外の地方出身の中国人には「チュエン」となまり、しかもそれがなまりだと認識していない人もいます。
 日本語でも、例えば「大阪」と「逢坂」の規範的な発音はそれぞれ「おおさか」と「おさか」で、正しい標準語では違う発音です。歴史的名遣いで書くと、「大阪」は「おほさか」、「逢坂」は「あふさか」なので、それぞれを新仮名遣いに直すと「おおさか」「あうさか→音便で、おうさか」が正しい発音になります。
 ただし、日本語のネイティブは、実は私もですが、発音の手抜きをして両方とも「オーサカ」のように発音してしまいます。日本人の「逢坂」さんも、自分の名前のローマ字表記をOusaka(おうさか)と書く人もいれば、OsakaとかOhsakaと書く人もいて、バラバラです。
 日本語も中国語も英語もその他の国の言葉も、ネイティブは、自然にくずしたカジュアルな発音をしているので、外国語として学ぶ初心者は注意が必要です。
 これは決してネイティブを馬鹿にしているわけではなくて、私たち日本語のネイティブも中国人も、日常会話では「規範的発音」を気にせずに発音している、という単純な事実を申し上げているだけです。誤解なきよう。
chuānの発音の手順 まず chi と発音してみましょう。次に、chi の i の部分を消して、母音の部分を発音せずに、子音だけで ch(i) と発音してみましょう。このとき鏡を見て、自分の口のかたちが chi の口のかたちになっていることを確認してください。この ch(i) に続けて、wan と言います。
・日本人初心者は、概してchuānの発音がうまくできません。
 中国人の耳には、日本人初心者の chuān が quān と聞こえてしまいがちです。というのも、日本語の発音では「子音を発音する瞬間の口のかたちは、その子音の後につづく母音にあわせて作る」という原則があるからです。そのため日本人は、中国語の子音の発音にも日本語のクセをもちこんでしまい、無意識のうちに子音 ch(i) を「 u 」の口のかたちで発音してしまうのです。
・上述のとおり、中国語 chuān は、次のように段階的に口のかたちを変化させます。
ch(これは chi の口のかたち) + wan (ここから口のかたちは u へ、そして an へと変化)
 ところが日本人初心者は chuān の発音をつい間違えて、
ch (ここからすでに chu の口のかたち!!) + wan
 と誤った発音をしがちです。
 これは ch にかぎらず、日本人の中国語発音全般に見られるクセです。中国語の子音の発音のコツ:

 子音はゆっくりめに発音しよう。
 声を出す前に、まずその子音本来の口のかたちを作ろう! そのあと声を出そう!!

を、常に忘れないでください。

 quān と chuān を正確に区別して発音できるようになれば、以下の発音も正確にできるはずです。


“qiáo 桥”と “cháo 潮”の区別

 この2つも全然違う発音です。日本語の発音「チャオ」にならないように気をつけてください。

 波形を見比べると、穂先も、母音の本体部分のふくらみかたも、全然違うことがわかります。
 ch はここでも、強いくびれが見られるイチョウの葉の形です。母音部分の ao も「爆轟(ばくごう)型」すなわち逆三角形です。
 qiao の q の穂先は、ここでもずんぐり形です。そのあとに続く -iao(yao)も狭小からふくらむ「膨張収縮型」すなわちジャガイモ形です。

mp4 video
 



蘆溝橋(ろこうきょう)=マルコポーロ・ブリッジ(秘密写真館)


“qù 去”と“chù 处”の区別


 この2つは全然違う発音です。日本語の発音「チュー」にならないように気をつけてください。
mp4 video
 





 上記の発音は、中国人なら誰でもできますが、日本人には難しい。
 なぜでしょうか? 以下、その理由を説明します。

 例えば、maとかxiなどの発音は、日本語のマーやシーに近いので、日本人にもわりあい簡単に発音できます。
 ところが、chiとかzheなどの発音は、日本語には該当する発音がないため、日本人にはかなり難しい発音です。
 nとngの区別も、日本人には難しい。
 もちろん、中国人も日本人も同じヒトです。中国人だけにできて、日本人には不可能な発音、などというのはありえません。
 ただ、日本人はふだん日本語を発音するとき、中国人と違って、口(厳密にいうと発音器官)のごく一部しか使いません。つまり、外国語の発音で日本人が苦労するのは、日ごろ楽をしているツケ(?)がまわってくるからです。
 日本人は概して、口の奧を使う発音や、舌を適切に動かす必要のある発音には弱いのです。

