3-7 地球意識プロジェクト

明治大学情報コミュニケーション学部教授
メタ超心理学研究室 石川 幹人

 奇妙なことに,乱数発生器を放置しておくと,出力の偏りが得られることがある。その偏りはときに,周囲にいる人間の集合的意識の変化を反映すると意味づけられ,全世界的な実験プロジェクトに発展している。

<1> フィールド乱数実験

 プリンストン大学のPEARプロジェクトでは,乱数発生器(以下RNG)を連続的に動作させ,それにPKを働かせる実験(3-5)を繰返していた。RNG実験の中には,被験者がPKの発揮を特段強く意識せずとも,一定のRNGの偏りを生むこともある。パーマーとクレイマーの1984年の実験では,被験者に2.5分間RNGに対してPKをかけさせ,続く2.5分間休憩させていた。被験者は,その休憩時間もRNGを測定していたことは知らなかったのにもかかわらす,休憩時間のRNG出力のみが有意に大きな偏りを示した。こうした被験者が念じたPKの作用が念じた後も続く効果を,「遅延効果」という。
 もともとベル研究所の技術者であったディーン・ラディンは,そうしたRNGへの無意識的影響(4-8)に注目し,フィールドRNG実験を行なった。彼は1995年,人々が集まって瞑想を実践するワークショップの場に,RNGつきのポータブルPCを持ち込んで,自動記録させた。人々が無意識のうちにRNGに影響を与えるのではないかというのだ。結果は,ワークショップ開催中に大きな偏りが得られ,終了後には消失した。p値にして1000分の1であった。彼はさらに,ラスベガスのコメディショーにRNGを持ち込んだり,テレビでアカデミー賞の授与式やスーパーボールが放映されているときにRNG測定を行なったりしたところ,総じて人々が陽気に騒いでいるときに,RNGの偏りが大きくなる結果を得た。
 しかしラディンの実験では,周囲の人々にRNGに偏りを与える動機がないのである。RNGが偏ったことにメリットを感じるのは,唯一,実験者のラディンである。そのため,実験者効果(4-6)ではないかと見る超心理学者も多い。
 フィールド乱数実験は,RNGを購入してPCに接続すれば,比較的容易に実験を行なえる。一般に市販されているRNGとしては,アムステルダム大学で設計された「オリオン」があり,次のサイトで手に入る。

http://valley.interact.nl/av/com/orion/

<2> RNGの地球規模ネットワーク

 何かイベントがあると,そこのフィールド乱数に偏りが生じるのなら,それを地球規模で行なったらどうであろうか。そうした発想でラディンらが始めたのが,地球意識プロジェクト(GCP)である。GCPは,世界各地にRNGを設置して乱数を記録し,その偏りと地球規模の出来事との対応関係を見ようというものである。プロジェクトリーダーは,プリンストン大学工学部のロジャー・ネルソン教授である。RNGを設置したサイトでは,毎秒200ビットのRNGの出力を記録し,自動的にプリンストン大学へデータを送付する。プリンストン大学では収集されたデータを随時公開し,誰でもが解析できるようになっている。次のWEBサイトを参照されたい。

http://noosphere.princeton.edu/

 GCPが本格的にスタートしたのは1999年であり,以来,サイトも次第に全世界に広がって,今や50か所以上になっている。これまでも,オリンピックやニューイヤーなどの世界的なイベントがあると,たびたび乱数が偏るという観測結果が報告されている。なかでも2001年9月11日のテロ事件の日には,極端な変動が観測された。第1に,全RNGの変動の相関が1年中でその日がもっとも高かった。第2に,累積変動がテロの時刻から極端にプラス方向に振れ,その後マイナス方向に落ち込んだ。この変動は標準偏差の6.5倍にも及んだ。第3に,テロ時刻付近に移動平均のピークが観測され,この偶然に対する比は,1千万分の1であった。これらの結果は,6人の統計学者によって独立に解析されて一致した結論が得られていると言う。
 RNGの地球規模の偏りがどのようなメカニズムで起きるかについては,これまでのところ具体的な仮説は立てられていない。詩的な表現を好む人は,「地球(ガイア)の息吹」が偏りとして現われるのだという。一方,超心理学者の多くは,この乱数の偏りも実験者効果だろうと推測している。それに対してネルソンは,世界中で多くの実験者がかかわっているので,特定の実験者の効果とは言えないのではないか,と答えている。

<3> 明治大学の寄与

 明治大学では情報科学センターにおいて,2002年1月よりGCPに協力し,RNGサイトを運営している。現在のところ,日本で唯一のサイトである。なお,明治大学やその構成メンバーが,得られたRNGデータの内容を保証することはないし,この協力によってRNGデータの解析結果に基づく何らかの主張を支持しようとすることもない。

<X> 付記

 本項の内容は,SSPにおけるブラウトン氏の講演,2002年度JSE大会(於:ヴァージニア大学)におけるネルソン氏の講演をもとにしている。また,まえがきに掲げたラディンによる「文献5」で補っている。
ネルソン教授JSE大会で講演するロジャー・ネルソン教授
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