明治大学農学部農学科 応用昆虫学研究室

研究室の紹介

Meiji Nowにて学生が研究室を紹介しています。


農薬に依存した害虫防除は、もう限界・・・

 「害虫が発生したら農薬を撒けば良い」、そんな時代は過ぎ去ろうとしています。原因となったのは、何も「食の安全・安心」ばかりではありません。農薬に依存した防除の歴史は多くの害虫に殺虫剤抵抗性を発現させ、農薬の効かなくなったエリート害虫たちが海外から次々と侵入しています。また、真夏の炎天下や灼熱のビニールハウス内で雨ガッパとマスクに身を包みながら重い噴霧機を背負って農薬を散布する、そんな過酷な防除作業は高齢化の進む生産者を離農へと向かわせています。もう、農薬だけに頼ることは出来ないのです。これからの害虫防除は、どうすれば良いのでしょうか?


8月上旬、斑点米カメムシ類を防除するため水田には殺虫剤が散布される



アザミウマ類には殺虫剤抵抗性が発達し、防除が難しくなっている


害虫と如何に付き合うのか?

 そんな疑問に対するひとつの答えが、総合的害虫管理(IPM:Integrated Pest  Management)に見出されました。1960年代のことです。IPMとは、天敵(生物的防除)を基幹技術として、農薬、フェロモン、物理的エネルギー、防虫ネットなどの様々な防除技術を上手に組み合わせながら「害虫との付き合い方」を見つける方法です。


アザミウマ類の侵入を防ぐ『赤色防虫ネット』を設置したイチゴの育苗ハウス



 現在までに、IPMを支える多くの防除技術が開発されました。また、IPM自身も土着天敵を活用するEB-IPM(Ecology-based IPM:生態系の機能を活かした総合的害虫管理)や栽培を含めて管理するICM(Integrated Crop Management:総合的作物管理)へと進化を続けています。こうしたIPMを推し進めるためには、天敵を保護・強化する保全的生物的防除(Conservation Biological Control)の技術開発と実践が大きな鍵となります。



ヒメハナカメムシ類はアザミウマ類に対して有効な『土着天敵』


 一方、農薬を中心とした防除を行う場合には、発生予察に基づく効果的かつ効率的な薬剤散布が重要です。周辺環境への影響を考慮しながら効果の高い農薬を選び、最適なタイミングで薬剤散布を行うことが、結果的には減農薬や軽労化へと繋がるのです。近年の指導機関や生産者の努力によって、今、農薬への依存からも少しずつ抜け出すことが出来ています。



発生予察に用いられる『予察灯』



 それでも、害虫の被害は無くなっていません。毎年のように全国各地で害虫による大きな被害が報告されています。また、海外からは殺虫剤抵抗性を発達させたエリート害虫が次々と侵入しています。さらに、このまま地球温暖化が進むとマラリアに代表される熱帯性の虫媒疾病が定着する危険性が高まります。栽培方法の変化から生まれる害虫もあり、近年ではエコ農業が生んだ害虫が問題になっています。


我々が取り組んでいる課題

 害虫と戦うため、そして、彼らと上手に付き合っていくためには、多くの基礎的知識が必要です。なぜなら、発生予察の基盤となる害虫の発生時期や休眠特性、増殖要因などには、まだまだ.多くの謎があるからです。また、天敵資材(生物農薬)を開発するためには、飼育方法や放飼方法を確立しなくてはなりません。圃場における害虫や土着天敵の発生推移を知ることは、保全的生物的防除の第一歩となります。効果の高い農薬を選ぶためには、殺虫剤抵抗性の現状を知ることが必要です。・・・そう、害虫防除技術は科学の結晶なのです。



全国各地で野外における害虫や天敵の発生状況を調査する(三重県熊野市にて)



圃場で作物を栽培し、害虫や天敵の発生推移を調査する(生田キャンパス内にて)


 私たちの研究室では「現場で使える基礎研究」をコンセプトに、害虫や天敵の生物学的特性の解析を行っています。また、消費者に近い生産現場である『都市農業』を主要な舞台として、保全的生物的防除を基幹とした害虫管理を実践するための技術開発やメニューづくりに取り組んでいます。



研究室での取り組みは動画でも紹介しています(約4分)




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