原子核の精密質量測定
原子核は,陽子と中性子から構成されています。しかし,原子核の質量は,陽子と中性子それぞれの質量を単純に足し合わせたものよりもわずかに軽くなっています。この質量の差は「質量欠損」と呼ばれ,アインシュタインの有名な式 (E=mc^2) によって,原子核を結びつけているエネルギー(結合エネルギー)に対応します。つまり,原子核の質量を精密に測定することは,原子核がどれだけ強く結びついているのかを調べることにつながります。
原子核の安定性や性質は,陽子と中性子の数によって大きく変化します。特に,陽子や中性子の数が特定の値になると原子核が安定化する「殻構造」は,原子核物理学における重要な研究テーマです。また,原子核の質量は,核反応や放射性崩壊で放出されるエネルギーを決定するため,宇宙で重い元素がどのように作られたのかを理解するうえでも欠かせない情報です。
私たちの研究室では,多重反射型飛行時間測定式質量分光器(MRTOF-MS)を用いて,短寿命で生成量の少ない不安定原子核の質量を高精度に測定しています。この装置では,イオンを静電ミラーの間で何度も往復させ,飛行時間のわずかな違いから質量を決定します。従来は測定が困難だった希少な原子核の質量を直接測定することで,原子核の構造や安定性,さらには宇宙における元素合成過程の解明を目指しています。
研究内容 #
短寿命原子核の精密質量測定 #
不安定原子核の中には,生成されてからわずか数ミリ秒から数秒で崩壊してしまうものがあります。そのため,短い時間の中で原子核を捕集し,質量を測定する技術が必要です。
私たちは,MRTOF-MSを用いた精密質量測定に取り組んでいます。MRTOF-MSは,イオンを装置内部で何度も往復させることで,非常に短い測定時間で高い質量分解能を実現できる装置です。この特徴を活かし,わずかな数しか生成されない不安定原子核や,極めて短い寿命を持つ原子核の質量測定に挑戦しています。
超重元素の質量測定と原子核構造の解明 #
非常に重い原子核が存在できる理由を理解するためには,陽子と中性子が原子核内部でどのような構造を形成しているのかを調べることが重要です。原子核の質量を精密に測定し,隣り合う原子核の結合エネルギーを比較することで,殻構造に由来する安定化の効果を調べることができます。
私たちは,世界で初めて超重元素の質量を直接測定することに成功しました。 これまで超重元素の質量は主に放射性崩壊の情報から間接的に求められてきましたが,直接質量測定によって,その質量を独立した手法で決定できるようになりました。現在は,さらに多くの超重元素の質量測定を進め,中性子数152付近の殻構造や,超重元素の安定性を支配する仕組みの解明を目指しています。
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新元素・超重元素の探索
中性子過剰核の質量測定と宇宙の元素合成 #
鉄よりも重い元素の多くは,宇宙で起こる中性子捕獲反応によって作られたと考えられています。特に,大量の中性子が存在する環境で進む「速い中性子捕獲過程(rプロセス)」では,非常に中性子の多い不安定原子核が重要な役割を果たします。
原子核の質量は,中性子が捕獲されやすいか,あるいは放出されやすいかを左右し,元素が作られる経路や最終的な元素の存在量に影響します。しかし,rプロセスに関わる多くの原子核は寿命が短く,質量がまだ測定されていません。
私たちは,希土類元素やアクチノイド領域の中性子過剰核の精密質量測定に取り組んでいます。これまでに,重い原子核同士の衝突によって起こる「多核子移行反応」とMRTOF-MSを組み合わせ,新同位体ウラン241(241U)の発見に成功しました。 また,ウラン周辺のさまざまな中性子過剰核の質量測定にも成功しています。現在は,希土類元素領域にも研究を広げ,rプロセスによる元素合成の理解に必要な原子核質量の測定を進めています。
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