4-8 無意識のPSI

明治大学情報コミュニケーション学部教授
メタ超心理学研究室 石川 幹人

 PSIは無意識のうちに発揮される傾向があると報告されている。ここでは,そうしたPSIの特性を議論する。

<1> 無意識のプロセス

 机の上にあるペンを取り上げようと腕をのばすとき,無意識のうちに脳から筋肉制御の信号が腕へと送られる。それによって多くの筋肉が協調的に伸縮し,関節が的確な角度に曲がり,首尾よくペンの位置に指が届くのである。我々が何か行動するときには,その裏にさまざまな無意識のプロセスが伴っている。もしPSIを発揮できるのなら,PSIにも無意識のプロセスがあってしかるべきである。PKでサイコロの念じた目が出るのなら,サイコロの回転状態などを無意識のうちにESPで捉えたうえで,PK制御しているとも推測できる。テレパシー実験で送り手が積極的な役割を果たしているのなら,送り手は意図しないPKで,受け手の脳内状態を操作し,所望の観念を送りつけているとも考えられる。また,PSIを信じない「ヤギ」は意図せずにPSIを発揮し,積極的に誤りのコールをするという(4-1)。
 ことによると我々は,日常生活においても,知らないうちにPSIを発揮しているのかもしれない。友達に会いに行こうと思ってバスに乗ったところ,誤ってひとつ前の停留所で降りてしまった。仕方がないからと歩いていると,向こうからその友達が来るではないか。間違って降りなかったら,友達には会えなかったのだ。こうしたお話は枚挙にいとまがない。単なる偶然の一致を「超常的」に解釈しているだけなのか(6-6),それとも「意味ある一致」なのだろうか(5-8)。
 超心理学の研究には,意図せずに働く無意識のPSIがあると示唆する報告が,数多くある。ダグラス・ディーンは,成功した企業経営者はPSI能力が高く,その能力が成功に一役買っていると考えた(『経営者の意志決定と直観力』銀嶺閣/『経営者の超能力』たま出版)。この研究のパイオニア的存在は,レックス・スタンフォードであり,彼は数々の研究を積み上げ,PMIRという理論を提唱した(5-3)。

<2> 無意識のESP実験とPK実験

 1970年代にスタンフォードらは,ESP実験であることを伏せて語句連想実験を行なった。語句連想実験とは,実験者が提示する語句に対して被験者が思いつく適当な単語を答えるものである。実験者は実は,被験者がどんな単語を答えるかではなく,答えるまでに要した時間に注目している。この実験は臨床心理学に使われており,応答が遅いと心中で想起された何らかの単語を抑制したと想定でき,反対に応答が速いと答える単語をあらかじめ準備していたと想定できる。どちらにしても,被験者のトラウマに関係した単語(たとえば「死」)が提示されると特徴的な応答がなされやすい,と解釈できる。
 これをESP実験に仕立てるには,例えば提示単語群のうちのいくつかをESPターゲットとし,その単語の連想語応答時間が最大かまたは最小のときに「当たり」とすればよい。当たりのときは楽しい報酬(環境音楽などでリラックスさせる,男性被験者にはヌード写真を見せるなど),ハズレのときは苦しい報酬(回転盤上の点を追う課題,文字列から特定文字を探して丸をつける課題,単調な繰返しESP実験課題をさせるなど)を与える。もし被験者のPSIが働けば,将来の報酬を見透して「当たり」に該当する応答を,知らず知らずのうちに行なうはずである。
 スタンフォードらはさらに,乱数発生器(3-5)を使って無意識のPK実験を行なった。はじめに被験者に,通常の自覚的な乱数発生器PK実験を体験させたあと,同じ乱数発生器が動いた状態で,回転盤上の点を追うような苦しい課題を隣室でさせる。もしその乱数発生器に「当たり」が規定以上の頻度で発生すれば,その時点で苦しい課題から解放されるのだ。もし被験者のPSIが働けば,隣室の乱数発生器の状態や,実験のからくりを見透してPKを発揮するにちがいない。
 スタンフォードらの一連の実験全体の結果は統計的に有意であった。とくにPK実験での有意性が高くp=0.0069であった。また,報酬を被験者本人でなく,友達が得るように工夫した利他実験でもp=0.026の有意性を得た。自覚的ESP実験との相関(無意識実験での高得点者は,自覚的実験でも高得点になりやすい)も有意に見られた。PK実験では,自覚的PK実験のスコアは有意でなく,無意識のPK実験との相関も有意ではなかった。意識したPSIの発揮より,無意識のPSIの発揮のほうがうまくいくのだろうか。

<3> 試験を利用した実験

 ジョンソンは1973年,試験問題の後ろに封筒を添付し,8問の記述試験問題中の半分については,その封筒の中に無作為にその問の答えを記しておくという実験を行なった。解答に窮した学生は,PSIを発揮して無意識に封筒の中の解答を見るだろう,というのである。その結果,答えを記されていた問いは有意に高得点であった。さらに,正答でなく誤答を入れておいた実験では,誤答を記された問いは有意に低得点であった。しかし,良い成績を得ようとPSIが発揮されるならば,誤答であることをも感知できて成績が上がるのではないかとも思われ,疑問が残る。
 ブロードは1975年,多肢選択試験問題で封筒に正答を入れておくという,同種類の実験を行なった。やはり,正答を付された問いは正答になりやすい傾向が得られた。この傾向は成績が悪い学生の方が顕著であり,記憶が不確定であるとESPが働くという仮説(4-7),あるいは必要性の高いところにESPが働くという仮説(5-3)を支持する。さらに,彼は被験者となった学生に,通常の自覚的な透視実験をもさせて,そのスコアと試験の正答になりやすさの相関を調べた。だが,有意な関係は得られなかった。
 シュマイドラーは1977年,追実験を試みたが有意な結果は得られなかった。こうした実験は,どのレベルにPSIが働くかが明確ではない,と彼女は批判的である。また,PSI実験を含んだ試験で学生の成績をつけていいものか,という倫理的問題がある。

<4> PSIの源

 PSIが意図せずにまた無意識に働くとすれば,実験者の影響が重要になる(4-9)。第1に被験者が,利他的に実験を成功に導こうという動機を持っていれば,実験者の「期待」を無意識のうちにPSIによって読み取り,その期待に合うように振舞う可能性がある。ダブルブラインド法を使って実験していたとしても,完全ではない。被験者のPSIは,実験企画者の期待を読み取っているかもしれないのだ。
 第2に,PSIの源は,被験者ではなく実験者であるという可能性がある。実験者(あるいは実験企画者)は,実験を成功に導きたいという高い動機づけがあるし,被験者がPSIを発揮したというかたちになっていると精神的に楽(5-1)でもある。実験者が,PSIで無作為化の過程に影響を与えること(5-4)も考えられるし,先に述べたテレパシーの送り手のように,期待するコールを被験者にさせることも考えられる。この議論は次項に続く。

<X> 付記

 本項の内容はSSPにおけるパーマー氏の講演をもとにしている。


超心理学講座のトップへ戻る] [用語解説を見る] [次に読み進む