[参考] 1-5 中国語で「中国語」はどう呼ぶか
日本語では「中国語」と呼びますが、中国語では「中国語」の呼び方はいろいろあり、それぞれニュアンスが違います。
「PC」(ポリティカル・コレクトネス。ポリコレ。政治的、社会的、道義的に公正で中立的な立場をつらぬくこと)と結びついた呼び方もあるので、要注意です。
迷ったら、とりあえず“中文”zhōngwénと言えば、話は通じます。
- “汉语”hànyŭ(漢語)
漢民族の言葉、の意。上海語(しゃんはいご)や広東語(かんとんご)などの方言や、いわゆる漢文(中国語では“古文”とか“古代汉语”と呼ぶ)も含む。
中華人民共和国は多民族国家であり、漢民族以外の「中国人」もたくさんいます。漢民族の母語だけを「中国語」と呼ぶと、少数民族の立つ瀬がなくなってしまう・・・というPC的な配慮から、公式の場では“汉语”という名称が好まれます。
例 「漢語進修生(かんごしんしゅうせい)」 。日本人を含む外国人が、中華人民共和国に留学するときの、留学生の枠の一つ。
例 「HSK(エイチエスケー)」。“汉语水平考试”Hànyǔ Shuǐpíng Kǎoshì(漢語水平考試)の略称。
- “普通话”pŭtōnghuà(普通話)
ひろく通じる言葉=「共通語」の意。“话”は、ここでは言葉の意。中華人民共和国の政府が定めた共通語(標準語)。
日本国内では「中国普通話(ちゅうごくふつうわ)」と呼ぶ人もいます。
- “中文”zhōngwén(中文)
書き言葉と話し言葉の両方を含む、中国語の意。日常会話で「中国語」と言いたい時によく使います。
- “中国话”zhōngguóhuà(中国話)
中国の言葉、の意。日常生活の会話で「中国語」と言いたい時によく使います。PC的には、やや問題があるため、公式的・学問的な場ではこの呼称を避ける人もいます。
- “北京话”bĕijīnghuà(北京話)
北京語、の意。“普通话”と“北京话”の関係は、日本における「共通語」(標準語)と「東京方言」(東京弁)の関係と似ています。
ただし、日本国内では「北京語(ぺきんご)」を、「中国の共通語」くらいの意味で使います。
例 「北京語通訳(ペキンごつうやく)」。「広東語(かんとんご)通訳」や「上海語(しゃんはいご)通訳」、「福建語(ふっけんご)通訳」などに対する言葉。
- “华语”huáyŭ(華語)
華人(英語の“Chinese”)の言葉、の意。世界には「私は華人(民族呼称)だが中国人(国籍)ではない」というChineseもいる。全世界の「華僑・華人(かきょうかじん)」を対象とする場合は、PC的な配慮をこめて「華語」と呼ぶことも多い。
例 NHKワールドJAPANの中国語放送「華語視界(かごしかい)」“华语视界”Huáyŭ Shìjiè
- “语文”yŭwén(語文)
日本の「国語」にあたる。中国語を母語とする生徒を対象とする授業科目名。
- “国语”guóyŭ(国語)
中華民国の時代の中国語の呼び方。中国本土では使われなくなって久しいが、台湾では今も“國語”(繁体字)という呼称を使い、これを日本では「台湾国語」とか「台湾華語」(たいわんかご)と呼ぶ。なお「台湾語」は台湾土着の方言を指す。
日本では、「台湾国語」も含めて漠然と「北京語」と呼ぶことが多い。
中国本土の“普通话”と台湾の“國語”の違いは、アメリカ英語とイギリス英語くらいあります。相互理解はできますが、発音や語彙に違いがあります。
たくさんあって、頭がくらくらしてきますね。
このサイトも含めて、日本の大学で教える中国語の大半は、最も精確に言うと“普通话”pŭtōnghuàの発音です。
ちなみに、“普通话”の発音の基準は、北京市内の発音ではありません。中華人民共和国の政府は1950年代、北京市の中央にある天安門から西北に140キロメートルほど離れた河北省承徳市灤平県(かほくしょう・しょうとくし・らんへいけん)の住民の発音を採集し、これを標準語の基準としました(より精確に言うと、灤平県は「普通話」の音声採集地の一つ)。
灤平県は、地方の小さな町です。なぜ、中華人民共和国政府は、首都・北京市民の発音をあえて基準としなかったのか。その理由を説明しだすと、話が長くなるので、割愛します。
日本の地理感覚と比較すると、灤平県の位置は、皇居外苑から140キロメートルほど離れた茨城県高萩市(いばらきけん・たかはぎし)に相当します。
中国は方言の違いが大きく、例えば、北京語と広東語は、英語とイタリア語くらい違います。また、言葉が訛(なま)っている中国人も、けっこういます。中国人は自分の故郷を愛する傾向が強く、自分の訛りや方言に誇りをもつ中国人も多いです。
日本人がしゃべる中国語は、中国人の耳には、南方的な訛りに聞こえることが多いようです。
[豆知識] 第二次世界大戦まで、中国人になりすました日本人スパイの多くは「自分は温州(おんしゅう)出身者だ」と騙(かた)った。
日本人中国語学習者の訛りは中国南方の訛りに似ており、しかも温州には多種多様な方言があったから。