中国語発音教材 目次 はじめに 1課 2課 3課 4課 テスト
   ぴよぴよ・・・

第一課 声調(せいちょう)について

解説ビデオ
[https://youtu.be/myt9tNQy0cM]


(YouTubeでのビデオリスト)


1-1 四声について

 日本語のアクセントは「高低アクセント」で、英語は「強弱アクセント」です。
 中国語のアクセントは、日本語と同じ「高低アクセント」です。日本語のアクセントは高低の二種類ですが、中国語のアクセントは四種類あります
 中国語では、アクセントのことを「声調(せいちょう)」と呼びます。声調は「声の調子」とか「声色(こわいろ)」という意味ではありませんので、注意してください。
 声調には、以下の四種類があり、あわせて「四声(しせい)」と呼ばれます。

第一声(だいいっせい) 高く平らに伸ばす。声調記号(後述)は“̄”
第二声(だいにせい)  真ん中の高さから上にあがる。声調記号は“́”
第三声(だいさんせい) 低い声でv字型に押し下げる。声調記号は“̌”
第四声(だいよんせい) 上から下にさがる。声調記号は“̀”

   このほか、

軽声(けいせい)  軽く短く

 というアクセントもあります。軽声は、前の音節に軽くそえるときの発音で、単独では使いませんので、四声のうちには入れません。

 日本語でもアクセントは大事です。アクセントが正確であれば、例えば
「ニワニワニワニワトリガイル」   
という早口言葉も、耳で聞いて「庭には二羽ニワトリがいる」という意味だと理解できます。
 中国語では、日本語以上にアクセントが大事なのです。アクセントを間違えると、言葉の意味がすっかり変わってしまうことが少なくありません。例えば、同じma(マー)という発音でも、高低アクセントが違う
“mā má mǎ mà ma”
は、それぞれ別の意味の言葉になります。



mp4 video
 

第一声でmā 妈 「お母さん」
第二声でmá 麻 「麻」=「アサ(植物名)」「しびれる」「あばた」
第三声でmǎ 马 「馬」ウマ
第四声でmà 骂 「罵る」=「声をあげて叱る」

軽声で ma 吗  「・・・か?(疑問をあらわす語気助詞)」

 “妈麻马骂吗”等を簡体字と言います。
 “媽麻馬罵嗎”等を繁体字と言います。
 明治大学の中国語の授業では、簡体字とピンインを覚える必要があります。

 aの小文字の書体には、印刷書体的な「double-storey(二階建て)のa」と、手書き書体的な「single-storey(平屋)のa」の二種類がありますが、ピンインではどちらを使ってもOKです。
 教科書は印刷物なので前者の「二階建てのa」が主流ですが、テストの回答など手書きのときは後者の「平屋のa」で書いても間違いではありません。

【参考】ネット上には、日本の漢字を入力すると自動的に簡体字やピンイン、繁体字に変換してくれる便利なサイトもあります。
例 [書虫ピンイン(pinyin)サービス] [楽訳中国語変換]

[豆知識] 「中国語は音楽的な言葉だから、音痴にはマスターできない」
という俗説は、完全な間違い。中国にも音痴はたくさんいる。
(絵をクリックすると拡大)

夜中のアコーディオン
  以下の例文を発音してみましょう。

例文) “妈妈骂马吗?” Māma mà mǎ ma?

 mp4 video

逐語訳(ちくごやく) お母さん、しかる、ウマ、か?
直訳 お母さんは馬を叱るか?
意訳 お母さんは馬を叱ってるの!?

 ピンインは英語と同様、単語ごとに分かち書きにして、文頭と固有名詞の最初の1字は大文字にします。
 簡体字は分かち書きしませんが、教科書などでは学習者のために簡体字のほうも分かち書きにすることがあります。


 
1-2 「半三声」について

 上記の四声のうち、日本人中国語学習者にとって最も難しいのは第三声です。というのも、第三声だけは、実際の局面では二種類の発音を使い分けるからです。すなわち、

・第三声強調形:単独で発音するときは、低い声でv字型に押し下げる
・半三声:他の語に続けて早口で発音するときは、低い声で平らに伸ばす

 例えば、ウマという意味の“马”mǎ(馬)と、白いウマという意味の“白马”báimǎ(白馬)いう語を発音する場合を例にとりましょう。

モンゴルの白馬(秘密写真館)


“mǎ báimǎ”

mp4 video
 


 単独でmǎと一単語だけいうときは第三声強調形で発音します。
 他の語に続けて発音する場合、例えば“白马”báimǎ バイマーと発音する場合、ゆっくり発音するときはmǎの部分は第三声強調形、早口で発音するときは半三声で発音します。
 実際に中国人が会話するときは、早口でしゃべることが多いのです。つまり、第三声は、実際の場面では、第三声強調形よりも半三声で発音されることが多いのです。

