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学校オペラ「イエスマン、ノーマン」
(2)ノーマン 楽曲と解説

日本の能楽を翻案したドイツの劇を、京劇の手法を採りいれつつ日本語で上演するための新作楽曲を公開するページ
最初の公開 2009-7-15 最新の更新 2010-10-25

ノーマン(Der Neinsage)
 以下、「ブレヒト研究会」本(略称「ブレ研本」)にもとづき、あらすじと、曲の一部の抜粋を掲載する。
 「ブレ研本」は、岩淵達治先生の翻訳を、ノートに鉛筆で手書きしたもの(のコピー)である。たまたま「ノーマン」「イエスマン」の順だが、実際の上演順は逆にするほうが多い。
 岩淵先生の訳は、市販の本では、
岩淵達治訳『ブレヒト戯曲全集』第8巻,未來社.1999年,ISBN 10:4-624-93278-1
で読める。同一人物の訳だが、単語や「てにをは」は、「ブレ研本」とかなり違う。
 本サイトでは、岩淵達治先生ご本人のご承諾を得たうえで、「ブレ研本」のほうの歌詞を引用させていただく。
仮タイトル歌い出し時間演唱者解説MP3MIDI
合意の賛美歌
The hymn of agreement
何よりも1:50コーラス こちら
[]
対話の歌(1)
The dialogue song 1
母上も0:59こちら
対話の歌(2)
The dialogue song 2
母さんが0:56少年 こちら
母のバラード
Mother's sentimental Ballad
父上が1:44母親 こちら
出発の歌
The departure song
私は1:59少年・師・母親
→コーラス
→母親
こちら
[]
峯越えの歌
The chorus of ridge climbing
鍛錬隊は0:59コーラス こちら
緩急(かんきゅう)のBGM
The background music for the slow and the quick
(歌詞無)2:48−− こちら省略
道行(みちゆ)きのBGM
The background music for the wayfarers
(歌詞無)3:12−− こちら省略
イエスマンの峯越えのシーン、伴奏の流れの例:
「峯越えの歌」→打撃楽喜遷鶯打撃楽(急急風)泣顔回打撃楽(抽頭)打撃楽(乱錘)沽美酒→「夜明けの吟詠」
※以上、MIDI音源。実演時は生演奏が望ましい。
ノーマンの峯越えのシーン、伴奏の流れの例:
「峯越えの歌」→ 曲牌音楽打撃楽泣顔回打撃楽(抽頭)沽美酒 →「夜明けの吟詠」
※以上、MIDI音源。実演時は生演奏が望ましい。
夜明けの吟詠
The chant at dawn
夜の白むころ1:08コーラス こちら
困惑の輪唱
Singing a round with perplexity
おい、聞いたか?1:08四人の弟子 こちら
けなげの端唄
The short song for concealing exhaustion
いいえ、ほら0:24少年 こちら
臨死の歌
The near death song
あの子に2:38四人の弟子 こちら
理屈のBGM
The background music for the argumentative boy
(歌詞無)1:53−− こちら
ノーマンのフィナーレ
The grand finale of No-Sayer
それでは引き返す2:32四人の弟子
→コーラス
こちら


(開幕。コーラス隊、登場人物たち、舞台に登場。「合意の賛美歌」を歌う。以下、のマークのところをクリックすると、音が聴けます)

合意の賛美歌「何よりも大事なのは…」【ブレ研本 J1/N1】
[MP3で実況録音の歌声を聴く]
[YouTubeで実演を視聴する]
[MP3のカラオケ]
[参考MIDI(非推奨)] ※MIDIでは音色は不適切だが、適切なソフトを使えば楽譜が復元でき、また容量も軽いので、参考までに掲げる。
【コーラス】何よりも大事なのは、了解を、合意を、コンセンサスを学ぶことだ。/ ハイハイハイゝゝと答える人はたくさんいる。/ (セリフ)ところが実は了解なんかしていない。/合意を求められない人もたくさんいる。(セリフ終わり)/(合唱)だからこそ、だからこそ何よりも大事なのは、 /了解のしかたを、合意の与えかたを、コンセンサスを学ぶことだ。
↓クリックすると拡大


