中国語発音教材 目次 はじめに 1課 2課 3課 4課 テスト

第二課 母音(ぼいん)



2-1 母音の総論および「声門閉鎖」について
2-2 単母音
解説ビデオ https://youtu.be/myt9tNQy0cM

(YouTubeでのビデオリスト)

2-1 母音の総論および「声門閉鎖」について

 中国語の母音は「単母音・複合母音・鼻母音」の三つに分かれます。
 日本語の母音に近いものもありますが、ごく一部です。
 中国語で母音だけ単独で発音するときは、必ず「声門閉鎖」をしてから母音を発音します。例えば同じアでも、中国語のa(声門閉鎖あり)と日本語のア(声門閉鎖なし)では、違って聞こえるわけです。

 声門閉鎖とは、こういうことです。
 まず、日本語で「アッ」と発音してみてください。小さな「ッ」の部分は、ツと発音するわけではありません。アッ、の小さなツは、のどをキュッと閉めるという一種の符号なのです。
 日本語のアッの、小さなツが示すところのものを「声門閉鎖」といいます
 中国語の母音を、前に子音をつけず、単独で発音する場合、必ずまず軽く声門閉鎖をしてから発音します。日本語では、母音のあとに声門閉鎖をすることはありますが、その逆はありません。中国語では、声門閉鎖をしてから母音を発音するのですが、日本語のように母音のあとに声門閉鎖することはありません。広東語(かんとんご)などの方言を除き、中国語に「つまる音」はないのです。
 中国語の母音aは、便宜的にアルファベットのaと表記してありますが、英語のアとも日本語のアとも全然違います。中国語のaをしいて日本語のひらがなで表記すると、仮にもし「アッ」をひっくりかえして「ッアー」と表記したら、感じがでるでしょうか。
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「アッ」をひっくりかえして「ッアー!」 →

 声門閉鎖をアポストロフィ( ' )で表し、中国語のaを「'a」と表記する方法も、昔は行われたことがありました。
 ピンイン(中国語ローマ字)ではいちいち表記しませんが、aに限らず、中国語の母音を単独で発音する場合、すべて声門閉鎖ではじまります。この点を注意してください。

[豆知識] 英語で「an apple」が「アンナップル」のように発音されるのは、英語の「ア」が声門閉鎖しないから。
中国語では、例えば“天安门”tiān'ānmén (天安門) ティエンアンメン、を、「ティエンンメン」と発音することは絶対に無い。
写真は天安門前広場(
秘密写真館)
天安門前広場

参考 「子音」「母音」と「声母」「韻母」
 国語や英語、中国語の教科書では、それぞれ独特の用語を使います。
 例えば、中国語の教科書では、音節の最初に来る子音を「声母」(せいぼ。“声母”shēngmŭ)、その後に続く母音を中心とした部分を「韻母」(いんぼ。“韵母”yùnmŭ)と言います。
 中国語では、漢字1文字は原則として全て1音節です。
 例えば“光”guāng グアンという発音は、
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声母韻母声調
頭韻韻腹韻尾
介音主母音尾音
guang1
 となります。
「グ・ア・ンなら3音節でしょう?」
 というのは日本人の発想で、中国語では1音節にカウントします。
 ちなみに、日本語の漢字「光」の音読み「コウ」は、昔の字音仮名遣(じおんかなづかい。昭和前期までの日本語の、旧仮名遣いによる音読みの表記)では「クワウ」と書きました。コウよりも、クワウのほうが中国語の発音 guāng に似ていますね。字音仮名遣いの起源は、千年以上前の日本人の先祖が、当時の中国語の発音を写したものだからです。

 セイボやインボ、という言葉は、中国語の初心者には耳慣れない言葉ですので、このサイトでは、子音・母音という言葉を使います。
 中国語初心者は、セイボやインボ、カイオンやシュボインやビオン、といった用語を暗記する必要はないので、ご安心ください。

