3-5 乱数発生器実験

明治大学情報コミュニケーション学部教授
メタ超心理学研究室 石川 幹人

 乱数発生器を用いたPK実験は,わずかな物理効果を厳密に検出するのに向いており,PSI研究の物理的アプローチの主流となっている。

<1> 乱数発生器実験の開拓者シュミット

 前に述べたように(2-3),乱数発生器(以下RNG)を製作し,PSI実験に活用し始めたのはボーイング社の物理学者ヘルムート・シュミットであった。彼は1969年にラインのFRNMに異動し,初期のRNG実験は主にそこで行なわれた(1972年からはマインド・サイエンス財団へ異動し実験を続けた)。
 彼の初期の研究では,プラス/マイナスの2値出力のRNGを用いて,その出力に応じて円状に配列した9個の電球を点滅させる実験システムを作成した。9個の電球のうち1つだけが点灯しているのであるが,RNGからプラスが出力されると点灯位置が1つだけ時計回りに移動し,マイナスが出力されると逆方向に移動する。被験者はどちらかの方向に電球の点灯が回転移動するよう念力をかける。15人の被験者について実験し,Z=3.33の有意に偏った結果を得た。しかし,この実験はESPとの判別がつかない設定であった。というのは,所定の方向に点灯が移動するタイミングをESPで察知して,実験を開始している可能性があったからである。

RNG
(左が表示板,中央が乱数発生器,右が紙テープへの記録器,RRC提供)

 そこで彼は,PKとESPとを区別する実験を行なった(それでも完全ではなかったが)。4つの電球が横に並び,その下に4つのボタンが並んだボックスを作成し,1〜4の4値出力のRNGに接続した。被験者には,4つのボタンのうちいずれかを押し,その上の電球が点灯したら当たりであると言うが,内部の仕組みは,ESPモードとPKモードで異なっていた。ESPモードでは,RNGの出力が1であれば一番左の電球がつき,4であれば一番右の電球がつくようになっていた。PKモードであるとRNGの出力が4のとき,被験者が押したボタンの上の電球がつき,1〜3のときはそれ以外の電球がつくようになっていた。PKモードのときは,RNGが4をたくさん出さねば有意な結果が得られない。この比較実験では,どちらのモードでも,同様に有意な結果が得られた。シュミットは,PSIは対象物の仕組みによらずに,結果に直接働くのではないかと考えるようになる。

シュミット
(4値出力乱数発生器の実験を見守るシュミット氏,RRC提供)

 次に彼は,低速RNGと高速RNGを比較実験した。低速RNGは1秒間に30個の2値出力を発生し,高速RNGは1秒間に300個を発生する。被験者は,その出力によって得られるクリック音を聞きながら念力をかけるか,またはペンレコーダーが描くグラフを見て念力をかける。10人の被験者による実験の結果,クリック音を聞いての実験も,グラフを見ての実験も同様に,高速RNG(ヒット率=50.4%)よりも低速RNG(ヒット率=51.6%)のほうが,平均(50.0%)からの偏りが大きかった(ただし,高速RNGのほうがデータを多くとれるので,統計的有意性を示すには,高速RNGのほうが短時間で効率のよい実験が行なえる可能性がある)。
 彼はさらに,単純RNG(ストロンチウム90による2値出力RNG)と複雑RNG(電子雑音RNGによる2値出力を100回ほど行なってその結果を多数決で最終2値出力にするもの)をも比較した。被験者にも実験者にも分からないように両者は切り替えられた。35人の訪問者が被験者になったが,結果は,単純RNGではp<0.00001,複雑RNGではp<0.001となり,単純RNGのほうが効果が大きかった。だがシュミットは,複雑RNGでも問題なく効果が出たことに注目し,複雑さはPSIの妨げにならないと結論した。
 こうした初期のシュミットの成功に対して,懐疑論者のハンセルは,「シュミットはいつも独りで実験している」と,シュミットが不正を働いている可能性をほのめかした。懐疑論者のオルコックは,事前に実験の長さが決められておらず,調子がよくなったら実験が開始されて,調子のいい間に実験が打ち切られたのでないかという疑いを表明した。シュミットは,こうした批判を受けて,より厳格な実験を行なっていくのである。

