4-7 認知心理の研究

明治大学情報コミュニケーション学部教授
メタ超心理学研究室 石川 幹人

 ESPは,認知の諸側面である学習,記憶,思考という点と,どのように関連するのだろうか。以下ではこうした諸研究を振返る。とくに始めの部分では,ESPのトレーニングの可能性について触れる。

<1> PSIを向上させる学習

 PSIは学習によって向上するのだろうか。通常の五感は,多かれ少なかれ,学習によって向上するし,能力者の一部はよく自分で学んだという。PSIの向上を目論んだ実験がずいぶんと試みられてきたが,安定した成功をあげてはいない。
 1970年代に,チャールズ・タートは,当たりかハズレかを被験者に即時に知らせる(フィードバックする)とPSIの学習が促進されるという仮説を立て,実験を行なったが,うまく行かなかった。たびたびのハズレに被験者が落胆し,あたかもPSIを発揮しないことを学習するようであった。そこでタートは,円形状にランプを配置しランプの位置を当てる実験を考案した。この実験ではニアミス(当たりの前後位置のコール)にも報酬を与え,被験者の意欲を高める効果がある。実験の結果,学習効果が検出された。しかし,その後の再現実験では学習効果は一転して検出されなかった。タートの分析では,フィードバック学習効果は被験者によって良くも悪くも働くので注意が必要であり,学習効果よりも被験者や実験者の動機や期待のほうが結果に大きく作用するのではないかと見られている。
 どうも学習効果を期待して実験を繰返し行なうよりも,自己暗示やリラックスの仕方を学んだり,集中力や想像力を高めるのを学んだりするほうが効果があるようだ(PKにはイメージ訓練がさらに重要とされる)。リツルは1962年,能力者とされるステパネクを催眠セッションでトレーニングした。ステパネクが目を閉じた前にターゲットを置き,盗み見できる状態にして正答を積ませ,あとから本当に隠れたターゲットを当てさせた。潜在的能力者は絶え間ない成功が上達の鍵だという。
 ブロードは1983年,ターゲットが当たったあと赤色灯を見せられるという6週間に渡る実験の間,赤色灯をイメージする訓練を合わせて行なうとESPのスコアが上がった,と報告している。赤色灯が条件付けの役割をして学習が進んだと見えなくもないが,イメージ訓練が変性意識状態(4-3)を導いたとも解釈できるし,イメージ訓練をさせることが被験者の実験参加動機を向上させたとも解釈できる。
 PSIが学習できるかどうかには,かなり疑問があるが,仮に学習できた場合,それを過度に行なうことに危険が伴う可能性を認識して置くべきである。日常の生活に支障が起きるようになると困りものである(6-2)。

<2> 記憶とESP

 1970年代には,記憶とESPの関係がかなり研究された。スタンフォードは,30人の男性に少女の夢とされるテープを聞かせて多肢選択に答えさせる実験を行なった。表面的にはテープの内容の記憶を問う実験であるが,その中にテープの内容に無い問いがあり,それが隠れたESP実験(4-8)になっている。スタンフォードはこの実験でESPを検出し,記憶想起に失敗するとESPが働くと仮説した。ただ,その後のシアゴールドによる同種の実験は再現に失敗している。
 クレイマンは1978年,16人の超心理学に興味をもつ学生を被験者にして,ESP単語記憶実験を行なった。この実験では,被験者は50の単語を見せられるが,そのうち20の単語がESPターゲットになっている。被験者は,どの単語がターゲットに指定されているかは知らされないまま,5分間で可能な限りの単語を記憶する。そして続く15分でターゲットと思う記憶した単語を20個書き出すのである。実験の結果,書き出された単語は,前半がターゲットでない単語が多く(有意にミッシング),後半はターゲットである単語が多かった(有意にヒッティング)。記憶があいまいな単語を想起しようとする後半にESPが働くと見られる。シュマイドラーらの多数の被験者を相手にした同様の実験では,被験者全体としては確認されなかったが,ESPの存在を楽観的に信じる被験者群に限っては同様の結果が確認された。
 このほか,連想語を想起する実験(4-8)などで,ESPが不完全な記憶を想起するのに関連して働くことを支持する実験結果が,多数得られている。日本では萩尾重樹が関連した研究を行なっている(萩尾著『超心理学入門』川島書店)。