 
2-2 単母音

 日本語の単母音は「アイウエオ」の五つです。
 中国語の単母音は以下の6つです。

“a o e i u ü”

 この6つの母音はほぼ「口を大きくあける度合い」の順に並んでます。この順番も覚えておいてください。
 この6つの他に、特殊母音であるerを加えた7つの母音が、単母音です。


 中国語の母音の発音練習のときは、特にことわらない限り「第一声」のアクセントで練習します。
 また、i u üは、それぞれyi wu yuと書いても発音は同じです。

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 上記の母音のうち、日本人にとって発音が難しいのは、eと ü(=yu)とerの3つです。

[豆知識] 「 ü 」で、u の上の「 ¨ 」を「ウムラウト記号」と言う。ドイツ語等でよく使う。
    中国語でウムラウト記号が出てくるのは、この ü だけ。



yi wu yu の順に、唇が横にすぼまる

yi、wu、yuと表記する理由
 a o e は、単独で音節になる場合もそれぞれ a o e の表記のままです。
 i u ü は、単独で音節になる場合はそれぞれ yi wu yu という表記に変えます。その理由は「見た目」です。
「差別だ! a o e は素顔のまま『外出』していいのに、なぜ、i u ü はひとりで『外出』するときにyとかwとかマスク着用を義務づけられるのか?」
 はい、たしかに。i u üは、かわいそうですね。でも、しかたないんです。
 i は、小柄で目立たない字です。声調記号をつけると、i の上の点を取られて、さらに小さく目立たなくなります。だから、単独で外出するときは、目立つように y というマスクをつけてあげるのです。
 u も、どちらかというと小柄ですよね。視力検査のときの、小さな記号みたいです。だから、ひとりで外に出るときは、wをつけて wu としてあげます。
 üを yu と書くのも同様の理由です。yü と書かない理由は、yをつけて yu と表記すれば、それだけで十分 u/wu と区別できるからです。

 ちなみに、英語では R/r Y/R W/w の3つは、子音のなかでも母音に近い「半母音」として扱われます。英語でも w や y は wooman(女性) とか year(年) など、単語を目で見て容易に識別するために活躍しています。
 中国語のピンイン表記は、欧文表記の工夫と知恵を参考にして、i u ü の3つについては、単独の音節となる場合は yi wu yu と書くようにしたのです。

 i がきわだって小柄な文字であることは、ローマ字の本場である西洋でも、ずっと問題になってきました。
 英語で一人称 I を大文字で書く理由は、小文字の i だとあまりにも目立たず、読みにくくなってしまうからです。一部の日本人が信じている
「英語の母語話者は自己主張が強いから大文字で“I”と書くのだ」
 というのは根拠のない俗説で、それを英語母語話者に言うと、
「でたらめを言うな。まさか、一人称を小文字でjeと書くフランス人よりも、私たちのほうが自己主張が強い、とでも言うのか」
 と反発を受けます(ロビン・ギル『英語はこんなにニッポン語』参照)。


 中国語の単母音を発音するコツは以下の三点です。
・すべて「声門閉鎖」からはじめる。
・日本語の母音より口の形(唇の形)をはっきりさせる。
eとerは、声を出しながら舌を口のなかで適切な動線で動かす。←コレが日本人には難しい!

 以下、それぞれの単母音について解説します。

a 発音練習では“ā”
 最も大きく口をあける母音です。日本語の「ア」より口を上下に大きめにあけて、かるく声門閉鎖をしたあと、アー、とノドの奧から発音します。日本語風に「アー」と発音しても中国人にはじゅうぶん理解されますが、中国人の耳には訛って聞こえてしまいます。

o 発音練習では“ō”
 二番目に大きく口をあける母音です。英語の「オ」のように口を丸め、かるく声門閉鎖をしたあと、オー、とノドの奧から発音します。日本語風に「オー」と発音しても中国人にはじゅうぶん理解されますが、中国人の耳には訛って聞こえてしまいます。

