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京劇の歴史と魅力
日本人から見ても面白い東洋的な発想と美意識

平成二十九年九月十四日(木)加藤 徹 (明治大学)
最初の公開2017/9/14 最新の更新2017/9/14

日比谷カレッジ 2017/9/14 レジュメ(パワポの文字部分を抜き出したものです)

本日のキーワード
日本演劇の特徴について ガラパゴス化とコモディティ化
東洋人の美意識について 「個人」より「古人」 実写ノイズ 冥界性

  1. 以下、「日比谷カレッジ」のサイトより引用
     京劇は中国の伝統音楽劇です。
     京劇の舞台を見ると、東洋的な美意識や立ち振る舞いの礼節を、あらためて知ることができます。京劇はいわば「動く美術館」であり、日本の歌舞伎や能楽と同じく、ユネスコの無形文化遺産にも登録されています。
     本講座では、ビデオや写真を使いつつ、初心者にもわかりやすく京劇の歴史と魅力を解説します。また、現代の日本人にとって身近な映画やアニメの作品などとも比較して、21世紀における伝統演劇の存在価値についても論じます。どうぞお気軽にお越しください。
  2. 上座と下座…京劇では、3人の場合は中央が1番、客席から見て向かって右側が2番、左側が3番。2人の場合は、客席から見てむかって右側が上座になる。
     オリンピックの表彰台の「金銀銅」と比べると、2位と3位の位置が逆。
    参考「雛人形」 関西の「京雛」では、東洋の「左上右下」の伝統にもとづき、京劇と同様、向かって右側が上座である。関東の「関東雛」は、近代的な国際式の「右上位」で、京劇や京雛とは左右が逆になる。
  3. ドラマは人生の縮図。舞台建築は世界観の縮図。
    天地大舞台 舞台小天地   天地は大舞台なり 舞台は小天地なり
  4. 古代ギリシャの劇場(エピダウロス市) 1万5000人の観客を収容
    紀元前4世紀  西洋演劇は演説 同心円的   cf.パリの都市計画
    能舞台 日本人の美意識 左右非相称 cf.江戸/東京の都市計画
    歌舞伎の劇場
    清朝時代の京劇の劇場「茶楼」
    中国人の美意識 左右相称 「天円地方」説 cf.北京の都市設計
  5. 感応の動線
    【観衆型】スクランブル交差点型
    京劇や歌舞伎の劇場。客も騒いで盛り上げる。お祭り感覚。
    【観客型】 パノプティコン型
      近代的劇場。客席は椅子、上演中は暗い。舞台鑑賞。
    【視聴者型】放送形式
      テレビやラジオなど。一方通行。のぞき感覚。
  6. 日中両国の美意識の違い
    日本はガラパゴス化 中国はコモディティ化
    これは京劇? 昆劇(崑曲)? 地方劇? 中国の芝居は写真だけでは劇種の判別が困難
    日本人の美意識は島国的
    中国人の美意識は大陸的
  7. 違いはあるが、東洋人の美意識という共通性もある。
    西洋は個人主義 東洋は古人主義
    日本も中国も「姓+個人名」の順
    西洋の「写実」 東洋の「写意」
  8. 「伝統劇」とは?
    能楽(猿楽)  観阿弥(1333-1384)・世阿弥(1363-1443)
    歌舞伎  市川團十郎 (初代) (1660-1704)
    京劇  高朗亭(1774〜?) 乾隆帝80歳祝賀 (1790)
    【比較参考】 シェイクスピア(1564-1616) ベートーヴェン(1770-1827)
  9. 俳優・加藤武(1929-2015 )氏の言葉
     日本の俳優が外国に行くと、「カブキをやってみせてくれ」 とリクエストされて困ることがある。西洋の俳優にとって、4百年前のシェイクスピアの芝居は、今も基礎訓練の教材でもある。しかし日本の俳優は、自分は3百年前の歌舞伎ができないのは当たり前だと思っている。
    いつか忘れたが、テレビで見た加藤武氏の談話を、筆者(加藤徹)が再構成したもの。
  10. 京劇『覇王別姫』 海外初公演は日本
    我在国内演《霸王别姬》,遇到招待外宾的场合,只演巡营、舞剑两场。这次出国的时候,先也打算照这个方式演出。从北京出发赴广州的长途火车中,我和欧阳予倩先生将这次带出去的剧目商榷了一下,觉得日本的情况与欧洲国家不同,我们演出的剧目,应该从精简中求其故事完整,有头有尾。所以决定从霸王坐帐起,乌江自刎止。到了广州,开始排戏。……6月1日在歌舞伎座演出,当霸王与虞姬分别的时候,观众有落泪的。
    (梅兰芳《东游记》より引用)
    梅蘭芳(メイランファン 1894-1961)は、日本人ならばきっと京劇「覇王別姫」を理解してくれる、と確信した。
  11. 【能】  漢兵がこの地を攻略し、四面からは楚の歌声
    【京劇】 漢兵已略地  はんびん いーりゅえ でぃー
    四面楚歌声  すーみぇん つーごーしぇん
    【京劇】力抜山兮 りーばーしゃんしー  気蓋世   ちーがいしー
    時不利兮 しーぶーりーしー 騅不逝   ちゅいぶーしー
    力は山を抜き 気は世を蓋う 時に利あらずして 騅も逝かず 京劇を理解するために役立つキーワード
    写実と「写意」  型(かた)  実写ノイズ  重色目(かさねいろめ)  示現(じげん)
  12. 実写ノイズ
    黒澤明監督の映画「天国と地獄」(1963)
    東海道本線を走る特急「こだま号」が、酒匂川(さかわがわ)の鉄橋にさしかかるシーンを撮影するため、一瞬だけ画面に映り込む民家の2階部分を、住人と交渉して取り払わせた。
    →アニメなら、絵で描けば済む。能や京劇なら、役者が言葉や演技で光景を暗示すれば済む。
  13. 実写ノイズ
    黒澤明監督の映画「天国と地獄」(1963)の挿話
    ★映画の物語は真夏なのに、わざと真冬に撮影した。役者は吐息が白くならぬよう口に氷を含んだ。俳優の山崎努氏が理由を問うと、黒澤監督は答えた。
    「夏は暑いので、つい安心してしまう。冬に夏のシーンを撮影すれば、どうやって暑く見せようかと、みんな工夫するだろう」→能や京劇の演技の「芸」のコンセプト
  14. 「型」の発想の根底にあるもの
    ★現代人の発想
     「個性」は魅力的で美しい。新しいものは面白い。
    ★東洋人の発想
     美は普遍的で永遠であるはず。「個性」は、むしろ醜い。
     「新」は「辛(しん)」なり。「荒(あら)た」なり。
     個性や新味は「述べて作らず」(『論語』)の中にある。
    →能の面、京劇の「俊扮」「くまどり」
    個性を消す化粧  能面  京劇のくまどり
  15. 「型」 京劇の約束事の例
    ★手に棒のような「鞭」を持つ →馬に乗っていることを表す。
    ★打楽器で「夜」を擬態語的に表現 or 燭台や提灯が出てくる →舞台が明るくても、あたりは闇。
    ★舞台上の登場人物が目を合わさず、言葉もかわさない →違う場所か、別の次元にいる。
  16. 京劇のことわざ
    守成法而不拘於成法、脱成法而不背乎成法。(程硯秋)
    型は守れ。型にはまるな。常識破りになれ。常識知らずになるな。
    不像不成戯、真像不是藝。(蕭長華)
    それらしくなきゃ芝居じゃない。そのまんまなら芸じゃない。
  17. 冥界性
    能舞台の「橋懸かり」と鏡板の松の象徴的意味
    京劇の旧式舞台の「鬼門道」の意味
    能と、神道の「神籬」(ひもろぎ)
    京劇 と、道教の「逐疫」の儀礼