日本人の発音の弱点は「舌が固くて思い通り動かせない」こと

アインシュタインは発想も舌も柔軟だった

アインシュタイン博士  日本語では、発音の途中で舌を動かす発音とか、口の奧の空間を使う発音は乏しいため、日本人はそれらの発音が苦手です。
 ズバリ一言で極論すれば、日本人の発音の弱点は「舌を口のなかで正確に動かせない」ことに集約されます。
 実際、日本人が苦手とする中国語の発音、例えばeとか、anとangとか、leとか、zhi・chi・shi・riとかは、どれも、発音の途中で舌を口のなかで的確にスムースに動かさねばならぬ発音です。
 逆にいうと、日本人中国語学習者でも、自分の舌の動かしかたを練習して、的確かつ自然に動かせるようになれば、中国語の発音を正確にできるようになります。
 舌の動かしかたに注意して、練習を繰り返してください。

以下の発音も、正確にできるようにしましょう。

Zhōngguó 中国

Rìběn 日本

Wǒ shì Rìběn rén. 我是日本人。
わたしは日本人です。

Zhè shì shénme? 这是什么?
これは何ですか?

YouTube 新版 https://youtu.be/6ZFMaYx6T8c?t=88


旧版 https://youtu.be/nwqaV3G08_U?t=91


mp4 video
 


“Zhè shì shénme?”の発音のしかた。
・zheのzhの部分は捲舌音です。子音zh(i)は、あくまで zhi の口のかたちを作ったあとで(ただし i は発音しないでください)、そのあと続けてeと発音してください。
 日本人初心者は、日本語の子音の発音のクセにひきずられて、まずeの口のかたちを作ってから zh と発音してしまいがちですが、これは間違いです。母音 e の部分では、舌をノドの奧にひきこむ動き mp4 video (模範発音 Real Player(模型))を忘れずに。
“shénme” (なに)の二つの「 e 」の発音の違いにも注意しましょう。shen の e は日本語の「エ」に近いですが、me の e は中国語独特のeの発音です。e が日本語のエに近い発音になるのは、前述(2-3の最後)のとおり、「en ei  ye(-ie) yue」の四つの場合です。声に出して「エン エイ イエー ユエ」と発音して、暗記しましょう。

4-5 おわりに

 このほか、まだ難しい発音はいろいろとありますが、ここまで説明してきた事項を全部マスターできれば、中国語発音の基礎はりっぱにできた、と言えるでしょう。
 日本人にとって、中国語の発音は難しく感じられますが、中国語の文法や語彙はやさしく感じられます。つまり、日本人が中国語を勉強するとき、最初に発音をマスターするまでは苦労しますが、その最初の試練さえ乗り越えれば、あとは順調に学ぶことができるケースが多いのです。
 また、中国語の発音をマスターできれば、耳とか舌がきたえられるので、英語など他の外国語の発音も自然に上手になる、という嬉しい副産物があります。
 みなさんもぜひ、中国語の発音の基礎を反復して練習して、マスターしてください。


4-6 補充教材
中国語で漢詩を音読

 中国人は漢文や漢詩を、現代中国語で音読します。日本人が自国の古文を、現代日本語の発音で音読するのと同様です。
 発音の練習として、漢詩を中国語で読んでみましょう。


鸛鵲楼に登る
 唐の時代の詩人・王之渙(おう・しかん、688年 - 742年)が詠んだ五言絶句です。「流」と「楼」で韻を踏みます。
[https://youtu.be/EVDUisFne_Y]

(YouTubeでのビデオリスト)

