4-9 実験者効果

明治大学情報コミュニケーション学部教授
メタ超心理学研究室 石川 幹人

 PSIが時空を超えて,また無意識に働くとすると,実験成功動機の高い実験者のPSIが,実験結果に与える影響は大きな問題となる。こうした実験者効果の存在は,超心理学の研究コミュニティにおいては最も確実な「PSIの特性」と考えられている。

<1> 実験者の与える影響

 物理-化学的実験では,実験者によらない客観的な実験が可能とされる(5-6)が,一般に人間に関する心理-社会的実験を行なう場合には,実験者の与える影響が無視できないほど大きくなることが知られている。優秀だと思った生徒には,たとえそれが誤りであっても,先生が期待をかけることによって,本当に優秀になってしまう現象が知られている(ローゼンタール効果)し,この実験者による期待の効果は,ネズミの迷路学習能力にも反映するという。
 薬の臨床試験では,新しい薬成分の効き目を調べるために,その薬成分を含む錠剤を作成し,患者に服用させて効果を見る。しかし,「この新しい薬は効くかもしれない」という期待が患者の自然治癒力を高めて,仮に新しい薬成分が効かなかったとしても,治癒効果が見られることがある(偽薬効果)。そこで,その薬成分を含む錠剤(真薬)と含まない錠剤(偽薬)とを作成し,多くの患者に,自分が真薬を服用しているか偽薬を服用しているかが分からない状態で服用させ,効果を統計的に比較する。こうすれば,偽薬効果は統計的に相殺できる。だがそれでも,実験者が「これは真薬だから効くはずだ」とか,「これは偽薬だから効くはずない」とかと思っていると,そういった信念が実験者の態度に現われて患者の治癒に影響が出ることがある。そこで,さらに実験者も,自分が患者に服用させる薬が真薬であるか偽薬であるかが分からない状態で,実験者の役割を果たすのである。こういった実験手法は,被験者も実験者も事実を知らないという意味で,ダブルブラインド法と呼ばれる。
 PSI実験では,実験者による影響はさらに大きく現われ,とくにそれを「実験者効果」と呼ぶ。実験者効果があることは,超心理学の中でもっとも確実に実証された事実であるとも言える。PSIを誘導する(優秀な?)実験者として知られる研究者には,ホノートン,ブロード,サージェント,ラディン,シュリッツ,シュミット,ターグなどが挙げられる。
 実験者効果の働き方には,心理学的影響とPSI的影響とがある。心理学的影響は,被験者と接する実験者の期待や態度が影響する場合であり,通常の心理学的説明が可能である。そこにPSIが潜んでいるのでなければ,ある程度はダブルブラインド法の導入で防げる。PSI的影響は,被験者とは実験時に直接的には接することのない,たとえば集計評価者や代表研究者(実験の企画者)の期待や動機が影響する場合である。代表研究者がPSIによって実験結果に影響を与えたり,被験者が実験の意図をPSIで読み取ったりして,実現されるという。ダブルブラインド法が導入されても,実験の詳細を知らされてない実験者が,その実験の隠された意味をPSIで感知して結果に影響を及ぼすことも考えられよう。多くの場合,実験に関わる人々の無意識のPSI(4-8)が関与するのだが,なかには実験が行なわれている間,変性意識状態になってPSIが現われることを期待する実験者もいるという(6-3)。一方で懐疑論者は,特定の実験者でないとPSI現象が起きないのは,それこそ実験者がインチキをしている証拠であると主張する(1-4)。

