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【愛と音楽】「鎖国」を超えた愛の歌 長崎の明清楽

これは[朝日カルチャーセンター・新宿教室]での
1回講座(2018/1/6)の教材/資料用のページです。
最初の公開2017/12/26 最新の更新2020/5/3

[講座の内容] [用語・人名] [教材ビデオ] [工尺譜の読み方・紗窓] [楓橋夜泊] [春夜洛城聞笛] [送元二使安西] [その他] [リンク]
お申し込み方法・内容・会場などの詳細は「
朝日カルチャーセンターのサイトのこちらの頁」を御覧ください。以下、上記のこの頁より引用します。
愛と音楽【新設】「鎖国」を超えた愛の歌 長崎の明清楽
講師名 明治大学教授 加藤 徹
講座内容 「明清楽」(みんしんがく)は、江戸時代から明治にかけて日本で流行した中国由来の音楽です。鎖国の時代は、幕府が長崎への上陸を認めた外国人はオランダ人と「唐人」(中国人)だけ、しかも成人男性に限られました。外国の男たちは、何ヶ月も長崎の狭い居留区に押し込められ、仕事の日々を送りました。
 当時の長崎に来た外国人をもてなした日本人の遊女たちは、事実上の現地妻でした。恋仲になった外国人と事実婚をするための便法として遊女に登録する日本女性や、外国人とのあいだに子をなした日本女性も少なくありませんでした。
 長崎に長期滞在した中国人は、故郷の女性の歌を聴きたくても、レコードもラジオもありません。長崎の日本人女性たちは、月琴(げっきん)など中国の楽器や中国語の流行歌を習い、歌ってあげました。清国の音楽なので「清楽」(しんがく)と呼ばれました。清楽と月琴のやさしい音色は、江戸時代の日本人の心を打ち、長崎から全国に広まりました。例えば、幕末の坂本龍馬と「おりょう」のカップルも、ふたりで月琴を弾き清楽を歌い、愛を育んだのです。
 明治時代には「明清楽」(みんしんがく)と呼ばれ、20世紀の初めまで流行が続きました。
 本講座では、近代日本の大衆音楽の形成に大きな影響を与えた明清楽を、楽器の実演もまじえつつわかりやすく解説します。
日時・期間 土曜 13:00-14:30 1/6 1回  日程 2018年 1/6
受講料(税込み)1月(1回) 会員 3,024円 一般 3,672円
注意事項 教室は変わる場合があります。10階と11階の変更もあります。当日の案内表示をご確認ください。
講師紹介 加藤 徹 (カトウ トオル)
1963年生まれ。東京大学文学部、同大学大学院で中国文学を専攻。広島大学総合科学部助教授を経て、現在、明治大学法学部教授。著書:『京劇』(中公叢 書・サントリー学芸賞)、『漢文力』(中公文庫)、『西太后』(中公新書)、『漢文の素養』(光文社新書)、『貝と羊の中国人』(新潮新書)、『怪力乱神』(中央公論新社)、『梅蘭芳 世界を虜にした男』(ビジネス社)、『中国人の腹のうち』(廣済堂出版)、『東洋脳×西洋脳』(共著・中央公論新社)などがある。


月琴,長原梅園,『月琴俗曲今様手引草』,明治22年,1889,明清楽,清楽
大辞林 第三版の解説 みんしんがく【明清楽】
 日本で演奏された中国の近世音楽。明楽と清楽を合わせた日本での俗称であるが、内容的にはほとんど清楽。江戸末期から明治中期まで盛んに演奏された。 → 明楽 ・清楽
坂本龍馬(さかもと りょうま 1836-1867)幕末の志士。土佐藩士。清楽の月琴をたしなんだ。
『偉大なるトホホ人物伝』「 第9回 坂本龍馬とおりょう」より(引用開始)そして1866年、幕府は対抗勢力である長州藩を討つため、諸藩に集結をかける。長州に迫る10万の幕府軍に対し、長州はわずか3千5百。長州軍を率いる高杉晋作は龍馬が戦場に駆けつけるのを今や遅しと待っていた。ところがここに、龍馬のトホホがあった!
 その頃龍馬は、なんと日本人初の新婚旅行を楽しんでいたのである。ついに「第2次長州征討」が開戦、長州軍は絶体絶命の危機に陥っていた。龍馬は戦場である下関に直行せず、月琴を習いたいというおりょうのため、長崎で師匠探しに奔走していたのである。結局、龍馬は10日も遅れて敗北寸前の長州軍に参戦。彼が乗った快速船・ユニオン号の活躍もあり、歴史的な大勝利を収める。(引用終了)