1994年版「ノーマン」合唱隊(右)と打楽器奏者の席(左)
(C)Kyougeki Kenkyuukai,1994
(※解説)
閩劇「珍珠塔」を参考に自製した新曲。
 前奏は京劇の「抽頭」のリズム。歌詞は「ブレ研本」を、一字一句変えずに使用。
 主旋律のみ示す。対旋律や和音の歌の旋律は省略。以下同じ。
 岩淵達治先生訳の「ブレ研本」は、観客が耳で聞いたときの「響き」を考慮した字句の加工(補綴)がほどこされており、そのぶん曲にしやすい。
 参考までに、「補綴」が入る前の、同じ岩淵先生の訳文(ブレヒトのドイツ語原文により近い訳)を以下に示す。
【ドイツ語の原詞】
Wichtig zu lernen vor allem ist Einverständnis.
Viele sagen ja, und doch ist da kein Einverständnis.
Viele werden nicht gefragt, und viele sind einverstanden mit Falschem.
Darum: Wichtig zu lernen vor allem ist Einverständnis.
【英訳(CD polydor 839 727-2)】
Above all, it is important to learn acquiescence.
Many say "yes" and yet therein lies no acquiescence.
Many are not asked,
And many agree to the wrong thing.
Therefore:Above all, it is important to learn acquiescence.
コーラス
「何よりも重要な学習は了解することだ。/イエスといっておきながら、了解していないことがたびたびある。/よく尋ねられもしないのに、間違った早のみこみをして/納得している者が多い。だからこそ──/何よりも重要な学習は了解することなのだ」  ──岩淵達治『ブレヒト戯曲全集 第8巻』(1999)p.205より引用
補綴版:了解を学ぶのは何より大事なこと/口では了解、実はわかっていない/確かめられもしないで、間違ったことを了解してる/ だから/了解を学ぶのは何より大事なこと。
参考 Kurt Weill作曲の伴奏 (1) (2)(MIDI)  ALERT:In Japan, the copyright of Weill became PD because more than 50 years passed after he died. But his copyright is still protected in some foreign countries, where you may not download this MIDI file. View the copyright page.
注意:日本国の法律によれば、死後50年以上経過したクルト・ワイルの著作権は「公有」扱いです。しかしまだ彼の著作権が有効な国では、このMIDIファイルをダウンロードしないでください(詳しくは「著作権について」をどうぞ)。
作曲家のKurt Weillは、ブレヒトの上記の歌詞に、三拍子のモダンな合唱曲を作曲した。
本作のキーワード「了解すること」の原語は「Einverständnis」である。


1994「イエスマン」師・少年(男優)・母

1994「ノーマン」母・師(女優)・少年(女優)
(C)Kyougeki Kenkyuukai,1994
(主人公の少年の家。貧しい母子家庭。
母ひとり子ひとり。母は病気で寝ている。
少年の「師」が、あいさつに来る。師は、少年と母親に、弟子たちを連れて峯越えの旅に出ることになったことを伝える。
参考:ブレヒト版の「師」のセリフと、能『谷行』の該当箇所の比較対照↓
【ブレヒト作『ノーマン』岩淵達治訳】 私は教師で、この町に塾を開いています。生徒のうちに早く父をなくし、女手ひとつで育てられた子供がいる。これから出かけて、別れを告げてこようと思います。私はまもなく、山へ研修旅行に出発します。苦難に耐え、心や体を鍛えるためです。(扉をたたく)入ってもよろしいかな。
【原文】Ich bin der Lehrer. Ich habe eine Schule in der Stadt und habe einen Schüler, dessen Vater tot ist. Er hat nur mehr seine Mutter, die für ihn sorgt. Jetzt will ich zu ihnen gehen und ihnen Lebewohl sagen, denn ich begebe mich in Kürze auf eine Reise in die Berge. Er klopft an die Tür. Darf ich eintreten?
【能『谷行』原文】 これは今熊野、[木那]の木の坊に帥の阿闍梨と申す山伏にて候。さても某、弟子を一人持ちて候が、かの者の父、空しくなり、母ばかりに添ひて候。また某は近き間に峯入を仕り候程に、暇乞の為に只今出京仕り候。いかに案内申し候。
Kore wa Imagumano, Nagi-no-Ki-no-Boo ni, sotu no ajari to moosu yamabusi ni te soorou. Satemo soregasi desi wo itinin moti te soorou ga, ka no mono no titi munasiku nari, hawa bakari ni soi te soorou. Mata soregasi wa tikaki aida ni mineiri wo tukamaturi soorou hodo ni, itomagoi no tame ni tadaima shukkyoo tukamaturi soorou. Ikani annai moosi soorou.
※今熊野→現在の京都市東山区今熊野。現代日本語の発音はimakumano、能(謡曲)ではimagumano ※母→現代日本語の発音はhaha、能ではhawa

クルト・ヴァイル版では、上記の「師」のセリフも歌になっている。

旅の目的は、「ノーマン」では「研修旅行」、「イエスマン」では「救援隊」と、微妙に違う。
少年は、自分も旅に参加したい、と申し出る。
師と母親は、少年が幼すぎて、この過酷な旅の参加は無理だ、と反対する。
師と少年は「対話の歌」を歌う。ここはシャンソン風に軽く歌うとよい)