<2> 心理学的な実験者効果

 まず,実験者の心理状態などが,直接的に被験者のPSIスコアに影響した研究から挙げよう。シャープは1937年,よい被験者を選抜する集団ESP実験をたびたび繰返していたところ,自分の妻が入院して心配していた期間の実験が,他に比べて著しくスコアが低い(p<0.001)ことを発見した。1953年,ニコルとハンフリーが共同でESP実験を繰返していたところ,ハンフリーがカードを提示してニコルが記録したときのほうが,その逆よりも著しくスコアが高いことに気づいた。ハンフリーが被験者と接したほうが,ESP実験がうまくいくのである(ニコルは後に懐疑論者になった)。1964年,オシスとディーンは,ユーモアを交えて自信を持たせる話をしながらESP実験を開始するオシスと,不安をあおる話を厳格に行ないながら実験を開始するディーンとで,被験者のESPスコアを比較したところ,ESPを強く信じる被験者群では,オシスが実験者のときに有意にヒッティング,ESPをまったく信じない被験者群では,ディーンが実験者のときに有意にミッシングになることを明らかにした(4-1)。1950年代にアンダーソンらは,子供のPSI実験は担任の先生が実験者になったほうがよいと指摘している(4-4)。ワイズマンとシュリッツは1997年と1999年の2回,被験者を2群に分け,2人がそれぞれ実験者を担当し,まったく同じ場所で同じ教示のもとでPSI実験を行なったが,2回ともシュリッツの被験者群のみに有意な結果が得られた(1-5)。
 ホノートンらは1975年,乱数発生器を使った予知実験で,実験者に気楽にかつ友好的にふるまわせる場合と,ぶっきらぼうに形式ばって接するようにさせる場合とで,被験者のスコアを比較した。前者では有意なヒッティングが,後者では有意なミッシングが得られた。シュマイドラーらは,PA大会での7人の研究者の発表をテープにとって,第三者に研究者の人物印象を形容詞のレーティングというかたちで評価させた。その結果,よくPSI実験に成功をおさめる研究者の印象と,そうでない研究者の印象は大きく異なっていた。前者は活動的で熱狂的,後者は独善的で冷たく自信過剰であるという評価が出た。
 被験者から実験者がどのように見えるかが,PSI実験の決め手になるようだ。ラインはよく熱狂的に実験に取り組むことが重要だといったが,実験者が動機を高め,自信をもち気楽にふるまうことが,被験者にも良い影響を与える。実験者の信念や期待が,そして一旦成功するようになると,その実績が実験の成功に導くのである。

<3> PSIによる実験者効果

 次に,実験者のPSIが働いていると見える研究を挙げよう。ウエストとフィスクは1953年,実験者の立会いによる影響を防ぐために,32パックの透視課題を封筒に収めて被験者に郵送し,そのコールを返送してもらった。それを16パックずつ,ウエストとフィスクがそれぞれ集計評価したところ,ウエストの結果は偶然平均であったのに,フィスクの結果は高度に有意(p=0.0002)であった。1968年にフェザーらが,1986年と1989年にはウィナーらが,一連のESP実験を多数の被験者に対して行ない,そのうちの無作為に半数を実験者が,残りの半数を部外者が集計評価した。被験者には,実験者と部外者はそれぞれどの部分を集計するかも予想させた。集計評価時には,その集計者予想を見ながら集計する場合と伏せて集計する場合を混在させた。その結果,フェザーらの実験も,ウィナーらの実験もともに,部外者が集計者予想を見ながら集計するときのみに有意なミッシング傾向が現われた。1978年にはオブライアンが,一連のESP実験の結果を半分ずつ,ヒッティングを期待する集計者とミッシングを期待する集計者とに,それぞれ集計評価させた。その結果,前者が集計した部分は,後者が集計した部分よりも有意にスコアが高かった。これらの実験では集計者が,集計評価の時点から過去に遡ってPSI(過去遡及的PK)を発揮しているように見える(3-5)。
 RRCの実験では,被験者がESP実験を行なっている間に,別の「能力者」に遠くから影響を与えるように指示した。その影響を与えたとされる期間のみに有意な実験結果が得られた。この「能力者」は,PSI実験における実験者の役割を模擬したものと考えられる。ことによると,有能な研究者はみな「能力者」なのだろうか。良い成果をあげている研究者は,総じて良い被験者でもあるのだ。ホノートンも,シュリッツも,ラディンもそうである。

<4> 実験者効果を克服するには

 実験者効果は超心理学にとって克服すべきものだろうか。PSIの存在を証明するという目的ならば,実験者効果も助けにして,PSIがよりよく発揮される環境をつくるのが大切である。ところが,PSIの性質を知ろうという目的ならば,実験者の期待に応じて実験結果が変化したのでは,研究にならない。だから性質を知る研究の場合には,実験者効果を克服する必要があろう。
 心理学的実験者効果は,PSIを発揮しない俳優を連れてきて実験者とし,被験者にいろいろな態度で応対させ,結果を集計すればかなり除外できるだろう。けれども,PSIによる実験者効果は根が深い。代表研究者は直接に実験に関わらないとしても,実験成功への高い期待を持っているので,空間や時間を超えてPSIを働かせてしまうことが十分考えられる。すると必然的に重要となるのは,複数の独立した研究者による再実験が行なわれ,同じ結果が得られることである。実験者効果を除くには,多数の研究者による裏付けが肝要なのだ。
 しかし超心理学の分野では,再実験しても同じ結果が再現されないことがほとんどである。再実験する研究者にPSIがなかったのか,それとも前の結果と同じでは面白くないと新しい結果を期待するのだろうか。どちらにしろPSIの性質に関する多くの実験結果は,実験者効果で奇妙な結果がたまたま得られているに過ぎないという可能性が強く指摘できる。

<X> 付記

 本項の内容はSSPにおけるパーマー氏の講演をもとにしている。


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