e 発音練習では“ē”
  日本人にとって、最も発音が難しい母音です。
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 発音のしかたは以下のとおりです。
  1. 唇の形をととのえる。日本語でゆっくり「エー」と発音し、その唇の形を覚えておく。
  2. 唇の形は「エー」のままで、喉の奥から「ウー」と言う。「エ」と「ウ」と「オ」の中間のような発音をする。
  3. 上記の発音に、声門閉鎖をつけて、“e”と長く伸ばして発音する。
  4. 隠し味として“e”と長く伸ばす発音の最後で、喉の奥の力を抜く。脱力の結果、
    (1)舌先がごくわずかに喉の奥の方向にスライドしてそのぶん舌の根っこが自然にもりあがり、
    (2)舌の動きと連動して顎もほんのわずかだけ自然と下に下がる。
 日本人にとって特に難しいのは、最後の「隠し味」です。
 “e”は単母音でありながら、発音の最初と最後では口の開き方が微妙に違い、最後の瞬間は「もう発音が終わりだ。安心した」と自然に脱力して、ごくわずかだけ口がたてに開くのです。ネイティブの中国人は、これを無意識的に自然に行います。しかし日本人の初心者は、この「隠し味」を意志的に行わねばなりません。日本語の単母音は全て、最初から最後まで口の形も舌の緊張度も変えません。しかし中国語の“e”は、最後に口の筋肉の緊張をゆるめるのです。
 日本人の耳にもわかりやすいように、違う母音で置き換えると「ウウウウゥゥゥ」のような感じで、最後の瞬間だけ緊張が綻ぶのです。
 武術もスポーツも発音も、力(りき)むより、適切に力を抜くほうが難しい。ネイティブの中国人が無意識に自然にやっている脱力を、日本人は意識的に研究してまねる必要があるのです。
【参考】どの中国語教科書でも、「e」の発音のしかたについての説明には苦労しています。背中をナイフで 刺された時の声、と説明する教科書もあります。
e oを発音する時と舌の位置は同じ。まずoを発音、口の中の舌の位置はそのままにして、 唇のまるめをとる。背中にブスリとナイフを突き立てられた時に、 のどの奥から出るような「ウ」。(相原茂『ひねくれ燕燕』朝日出版社2007年1月、p.32より引用)


i 発音練習では“ī”=“yī”
 ほほの筋肉をつかって口を両脇にひっぱり、かるく声門閉鎖をしたあと「イー」と発音します。日本で写真をとるとき「はい、チーズ」というときの「イー」の口のかたちだと思ってください。iを「yi」と表記しても発音は同じです。

u 発音練習では“ū”=“wū”
 唇をすぼめて丸め、顔の前方にややつきだして、かるく声門閉鎖をしたあと「ウー」と発音します。日本語よりも英語の「ウー」に近い発音です。uを「wu」と表記しても発音は同じです。

ü  発音練習では“ǖ”=“yū”
 日本人にとって、eと並んで最も発音が難しい母音です。
 初心者は、以下の手順で発音してください。
  1. 日本語で「ユー・・・」と発音してください。その唇のかたちを覚えてください。
  2. 「ユー」の口のかたちを保ったまま、「イー」と発音します。
     日本語風に「ユー」とか「ユイー」と発音してはいけません。あくまでユとイを同時に発音してください。
  3. 最初に、声門閉鎖をつけるようにしてください。
  ü すなわち「uのウムラウト」は、発音練習のとき以外は、yuと表記します。

[豆知識] yu(=ü) を第二声で発音すると「魚」



(特殊母音)er  発音練習では“ēr”
 上記の短母音eよりアゴを下にさげた形で、かるく声門閉鎖をしたあと、舌先を口のなかで宙ぶらりんのまま奧のほうに移動させつつ「アル」と発音します。

