3-6 動物PSI実験

明治大学情報コミュニケーション学部教授
メタ超心理学研究室 石川 幹人

 本項では,動物が発揮するPSIについての研究を概説する。

<1> 動物のPSI能力

 行方不明になったペットの犬や猫が,遠く離れた元の飼い主のところに現われたという話が多くある。またペットたちは,大好きなご主人の帰宅が事前に分かるとも言われる。最近では,ルパート・シェルドレイクらが特定の犬と飼い主のペアの実験で,肯定的な結果を出している。また,そのデータについてラディンが,地球物理学的指標との相関を調べている。こうした動物(アニマル)の発揮するPSIを,特別に「ANPSI」と呼ぶ。
 ANPSIは,動物が「発揮する」PSIであり,動物をPSIの「対象とする」生体効果(2-4)と区別する必要がある。しかし,ご主人の帰宅が事前に分かるといっても,犬のPSIではなく,ご主人のPSIである可能性も考えられ,両者を区別できない場合も多くある。
 ANPSIに関する厳密な実験は,次に示すように,乱数発生器(以下RNG)を用いて行なわれている。また,「サボテンがしゃべった」など,植物のPSIが報告されることがあるが(バクスター効果),はっきりとは確認されてない。

<2> シュミットのANPSI実験

 RNGを開発したヘルムート・シュミット(3-5)は,1970年代にANPSIの実験装置を作成して,多くの実験を行なった。彼の実験装置は,動物を入れるオリが二等分されており,それぞれの区画に電流が流せるようになっている。オリの中の動物は2つの区画を自由に行き来できるが,あるタイミングでRNGが動作し,どちらから一方の区画に無作為に電流が流れる。もし電流が流された区画に動物がいたら,電気ショックを受ける。電流が流された区画と,そのとき動物がいた区画は,コンピュータで自動記録される。動物にとって電気ショックが不快であり,かつ動物にPSIがあるならば,予知(またはPK)を働かせて,電気ショックを避けるというのである。

ネズミ実験(ネズミのPSI実験の様子,RRC提供)

 シュミットは,ハムスター,テンジクネズミ,アレチネズミ,ドブネズミ,そしてオオエビなどを被験動物にして実験したところ,それぞれについて統計的に有意に電気ショックを避けたと報告した。同じころワトキンスも,トカゲを被験動物にして,無作為に一方の区画を白熱灯で照明する実験を行なった。トカゲは,実験室の気圧や湿度の状況によって,白熱灯を必要とするときは白熱灯が点灯する区画にいることが多く,逆のときは点灯しない区画にいることが多かったという。シュミットも,猫を使った白熱灯実験で肯定的な結果を残している。さらにシャウテンは,ネズミに明るい円の下のバーを押すと餌がもらえるのを条件学習させ,隠れた明るい円をターゲットにしたANPSI実験に成功している。
 なかでも注目すべき実験は,シュミットのゴキブリを使った実験である。ゴキブリの場合は,有意に電気ショックを「受ける」傾向が高かったのである。ゴキブリは自虐的であり,電気ショックを楽しんでいたのだろうか。電気ショックを受けたゴキブリは普通,裏返って腹を上にしたので,その可能性は少ない。それとも,ゴキブリは神経症傾向が高く,PSIミッシング(4-2)したのだろうか。ゴキブリがそれほど高度な思考をするとは,ちょっと考えられない。もっとも有力な解釈は,実験者効果(4-9)であるようだ。シュミットは(多くの人間がそうであるように),ゴキブリを嫌っていた。無意識のうちに彼は,ゴキブリが電気ショックを受けるのを願い,その実験者のPSIがゴキブリの行動に影響したと考えられる。

<3> ロボットを追うヒヨコたち

 より最近のANPSI実験で際立った成果を上げているのは,フランスのルネ・ピオックが1980年から取り組んでいるヒヨコを用いた実験である。この実験では,ピエール・ジャニンが1977年に設計した自律走行型ロボット「タイコスコープ」を使用している。タイコスコープはネズミ程度の大きさの円筒形の物体であり,RNG(電子雑音式)の出力に従ってランダムな方向にランダムな距離だけ動く。彼は,ヒヨコたちをタイコスコープが母親であるかのように「刷り込み」した(生まれてすぐにタイコスコープを動かして見せる)うえで,オリに入れておく。その脇にタイコスコープを動作状態でおいておくと,初期の実験では,タイコスコープはオリが空の状態のよりも,2.5倍もの時間接近していたという。一方で,刷り込みをしていないヒヨコの場合は,偶然平均であった。
 また1986年にレミー・ショーバンは,タイコスコープを使ったネズミのANPSI実験を報告している。こちらでは,ネズミがタイコスコープを恐れるので,タイコスコープはオリから遠ざかる傾向が見られている。
 ピオックらは,第二世代のタイコスコープとして,RNGを本体から切り離して,データを自動記録するコンピュータに入れ,そこからタイコスコープの動作を無線制御するシステムを作成した。さらにヒヨコの誘引性を上げるために,タイコスコープの上にロウソクを灯し,部屋を暗くして実験した。ヒヨコ15匹を80組に分けて(総計1200匹)実験したところ,71%の場合に,タイコスコープはオリに近いところにより多くの時間滞在した(p<0.01)。なお,RGと呼ばれる「人間の」被験者は,刷り込みされたヒヨコと同様に,タイコスコープの存在位置を偏らせることに成功したという。

<X> 付記

 本項の内容は,RRCの研究ミーティングにおけるブージュア氏の2002年度PA大会(於:パリ)報告をもとにしている。前半部は,まえがきに掲げた「文献2」(p.133)と「文献3」(p.144)と「文献6」(p.698)で補っている。


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