宇宙における元素合成過程の解明
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宇宙における元素合成過程の解明

私たちの身の回りにある元素は,宇宙でどのように作られたのでしょうか?
宇宙に存在する元素の多くは,ビッグバンや恒星内部での核融合反応によって作られてきました。しかし,金やプラチナ,ウランなどの鉄よりも重い元素の多くは,通常の核融合反応だけでは作ることができません。これらの元素がどこで,どのように作られたのかは,現代の宇宙物理学や原子核物理学における重要な研究課題です。
重い元素を作る仕組みの一つに,「速い中性子捕獲過程(rプロセス)」があります。rプロセスでは,原子核が次々と中性子を取り込み,非常に中性子の多い不安定な原子核が作られます。これらの原子核がβ崩壊を繰り返すことで,最終的にさまざまな重元素が形成されます。rプロセスが起こる場所として,中性子星同士の合体などが考えられていますが,どのような環境で,どの元素がどれだけ作られるのかについては,まだ多くの謎が残されています。
宇宙での元素合成を理解するためには,こうした不安定原子核の質量や寿命,放射性崩壊の性質を正確に知る必要があります。しかし,rプロセスに関わる原子核の多くは自然界には存在せず,実験的な情報が不足しています。
私たちの研究室では,加速器を用いて中性子の多い原子核を人工的に生成し,その質量や放射性崩壊を測定しています。こうした実験を通して,宇宙で重元素が作られる過程を原子核物理学の立場から解明することを目指しています。

研究内容 #

rプロセスを支配する原子核の性質の解明 #

 rプロセスでは,中性子捕獲反応とβ崩壊を繰り返しながら,鉄よりも重い元素が次々と作られます。この過程で,どの原子核を通って元素合成が進むのかは,原子核の質量や半減期,中性子捕獲反応率などによって大きく変化します。
 特に,原子核の質量は中性子の結合エネルギーを決定し,中性子捕獲とその逆反応である光中性子放出のバランスに影響します。また,β崩壊の速さや核分裂の起こりやすさも,最終的に作られる元素の存在量を左右します。
 私たちは,これらの核物理量を実験的に調べることで,rプロセスの理解に必要な基礎データを提供し,宇宙での重元素合成の仕組みを明らかにしようとしています。

アクチノイド元素の起源と核分裂の研究 #

 rプロセスでは,ウランやトリウムなどの非常に重いアクチノイド元素も作られると考えられています。しかし,元素合成がどこまで重い原子核へと進むのか,そして生成された原子核がどのような崩壊を経て現在の元素の存在量につながるのかは,まだ十分に理解されていません。
 特に,アクチノイド領域では核分裂が重要な役割を果たします。核分裂によって重い原子核が軽い原子核へと分かれることで,rプロセスにおける元素合成の進行や,最終的な元素の存在量が大きく変化する可能性があります。そのため,アクチノイド領域の原子核の質量や核分裂の性質を調べることが重要です。
 私たちは,高エネルギー加速器研究機構(KEK)の元素選択型質量分離装置(KISS)を用いて,中性子過剰アクチノイドの質量測定に取り組み,新同位体ウラン241(241U)の発見に成功しました。 また,β崩壊や電子捕獲をきっかけとして起こる「β遅延核分裂」や「電子捕獲遅延核分裂」の研究も進めています。これらの核分裂現象を捉えるため,核分裂片や放射線を高い効率で測定できる新しい検出器の開発にも取り組んでいます。こうした実験研究を通して,宇宙におけるアクチノイド元素の起源や,rプロセスにおける核分裂の役割の解明を目指しています。
関連する研究
・ 原子核の精密質量測定
・ 放射線検出器の開発

希土類元素の起源と中性子過剰核の質量測定 #

 太陽系に存在するrプロセス由来の元素の存在量には,質量数165付近に「希土類ピーク(rare-earth peak)」と呼ばれる特徴的なピークが見られます。このピークは,rプロセスの終盤における中性子捕獲とβ崩壊の競合や,希土類領域の原子核構造と深く関係していると考えられています。
希土類ピークの形成を理解するためには,中性子過剰な希土類原子核の質量を正確に知ることが重要です。特に,中性子の結合エネルギーがどのように変化するのかは,元素合成の進行を左右する重要な情報となります。
 私たちは,KISSを用いてエルビウム(Er)などの希土類元素の質量測定を進めるとともに,イッテルビウム(Yb)周辺の中性子過剰核への研究展開を目指しています。こうした精密質量測定を通して,希土類領域の原子核構造を明らかにし,宇宙で観測される希土類ピークの形成メカニズムの解明に取り組んでいます。
関連する研究
・ 原子核の精密質量測定