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magic 呪術

Last updated 2019-3-20 Since 2019-3-20

呪術
類比的思考 アナロジカル・シンキング analogical thinking
呪術の根底にある「宗教的世界観」
・人間は「失敗作」である。
 自分で自分の体や心すらコントロールできない。死、病気、憎悪など。
・「この世」は、目に見えない普遍的世界と接している。
・似ているモノやコトは、不思議なパワーによって繋がっている。
 時間のサイクルの自己相同性。個体発生(個人)は系統発生(人類、生物)を繰り返す。
呪術的な世界観は、現代人をも魅了する。
「おとぎ話」を、英語で「フェアリーテイル」(fairy tale 妖精の話)と呼ぶ理由。
神話、民話、童話、都市伝説、ファンタジーの根底にある「世界観」。
cf.基層文化、ペイガニズム、神殺し、……

顰像,しかみ像,徳川家康,弥勒菩薩半跏思惟像,半跏思惟,広隆寺,煩悩即菩提,生死即涅槃,宝冠弥勒,考える人 cf.「見立絵(みたてえ)」
 徳川家康を描いた「顰像(しかみぞう)」や、英一蝶(はなぶさ・いっちょう)が描いた「見立業平涅槃図(みたてなりひらねはんず)」など。「時空のうえではかけ離れていても、姿形を似せることで、霊的な意味づけやパワーのつながりを持たせることができる」という類感呪術のテイストを生かした芸術作品。
 写真は「顰像」と「広隆寺の宝冠弥勒(ほうかんみろく)」の比較。
 「煩悩即菩提、生死即涅槃」

cf.「本地垂迹(ほんじすいじゃく)」という発想
 宗教における神仏習合。江戸時代の歌舞伎十八番の一つ「関羽」や、現代のサブカル文化の「関羽ガンダム」や、塩崎雄二の漫画「一騎当千」のヒロイン「関羽雲長」にも見られる趣向。
怪異、妖怪、幽霊、呪術などの話は社会の鏡であり、それらの話が多いのは平和な時代である証拠。
以下は、加藤徹が書いた書評。
読売新聞 2019/09/01 書評欄 掲載
『日本現代怪異事典 副読本』 朝里樹著 笠間書院 1800円
身近な恐怖の民俗学 評・加藤 徹 中国文化学者・明治大教授

 日本人は怪異が好きだ。幽霊や妖怪、「学校の怪談」やネット上の都市伝説など、常識からはずれた不可思議な現象や存在は、今も多い。本書は、膨大な怪異を、話の趣向、出没場所、使用凶器、都道府県ごとに分類し、イラストをまじえて紹介する。同著者の前著『日本現代怪異事典』の副読本という位置づけだが、本書だけでも楽しめる。
 夜、タクシーの運転手が、墓地の近くで女性客を乗せる。目的地に着くと、客の姿はいつのまにか消えている。客は実は幽霊で、自宅に帰ったのだ。この「タクシー幽霊」の類話は昔からある。乗り物は変わってきた。江戸時代には、駕籠(かご)や、馬子がひく馬。明治には人力車。 20世紀以降は自転車や自動車、電車。将来は「宇宙船幽霊」の怪異が出現するだろう。
 新技術にも怪異は宿る。昔ながらの怪異は鏡の向こうの世界にひそむ。今はテレビやパソコンの中だ。ある小学校では、4月4日4時44分にパソコンを起動すると、画面に「AIババア」があらわれ、目の前の子どもをあの世に連れ去るという。時流に乗れぬ怪異もいる。筑波大学の学生新聞に載った「風化じいさん」は、ある宿舎に出現し、風化しかかった古文書をひたすら読む。なんか、身につまされる。
 本書の隠し味は、知的な民俗学的考察だ。幽霊も妖怪も、男性より女性が多い。昔は雪女、産女(うぶめ)、砂かけ婆(ばばあ)、鬼婆、等々。今は口裂け女、トイレの花子さん、ひきこさん、カシマレイコ、等々。この背景として、著者は「社会的マイノリティへの不安」を指摘する。ただ、近年は男性の怪異も増加中だ。怪異は日本社会の鏡だ。
 怪異は、本当かうそか。そんな詮索より、大事なことがある。著者は言う。「怪異を楽しめること、それはこの時代が平和であることの証左だ」。戦争や惨事の恐怖にロマンはない。怪異にはある。私たちが心の余裕を失わず、今後も怪異と隣あわせで暮らせることを願う。

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