ノーマン 2010

対話の歌(1)[
母上も言われたように…](MP3)【J20/N20】 [参考MIDI(非推奨)] 
【師】母上も いわれたように/これはとてもつらい/危険な旅だ。君は一緒には/こられません。/それにどうして /病気の母上を残していけるんです。/ここに残りたまえ。/ほんとに君には無理なのだ。
参考までに、能『谷行』の該当箇所を掲げる。↓ ブレヒト版が意外と原作に近いことがわかる。
【能『谷行』原文】 いやいや只今も母御に申し候如く、この道ハ難行捨身の行体にて、思ひも寄らぬ事にてあるぞ。その上、母の風の心地を見捨つべきにあらず。かたがた思ひも寄らぬ事。ただ止り候へ。

対話の歌(2)「母さんが病気だから…」【J21/N21】
 [YouTubeで実演を視聴する]  [MP3のカラオケ]  [参考MIDI(非推奨)]
【少年】母さんが病気だから/それで私は行きたいんです。/峯の向こうの町へ行き、偉いお医者様たちから/ お母さんにあげるお薬をもらったり/看病の仕方を習いたいのです。


(病気の母親は、ひとり息子の少年を引き寄せて、「母のバラード」を歌う。)
ノーマン 2010

母のバラード「父上が…」
 [YouTubeで実演を視聴する]  [MP3のカラオケ]  [参考MIDI(非推奨)]
※女形で演ずる場合はEmに移調してもよい [
Em版 参考MIDI(非推奨)]
【母】父上が亡くなられた/その日から/私のそばには お前のほかは/誰もいなかった。/ 食事の仕度をしたり、お前の着物を仕立てたり、/お金をかせいだりする時のほかは/ お前はいっときだって/私のそばから/私の胸から/離れたことはなかった。
(※解説)京劇の「二黄碰板」の旋律を参考にアレンジした曲。
【能『谷行』原文】御身の父に後れし日より、ただ一人子のひたすらに、身に添ふ時だに見ぬ隙は、露ほどだにも忘られず、思ふ心を思へかし。ただ思ひ止り候へ。

(少年の決意は固かった。
母と師もついに折れて、「出発の歌」を歌う。)
イエスマン 2010
(少年のセリフ:お母さんの言うとおりです。でも、わたしの決心は固いんです)
【少年、母、師】私は(この子は)研修の峯越えに加わる。/ 峯の向こうの町で お母さん(私の、母親の)/薬をもらったり/看病の仕方を 教わるために。
【コーラス】どんなにさとしても、こどもの決意は固かった。/ そこで母と先生は/声をそろえて云った。
【師、母】まちがったことに合意してしまうものが 沢山いるが/ この子は/病気に合意したのではなく/病気をなおすことに合意したのです。
【コーラス】そこで母は云った。
【母】私にはもうとめられない。 /どうしてもいくというのなら/先生と一緒にいらっしゃい/でも早く帰ってきておくれ。
【能『谷行』原文】(母を演ずるシテの謡) この上なれば力なし。さらば師匠のお供して、とくとく帰り給へや。
【ブレヒトの原文】Ich habe keine Kraft mehr. Wenn es sein muß. Geh mit dem Herrn Lehrer. Aber schnell, schnell. Kehre aus der Gefahr zurück.
出発の歌「私は研修の…」
[MP3で実況録音の歌声を聴く(イエスマン=女組)]
[YouTubeで実演を視聴する]  [MP3のカラオケ]  [参考MIDI(非推奨)]
前半、終わり。幕。
(※解説)冒頭の【少年、母、師】の歌は福建の
南音「満空飛」を参考に自製した新曲。
母親の最後の歌いかたについてはこちらも参照
参考 Kurt Weill作曲の伴奏(MIDI)
合唱「どんなにさとしても子供の決意は固かった…」から、母親「でも早く帰ってきておくれ」までの部分。
ALERT:In Japan, the copyright of Weill became PD because more than 50 years passed after he died. But his copyright is still protected in some foreign countries, where you may not download this MIDI file. View the copyright page.
注意:日本国の法律によれば、死後50年以上経過したクルト・ワイルの著作権は「公有」扱いです。しかしまだ彼の著作権が有効な国では、このMIDIファイルをダウンロードしないでください(詳しくは「著作権について」をどうぞ)。


