1-1 超心理学とは何か

明治大学情報コミュニケーション学部教授
メタ超心理学研究室 石川 幹人

 本項では,超心理学の研究対象,研究方法,その応用について概説する。

<1> 超心理学の研究対象

 超心理学は,いわゆる「超能力」というような,「通常の物理学では説明のつかないような,人間が発揮する能力」を研究対象とすると,おおまかに考えられている。あらゆる定義には例外がつきものであるが,上の定義にも多くの問題が指摘される。「通常の物理学」というが,理論物理学者が現在の理論を拡張し,かなり奇妙な現象を説明しようとする試みなどをそれに含めると,多くの現象が一応説明されてしまう可能性がある(5-6)。「説明のつかない」とあるが,一見説明がつかないものでも,新しい奇術のトリックが開発されることで「インチキとして」説明がつくかもしれない(1-5)。「人間」というが,ときには「動物」でもいいし(3-6),なかには人間や動物がいない場合も想定される(7-4)。「発揮する」というが,特段意識せずに現象が起きる場合がある(4-8)。また,「能力」と考えることも,疑問が残る(5-2)。
 となると,研究対象の厳密な定義を追求するよりも,研究対象を例示して大雑把に把握するほうが生産的であろう。超心理学の典型的な研究対象は「透視,テレパシー,予知,念力,サバイバル」である。これらは,いわゆる「超常現象」,「人間が体験報告する現象のうちで,幻覚などの心理的説明以外に,通常の物理学では説明のつかないような現象」の一部分をなしている。超心理学が対象としない超常現象には,たとえば,「UFO,占星術,雪男,ピラミッドパワー」などがある。
 ところが,研究対象を例示しても問題は見られる。「透視」とは,「通常の感覚器官を経ずに物体の状態を感知すること」で,「テレパシー」とは,「通常の感覚器官を経ずに他者の思考内容を感知すること」であるが,唯物論の視点に立てば,「他者の思考内容」とは,その人の「脳という物体の状態」に他ならず,「テレパシー」は「透視」に含まれてしまう。テレパシーを特別視したい背景には,心的世界の存在を認めたい「心身二元論」の思想が見られる(8-3)。さらに「予知」は,「通常の推測過程を経ずに将来起きることを知ること」とされるが,「将来の透視」として「透視」に含めることもできる。また,事件捜査などに使われる「サイコメトリー」という,「通常の推測過程を経ずに物品にまつわる過去の出来事を知ること」も,「過去の透視」として「透視」に含めることができる。実際,通常の透視の実験中に,「将来視」や「過去視」が紛れ込むことがよく報告される(4-6)。現在,こうした広義の「透視」をまとめて,ESP(超感覚的知覚)と呼んでいる。なお,ESPの命名者であるラインは当初,透視とテレパシーをまとめてESPと呼び,予知まで含めたものはとくにGESP(一般ESP)と呼んだ。またESPが「知覚」かという点にも議論がある(4-6)。
 「念力(PK)」とは,「通常の身体運動を用いずに物体の状態を変化させること」であるが,ある所望の状態に意図的に変化させるならば,その過程でESPを用いて物体の状態を感知せねばならない場合もあろう。また「テレパシー」は,情報の送り手がPKを用いて,受け手の脳内に情報を形成しているとも考えられる。さらに「予知」も,予知した者が予知したことをPKで引き起こした(5-6)と考えられなくもない(不幸な出来事を複数の人が予知夢などで同時に報告した例を善意に解釈すれば,このPK説はかなり無理があるけれども)。そこで,ESPとPKとをまとめてPSI(サイ)と呼ぶことが提案され,このPSIが超心理学の中心的研究対象となっている。
 「サバイバル」とは,死後生存を裏づけるような現象の研究であり,生まれ変わり事例や憑依などの研究を指す。ラインが超心理学を命名したときには,研究の「現代化」のため,なかば意図的に「サバイバル」を除いたのであるが,その後,イアン・スティーヴンソンらの研究(7-3)によって,無視できない現象として現在の超心理学の研究対象になっている。ただし,「サバイバル」を認めることが,いわゆる「霊魂」を認めることに直結しない点は注意を要する(7-4)。また,メカニズムを連想させるような用語の使用はやめて,すべて「特異現象」(あるいは「変則的現象」)と呼ぶようにしようという提案もなされている。