《登鹳雀楼》 dēng guàn què lóu
    王之涣 wáng zhī huàn
白日依山尽 bái rì yī shān jìn
黄河入海流 huáng hé rù hǎi liú
欲穷千里目 yù qióng qiān lǐ mù
更上一层楼 gèng shàng yì céng lóu

鸛鵲楼に登る  王之渙
白日 山に依りて尽き
黄河 海に入りて流る
千里の目を窮めんと欲し
更に上る 一層の楼
 カンジャクロウにノボる。オウシカン。ハクジツ、ヤマにヨりてツき、コウガ、ウミにイりてナガる。センリのメをキワめんとホッし、サラにノボる、イッソウのロウ。

大意 私は今、中国四大名楼のひとつ、山西省の蒲州(ほしゅう)にある鸛鵲楼にいる。
 大空をギラギラと照らす太陽は、西の稜線に沈もうとしている。
 大地を滔々(とうとう)と流れる黄河は、はるか東の海に流れ込んだあともまだ流れ続ける。
 千里のかなたの光景を、見極めたい。
 さあ、もう一つ上の階にあがろう。

 中国の学校でも、日本の国語や古文にあたる授業があります。この漢詩は、日本でも中国でも有名です。
 「鸛鵲楼」は同音の漢字で「鸛雀楼」とも書きます。現代の中国では「鸛雀楼」と書くほうが普通です。
 日本の一里は約4キロメートルですが゜、中国の一里は約0.5キロメートルです(時代によって違います)。

楓橋夜泊
 唐の詩人・張継(ちょう・けい。生没年不詳。8世紀)が詠んだ七言絶句です。「天」「眠」「船」で韻を踏みます。
[https://youtu.be/iO0yueU1-y0]

(YouTubeでのビデオリスト)

《枫桥夜泊》张继 《fēng qiáo yè bó 》zhāng jì

月落乌啼霜满天 yuè luò wū tí shuāng mǎn tiān
江枫渔火对愁眠 jiāng fēng yú huǒ duì chóu mián
姑苏城外寒山寺 gū sū chéng wài hán shān sì
夜半钟声到客船 yè bàn zhōng shēng dào kè chuán

月落烏啼霜満天  月落ち 烏啼きて 霜 天に満つ
江楓漁火対愁眠  江楓の漁火  愁眠に対す
姑蘇城外寒山寺  姑蘇城外 寒山寺
夜半鐘声到客船  夜半の鐘声 客船に到る

ツキ オち カラス ナきて シモ テンにミつ
コウフウのギョカ シュウミンにタイす
コソ ジョウガイ カンザンジ
ヤハンのショウセイ カクセンにイタる

大意 寒々とした夜。私は、河岸に停留する旅の船のなかで、眠れぬ夜を過ごしている。
 月が落ちてカラスが鳴いて、冷たい霜が夜空にびっしりだ。河岸の黒々とした楓(かえで)の木々と、真っ赤に燃える漁火(いさりび)が、旅愁(りょしゅう)で寝付けぬ夜目(よめ)にしみる。
 姑蘇の町の外、寒山寺から、夜中の鐘の音が、私がいる客船にまで響いてきた。

 寒山寺や楓橋という地名は、江蘇省蘇州市姑蘇区に現存しており、観光名所になっています。
 ただし、寒山寺や楓橋という地名は、作者の張継より後の時代に作られた、という説が有力です。張継がこの漢詩を詠んだのは、現在の寒山寺から約10キロメートルほど離れた別の場所(現在の呉淞江の河岸)だったとする説もあります。

参考 [
(福井県白川文字学ゼミ)楓橋夜泊] [(福井県白川文字学ゼミ)字音直読]



4-7 附録 アスペクト助詞等の概念図

初級中国語の学習者のために、「アスペクト助詞」“了1”le、“”zhe(着)、“过”guo(過)と、 文末の語気助詞“了2”le、進行形の副詞“在”zàiの違いを理解するための概念図をこちらに載せます。 ご自由にお使いください。