(後半開始。師、四人の弟子、そして少年が登場。険しい峯越えの難所にさしかかる。
京劇風の打楽器の生伴奏に合わせ、難所を越えようとする演技。
コーラス隊が「峯越えの歌」を歌う)

峯越えの歌[鍛錬隊は…]
 [YouTubeで実演を視聴する]  [MP3のカラオケ]  [参考MIDI(非推奨)]
【コーラス】鍛錬隊(=N/J:救援隊)は、険しい山路に/さしかかった。/先生と/こどもの姿も見える/こどもには、この峯越えは無理だった。/かえりをいそいではやる思いが/心に重い負担をかけた。
↓クリックすると拡大


「イエスマン」 (C)Kyougeki Kenkyuukai,1994
(※解説)京劇の「二黄碰板」の旋律を参考にアレンジした曲。
作曲思想については
こちらも参照

険しい山道を進む演技。
BGMは、
緩急(かんきゅう)のBGM(MIDI。MP3は省略)
や、
道行きのBGM(MIDI。MP3は省略)
および生演奏の打楽器。
ノーマン2010
「道行きのBGM」は、京劇の「抽頭」のリズムの前奏のあとに、後出の「困惑の輪唱(「おい、聞いたか?」)」と同じ旋律をつなげたもの。
イエスマンの峯越えのシーン、伴奏の流れの例:
「峯越えの歌」→打撃楽喜遷鶯打撃楽(急急風)泣顔回打撃楽(抽頭)打撃楽(乱錘)沽美酒→「夜明けの吟詠」
※以上、MIDI音源。実演時は生演奏が望ましい。
ノーマンの峯越えのシーン、伴奏の流れの例:
「峯越えの歌」→ 曲牌音楽打撃楽泣顔回打撃楽(抽頭)沽美酒 →「夜明けの吟詠」
※以上、MIDI音源。実演時は生演奏が望ましい。

子供、疲れきって、動けなくなる。
コーラスは「夜明けの吟詠(ぎんえい)」を歌う。
夜明けの吟詠[夜の白むころ…]
[YouTubeで実演を視聴する]  [MP3のカラオケ]  [参考MIDI(非推奨)]
イエスマン2010
【コーラス】夜の白むころ/峯の手前で/こどもはもはや 疲れた足を/動かすことも できなくなった



「ノーマン」 (C)Kyougeki Kenkyuukai,1994
※この歌は「詩吟」風に、自由リズムでゆっくり伸ばして歌う。京劇の「散板」のリズムの要領。


「イエスマン」 (C)Kyougeki Kenkyuukai,1994
少年は先生に「具合が悪いんです」と言う。セリフは
こちらも参照
弟子たちは心配するが、先生は「なに、少し気分が悪いといっているだけだ。大したことはない。登り坂で疲れたのだろう」と言う。
弟子たちは、少年から離れたところで、先生の背中を尻目に「困惑の輪唱」を歌う。
困惑の輪唱 [おい、聞いたか?](MP3)【J46/N47】[MIDI]
【弟子A】おい、聞いたか? 先生は、登り坂で疲れただけだとおっしゃる。/【弟子B】だけどあの子の様子は、ただごとじゃない。/【弟子C】この山小屋を出るとすぐ狭い尾根にかかる。/【弟子D】両手でしっかりつかまっていかなければ、あの尾根は越せない。/【弟子C】子供をかついでは越せない。/【弟子A】私達は/【弟子A,B】昔からの/【弟子A、B、C】ならわしに従い/【弟子A、B、C、D】あの子を谷に投げ込むべきじゃないか? (歌い終わって、弟子たちはハッとお互いの顔を見合わせる。困惑と恐れの表情)
(以上はNeinsager47-55。Jasager46-51は以下のとおり:【弟子A】おい、聞いたか? 先生は、登り坂で疲れただけだとおっしゃっている。/【弟子B】だがあの子の様子は、ただごとじゃない。 /【弟子C】この山小屋を出るとすぐ狭い尾根にかかるんだ。/【弟子D】両手でしっかりつかまっていかないと、あの尾根は越せない。 /【弟子A】伝染病にかかったんじゃないといいがなあ。/【弟子C】あの子が先へ進めないとなると、ここへ置いてかなけりゃならないぞ。)
 ノーマン 2010
拙著『倭の風』(小説)のための自作曲を流用したもの。
[練習用のゆっくり簡素伴奏版・MIDI]もアップしておきます。