<3> 知能とPSI

 1937年,ボンドは学習遅滞児のPSIスコアが高いと報告したが,ハンフリーは1945年,逆にIQとESPスコアの正相関を報告した。子供の実験では,ドラッカーらが1977年,IQの高い児童で高いESPスコアを得た。ウィンケルマンは1981年,メキシコで調査したところ,学校に行かない子供たち(必ずしもIQが低いわけではないが)のほうがESPスコアが高かった。ところが,マレーが1983年フィリピンで行なった同様の調査では,相関が確認されなかった。
 知能とPSIの関係は混沌としている。IQという知能の指標自体が揺らいでいるので,それは当然なのだろう。これまで知能とPSIとの関係として報告された実験結果も,態度との関係(4-1)として説明できてしまうのかも知れない。シュマイドラーの予想(裏づけられてはいないが)では,「ESPは聡明さの証しである」と教示して実験を行なうとIQと正の相関,「ESPは迷信で無視すべきものだ」とすると負の相関,「ESPは特別な技能だ」とすると無相関になるとされる。

<4> 大脳半球とPSI

 大脳の右半球(空間的把握と左手の運動を司る)と左半球(言語や論理と右手の運動を司る)の機能的な違いに注目した研究も,いくつか行なわれた。古くは1885年,自動書記(ほとんど無意識にメッセージを書き残す現象)を起こした人々の左半球に損傷が見られることから,マイヤースは,PSIは右半球で起きるのではないかと仮説した。また,PSIが起きやすいとされる夢見状態では,大脳の右半球が優勢であるという。こうしたことから,PSIは右半球で起き,左半球はむしろPSIを抑制するという仮説が有力視された。
 実験的研究は,右半球負荷課題(線のトレース)や左半球負荷課題(文章の読み上げや暗算)を課しながら,PSIの試行を左手(右半球),あるいは右手(左半球)で行なう形で実現できる。1975年にブラウトンは,有力仮説を裏づけるように,左半球負荷課題中に右半球の動作でPSI試行をする実験群にのみ有意な結果を得た。ところが翌1976年にシュマイドラーらは,それとは反対に,右半球負荷課題中に左半球の動作でPSI試行をする実験群にのみ有意な結果を得た。シュマイドラーは,PSIの大脳半球による大きな差異はないだろうと推測している。

<5> 創造性とPSI

 創造性が高い被験者はPSI実験に高得点を得る傾向がある。14の研究のうち,9が正の相関,3が無相関,2が負の相関を報告している。この中で,負の相関を報告したシュマイドラーは,負の相関の原因が実験者が創造性に対して反感を持っていたためではないかと推測している。
 ところが,1982年のブロードらの実験では,20人の被験者に創造性テストを行ない,その後45分間のPSIを誘導する内容のテープを聞かせ,そして5分間のESPテストを行なった。その結果,高創造性の被験者は有意なヒッティング傾向,低創造性の被験者は有意なミッシング傾向をあげた。PSIの発揮の「方向」が違うということは,高創造性の被験者は,実験状況に「心理的な快適さ」を見出しやすい性格(4-2)であり,低創造性の被験者はその逆であることを意味するのかも知れない。高創造性は,開放的で直観や想像力に富むといったPSI誘導的状態(4-3)になりやすい傾向とも考えられる。

<X> 付記

 本項の内容はSSPにおけるモリス氏の講演と,その配布資料であるシュマイドラー著『超心理学と心理学』(1988,邦訳はない)の第11章「認知」をもとにしている。


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