第7回 対流熱伝達 概論

概論

空気や水などの流れによって温めたり冷やしたりする 伝熱形態を対流熱伝達(Convective heat transfer)と呼びます。 人間の生活において,エアコン・扇風機・ヘアドライヤー・お湯を沸かす・冷蔵庫で冷やすなど, 温める・冷やす行為の多くは対流熱伝達によります。
対流熱伝達は,流れの発生の仕方により, 自然対流(Natural convection, Free convection)強制対流(Forced convection) の二種類に分類できます。 また,流れに相変化を伴う沸騰(Boiling)凝縮(Condensation)も 対流熱伝達の一種です。

ここでは,伝熱の様子について詳しく見る前に,対流熱伝達における 伝熱量と温度差の関係について整理します。


ニュートンの冷却法則

対流熱伝達による熱流束 q W/m2 は, ニュートンの冷却法則より, 高温部の温度 THと低温部の温度 TLの差に比例します。

Eqn701
(1)

ここで,比例定数 h W/(m2・K) は 熱伝達率 (Convection heat transfer coefficient) で, この値が大きいほど熱エネルギーがよく伝わります。

熱伝達率は,熱伝導率のような物質固有の物性値ではありません。 扇風機で涼んでいるときに,風を弱から強に切り替えるとより涼しく感じます。 これは人とまわりの空気の温度差が同じでも,風速を変化させることにより熱伝達率が大きくなり, 熱流束が大きくなったと説明できます。 このように対流熱伝達率は,熱を運ぶ流体の種類のみならず,流れの強弱などの状態に影響を受けます。 流れの状態は,流れの駆動源,層流か乱流かなどの組み合わせで分類され, 多くの場合,自然対流より強制対流, そして,相変化を伴う沸騰・凝縮の方が大きな対流熱伝達率となります。

7-1

平板に沿う強制対流熱伝達

最も基本的な場である,加熱された平板に沿う流れによる対流熱伝達を例に取り上げ, 流れの状態について確認します。

速度境界層

7-2

流れに平行に平板が置かれた場合,流体と平板の間には 粘性(Viscosity)が働きます。 このため,平板上では流体の速度はゼロに, また,平板のまわりでは主流よりも速度が遅い領域ができます。 この主流と平板の間の粘性の影響を強く受ける領域のことを, 境界層(Boundary layer)とよびます。 境界層は,平板の先端では薄く,下流へ向かって次第に厚くなっていきます。 また,先端からある距離までは,速度の乱れがない層流(Laminar)境界層であり, 流れていくに従い速度の乱れが生じ乱流(Turbulent)境界層へと変化していきます。 流れが層流か乱流か,どこで遷移するか等の目安には,平板先端からの距離 x を代表長さとした レイノルズ数(Reynolds number)を用います。

Rex
(2)

平板に沿う流れの場合,主流の状態にもよりますが Rex = 5.0X105 程度で,層流から乱流へと遷移します。

温度境界層

7-3

次に,加熱(流れより高温)された平板に沿った流れの温度分布について考えましょう。
速度の場合と同じように,流体の温度は平板の温度の影響を受け, 平板の温度(Tw)と主流の温度(Te)の間の温度になる領域が形成されます。 この主流の温度と平板の温度の間の温度の領域のことを 温度境界層(Thermal boundary layer)とよび, 速度境界層と同様に平板の先端から流れとともに発達します。 温度境界層と速度境界層の厚さは相似関係にあり, 動粘度 ν と熱拡散率 α (ともに単位は m2/s)の比で表される 無次元数プラントル数(Prandtl number)が厚さの比を表します。

Pr
(3)
7-4

熱伝達率

熱伝達率を求めるためには,流れの運動を解析しなくてはなりません。 流れの運動方程式を解析することは,計算機の発達した現在でも大きな計算負荷が必要で簡単ではありません。 そこで,熱伝達率と流れの状態を代表する無次元数との関係式(相関式)が提供されています。

熱伝達率に影響を与える因子を無次元数にするのは,全長 10 cmで流体が 50℃の水の場合など, ある特定なケースだけで成り立つ関係とするのではなく,広く活用できる様にするためです。

熱伝達率の無次元数としては,ヌセルト数(Nusselt number)を用います。

Nu
(4)

ここで,ヌセルト数と非定常熱伝導で学んだビオ数は,定義式の形が同じですが, ヌセルト数の分母の熱伝導率には流体の熱伝導率を用います。 これはヌセルト数が,平板に沿って流れる流体が対流している場合の伝熱量と 対流していない場合(熱伝導のみ)の伝熱量の比だからです。

相関式

平板に沿う速度境界層,温度境界層は,平板先端から発達します。 このため,各無次元数の代表長さには,平板の先端からの距離 x を用いました。 ここで,ある座標 x における熱伝達率を,局所(local)熱伝達率,そのときの無次元数を,局所ヌセルト数と呼びます。
一方,平板全体からの平均的な様子を知りたい場合は,平板の全長 L を代表長さとし, 平板前面の平均熱伝達率を,平均(average)熱伝達率,そのときの無次元数を,平均ヌセルト数と呼びます。

壁面温度一定
流れの状態 局所 平均
層流 Nux Nu
乱流 Nux Nu
熱流束一定
流れの状態 局所
層流 Nux
乱流 Nux

例題:等温の平板(層流)

長さ 200 mm,幅 100 mm の平板に沿って温度 Te = 20 ℃,常圧の空気が 8 m/s で流れている。 平板の温度が Tw = 100 ℃ 一定の時,この面からの伝熱量を求めよう。

平板全体からの伝熱量を知りたいので,各無次元数の代表長さには平板の長さを用います。
物性値を求めるための温度は,平板と空気の温度の平均,膜温度(Film temperature)Tf )を用います。

Tf = (Tw + Te) / 2 = (100 + 20) / 2 = 60 ℃

Tf における流体(空気)の物性値を,物性値表から求めて

ν = 1.931×10-5 m2/s
k = 2.842×10-2 W/(m ・ K)
Pr = 0.7163

平板のレイノルズ数は,

Re = ul / ν = 8 × 0.2 / 1.931×10-5 = 8.286 ×104

平板にそう流れの臨界レイノルズ数(層流から乱流へ遷移する値)は,5.0 ×105 なので, 流れは層流とわかります。壁温一定の平板で層流の平均ヌセルト数の式は,

Nu = 171.0

平均熱伝達率は,

h = Nuk / l = 171.0 × 2.842×10-2 / 0.2 = 24.3 W / (m2 ・ K )

したがって,伝熱量は,

Q = h A (Tw - Te ) = 24.3 × 0.2 × 0.1 × (100 - 20) = 38.9 W

と求まります。


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2024.06.18 更新