四人の弟子は、少年に「おーい、登り坂がきつくて病気になったのだろう?」とたずねる。
少年は、元気さをよそおって「けなげの端唄(はうた)」を歌う。
ノーマン 2010
けなげの端唄[いいえ。ほら……]
[YouTubeで実演を視聴する]  [MP3のカラオケ]  [参考MIDI(非推奨)]
【少年】いいえ。/ほら 私はしゃんと立っています。/病気だったら立ってなんか/いられないはずでしょう?
昆劇の曲牌「雁児落」の旋律線を参考に自製した曲。旋律は「イエスマン」の「オクリビトのララバイ」(後出)と対応させてある。


「イエスマン」 (C)Kyougeki Kenkyuukai,1994
(「けなげの端唄」を歌った直後、少年はわずか数秒でしゃがんでしまう。弟子たちは狼狽する。)
弟子たちは打撃楽「撲灯蛾」(MIDI)のリズムに合わせて、以下のセリフを読む。

四人の弟子:先生に報告しよう !
(撲灯蛾、開始)
弟子A:先生、今あの子にたずねたら、登り坂で疲れただけだと申しました。
弟子B:しかし、あの様子はただごとではありません。すぐ腰をおろしてしまいます。
(撲灯蛾、間奏。後半開始)
弟子C:口にするのも恐ろしい事ですが、私達には昔からのならわしがあります。
弟子D:先に進めなくなったものは、谷に投げ込まれることになっています。
(撲灯蛾、終わり)
師:何。君たちはこの子を谷に投げ込むつもりか。
四人の弟子:はい、そのつもりです。
(師と、四人の弟子は困惑する。
昔からの掟では、峯越えの旅の途中で歩けなくなった者は──
「イエスマン」では「谷に投げ込まれる」
「ノーマン」では「置き去りにされる」
という決まりがあった。同時にその掟では、一応、その本人に「掟に従う意思があるかどうか」をたずね、本人が「はい、そうします」と答えねばならなかった。 事実上は強制でも、形の上では当人の自由意思であるという体裁をとりつくろうための掟だった。)
四人の弟子とコーラス隊は「臨死の歌」を歌う。
臨死の歌[あの子にたずねてみよう…] (MP3)【J64/N67】 [参考MIDI(非推奨)]
 ノーマン 2010
【四人の弟子、コーラス】あの子にたずねてみよう(彼らはこどもに尋ねた)/ あの子(少年)のために、みんながひき返すことになるほうがいいかどうか/ しかしたとえあの子が引き返すことを望んだとしても/ 私ら(彼ら)は引き返すわけにはいかない(いかなかった)/ あの子を谷に投げ込まねばならない(ならなかった)

(※解説)広東漢劇「五丈原」の諸葛孔明の歌の旋律をアレンジした曲。
「イエスマン」の該当部分は別のメロディー(こちら)


「ノーマン」 (C)Kyougeki Kenkyuukai,1994
(師は少年に「君は、君ひとりのために、みんなが引き返すことを望か? それともならわし通り、谷に投げ込まれることに合意してくれるか?」と訊く。
少年は「いいえ、合意しません」と答える。
師と弟子は困惑する。少年との対話。
 少年は自分の考えを、理路整然と説明する。少年の主張のあいだ、
理屈のBGM(MP3)が流れる。
「(略)…私は、このきまりはとてもおかしいと思います。私だったら、新しいきまりをつくりたいと思います。 そのきまりというのは、新しい状況にぶつかったら、新しく考え直すことだと思います」。少年の主張のセリフ終了。弟子たちが狼狽して右往左往する。弟子の狼狽ぶりをあらわすBGMとして打撃楽「乱錘」(MIDI)を流す。
最後に、師と弟子も納得。「ノーマンのフィナーレ」を歌う)
ノーマン 2010
ノーマンのフィナーレ[それでは…]
[YouTubeで実演を視聴する]  [MP3のカラオケ]  [参考MIDI(非推奨)]
【四人の弟子】それでは、引き返すことにしよう。笑われたり、少しぐらい恥をかかされても、 私達は筋の通ったことをやり通そう。古いならわしは、正しい考えをとり入れる邪魔には、ならないはずだ。 /頭を僕たちの腕によせかけるんだ。/固くなってはいけない。/注意してかつがなければならないのだから。
(※解説)民国期の地方劇「漢調」の旋律を参考にアレンジした曲。
【四人の弟子】それでは引き返すことにしよう


間奏をはさんで、合唱に続く。【J-/N80】
ノーマン 2010
【コーラス】こうして友は友の手をとり、/新しいしきたりをつくり、/新しい掟を定めた。/ 恥辱や、嘲笑に耐えるために、/目をつぶって、/誰も隣の者より臆病にならぬよう/ 一列に並んで、腕を組み/少年を連れ戻した。
【コーラス】こうして友は…  ↓クリックすると拡大


「ノーマン」終わり
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