憐菊詩 并序 れんきくし ならびにじょ |
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白玄之際、腥朽之交01。黄葉遍而如流、紅磚高而似仄。路隈有小園焉、祇見殘菊一簇。金英幽馥、翠葉稍凋、玉露新霜、不留餘蘤。 嗚呼! 僕一進國庠02、五更裘葛。當年同學、彊半彈冠。惟吾「樂以忘憂」、興而「忘食」03。奈何。「幼童而守一藝、白首而後能言」04。「静言思之」05、與斯花其何異? 遂憐同病、以賦小詩。曰: 景物入冬孰最哀 ? 殘黄凛冽守庭栽。 選自丁卯集稿 |
白玄(はくげん)の際、腥朽(せいきゅう)の交、黄葉 遍(あま)ねくして流るるが如(ごと)く、紅磚(こうせん) 高くして仄(かたむ)くに似たり。路の隈(すみ)に小園有り、祇(た)だ殘菊(ざんきく)一簇(いっそう)を見る。金英(きんえい) 幽(かす)かに馥(かお)り、翠葉(すいよう) 稍(ようや)く凋(しぼ)む。玉露(ぎょくろ)新霜(しんそう)、餘蘤(よい)を留めず。 嗚呼(ああ)。僕、一(ひと)たび國庠(こくしょう)に進みしより、五たび裘葛(きゅうかつ)を更(か)ふ。當年(とうねん)の同學、彊半(きょうはん)は彈冠(だんかん)す。惟(た)だ吾(われ)のみ「樂(たのし)みて以(もっ)て憂(うれい)を忘れ」、興(きょう)じて「食(しょく)を忘る」。奈何(いかん)ぞ、「幼童(ようどう)にして一藝(いちげい)を守り、白首(はくしゅ)にして後(のち) 能(よ)く言ふ」とは。「静(しず)かに言(ここ)に之(これ)を思へば」、斯(こ)の花と其れ何ぞ異ならん。遂(つい)に同病を憐れみ、以て小詩を賦す。曰(いわ)く、 景物 冬に入りて孰(いず)れか最も哀しき 殘黄(ざんこう) 凛冽(りんれつ)として 庭を守りて栽(う)はる 紫莖(しけい) 自ら直ければ 人の折(たお)る有らんも 金粟(きんぞく) 猶(な)ほ香(かんば)しきも 蝶の來(きた)る無し 地に殷(どよも)せる羽聲(うせい) 風 陌(はく)に到り 滿天の餘暎(よえい) 日 臺(だい)に沈む 君を憐れむ 内美(だいび)の殿(しんがり)と爲(な)るに堪(た)ふるがゆゑに 蘭桃(らんとう)と一處(いっしょ)には開かざるを |
白玄之際、 腥朽之交。 | +○+● +●+○ | 白玄(はくげん)の際、 注:五行思想では、秋の色は白、冬の色は玄。 腥朽(せいきゅう)の交、 注:五行思想では、秋の臭いは腥。冬はの臭いは朽。 |
黄葉遍而如流、 紅磚高而似仄。 | ++●++○ ++○++● | 黄葉 遍(あま)ねくして流るるが如(ごと)く 注:降りしきるイチョウ並木の落ち葉 紅磚(こうせん) 高くして仄(かたむ)くに似たり。 注:赤レンガの高層建築。 |
路隈有小園焉、 祇見殘菊一簇。 | 路の隈(すみ)に小園有り、 祇(た)だ殘菊(ざんきく)一簇(いっそう)を見る。 | |
金英幽馥、 翠葉稍凋、 | +○+● +●+○ | 金英(きんえい) 幽(かす)かに馥(かお)り、 翠葉(すいよう) 稍(ようや)く凋(しぼ)む。 |
玉露新霜、 不留餘蘤。 | +●+○ +○+● | 玉露(ぎょくろ)新霜(しんそう)、 餘蘤(よい)を留めず。 注:蘤(い)は「花」の意。 |
嗚呼! 僕 | ああ、僕 | |
一進國庠、 五更裘葛。 | +●+○ +○+● | 一(ひと)たび國庠(こくしょう)に進みしより、 注:國庠は国立大学。 五たび裘葛(きゅうかつ)を更(か)ふ。 注:裘は冬服、葛は夏服。 |
當年同學、 彊半彈冠。 | +○+● +●+○ | 當年(とうねん)の同學、 彊半(きょうはん)は彈冠(だんかん)す。 注:大半は就職した。 |
惟吾 | 惟(た)だ吾(われ)のみ | |
「樂以忘憂」、 興而「忘食」。 | +●+○ +○+● | 「樂(たのし)みて以(もっ)て憂(うれい)を忘れ」、 興(きょう)じて「食(しょく)を忘る」。 注:孔子の言葉。 |
奈何。 | 奈何(いかん)ぞ、 | |
「幼童而守一藝、 白首而後能言」。 | +○+++● +●+++○ | 「幼童(ようどう)にして一藝(いちげい)を守り、 白首(はくしゅ)にして後(のち) 能(よ)く言ふ」とは。 注:『漢書』「芸文志」の言葉。 |
「静言思之」、 與斯花其何異? | 「静(しず)かに言(ここ)に之(これ)を思へば」、 注:『詩経』の句。 斯(こ)の花と其れ何ぞ異ならん。 | |
遂憐同病、 以賦小詩。 | +○+● +●+○ | 遂(つい)に同病を憐れみ、 以て小詩を賦す。 |
曰: | 曰(いわ)く、 | |
景物入冬孰最哀 ? 殘黄凛冽守庭栽。 | ●●▲○●●◎ ○○●●●○◎ | 景物 冬に入りて孰(いず)れか最も哀しき 殘黄(ざんこう) 凛冽(りんれつ)として 庭を守りて栽(う)はる |
紫莖自直有人折、 金粟猶香無蝶來 ! | ●○●●●○● ○●○○○●◎ | 紫莖(しけい) 自ら直ければ 人の折(たお)る有らんも 金粟(きんぞく) 猶(な)ほ香(かんば)しきも 蝶の來(きた)る無し |
殷地羽聲風到陌、 滿天餘暎日沈臺。 | ○●●○○●● ●○○●●○◎ | 地に殷(どよも)せる羽聲(うせい) 風 陌(はく)に到り 注:五行思想では冬の音は「羽」(西洋音階のラ)。 滿天の餘暎(よえい) 日 臺(だい)に沈む 注:落日がビル街に沈む。 |
憐君内美堪爲殿、 不與蘭桃一處開 ! | ○○●●○○● ●●○○●●◎ | 君を憐れむ 内美(だいび)の殿(しんがり)と爲(な)るに堪(た)ふるがゆゑに 注:「君」は菊を指す。 蘭桃(らんとう)と一處(いっしょ)には開かざるを |