水闘(すいとう)Shui-dou

 これからご覧いただくのは、水闘、水の戦い、という芝居です。
 『白蛇伝』(はくじゃでん)の一節。白蛇の精の化身(けしん)である白素貞(はく・そてい)は、人間の男性・許仙(きょ・せん)と夫婦になりました。しかし金山寺の高僧・法海和尚(ほうかいおしょう)は「蛇が人間と結婚するなど、けしからん」と、許仙を寺に連行してしまいました。
 白蛇は、夫を取り戻すため、仲間をひきいて金山寺に攻め込みます。
 それでは、水闘、どうぞ最後までお楽しみください。

(京劇「一団・青年団」版)(ものがたりは京劇「盗仙草」からの続き)

 蛇はウロコを持っています。魚もウロコを持つ動物です。そこで、昔の中国では、蛇はウロコを持つ動物たちのかしらであると考えられていました。
 白蛇は、仲間である水の生き物たちをひきいて、法海和尚にとらわれている夫を取り戻しにやってきます。
 水の生き物たちは、力をあわせてあの悪い和尚の手から白蛇の夫を取り戻すのだ、と、力強く歌います。

「われら水の一族
 おお、われら数多き水の生き物の一族、
 サカナにエビにカニにスッポン。
 いきいきと、とびはね、はいずり、
 勢いよく泳ぎまわる。
 まるで、龍(りゅう)やミズチが川を泳いで、
 白い波しぶきをけちらしながら、
 威風堂々、千丈(せんじょう)の距離を泳ぐように。
 川のなかから飛び出してきた。
 もう、あともどりはしない。
 一斉にたちあがり、戦おう。
 剣(つるぎ)と矛(ほこ)を手にとって、
 怒(いか)りに燃えながら、剣と矛をみんなで手に取ろう。
 大河(たいが)の激流(げきりゅう)の、荒波がくだける音は、
 あの、にっくき法海(ほうかい)和尚(おしょう)めを呪う声。
 法海は、生木(なまき)を引き裂くように、夫婦の仲を引き裂いた」

 白蛇が登場し、一同に指令をくだします。
 白蛇は歌います。
「魔法のちからをつかって
 魔法のちからをつかって
 人をたすける薬屋のしごとをしていた私たち夫婦を
 引き裂いたのは、法海(ほうかい)です
 彼は夫をたぶらかし、わたしに薬酒を飲ませたのです
 私は夫のため、命をかけて仙人の薬草を盗んだのに
 夫は軽薄にも、法海和尚の言葉を信じこんでしまい
 こんなに尽くした妻のわたしを捨て去った
 どれもこれも、法海和尚が、わたしたち夫婦の仲に嫉妬(しっと)して
 横槍(よこやり)をいれたせいです。恨んでも恨みきれません」

 白蛇は、二つの弱点をかかえています。
 ひとつは、彼女が妊娠していること。彼女のお腹のなかには、愛する夫の赤ちゃんがいます。
 ふたつめの弱みは、夫が人質になっていることです。ただやみくもに、敵を水ぜめにすると、愛する夫まで水に溺れてしんでしまうのです。
 妊娠と、人質。このふたつの困難を克服して戦わねばなりません。
 白蛇のたたかいは、はじめから困難を予想されます。

 水の一族は、金山寺を守る仏教の守護神(しゅごしん)たちと戦います。
 一同は善戦(ぜんせん)しますが、結局、白蛇の夫を奪いかえすことはできません。
 白蛇は涙をのんで、その場をひきさがるのでした。

(ものがたりは京劇「断橋」に続きます)

(完)


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