ASTROPHYSICS LAB

宇宙物理実験研究室について

本研究室は2023年から始動した研究室であり、「X線天文学」と呼ばれるフィールドで研究を進めています。X線天文学は、衛星軌道上に打ち上げられた宇宙観測衛星による観測と、それに必要なハードウェアの開発を車の両輪として発展して来ました。本研究室でも、観測研究と装置開発の両面から、宇宙の謎に満ちた現象の理解を目指しています。

X線で見える宇宙は、我々の目で見える宇宙とは大きく異なります。下の写真では、可視光とX線で観測された銀河団と呼ばれる銀河の集団の画像を比較しています。可視光画像の方では、小さな明るい天体がたくさん存在しているように見えますが、X線ではのっぺりとした広がった放射が見えます。X線を放射するような天体は、一千万度を超えるほど熱くなくてはいけません。この天体では、たくさんの銀河とダークマターが集まったことによる重力ポテンシャルでガスを加熱し、高温プラズマを形成しています。なんとなく宇宙は寒いところだという印象を持っている人もいるかもしれませんが、宇宙に存在する物質(バリオン)の約8割はX線で輝いていると言われるほど、宇宙には熱いプラズマがたくさん存在しています。

左: 可視光でみた銀河団、右: X線でみた銀河団

(Credit: X-ray: NASA/CXC/Caltech/A.Newman et al/Tel Aviv/A.Morandi & M.Limousin; Optical: NASA/STScI, ESO/VLT, SDSS)

本研究室が取り組む宇宙の謎

ビックバン直後の生まれたての宇宙には、水素とヘリウム(と少しのリチウム)しか存在していませんでした。つまり、地球や我々人類の身体すらも作ることが出来ない姿で宇宙は誕生しています。そして、現在宇宙に存在する元素のほぼ全ては、星の内部やその星の爆発「超新星」による核融合反応で供給されてきたと考えられています。約138億年の宇宙年齢の間に、無数の星が生まれ、爆発し、現在の豊かな宇宙を形成しています。我々が取り組む大きな謎の一つは、この「元素の起源」です。物理の力を使って、どのようにして元素が誕生し、このような生命が宿る世界にこの宇宙が進化して来たかを明らかにしていきたいと思っています。それだけでなく、ブラックホールや中性子星といった強重力コンパクト天体、宇宙で最大の重力束縛系である銀河団、星が寿命の最期に起こす大爆発「超新星」など、X線で取り組める宇宙の謎は多岐に渡っています。

もう一つ、研究室の主要なテーマとして「星の爆発機構の解明」があげられます。例えば、下に示す一つ目の動画は大質量星の最期の超新星爆発の瞬間の星の中心領域を大規模理論計算で再現したものです。この大質量星の超新星爆発のことを「重力崩壊型超新星」と呼びますが、このタイプの爆発機構は宇宙物理学上の超難問として考えられています。10の34乗グラム程度のものすごく重い天体が、ニュートリノと呼ばれる素粒子との弱い相互作用が主要因になって吹き飛ばされると考えられており、この詳細を突き止めるのが非常に難しいです。本研究室では、二つ目の動画にある実際に超新星爆発した後の天体「超新星残骸」の観測から、この未解決問題へ挑んでいます。観測・実験データから、背景にある複雑な物理現象を紐解いていきます。世界で探しても明治大学でしか出来ないような、独創的な研究を進めたいと思っています。

研究紹介記事(英語)

NASAから紹介された超新星残骸研究「超新星のボコボコはどうやって出来た?」

NASAから紹介された超新星残骸研究「秒速1万kmで飛ぶ超新星爆発噴出物の発見」

日本語解説記事

Isotope News: 「X線観測で調査する超新星爆発中心での元素合成とニュートリノの役割」

天文月報: 「超新星残骸へのジーナス統計の適用 ―Ia 型超新星はボコボコしている?」

大質量星の大爆発「超新星」の大規模計算と実際に観測された「超新星残骸」ムービー

(大規模計算 Credit: D. Vartanyan, A. Burrows, 残骸画像 Credit: T. Sato)

観測装置開発・衛星計画

​宇宙を観測するためには「天文台」が必要です。本研究室では、その天文台を作るため JAXA や NASA などの研究機関と協力しながら開発研究を行っています。特に、本研究が進めるのは「望遠鏡」の開発です。超小型衛星に搭載するための小型望遠鏡の開発から、月に設置するような大型の望遠鏡まで、幅広い規模の望遠鏡を生田キャンパスの実験室で作る事を目標としています。

例えば、下の写真にあるのが実際に我々の日米の共同研究グループが開発してきたX線望遠鏡の様子です。薄いアルミ基盤に金を付けて反射鏡を作製します(一枚目)。その薄い反射鏡を多数積層することで、一台の望遠鏡が出来上がります(二枚目)。反射鏡を作ってその性能を評価し、組み上げて評価し、色々なデザインを試しながら良い望遠鏡を作製しようと国際協力で開発しています。本研究室では、ガラス基盤を用いた新しい明治大独自の望遠鏡を作製したいと考えています。

研究室が参加する衛星計画

XRISM 衛星: 2023年打ち上げ予定

Athena X-ray Observatory: 2030年代以降打ち上げ予定

HEX-P: 2030年代以降打ち上げ予定

NASA/GSFCでの望遠鏡作製風景

(Credit: Taylor Mickal/NASA)