本郷賦後序 ほんごうふ こうじょ |
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昔青蓮居士、空寄高吟於謝尚01;延陵季子、悵留寶剣于徐君02。今亦有加藤、私作一章文賦;以貽宅見03、深傷寂寞卅年。而求同學之加批、忝老師之題讃。讃曰;04奇情壮采 亦文亦騒 萬斛泉源05 汨汨滔滔嗚呼 ! 本郷學府06、文運久衰;駒場蓬寮、狷狂何絶 ?此時耳:曩令宅見、挑彼不毛07;今使加藤、享斯過奬 ! 文才或伯仲、志意固不偕。 若徴今日、此賦聊足稱豪耶 ? 然僕讀宅見遺稿:驚創業之精神、感憑河之進取。而羨先師於啓發、慙前輩於憤悱08。一想其心、反觀此賦、應言未入崑山片玉、徒瞻桂林一枝者而已 !09 選自「乙丑集」稿 |
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昔、青蓮居士(せいれんこじ)、空(むな)しく高吟(こうぎん)を謝尚(しゃしょう)に寄せ、延陵
季子、悵(かな)しびて寶剣(ほうけん)を徐君(じょくん)に留(とど)む。今 亦(ま)た加藤 有り
て、私(ひそ)かに一章の文賦を作り、以(もっ)て宅見(たくみ)に貽(おく)り、深く寂寞(せきば
く)たる卅年(さんじゅうねん)を傷(いた)む。而(しか)して同學の批を加へんことを求め、老師
の題讃(だいさん)を忝(かたじけ)なうす。讃に曰く、 奇情壮采 亦た文あり亦た騒あり 萬斛(ばんこく)泉源 汨汨(こつこつ)たり滔滔(とうとう)たり 切磋(せっさ)し琢磨(たくま)すれば 瑜(ゆ) 存し 瑕(か) 消ゆ 百尺(ひゃくせき)の竿頭(かんとう) 歩歩 高きを争ふ 嗚呼(ああ)。本郷(ほんごう)の學府、文運 久しく衰へぬ。駒場(こまば)の蓬寮(ほうりょう)、狷狂(けんきょう) 何ぞ絶ゆる。此(こ)れ時のみ。曩(さき)に宅見をして彼(か)の不毛に挑(いど)ましめ、今 加藤をして斯(こ)の過奬(かしょう)を享(う)けしむとは。文才 或(あるい)は伯仲(はくちゅう)するも、志意 固(もと)より偕(かな)はず。 若(も)し今日に徴(ちょう)すれば、此の賦も聊(いささ)か豪(ごう)と稱(しょう)するに足(た)らんか。 然(しか)れども僕 宅見の遺稿を讀(よ)み、創業の精神に驚き、憑河(ひょうか)の進取に感ず。而(しか)して先師を啓發(けいはつ)に羨(うらや)み、前輩(ぜんぱい)を憤悱](ふんひ)に慙(は)づ。一(ひと)たび其の心を想ひ、反(かえ)りて此の賦を觀(み)れば、應(まさ)に未(いま)だ崑山(こんざん)の片玉(へんぎょく)にも入らず、徒(いたず)らに桂林(けいりん)の一枝を瞻(あお)ぐ者と言ふべきのみ。 |
| + | 昔 |
| +○+●、+●+○+●● | 青蓮居士、空寄高吟於謝尚; *青蓮居士は李白のこと。 |
| +△+▲、+○+●+○○ | 延陵季子、悵留宝剣于徐君。 *延陵季子は季札のこと。 |
| + | 今 |
| +●+○、+●+○+● | 亦有加藤、私作一章文賦; |
| +○+●、+○+●+○ | 以貽宅見、深傷寂寞卅年。 |
| + | 而 |
| +○●++○ | 求同學之加批、 |
| +●○++● | 忝老師之題讃。 *この讃は王水照教授が書いてくださったもの。 |
| ++ | 讃曰; |
| +・・・ | 奇情壮采 亦文亦騒 萬斛泉源 汨汨滔滔 |
| +・・・ | 切磋琢磨 瑜存瑕消 百尺竿頭 歩歩争高 |
| ++ | 嗚呼 ! |
| +○+●、+●+○ | 本郷學府、文運久衰; *本郷、駒場は地名。 |
| +△+○、+○+● | 駒場蓬寮、狷狂何絶 ? |
| +++ | 此時耳: |
| +○+●、+●+○ | 曩令宅見、挑彼不毛; |
| +●+○、+○+● | 今使加藤、享斯過奬 ! |
| +○++● | 文才或伯仲、 |
| +●++○ | 志意固不偕。 |
| +・・・ | 若徴今日、此賦聊足稱豪耶 ? |
| +・・・ | 然僕讀宅見遺稿: |
| ○●●+○○ | 驚創業之精神、 |
| ●○○+●● | 感憑河之進取。 |
| + | 而 |
| ●+○++● | 羨先師於啓発、 |
| ○+●++● | 慙前輩於憤[心非] *[心非]は「りっしんべん+非」という漢字。音「ヒ」 |
| +●+○ | 一想其心、 |
| +○+● | 反観此賦、 |
| ++ | 応言 |
| +●+○+● | 未入崑山片玉、 |
| +○+△+○+++ | 徒瞻桂林一枝者而已 |