楢崎 龍(ならさき りょう 1841-1906)龍馬の妻「お龍(おりょう)」。清楽の月琴をたしなんだ。
参考写真 「銅像「お龍さんと月琴」長崎地方法務局」(個人のブログ「長崎・雲仙の旅、そのI」より)
 [ツイッターにアップされた、同じ銅像の写真]
2016/3/16 読売新聞「龍馬の妻 お龍像完成 長崎地方法務局で除幕式」
 幕末の志士、坂本龍馬の妻、お龍の像が長崎市万才町の長崎地方法務局に完成し、14日、除幕式が行われた。田上富久市長らが完成を祝った。
 同局は、お龍が身を寄せ、月琴を習ったという逸話が残る小曽根邸跡にあたる。
 同市が昨年、安政の開港150周年を記念し、幕末の長崎や、志士の魅力などを表現するモニュメントのデザインを公募。全国から56作品の応募があり、同市滑石3、美術講師内藤修子さん(60)がデザインした「お龍さんと月琴」が選ばれた。
 内藤さんのデザインを元に、彫刻家の松田安生さんが制作。松田さんはまげや月琴を奏でる指など、時代背景などを考証しながら、お龍の人柄を忠実に表現することに苦心したという。
 内藤さんは「お龍の、芯の強さや、けなげさなどをうまく表現できた。地元のみなさんに像を愛していただけたら」と話した。

小曽根乾堂(こぞね けんどう 1828-1885)長崎明清楽の大家で、事業家。書画・篆刻でも有名。坂本龍馬のパトロンでもあった。

鏑木渓庵(かぶらぎ けいあん 1819-1870) 清楽(しんがく)家。詩賦点茶と月琴を能くした画家・鏑木雲潭の息子。幕末の江戸で、煎茶をたしなみ清楽を教えた。清楽の弟子は数百人に及び、なかには松平確堂(松平斉民)・山内容堂(土佐藩15代藩主)・間部松堂(間部詮勝)の諸侯もいた。辻斬りにあって死去。

平井連山(ひらい れんざん 1798−1886) 清楽家。安政元年、妹の長原梅園とともにとともに江戸から大坂にうつり、清楽の普及につとめた。

参考 煎茶席と清楽の絵図[青湾茗醼図誌]
↓漢詩を歌うためのビデオです(YouTube)。1/6の講座では、このうちの何曲かを紹介します。

https://www.youtube.com/playlist?list=PL6QLFvIY3e-l00dKjbGYFoHp-2zVAMSp6
聴講するだけでも大歓迎ですが、もし歌える人は、いっしょに歌いましょう。
楽器を弾けるかたは、いっしょに楽器を鳴らしてみましょう。
それぞれの曲の楽譜(五線譜)は、この頁のほか、私のサイト内にアップしてあります。
[工尺譜の読みかた]
読み方
ホースイイージヤンチヱコンハンリウウーイー
工尺
西洋音階
ファ
【参考】一オクターブ高い漢字の「(10進文字)HTMLユニコード」
[イ凡][イ六]亿
仩伬仜無し無し伍亿
ふぁ
※「凡」と「六」の右横にニンベン「イ」を付けた漢字はHTMLユニコードに無いので、合成文字で表す。
清楽「紗窓」を例に、工尺譜と五線譜を示す。
紗窓,五線譜,工尺譜,楽譜,明清楽,加藤徹,月琴