 以上、中国語の単母音の発音のしかたは、どれも日本語の母音と微妙な違いがあります。まとめると、

・日本語の母音は短音「ア」と長音「アー」の区別がある。中国語の母音には短音と長音の区別がない
・日本語の母音を発音するときは、基本的に唇や舌はあまり使わない。中国語の母音を発音するときは、唇や舌を積極的に動かす。
・上記の結果として、中国語の母音の発音のほうが、口の外見がはっきりと区別できる。
・日本語の母音は、すべて口のなかの前半部(唇にちかいほう)で発音する。中国語の母音は口の奧のほうから発音するものもある。

 
2-3 複合母音の種類と発音の注意
2-3 複合母音の種類と発音の注意 解説ビデオ
[https://youtu.be/IK9W6t0bLkc]

(YouTubeでのビデオリスト)


 中国語の複母音は以下のとおりです。
【複合母音(声調記号、無し)】
aieiaoou
yayeyaoyou
wawowaiwei
yue

ya ye yao you yue の発音は ia ie iao iou üe と同じです。
wa wo wai wei の発音は ua uo uai uei と同じです。

【複合母音(声調記号、有り)】 声調記号は主母音の上につけます。第一声以外の声調記号についても同様です。
āiēiāoōu
yāoyōu
wāiwēi
yuē

 以下、第一声での発音を示します。
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 中国語の複合母音の発音のコツは以下の三点です。
  1. まず声門閉鎖をすること
     単母音とおなじく、すべて声門閉鎖ではじめてください。
  2. 主母音と副母音の区別を明確に
     主母音とは「強く長く」発音する母音のこと、副母音は「弱く短く」発音する母音のことです。複合母音では、原則として、口のあけかたが大きいほうの母音(a o e i u yuの順で上位のほうの母音)が主母音となります。例えばaiは「ア(強)ーイ(弱)」のように聞こえます。日本語ふうに「アイ」と発音してはいけません。
  3. 主母音と副母音はなだらかに結ぶこと
     中国語の複合母音は、途中に「切れ目」がありません。例えばaiは「アー・イ」と発音してはなりません。「ア−(だんだん口を閉じて行く)・・・イ」という発音です。しいてカタカナで感覚的に書き表すと、
    アアアアアアァァァァァィイイ
     という感じで、頭のアと尻尾のイのあいだは無限の中間系でなめらかにつながっています。虹のスペクトルのように。
    か  これに対して日本語の「アイ」は、どんなにスローモーションで長く発音しても、
    アアアアアアアイイイイイイイイ
     のように、アとイのあいだに切れ目が存在します。
     中国語のaiという複合母音を、aとiの2字で表記するのは、あくまで便宜的な発音表記にすぎません。中国人の意識のなかではaiにあたる発音は、ai一個で独立した母音なのであって、「ア」と「イ」の合成ではありません。aiという発音表記にひきずられて、日本風に「アイ」と発音しないよう、注意しましょう。


最初が主母音になるもの
ai アーィ  ei エーィ  ao アーォ  ou オーゥ
発音練習は āi ēi āo ōu
・注意 eiと発音するときのeは、単母音のeとちがい、日本語の「エ」そっくりの発音になります(声門閉鎖をする点は違いますが)。eiに限らず、中国語の母音は「やわらかい」ので、その母音の前後にどんな母音や子音がくるかによって、口のかたちがあっさりと変化してしまうのです(そのほうが発音が楽だから)。いっぽう日本語の母音は、前後にどんな母音や子音が来ようとも、口の形が変化することはありません。日本語の母音はとても「かたい」、中国語の母音はとても「やわらかい」と言うことができます。
[補足] en ei ye(=ie) yue(=üe)
 この4つの場合は日本語の「エ」に近い発音になります。日本語のエに近い変則的なeを、ピンインでは、eの上にサーカムフレックスをつけて ê と書く場合もあります。
ēn ēi iē(yē) üē(yuē)
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 −n(語尾にくるn) や i や ü は「唇をせばめて、口の前のほうから出す発音」です。
 e は本来、唇をあけてのどの奥から出す発音です。が「唇をせばめて、口の前のほうから出す発音」と結びつくと、「どうせ口の前から発音するなら、eも手抜きをして楽に発音しよう」という無意識の心理が働いて、日本語の「エ」に近い脱力系の発音になるのです。


