放射線検出器の開発
目に見えない放射線を,どのようにして測定するのでしょうか?
原子核は,α崩壊やβ崩壊,核分裂などの過程で,さまざまな放射線を放出します。これらの放射線を測定することで,原子核の種類や内部構造,崩壊の仕組みなどを調べることができます。放射線検出器は,目に見えない放射線を電気信号などに変換する装置であり,原子核物理学の実験に欠かせないものです。
しかし,すべての放射線を同じ検出器で測定できるわけではありません。α線,β線,γ線,中性子などは,それぞれ物質との相互作用が異なり,測定する放射線や目的に応じて適切な検出器が必要です。また,生成量が極めて少ない不安定原子核や,短い時間の中で次々と起こる放射性崩壊を調べるためには,高い検出効率や優れたエネルギー・時間分解能が求められます。
私たちの研究室では,シリコン半導体検出器やシンチレーション検出器をはじめとするさまざまな放射線検出器の開発に取り組んでいます。さらに,検出器からの微弱な信号を読み出す電子回路やデータ収集システムの開発も進めています。こうした技術を新元素探索や不安定原子核の研究に応用するとともに,身近な放射線の測定や教育にも役立てることを目指しています。
研究内容 #
超重元素実験に向けた検出器・電子回路の開発 #
新元素探索をはじめとする超重元素実験では,膨大な数の核反応の中から,ごくわずかに生成される目的の原子核を見つけ出す必要があります。そのため,希少な原子核を確実に識別し,その放射性崩壊を高い効率で観測するための検出器が求められます。
私たちは,イオンの飛行時間測定とα崩壊の検出を組み合わせた「α-TOF検出器」を独自に開発しました。この検出器により,飛来したイオンとその後に放出されるα粒子を関連づけて測定することができます。さらに,複数のシリコン半導体検出器を組み合わせた箱型検出器や,多数の検出器からの信号を読み出す多チャンネルプリアンプなどの開発にも取り組んでいます。実際に,私たちが開発した多チャンネルプリアンプは,新元素探索の実験現場で使用されています。 こうした検出器や電子回路の開発を通して,新元素探索や超重元素の崩壊分光に必要な測定技術の向上を目指しています。
関連する研究
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新元素・超重元素の探索
短寿命原子核の崩壊分光に向けた検出器の開発 #
中性子過剰な不安定原子核の多くは,β崩壊によって別の原子核へと変化します。このとき放出されるβ線や,崩壊後の原子核から放出されるγ線を測定することで,原子核の励起状態や崩壊の仕組みを調べることができます。しかし,生成量の少ない原子核では,測定した放射線がどの原子核から放出されたのかを正確に識別することが課題となります。
私たちは,独自に開発したα-TOF検出器の技術を発展させ,β崩壊を測定する「β-TOF検出器」の開発を進めてきました。さらに現在は,β線とγ線を組み合わせて測定する「β/γ-TOF検出器」の開発に取り組んでいます。イオンの飛行時間と放射性崩壊の情報を関連づけることで,わずかな数しか生成されない不安定原子核の崩壊を識別し,その性質を詳しく調べることを目指しています。
関連する研究
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原子核の精密質量測定
核分裂を捉える新しい検出器の開発 #
非常に重い原子核では,原子核が2つ程度の破片に分かれる「核分裂」が起こります。核分裂は,原子核の安定性を理解するうえで重要な現象であり,宇宙での重元素合成にも深く関わっています。しかし,生成量の少ない不安定原子核の核分裂を測定することは容易ではありません。
私たちは,核分裂によって放出される核分裂片を高い効率で検出するため,シリコン半導体検出器やシンチレーション検出器などを組み合わせた新しい検出器を開発しています。特に,β崩壊や電子捕獲によって引き起こされる「β遅延核分裂」や「電子捕獲遅延核分裂」の測定に向けて,崩壊に伴う放射線と核分裂片を同時に捉える技術の開発を進めています。また,核分裂片の測定に適した新しい検出素子の探索や,その特性評価にも取り組んでいます。
こうした検出器開発を通して,これまで観測が困難だった重い原子核の核分裂現象を明らかにし,原子核の安定性や宇宙における重元素合成過程の理解につなげることを目指しています。
関連する研究
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宇宙における元素合成過程の解明
放射線計測・教育のための検出器開発 #
放射線検出器は,原子核物理学の研究だけでなく,環境放射線の測定や放射線教育など,私たちの身近な場面でも広く利用されています。こうした用途では,測定性能だけでなく,装置の小型化や持ち運びやすさ,操作のしやすさなども重要になります。
私たちは,環境中の放射線を手軽に測定できる可搬型の検出器や,放射線の種類やエネルギーを学ぶための教育用測定装置の開発にも取り組んでいます。放射線のエネルギースペクトルを測定することで,放射線が持つ性質や,物質との相互作用を視覚的に理解できるような装置を目指しています。
こうした検出器開発を通して,放射線計測技術の応用範囲を広げるとともに,学生の実験教育や,放射線に対する科学的な理解の促進に貢献することを目指しています。
関連実験 #
国際大型加速器実験に参加し、データ取得・解析ソフトウェア開発・物理解析を担当しています。