超心理学の研究対象
(図:超心理学の研究対象)

<2> 超心理学の研究方法

 超心理学とは,PSIの発生形態や発生条件を究明し,それを理論的に説明することによって,人類の福祉の増進を図ろうとする学問と言える。そして,その研究方法には,大きく2つある。あらかじめ仮説を設定し,環境を整えて実験室で実施する「実験研究」と,過去に起きた事柄や現在進行中の事例をインタビューや証拠の収集を通してフィールドワークする「事例調査研究」である。おおよそ前者は自然科学の研究方法,後者は社会科学の研究方法と言えよう。さらには,文献をひも解き歴史などの考察を行なう人文学的研究方法もあるが,あまり研究の数が多くないのでここでは割愛する。
 実験研究はライン革命以降主流となった方法が中心であり,数多くの実験を繰返し,統計学の手法を用いながら,PSIを解明していくものである。大きく,PSIの存在を証明する「証明指向」と,PSIの性質を究明する「プロセス指向」の,2つの研究姿勢がある。だが,PSIの存在事実はすでに証明されている(3-5)と考える超心理学者も多く,現在の研究のほとんどはプロセス指向として行なわれるようになってきている。しかし,プロセス指向であるならば,厳密な条件設定を行い,社会から隔絶された特殊な実験室において発生するPSIよりも,現実社会でおきる生の事例を調べるほうが,より的確にPSIが把握できるとして,事例調査研究を重んじる傾向も現れてきている。
 PSI研究は,いわゆる「能力者」を対象にするものと,「一般人」を対象にするものとに分かれる。「能力者」は(例外もあるが)厳密で単調な繰返し実験を嫌う傾向にあるので,実験研究よりも事例調査研究のほうが向くようである(6-5)。よって実験研究では,一般人を相手にする場合が大半を占める。ただその場合でも,事前テストで「実験に適する被験者(やや能力が見られる者)」を探し出して,彼らを対象にすることが多い(2-1)。事例調査研究でも,質問紙調査(6-4)などで,一般人の体験を広く調査する場合と,「能力者」を個別に追って事例記録を残していく場合などとを分けて考えることができる。

<3> 社会への応用

 超心理学の進展とともに,想定できる社会への応用には,事件調査・資源探査・病気治療・軍事利用などが考えられる。事件調査には,これまでも霊能者がサイコメトリーなどの手法で,失踪者の遺留品から犯罪の状況や被害者の遺体の特定されたという報告がある。資源探査にはよくダウジング(2-6)が利用され,効果があるという主張がなされる。日本のメディアも過去に騒がせたことのある自称能力者ユリ・ゲラーは,資源探査で多額の報酬を得たとも伝えられている。病気の治療は,ブラジルやフィリピンでは,いわゆる「心霊治療」というものが存在しているうえ,先進国であっても民間療法にそれと類似したものが見かけられる(2-4)。軍事利用は,冷戦時代は米ソで超心理学の研究を行なっていた事実がある。敵の秘密基地をPSIで特定できたら,軍事的効果は計り知れない。アメリカのかつての軍事PSI研究は,「スターゲート計画」という名称で知られている。現在活躍中の超心理学者にも,スターゲートに加わっていた者が多く存在する(3-3)。
 上述の応用はどれも,社会的な問題が大きい。すなわち,そういったPSI応用が可能だとした場合,「真の」PSIと誤った思い込み(あるいは詐欺的行為)とをどのように見分けるかが極めて大きな問題となる。超心理学のひとつの目的はその区分を提供することにある(8-2)。
 さらに超心理学には,人道的な意義も認められる。上に挙げた実利的な応用よりも,こちらのほうが人類にとってはるかに重要かも知れない。すなわちPSIの存在は,エゴイズムに至る個人主義を排し,人間同士の一体感を強めるという可能性を持っているのである(8-5)。

<X> 付記

 本項の内容はSSPにおけるパーマー氏,ブラウトン氏の講演をもとにしている。


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