最初が i(ないしy) ではじまるもの
ya ィヤー  yeィエー  yaoィヤオ  youィヨウ
発音練習は yā yē yāo yōu
・注意 yeのeは、日本語「エ」と同じになります。yaoではaが主母音、youではoが主母音になります。

最初が u(ないしw) ではじまるもの
waゥワー  woゥオー  waiゥワイ  weiゥエイ
発音練習は wā wō wāi wēi
・注意 waiではaが、weiではeが主母音です。weiのeは日本語「エ」と同じ発音になります。

最初が ü=yu ではじまるもの(一つだけ)
yue(=üe) ユエー
発音練習は yuē
・注意 yue の主母音は e で、日本語「エ」と同じ発音になります。

 以上の副母音を別の視点でまとめると、
  1. 二重母音(1) 最初が主母音 ai ei ao ou
  2. 二重母音(2) 後ろが主母音 ya ye wa wo yue (= ia ie ua uo üe)
  3. 三重母音  真ん中が主母音 yao you wai wei (= iao iou uai uei)
となります。

 声調記号をつける位置、つまり、主母音となる母音の原則は、  です。

例外: iouとueiは子音のあとにくると変容する
 複合母音のうち、iouとueiについては、子音のあとにつくと以下のように変化します。

yŏu jiŭ wèi duì の模範発音
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 中国語を母語とする中国の生徒も、ピンインで声調記号をつける箇所を覚えるのは、それなりに苦労します。そのため「声調記号のつけかたを覚える歌」のような覚え方もあります(
こちらも参照)。

 
2-4 鼻母音の種類、およびnとngの区別について
オンライン授業用ビデオ
[https://youtu.be/2VQjmv5Vd-s]

(YouTubeでのビデオリスト)

 日本人の耳に「ん」のように聞こえる母音を、鼻母音といいます。
 「鼻」母音、という名称ですが、鼻母音を正しく発音するコツは鼻ではなく、舌の位置と形を正確にととのえることにあります。鼻ではなく、舌に神経を集中してください。

anenangeng-ong ān ēn āng ēng -ōng
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yanyinyangyingyong yān yīn yāng yīng yōng
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wanwenwangweng wān wēn wāng wēng
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yuanyun yuān yūn
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 日本語の「ン」にあたる発音は、中国語ではnとngの2つがあります
 中国語でも英語でもnとngは全く違う発音です。しかし、残念ながら日本人の耳には両方とも「ン」に聞こえてしまい、区別がつきにくいので注意しましょう。

  n  日本語で「反応(はンのう)」というときの「ン」
  ng 日本語で「千円(せえん)」というときの「ン」

★ nとngの区別は、ズバリ舌の位置の違いです。
 nは舌先を上あごにビタリとくっつけます。
 まず、an と ang の違いを聞いてみましょう。
 あえて漫画的なフリガナ表記をすると、
anは「アーン(ッ)!」
angは「アーン()!」
 と叫ぶような気持ちで発音します。
 (ッ)や()は声に出してはいけません。心のなかで叫んでください。
an と ang の模範発音
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 残念ながら、口の中の舌の動きは外から見えないので、模型を使った動画で示します。
 以下の動画は、だいたいの「感じ」を表すもので、舌の精確な動きを示すものではありません。

anの発音
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anの模範発音 Real Player(模型)