1-3 第四声だけは少し速く

 四声のうち、第四声だけは発音のスピードが速くなります。これは「上から下にストンと落ちる」という心理的作用のため、無意識に早口になるためです。

1-4 軽声の声の高さ、および中国語の「自然」な発音について

 軽声の声の高さは、前の声調にあわせて「自然に」発音すればOKです。
 「自然に」というのは「不必要な力をいれず、いちばん楽に」ということです。しかし日本人の初心者にとっては、中国語を発音すること自体が「不自然」であるため、慣れないうちは何が自然で何が不自然か、わからないのです。
 軽声の高さは、ごく自然に発音すると、自動的に「第三声のあとでは高く、その他の声調のあとでは低く」なります。

“māma máma mǎma màma”

mp4 video
 


 なぜ、軽声は第三声のあとだけ高い発音になるか、というと、そう発音するのが一番楽で自然だからです。

[参考] 1-5 中国語で「中国語」はどう呼ぶか

 日本語では「中国語」と呼びますが、中国語では「中国語」の呼び方はいろいろあり、それぞれニュアンスが違います。
 「PC」(ポリティカル・コレクトネス。ポリコレ。政治的、社会的、道義的に公正で中立的な立場をつらぬくこと)と結びついた呼び方もあるので、要注意です。
 迷ったら、とりあえず“中文”zhōngwénと言えば、話は通じます。
 たくさんあって、頭がくらくらしてきますね。
 このサイトも含めて、日本の大学で教える中国語の大半は、最も精確に言うと“普通话”pŭtōnghuàの発音です。

 ちなみに、“普通话”の発音の基準は、北京市内の発音ではありません。中華人民共和国の政府は1950年代、北京市の中央にある天安門から西北に140キロメートルほど離れた河北省承徳市灤平県(かほくしょう・しょうとくし・らんへいけん)の住民の発音を採集し、これを標準語の基準としました(より精確に言うと、灤平県は「普通話」の音声採集地の一つ)。
 灤平県は、地方の小さな町です。なぜ、中華人民共和国政府は、首都・北京市民の発音をあえて基準としなかったのか。その理由を説明しだすと、話が長くなるので、割愛します。
 日本の地理感覚と比較すると、灤平県の位置は、皇居外苑から140キロメートルほど離れた茨城県高萩市(いばらきけん・たかはぎし)に相当します。

 中国は方言の違いが大きく、例えば、北京語と広東語は、英語とイタリア語くらい違います。また、言葉が訛(なま)っている中国人も、けっこういます。中国人は自分の故郷を愛する傾向が強く、自分の訛りや方言に誇りをもつ中国人も多いです。
 日本人がしゃべる中国語は、中国人の耳には、南方的な訛りに聞こえることが多いようです。

[豆知識] 第二次世界大戦まで、中国人になりすました日本人スパイの多くは「自分は温州(おんしゅう)出身者だ」と騙(かた)った。
日本人中国語学習者の訛りは中国南方の訛りに似ており、しかも温州には多種多様な方言があったから。



[参考] 1-6 ダイアクリティカル・マークと声調記号

 声調を示す記号(符号)を「声調記号」もしくは「声調符号」と呼びます。
 世界各地の言語では様々な「ダイアクリティカル・マーク」(diacritical mark = 発音区別符号)を使います。英語の文ではダイアクリティカル・マークをほとんど使いませんが、エスペラントや、ドイツ語・フランス語・スペイン語・ロシア語・ベトナム語など多くの言語ではダイアクリティカル・マークを普通に使います。
 中国語の4つの声調記号は、世界の他の言語でも使われているダイアクリティカル・マークを流用したものです。
 国際的には
 「¯」はマクロン。中国語では第1声の声調記号に流用。「日本式ローマ字」も含めて中国以外では長音記号として使用することが多い。
 「́」はアキュート・アクセント。中国語では第2声の声調記号に流用。フランス語、スペイン語、イタリア語、アイルランド語、ベトナム語など世界各国語で普通に使用。
 「̌」はキャロン。中国語では第3声の声調記号に流用。「ハーチェク」とも呼び、スラヴ系言語で使用。丸みを帯びた「˘」(ブレーヴェ)と混同しないように注意。
 「̀」はグレイヴ・アクセント。中国語では第4声の声調記号に流用。イタリア語では強勢符号として使用。
です。
 この他、ウムラウト記号は中国語では、 ü にだけ使います。またサーカムフレックスは、中国語では変則的発音 ê (en ei ie üe の時の e の発音。日本語の「エ」に近い)にだけ使います。

 日本語のローマ字表記でも、ダイアクリティカル・マークを使います。
 慣用的な「日本式ローマ字」では、長音を示す符号としてマクロンを使います。例 TŌKYŌ(東京)
 日本語のローマ字の正書法である「訓令式ローマ字」では、長音表記はマクロンではなくサーカムフレックスを使います。例 TÔKYÔ(東京)

 ダイアクリティカル・マークつきのローマ字は、日本語のメールなどでは、文字フォントの関係で文字化けする可能性があります。そのため、日本語のメールで中国語のピンインを書く場合、例えば māをma1、máをma2、mǎをma3、màをma4のように、アラビア数字で声調記号を代用することもあります。