    存するが如く、亡きが如し。
    喪礼者、以生者飾死者也。大象其生、以送其死也。故、如死如生、如存如亡、終始一也。 (『荀子』礼論篇第十九)
     喪礼の本質とは、死者を、生きている人のように装飾することである。死者が生きていたときと全く同じ態度で、その死を送ってあげるのである。つまり、この人は死んでいるようでもあり生きているようでもあり、ここに居るようでもありここに居ないようでもある、という態度を、始終つらぬくことである。
     薦器、則冠有鍪而毋縰、罋廡虚而不実、有簟席而無床笫、木器不成斲、陶器不成物、薄器不成内、笙竽具而不和、琴瑟張而不均、輿蔵而馬反、告不用也。(『荀子』礼論篇第十九)
     死者の前にすすめる明器については、冠は頭にかぶる部分はあっても髪つつみはないようにし、酒を入れるカメは中身をつめてはならず、竹で編んだムシロは寝台やスノコはつけず、木製の器はわざと仕上げを荒いままにしておき、陶器はわざとプロポーションを狂わせて作り、竹やアシで編んだ器もわざと中身を入れられぬようにし、死者に供える楽器についても笙や竽はわざと調律せず、琴や瑟も弦は張っても調弦はわざと狂わせておき、ひつぎを運ぶ車を墓に埋めても車を引く馬は埋めずに帰らせる。これらは、死者への供え物は実用品ではないことを明示するための措置である。
  18. かさねの色目
    キャラとキャストの「二重写し」
    現実世界の生身の役者=「個人」が、普遍世界のキャラクター=「古人」を演ずる。
    PLAY →芝居、遊ぶ、…
    「戯」 →芝居、たわむれる、…
    重色目の感覚、見たて絵、東洋の芝居、・・・「個人」と「古人」の二重写しの醍醐味。
    「示現」の感覚  三国志の関羽は道教の神  「関公」「関老爺」「関帝」
    →京劇では「破臉(はれん)」という処置
  19. 京劇は「お持ち帰り」の娯楽芸能
    昔の中国では、芝居を見ることを、「聴戯」(芝居を聴く)と言い、芝居を演じることを 「唱戯」(芝居をうたう)と言った。観客は、劇場で芝居を楽しむだけでなく、名場面の「謡い」を暗記し、自分で歌って楽しんだ。
    【参考】  『論語』雍也第六の孔子の言葉
     子曰知之者不如好之者
       好之者不如楽之者
     子曰く「之(これ)を知る者は之を好む者に如かず。之を好む者は之を楽しむ者に如かず」と。
  20.  不肖・加藤徹は、インターネット上に「京劇城」というサイトを公開しております。よろしければ御笑覧ください。
     本日はありがとうございました。
  21. 加藤徹のホームページ http://www.geocities.jp/cato1963/
    京劇城 http://www.geocities.jp/cato1963/KGJ.html

ミニリンク
  1. 京劇城
  2. 京劇とは
  3. 京劇「覇王別姫」 を楽しむための講座
  4. 全国漢文教育学会・教養講座「京劇」2016
  5. 京劇カレンダー
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