 ngは舌先は下あごのほうに押し下げ、下の根元を口の奧のほうで盛りあげます。
angの発音
mp4 videoangの模範発音 Real Player(模型)
 ピンイン表記にひきずられて「ング」と読み間違えないでください。ngのgは、gという音ではなく、舌の位置をあらわす一種の符号だと思ってください。つまり、ngの発音のとき、舌の根元を口の奧で盛りあげますが、そのときの舌のかたちはgを発音するときと同じかたちになる、という意味です。
 上述のとおり、中国語初心者の日本人の耳には、nもngも同じく「ン」のように聞こえてしまい、区別しにくいのです。しかし中国人の耳には、nとngは、あたかも日本語で「ナニヌネノ」と「ンガ、ンギ、ング、ンゲ、ンゴ」が違うくらいハッキリと区別して聞こえます。

[豆知識] 中国人でも南方出身者には n と ng の区別ができぬ人がいる。方言の関係。

 nとngの区別は、日本人泣かせの発音である、と言えます。例えば、
キンギョ“金鱼”jīnyú(金魚)

クジラ“鲸鱼”jīngyú(鯨魚)

金魚とクジラの模範発音
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 金魚とクジラでは、意味が大違いですが、中国語初心者の日本人の耳には同じ発音にしか聞こえません。
 まず、自分で正確にnとngを発音できるようにしましょう。そうすれば、耳も慣れてnとngの区別がつくようになります。

[豆知識] 日本の漢字音で「ン」で終わるものは、中国語でも「n」で終わる。
例「金」キ → jīn1
日本漢字音と中国語の関係については[こちらも参照]。



2-5 鼻母音の発音練習

[https://youtu.be/dfLz5MxGaDw]

(YouTubeでのビデオリスト)
 まず、anとangで鼻母音の発音を練習してみましょう。両方とも、中国語初心者には「アン」としか聞こえないので、注意してください。

mp4 video 「an」の模範発音 Real Player(模型)

mp4 video 「ang」の模範発音 Real Player(模型)


anの練習法 まず日本語の発音で「アンヌ」と言ってみてください。この「ン」のとき、あなたの舌先は上あごの歯のすぐ裏にピタリとくっつくはずです。まず「アンヌ、アンヌ」と繰りかえし、次に「アーンヌ、アーン・・・ヌ、アーン(切って止める)」と言って練習してください。

angの練習法 まず日本語の発音でごく自然に「アング」と言ってみてください(「口をアングリとあける」と言う感じで)。この「ン」のとき、あなたの舌先は上あごにくっつくことがなく、舌の根もとのほうが口の奧で盛りあがるようにしてください。「ング」というときは、口ではなく、鼻の穴から「ング」という声を出す感じにしてください。このようにしてまず「アング、アング」と繰りかえし、次に「アーング、アーン・・・グ、アーン(切って止める)」と言って練習してください。

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「アンヌ、アーンヌ、an 」と「アング、アーング、ang 」 →

   anとangの発音練習をするときは「口のなかで舌を正確に動かすこと」に全神経を集中してください。

 舌の位置を動かすことで、結果的に、anとangのそれぞれの「ア」の微妙な発音の違いも無意識的に自然にできるようになります。

 an の「ア」は、すぐ後に続けて n という「口を閉じる発音」がくるため、無意識のうちに「ア」も「つぶれて」口の前のほうから発音する「明るいア」になります。

 ang の「ア」は、すぐ後に続けて ng という「口の奧からだす発音」がくるため、最初に「ア」と発音する段階で無意識のうちに口の中の空洞の形がちょっぴり洞窟のように奥深くなり、ごくわずかながら「暗めのア」になります。

anの「ア」とangの「ア」の微妙な「色あいの違い」は、カナやローマ字で書き分けることはできませんが、中国人の耳にはハッキリと分かります。中国人は最初の「ア」を聞いた段階で、すぐ後に続くのがnなのかngなのか予想できるのです)。
 鼻母音で注意すべきは(複合母音も同じですが)、ある母音の前後にどんな発音がくるかによって、単母音のときと発音の「色あい」がガラリと変わってしまうことです。くどいようですが「日本語の母音はかたいが、中国語の母音はやわらかい」ということを、常に忘れないでください。
 日本人の中国語学習者にとって、このような母音の微妙な色あいの変化は、初めのうちはめんどくさく思われます。しかし慣れてくると、このように微妙に変化させたほうがかえって自然で楽に発音できることがわかります。
 中国人にとって自然で楽な発音をマスターできれば、中国人と百パーセント同じの、完璧に訛りのない中国語を発音することができるのです。