唐・張継(生没年不明。8世紀)の七言絶句「楓橋夜泊」(ふうきょうやはく)
月落烏啼霜満天  月落ち 烏啼きて 霜 天に満つ
江楓漁火対愁眠  江楓の漁火  愁眠に対す
姑蘇城外寒山寺  姑蘇城外 寒山寺
夜半鐘声到客船  夜半の鐘声 客船に到る

つきおち からすなきて しも テンにみつ
コウフウのギョカ シュウミンにタイす
コソ ジョウガイ カンザンジ
ヤハンのショウセイ カクセンにイタる

【大意】月が落ちて烏が鳴いて霜の気(け)が天に満ちた。川岸のかえでと漁船の「いさりび」が旅愁の眠りを誘う。蘇州府の郊外の寒山寺 。夜中の鐘の音が、私が乗っている船まで届いた。

【現代中国語による読み方】
夜 ye 4

半 ban 4

鐘 zhong 1

声 sheng 1

到 dao 4

客 ke(k) 4

船 chuan 2
姑 gu 1

蘇 su 1

城 cheng 2

外 wai 4

寒 han 2

山 shan 1

寺 si 4
江 jiang 1

楓 feng 1

漁 yu 2

火 huo 3

対 dui 4

愁 chou 2

眠 mian 2
月 yue(t)4

落 luo(k)4

烏 wu 1

啼 ti 2

霜 shuang 1

満 man 3

天 tian 1
楓 feng 1
橋 qiao 2
夜 ye 4
泊 bo(k)2

張 zhang 1
継 ji 4
cf.[
漢詩を中国語で読む(東洋文学・教材)]
【日本語の漢字音の比較】
 以下の呉音・漢音・慣用音は、学研の漢和辞典『漢字源』改訂第五版(学研教育出版、2011)に拠り、旧仮名遣いで示す(拗音の大文字・小文字表記のゆれは同辞典の表記のまま)。
 以下の唐音は、中井新六『月琴楽譜』(明治10年=1877年刊)に載せる長崎唐通事系の近世唐音に拠る。一般の漢和辞典に載せる中世唐音とは系統が違うことに注意されたい。

原文 月落烏啼霜満天
呉音 ごち らく う だい しやう まん てん
漢音 ぐゑつ らく を てい さう ばん てん
唐音 ゑ ろ うヽ てい すやん まん てん

原文 江楓漁火対愁眠
呉音 こう ふう ご  くわ たい じゅ めん
漢音 かう ほう ぎょ くわ たい すう べん
唐音 きやん ふをん いヽ ほう とい すゑう みん

原文 姑蘇城外寒山寺
呉音 く す じゃう ぐゑ がん せん じ
漢音 こ そ せい ぐわい かん さん し
唐音 くう すう じん わい はん さん ずう

原文 夜半鐘声到客船
呉音 や はん しゅ しやう たう きゃく ぜん
漢音 や はん しょう せい たう かく せん
唐音 えヽ ぱん ちよん しん たう け ちゑん

付・慣用音 月=ぐわつ(がつ) 漁=れふ(りょう) 愁=しう(しゅう) 眠=みん
備考 対を「つい」と読むのは唐音
参考 現代中国語

《枫桥夜泊》张继 《fēng qiáo yè bó 》zhāng jì

月落乌啼霜满天 yuè luò wū tí shuāng mǎn tiān
江枫渔火对愁眠 jiāng fēng yú huǒ duì chóu mián
姑苏城外寒山寺 gū sū chéng wài hán shān sì
夜半钟声到客船 yè bàn zhōng shēng dào kè chuán



明清楽(みんしんがく)による歌いかた
明治10年刊(1877)『月琴楽譜』より。[こちらも参照]
明治中期の「手風琴(てふうきん)」(アコーディオン)の楽譜。
[こちらも参照]





「紗窓」(さそう/しゃそう/シャアチャン)で七言絶句を歌う
 「紗窓」は清楽の曲目の一つ。タイトルは誤って「砂窓」「沙窓」と書かれることもあるが、正しくは「紗」(しゃ)の「窓」と書く。