<2> 過去遡及的PK実験

 シュミットは1976年,PKの効果が過去のターゲットにも及ぶ可能性を示す実験を行なった。この実験では被験者が知らない間に,一部のRNGターゲットが,すでに事前に生成・記録されてあった乱数に入換えられていた。ところが,それでもPKの効果が出るのである(ときには事前生成の乱数を使ったほうがスコアが良かった)。このPK効果は,被験者がPKをかける「前」に実験者が記録された乱数を閲覧すると現われなくなる。驚くべきことに,RNGの乱数でなく,コンピュータの乱数発生ソフトウェアを用いた擬似乱数でも(最初の種数が決まれば将来に渡って乱数が「決定」されているにもかかわらず),同様に過去遡及的PKが起きることを示した。またその際には,実験者が事前に乱数発生手順と種数とを知っていても,問題なく過去遡及的PKが起きるという。シュミットは,この現象を「観測理論」(5-6)で説明しようとした。
 さらに彼は,この過去遡及的PKを,PSIの存在を証明する厳格な実験設定に利用した。その一連の実験では,部外者(ときにはPSIに懐疑的な人物)に実験監視者になってもらい,次の仕事をお願いするのである。実験者は,2値出力RNG(あるいは乱数発生ソフトウェア)によってあらかじめ発生した乱数系列のプリントアウトをコピーして,(本人を含めて)誰も見ないように封をしたまま実験監視者に送る。実験監視者はその封筒を受け取ったら,実験を構成する複数のセッションごとに,プラスをターゲットにするかマイナスをターゲットにするかを,それぞれ無作為に指定し,実験者に伝える(封筒は開封せずに厳重に管理する)。実験者は,その指定されたターゲットに応じたPK実験を,記録されている乱数を用いて被験者に対して行なう。実験結果が集計されたら(この時点でPKが働いたかどうかが分かる),実験監視者に結果を送付する。実験監視者は,事前に受け取っていた封筒を開封し,事前に決まっていた乱数によって実験が行なわれていたことを確かめる。
 シュミットは,この種の実験を1986年から1993年に渡って5回行ない,その結果を総計すると,Z=3.67(p値にして約8000分の1)で極めて有意になることを示した。実験監視者が信用のおける人物であれば,この種の実験は極めて厳格にPSIの存在を示すことになる。

<3> メタ分析

 シュミットは,注意深く実験設定を工夫し,被験者も精選して実験を進める方法をとった。一方で1980年代には,RNGを作成して大規模に実験をする研究者が次々に現われた。なかでも代表的なのは,プリンストン大学工学部のPEARプロジェクトで,ロバート・ジャンらが行なったものである。彼らは,大勢の協力者を被験者に使って,多数回のRNG実験を,12年間に渡って積み重ねた。彼らは1秒間に100〜1000個の2値乱数を発生する高速RNGを用いて,乱数の累積値をプラスに偏らせる,マイナスに偏らせる,何もしないという3つの条件でPK実験を行なった。彼らの実験の概要は次の文献で日本語で読める。

 ジャンほか著『実在の境界領域』笠原敏雄訳(技術出版)

 ジャンらは7800万回のPK試行全体で,50.02%のヒットを得て,p値は0.0003で有意であった。この結果はシュミットのヒット率である50.53%に比べれば,かなり低い。懐疑論者のオルコックは,PEARの有意な結果が一部の被験者に集中しているのを見て,そこでは「事後的」に,プラスに偏らせるか,マイナスに偏らせるかを決めるインチキがなされたとか,実験者グループの人物が被験者になっているとして,暗に実験者による不正があったとかと批判した。
 RNG実験全体のメタ分析は,ラディンとネルソンによって,1989年および2000年に発表された(1989年の論文は基礎物理学分野の論文誌に掲載された)。1959年から2000年までの215の報告(91の異なる研究者による515の実験)に渡って分析したところ,エフェクトサイズは0.007と小さいが,Z=16.1と,p値にして10の50乗分の1の有意性となった。これらの実験が,不成功に終わった実験が隠されることで有意になっているにすぎない(引出し効果)と仮定すると,報告されない5240の実験が存在したことになる。これは,研究者と実験設備の数からして現実離れした数字である。
 またラディンとネルソンは,懐疑論者が指摘するような実験上の欠陥を16箇所あげ,実験がもつ欠陥の数と実験結果の有意性との相関を調べたが,無相関であることがわかった。懐疑論者は,実験上の欠陥がゆえに有意な結果が出ていると批判するが,そういった欠陥を取り除いた最近の実験でも,同じように有意な結果が得られているし,過去の実験であっても,欠陥があるからといって有意な結果になっているわけではないことが示された。この報告は,次のWEBサイトに公開されている。

http://www.boundaryinstitute.org/articles/rngma.pdf

<X> 付記

 本項の内容はSSPにおけるブラウトン氏とパーマー氏の講演をもとにしている。
 関連活動実績:関連した実験


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