 次に鼻母音のそれぞれについて、練習をしてみましょう。

anアン enエン  ang アン eng オン -ongオン
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・注意 enのeは日本語「エ」に近い発音ですが、engのeは単母音eに近い発音です。anとangのそれぞれの「ア」も、enとengの「エ」ほどではありませんが、やはり色あいが違います。

yanイェン  yinイン  yangヤン  yingイン yongヨン
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・注意 yanはヤンではなくイェンと発音します。aは最も口を大きくあける「最強の母音」ですが、口を横に閉じるy(=i)と、口を舌先で閉じるnという二つの「口を閉じる圧力」にaが前後からサンドイッチされてしまう結果、さすがのaもつぶれて「エ」になってしまった、というわけです。いっぽうyangのaのほうは、「ア」の後に続くのがnではなくngなので、aがつぶれて「エ」になる、という事態は免(まぬか)れています。
・注意 yinとyingの発音の区別は、日本人学習者にとっては、anとang以上に難しいです。

yin と ying の模範発音
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 yinの発音練習
 yiと長く伸ばして発音したあと、舌の先を上顎の歯茎のうらにネチョッとつけて、しっかり n で止めます。
 あえて漫画的な表記をすると
 「いーん(っ)!」
 と言う気持ちです。
 yingの発音練習
 yiと長く伸ばして発音したあと、最後は一瞬、隠し味的に eng になります。yi(e)ng という感じです。
  あえて漫画的な表記をすると
 「いー(ほんの一瞬、他人に聞こえないくらい小さな e )()!」
 と言う気持ちです。

wanウワン  wenウェン  wangウワン  wengウオン
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・注意 wanとwangの違い、wenとwengの違いについては、anとang、enとengの違いを参照のこと。

yuanユアン  yunユン
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・注意 yuanの「yu」は、日本語「ユ」ではなく、中国語の「 ü 」。
 yuanはユアンとユエンのどちらに発音してもよい。

[豆知識] yun を第二声で発音すると「云(雲)」



 以下は、中級・上級者向けの参考記事です。
[参考] 漢字「明」の音読みと中国語の関係
 日本人の中国語学習者は「中国の漢字の発音は難しい」と思います。
 逆もまた真なりで、中国人の日本語学習者は「日本の漢字の発音は難しい」と嘆きます。
 例えば、「明治大学」の「明」は、日本では小学校2年生の国語で習うやさしい漢字です。しかし、読み方がたくさんあります。
 中国語では、“明”という漢字は“míng”ミン としか読みません。しかし日本語では、以下のようにいろいろと読み分けます。

【音読み】
 明治・・・メイジ。「メイ」は漢音。
 明日・・・ミョウニチ。「ミョウ」は呉音。訓読みで「あす」「あした」とも読む。
 明王朝・・・ミンオウチョウ。「ミン」は唐音。
【訓読み】
 明るい・・・アカるい
 明らか・・・アキらか
 鳥山明・・・とりやまアキラ(有名な漫画家)