清楽指南』(1892)で「新曲之部」に編入されているとおり、清楽曲の中では比較的新しい曲である。

 歌詞は、漢詩の七言絶句をそのまま唐音で歌う。大正期の街頭演歌「復興節」の元歌ともなった。
 詳しい解説は[こちらの頁も参照]。

李白の七言絶句「春夜洛城聞笛」の字音直読

「誰家玉笛暗飛声」誰が家の玉笛か暗に声を飛ばす
呉音ずいごくじゃく
(ぢやく)
おん
(おむ)
しょう
(しやう)
漢音すいぎょくてきあん(あむ)せい
唐音ジュイキャアアンフイシン
華音shui2jia1yu4di2an4fei1 sheng1
工尺譜







「散入春風満洛城」散じて春風に入り洛城に満つ
呉音さんにゅう
(にふ)
しゅんふう/ふまんらくじょう
(じやう)
漢音さんじゅう
(じふ)
しゅんほうばんらくせい
唐音サンチュンフヲンマンジン
華音san4ru4chun1feng1man3luo4cheng2
工尺譜


工尺
ミレ




「此夜曲中聞折柳」此の夜 曲中 折柳を聞く
呉音こくちゅう
(ちう)
もんせち
漢音きょくちゅう
(ちう)
ぶんせつりゅう
(りう)
唐音ツウエエキョチョンウヱンツイリウ
華音ci3ye4qu3zhong1wen2zhe2 liu3
工尺譜

四仩
ラド
四合
ラソ
工合
ミソ
四仩四
ラドラ


「何人不起故園情」何人か故園の情を起こさざらん
呉音にんほちおん
(をん)
じょう
(じやう)
漢音じんふつえん
(ゑん)
せい
唐音ホウジンキイクウヱンジン
華音he2ren2bu4qi3gu4yuan2 qing2
工尺譜



上工
ドミ
尺四仩
レラド
合四合
ソラソ

※漢字「不」の「慣用音」は「ふ/ぶ」である。
※呉音と漢音は、学研『漢字源』改訂第五版(2011) ISBN-13: 978-4053031013 による。( )内は歴史的かなづかいである。
※唐音は、中村新六『
月琴楽譜』(1877)による長崎唐人系の唐音である。唐音の発音表記は本によって違いが大きい。
※華音は、現代中国の共通語「普通話」の発音である。中国の学校の「語文」(日本の学校の「国語」に相当)では漢詩や漢文を現代中国語で音読する。これは、日本人が古文を現代日本語で音読するのと同様である。


[
明楽「関雎(かんしょ )」 「秋風辞(しゅうふうじ)」 ]


[「唐詩五七絶譜」清傅士然伝]



露月 ろげつ
  旋律(ハ長調)をmidiで聞く [こちらをクリック]
『清楽曲譜』1893より
同書・十一頁に「露月紗窓ノ曲ヨリ考案シタル者ニテ紗窓ト伴奏スル時ハ大ニ快味ヲ覚ユ。」とある。
MIDIの旋律(2回くりえし)は、一回目は「露月」の旋律だけ、二回目は「露月」に「紗窓」のメロディーを重ねてみた。
露月,明清楽,工尺譜
明清楽,五線譜,紗窓,露月,楽譜,清楽,月琴
ハ長調(C major,1=C)


「元二の安西に使するを送る」王維 [
こちらの頁も参照]

西 xi1
 せい

出 chu(t)1
 しゆつ

陽 yang2
 やう

関 guan1
 くわん

無 wu2
 ぶ

故 gu4
 こ

人 ren2
 じん
勧 quan4
 くゑん

君 jun1
 くん

更 geng4
 かう

尽 jin4
 じん

一 yi(t)4
 いつ

杯 bei1
 はい

酒 jiu3
 しう
客 ke(k)4
 かく

舎 she4
 しや

青 qing1
 せい

青 qing1
 せい

柳 liu3
 りう

色 se(k)4
 そく

新 xin1
 しん
渭 wei4
 ゐ

城 cheng2
 せい

朝 zhao1
 てう

雨 yu3
 う

浥 yi(p)4
 いふ

軽 qing1
 けい

塵 chen2
 ちん



使

西






歌い方 その1


ミニリンク
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