 ここでクイズ。平安時代の人物で清和天皇を母親である「藤原明子」の名前「明子」は、何と読むでしょう? 「あきこ」ではありません。なんと「あきらけいこ」と読みます。いわゆる「有職読み」(ユウソクヨミ)で「明子」を「メイシ」と音読みしてもOK。
 現代の、いわゆるキラキラネームでも、「明(はる)」とか「琉銀明(るぎあ)」とか、ふりがながないとまず読めない名前があります。
 だめおしでもう一つ。「杉浦明平」という作家の名前、読めますか? 答えは「すぎうらみんぺい」です。
 繰り返しますが、中国語では“明”という漢字は“míng”としか読みません。日本語を勉強する中国人は、大変ですね。

 さて、日本の漢字の「音読み」は、実は大昔の中国語の発音を日本人の祖先が学び、日本語にとりいれたものです。

 呉音は、中国の「呉」の地方(江南地方)の発音、という意味です。『三国志』の呉の孫権の本拠地があった一帯の、当時の標準語の発音です。ただし『三国志』の呉は西暦3世紀ですが、日本漢字音の呉音のもとになったのは5世紀から6世紀ごろの江南地方の発音で、時代はかなり違います。
 呉音は古い読み方で、仏教では今も呉音をよく使います。お寺やお坊さんの名前とか、お経のなかに「明」という漢字が出てきたら、呉音でミョウと読むのが普通です。

 漢音は、漢土(中国の古い呼び方の一つ)の発音、という意味で、遣唐使らが学んだ唐王朝(618年−907年)前期の標準語の発音です。漢王朝の時代の発音、という意味ではないので、要注意です。李白や杜甫、楊貴妃など、唐の時代の中国人の発音のなごりが、日本の漢音には残っています。日本語では、特に必要がないかぎり、漢字の音読みは原則として漢音を使います。「明治」は仏教関係の用語ではないので「メイジ」と読みます。政治家などの公人が自分の考えを発表する「声明」は仏教用語ではないので漢音読みしてセイメイですが、仏教音楽の「声明」は呉音読みしてショウミョウです。

 唐音は、唐人(海外に出た中国人、の意。文脈によっては、唐王朝の時代の人、を指す場合もある)の発音、の意で、鎌倉時代に中国に渡った禅僧や、室町時代や江戸時代に中国語を学んだ商人が日本語に持ち込んだ音読みです。唐の時代の発音ではないので、要注意です。「明王朝」「日明貿易」はそれぞれ「みんおうちょう」「にちみんぼうえき」と読みます。

 漢字「明」の唐音ミンは、現代中国語の発音と似ています。時代が近いので、当然です。
 「明」の漢音がメイで「ミン」でない理由は、遣唐使が学んだ当時の中国の標準語では、まだ語尾の -ng の発音を今ほどはっきりと発音しなかったためです。
 これと対照的に、“民”mín ミン のように -n で終わる発音は、遣唐使が中国語を学んだ当時もはっきり「ン」と聞こえたため、日本語の漢字音でも「みん」となりました。
 現代日本の中国語学習者が、
「ええと、“明”の中国語の発音は、mín と míng のどっちだったかな?」
 とピンインで迷ったとき、
「明の音読みはメイで、ンで終わらないから、mínではないな」
 と、呉音と漢音をヒントに考えることができます。ただし、唐音のミンで考えると間違ってしまうので、要注意です。
[日本漢字音の謎]


[参考] 明清(みんしん)時代の伝統的な音韻学では「四呼(しこ)」と言って、母音(韻母)を以下の四つに分類していました。

[参考] 声調記号をつける位置をおぼえる歌。
 中国の生徒のあいだで有名な学習標語。他にもいろいろなバージョンがあります。
《标调歌》有 a 不放过,没 a 找 o、e 。i、u 相连标在后, 单个韵母不必说。
《biāo diào gē》yŏu “a” bú fàngguò, méi “a” zhǎo “o、e”. “i、u” xiānglián biāo zài hòu, dāngè yùnmŭ búbì shuō.
 日本語訳もいろいろあります。例えば「aがあればのがさずに / aがなければeかoをさがし / i・uが並べば後ろにつけて / 母音1つは迷わずに」など。